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東京魔人學園SS 妖怪ハンター17.
write by 雪乃丞.
眠り姫の見る夢は    《5》




 優美が本格的に夢の世界を現実に融合させ始めた影響は、色々な形で現われ初めていた。

 昨夜までの濃霧は、すでに半分もなくなっていた。
しかし、その濃霧があった方が精神衛生上良い事だったであろう事は間違いない。

「気持ち悪い光景だな」
「清々しい筈の朝がこんなじゃ、早起きする意味なんてないでしょうね」

 それを見たキリトが嫌そうに言い、それは答えた柳井も同様であった。
霧の漂う朝日に照らされた道路は奇妙に歪み、アスファルトはまるでゲル状の生物のように蠢いている。
電柱は溶けるかのように地面に垂れ下がり、家々の壁は極彩色に彩られていた。
光景だけを見れば、これは悪夢そのものだろう。極彩色の夢という言葉もあるが、この悪夢の光景には遠く及ぶまい。
家の中まで、この悪夢が入って来るのは、もう時間の問題だろう。

「どうするんだい?」

 そうジャニスに問われた来須の答えは簡潔なものだった。

「キリトに偵察してもらうしかないだろうな」
「正直、こんな物を見ながら空を飛びたいとは思わんな」
「だが、原因を短時間で調べるのに、お前以外に適役はいない」

 そんな話しをしていた4人に、ベランダから反対側を見ていた昌平の声が届いた。

「なんだろ?あれ?」

 霧がだいぶ晴れたお陰か………そこからは、その光景を見ることが出来た。

「何か見えるのか?」

 そう言って同じ方向を見た来須の目に映るのは暗い………黒い空間であった。
それは、昨夜から優美が呼び続けていた焔の洞窟へ通じる空間であったのだが、それを来須達が知る筈もない。

「………目的地は決まったな」

 そう言うと、来須は地図を取り出して場所を確認した。
それはここからさほどはなれていなかった。距離にして1キロもないだろう。
それは偶然などではない。昌平の家は病院からそんなに離れていないのだ。
そして病院から連れ出された優美が、そのまだ回復しきっていない体で、しかも徒歩で行ける範囲などそう離れた場所ではなかったのである。







「柳井、剣をいつでも使えるようにしておけ」

 その声は、歩きにくい道を苦労して歩いていた4人の先頭をいく来須からかけられた。

「何が来るんですか?」
「鳥のようだな」

 その視線の先には、巨大な鳥がいた。しかし、ただの鳥であるはずもない。
その体は象よりも大きく、その鳥の頭部とは思えない形状の頭部は、鳥よいうよりも馬のようである。
しかもその体には羽毛はなく、その代わりに鱗が生えているらしく朝日を奇妙に反射していた。

「デカイ………鳥?」

 そういって唖然となった昌平の背後からジャニスの驚く声が聞こえた。

「あれは………まさかシャンタク鳥!?」
「考えたくないが………そうらしいな」
「あんなデカイ鳥いるはずないですよ!」
「まあ、悪い夢だと思うんだな。オレもそう思いたい」

 そう柳井の悲鳴にも似た声にボヤキを返しながらも、来須はこちらに向かってくるシャンタク鳥に向かって銃を乱射する。
それは見事にシャンタク鳥の頭部に全弾命中するが、相手は象サイズの化け物である。
まるで歯牙にかけないのか、そのまま軌道を変えることなく突っ込んでこようとしていた。

「相手が大き過ぎる。こんな武器ではどうにもならん」
「じゃあ、どうするんですか!?」
「象撃ち銃でもあれば、なんとかなるかもしれんな」
「そう平然といわないで下さい!!」

 しかし、こうなっては地上にいる4人にはどうしようもない。しかし、昌平には誰よりも空中戦を得意とする守護者がいるのである。

「キリト!任した!」
「わかった」

 次の瞬間、シャンタク鳥と真紅の閃光が交差した。
彼は歩きにくい地面を嫌って本性の姿に戻っていたのである。そして、この時、その事を誰しもが感謝した。
地上戦もそうだが、空中戦でカマイタチに勝てるはずもない。

 その結果、シャンタク鳥は、不意にその翼を切り取られ、バランスを失った。
いくらサイズが巨大でも鳥である以上は、翼を失って飛べる筈もないのである。
そして、失速したシャンタク鳥は、そのままの勢いで地面に突き刺さり、そこにジャニスの攻撃呪法が炸裂して止めを刺した。
このあたりのコンビネーションの良さが、なぜ日常に生かせないのだろうか?

 こうして結果的には、無傷で強敵・シャンタク鳥に勝利した一行であったが、その雰囲気はとてつもなく暗かった。

「来須………アンタ、どんな相手を敵に回したか………分ってるのかい?」
「厄介な敵が二人に増えたな」

 そう沈痛といってもいい顔を浮かべた二人に、柳井は不思議そうに尋ねた。

「どうしたんです?あんな怪物に無傷で勝ったんですよ?嬉しくないんですか?」
「それについては幸運だったと思う。だが、あいつの飼い主が問題なんだ」
「飼い主?」
「あの鳥………まあ、鳥と呼んでいいものかどうかは分らんが、あいつはシャンタク鳥という」
「そうなんですか」

 その説明をジャニスが引き継ぐ。

「でも、あの鳥はこの世界には存在しないはずの鳥なんだよ。
あの鳥が生息するのは夢の国と呼ばれる異世界の最果てにある………レンとカダスだけなんだからねぇ。
そして、その鳥を使役できるとなると………敵はとんでもない怪物かも知れないんだ」

 そう暗い声で告げたジャニスに、昌平も恐る恐る尋ねた。

「敵は何者なんです?」
「聞くと後悔するぞ?」
「知らないよりはマシだと思います」
「邪神だ」
「ジャシン?」
「もしかして………よこしまな神って書く?」
「当たりだ。敵は神そのものだ。しかも、邪悪な方のな。人間が太刀打ち出来るレベルの相手じゃない」

 それは悪夢そのものであった。







 相手は邪神だと聞いて、正直ぞっとしない昌平であったが、続けて言われた言葉に望みを繋ぐことにした。

「だが、まだ相手が邪神そのものだと決まった訳じゃない。シャンタク鳥を使役する術があったのかもしれんしな」
「そ、そうですよね。神様が相手ならこんなモンじゃ済まないはずですもんね」
「まあ、それくらいの相手が現われるかも知れないという覚悟をしておけという事だ。いくぞ」

 そう言うと、来須は歩き難い地面にくるぶしまで足を埋めながら歩き出した。
その後ろに続く昌平は、ジャニスに手を貸しながら小声でたずねた。

「さっき来須さんが言ってた神って、どんな神様なんです?」
「多分だけど、『無貌の神(The Faceless God)』って呼ばれるヤツだと思うよ。
無貌って言われるくらい、その姿は変幻自在だって言われていてねぇ。私達魔女にも深く関係するヤツなんだ。
別名、『嘲笑する者』とも呼ばれる意地悪な神様さ。一説には古代エジプトで信仰されていたらしいけどねぇ。
でも、その実体は誰も知らないんだよ」
「いるかいないか分らない神さまって事ですか?」
「ところがそうでもないんだよ。最後の代表的な出現例は核兵器の開発の現場に現われて科学者を手助けしてるんだ」

 あんまりと言えばあんまりな出現の仕方である。それが神のやる事であろうか?そう考えた昌平は、しばし思考停止に陥った。

「………へ?神様なんですよね?」
「それだけじゃないよ?一時、私達魔女を操る支配者だった時もあってねぇ。『暗黒の男』って呼ばれてた時期もあったんだよ?」

 ますます訳が分らない。それは、少なくとも昌平の考えていた神様の像とはかなりかけ離れていたのだ。

「な、なんか神様って感じじゃないですね?」
「でも、その力は神と呼ばれるに相応しいものなんだよ。時間と空間をも超越する神らしいよ。
もっとも、滅多な事ではその力を使わないんだけどねぇ。一説には人類に災厄をもたらすためだけに、色々暗躍してるっていうけどねぇ」
「なんで、そんな事してるんですか?」
「分らないかい?」
「はい。わかりません」
「だろうねぇ。順を追っていこうか。暗黒の男って呼ばれてた時代に、何をしたと思う?」
「そうですね………魔女のミサとかを盛大に開いたとか?」
「良い線いってるよ。でも、それから世界中で魔女狩りの嵐が吹き荒れたんだ。その原因を作ったのが暗黒の男だって言ったら信じるかい?」
「………なんで、そんな真似を?」
「それから時代は過ぎて、今度は核兵器開発に行き詰まる科学者の元に現われる。そして、その手助けもあって、核兵器は見事に完成した。
それが、ソイツの狙いだったとも知らずにねぇ。
お陰でこの日本では数万人が犠牲になって、人類は泥沼の核兵器開発競争に突入することになったんだよ」

 そう言われて、昌平にはなんとなくではあるが、その神の行動の狙いや理由が分ってきた。その神が現われると、必ず人類は闇の時代に突入するのだ。
暗黒の男が現われれば、その後には何百、何千という罪もない女性が残酷極まりない方法で殺された。
そして、科学者の元に現われれば、今度は人類が滅びかねない程の兵器の開発競争に入る。その兵器は実際に使用され、数万人の市民が消滅するに至った。
その影で、その神はもう一つの名の通り、人類の愚行を嘲笑していたのかも知れないのだ。

「………待ってください。ようやく分ってきました。そいつは人類を玩具にしてるんですね?」
「そうさ。だから言っただろう?嘲笑する者ってさ。しかも相当意地悪だからねぇ」

 そして、その言葉の続きは先頭をいく来須から発せられた。

「だから、あいつは回りくどい方法しか使わない。玩具が完全に滅んでしまっては遊ぶ楽しみが無くなるからな。
だが、玩具が歯向かって太刀打ち出来る相手じゃないんだ。今はどうにかしてドリーマーだけを片付けよう」

 そういうと、ようやく固い地面のままの地域についたらしく、ぬかるみのようなアスファルトから一行はようやく開放されたのだった。







 気がつくと、昌平は一人でその公園入り口に立っていた。
見渡しても周囲には、一緒に居たはず来須達の姿はない。それどころかキリトすらも居ない。
これが、世界を操るという優美の力であることを、今更ながらに昌平は思い出していた。

「これが、ドリーマーの力………」

 そこは元は公園であったのだろう。しかし、今は様子が大きく異なっている。
そこには歪んだ空間に浮かぶ巨大な門があった。しかし、幸運にもその扉はまだ開いていなかった。
そして、その門の前には優美と………昌平がいたのである。

「なんで?なんでオレがもう一人いるんだ?」

 その声に、優美はゆっくりと振り向く。そして、硬直した。

「え?昌平?なんで、あそこに昌平がもう一人いるの?」

 そんな混乱を起した優美を背後から抱きしめると、偽昌平はその耳元で優しく告げた。

「優美の事が好きなオレはオレだけだよ。さあ、偽者をさっさとここから追い出そう」
「で、でも………」
「一緒に夢の国にいくんだろ?後はこの門を開けるだけなんだ。さあ、キミにはその力があるんだから………」
「昌平………」

 しかし、昌平も黙ってはいなかった。

「おい!オレの偽者!優美ちゃんを放せ!」
「偽者に偽者扱いされたくないな」
「なんだと!優美ちゃん!そいつは偽者だ!早く逃げて!」

 しかし、その二人の昌平に挟まれた優美は混乱しっぱなしである。

「わ、私は………どうしたら………」

 そんな優美の精神状態で、いつまでも今の状態を維持できる筈はない。門は空間ごと揺らぎはじめていた。
それを見た偽昌平は、優美を昌平の言う通りに開放した。今は優美の精神を安定させるのが先決だったのだ。

「偽者、これなら文句ないだろ?どっちを本物だと信じるかは、後は優美に決めて貰おうじゃないか」

 そう言うと、優美の背を軽く押した。

「しょ、昌平………」

 そんな心細そうな優美に、背後の偽昌平は優しく聞いた。

「優美。どっちを信じたい?それを選んで欲しいんだ」
「そ、そんな事………」
「優美ちゃん!こっちに来て!」

 それを聞いた優美は、昨日からの事を思いだしていた。
いきなりの告白。戸惑いはしたが、昌平の言葉は傷付いて他人を拒絶していた優美の心をやさしく慰めた。
幸せだった時間。それは優美が失った物。優美はあの日から、もうこうして歩ける事なんてないと思っていた。
夜の公園の約束。昌平は共に夢の国へ行こうと約束してくれた。普通なら信じないような話しを信じてくれた。
それを思い出した優美は、潤んだ目で昌平に告げた。

「アナタは私の事を『優美ちゃん』としか呼んでくれないのね。でも、あの人は私の事を『優美』って呼んでくれるの」
「でも、あいつは………人間じゃないかも知れないんだよ?」
「どうしてそんな事を言うの?あの人は人間よ。あの人のどこが人間じゃないって言うの?」
「そ、それは………」

 その言葉に、昌平は答えられない。少なくとも外見は偽昌平は人間に見えるのだ。

「それに、あの人は優しいわ。私の事を好きだってくれたの」
「………」

 傷つき、裏切られ、自殺するほどの屈辱と絶望を味わって………その果てに、ようやく安らぎを得た優美をこれ以上苦しめたくない。
そんな想いは、昌平から言葉を奪っていた。

「あの人は、私の事を裏切らないって言ってくれたの」
「………もう良いよ」
「私の側から何処にもいかないって………なんでも相談してくれって………」
「………そんなに………」
「こんな………こんな汚れた私でも………それでも………良いって言ってくれたの………」

 そういって泣き始めた優美に、昌平も涙を浮かべて言った。

「優美ちゃん。もう良いよ。もう………そんなに自分を虐めないでくれよ」
「………ごめんなさい」

 その言葉を優美の答えと受け取ったのか、偽昌平は勝ち誇ったようにして言った。

「勝負あったな。偽者め。さあ、優美。オレと一緒に行こう」

 そう言って手を差し伸べた偽昌平であったが、優美はなぜか昌平の元に向かって歩いていた。

「どうした?優美?別れの挨拶でもしたいのか?」

 そして、優美は昌平の前で立ち止まると静かに告げた。

「本当は分ってたの。彼は昌平なんかじゃないって。でも………私は慰めてくれる人が欲しかったの」
「優美ちゃん………ゴメンな。オレ、何も知らなかったんだ」
「しょうがないよ。誰も教えてくれなかったんでしょう?」
「でも、オレ………悔しかったんだ。もっと早く知ってたら、何かしてあげる事が出来たかも知れないのに………」
「ううん。昌平は私のタメに泣いてくれた。それで十分よ」

 そう言うと、優美は昌平の背後に立った。

「昌平、アナタ言ったよね?オレには励ますことが出来るんだって………覚えてる?」
「ああ。忘れてない」
「それなら………私を励ましてくれる?いつかこんな形じゃなくて、普通に帰ってこれるって」
「そ、それじゃあ………」
「うん。私はもう夢の国はいかない。いつかきっとこっちに帰って来る」

 それを聞いて、憤慨したのは門の前にいる偽昌平である。

「なぜだ!!なぜ、そんなヤツを選ぶ!!オレならお前を幸せに出来るんだぞ!!」

 その姿は昌平でも、その言葉使いはもう昌平ではなかった。

「昌平は一緒にいてくれるだけじゃないの。一緒に泣いてくれるの。彼は人の苦しみや悲しみが分る人なのよ。
アナタみたいに言葉だけじゃないの。さっきみたいに………昌平は私と一緒に泣いてくれるのよ。
でもアナタは口先だけ………言葉だけなの。今なら分るわ。アナタは昌平なんかじゃない。
私の力が………夢を操るこの力が欲しかっただけなのよ!」

 その言葉と同時に、偽昌平の首は何かに切り裂かれたかのように宙を舞う。それは優美の偽昌平に対する決別宣言でもあった。
しかしその首は宙に留まり、その体からは一適の血も出なかった。偽昌平はいよいよ正体を表し初めていたのだ。

「………それが、答えという訳だな。良いだろう。お前が裏切るというなら………私も容赦はしない」

 そう言うと、偽昌平の生首と体は、まるで墨を溶かした水のように黒く染まり、融合し、アメーバのようになる。

「無理にでもこの門を開けてもらうぞ。ドリーマーよ」

 それは闇を集めてデタラメに色々な種類の動物の手足を生やしたかのような………そんな姿をした魔物であった。







 昌平の姿が消えたことに最初に気が付いたのは、彼を守っていたキリトであった。

「昌平がいない」

 そう告げて人の姿を表したキリトに、来須は短く答えた。

「らしいな。門も消えてる」

 その見つめる先には、霧の中に噴水が見えるだけであった。

「どうやら、結界が張ってあったらしいねぇ」
「結界?」
「昌平と御国優美しか入れないって類の結界だと思うよ?」

 だからこそ、その結界には昌平と偽者、そして結界を作った優美の3人しか入れなかったのであろう。
しかし昌平を守る事を己の使命とするキリトにとって、それは一大事である。
その結界には大物………下手をすると邪神がいるかも知れないのだ。

「どうにか出来ないのか?」
「難しいねぇ。普通の結界じゃないしねぇ」
「ドリーマーの意志で閉じられた空間だ、 外からは一切干渉出来ない。それに………こっちには罠も張ってあったらしいな」

 その視線の先では、地面がおかしな具合に隆起して人型をとりつつあった。

「どんな化け物が出てくるのかねぇ」
「さあな。これは悪夢だからな。多分………」

 そうして、敵が姿を表す。

「ハッハァ!また会ったな、若造!」
「………地獄から追放されたのか?」
「忘れたか?オレは不死の存在だ」
「首を落しても死なんとはな………今度は灰になるまで焼くか」

 来須の前には、二丁拳銃を手にしたかつての強敵、来須と同じハンターでもあり不死身の怪物であるJBがいた。

「二郎、貴様………この兄を殺したヤツラと何をしている」
「兄者!?」
「お前まで裏切るのだな」
「………」

 そして二郎を宙から見下ろすのは、死んだ筈のキリトの兄・大カマイタチの一郎。
その全身からは妖気が噴き出し、両手からは鋭い鎌が生え、その目は憎しみに雲ったままだった。

「再度、お前と仕合えるとは嬉しく思うぞ」
「そんな………十兵衛殿が、なぜ………」
「そのような些細な事、気にするでない。ワシはただお前と再び仕合えるだけで満足だ」
「………私も嬉しく思います」

 聖剣を手にした柳井の前には、生身を持った柳生十兵衛がいる。そして、その手には日本刀が握られている。
その目には邪悪さは感じないが、嬉しそうに笑う十兵衛に、柳井も戦いは避けられないと覚悟を決めた。
柳井にとっても、彼はもう一度戦ってみたい相手でもあったのだ。

「小娘、ちょっとは腕を上げたかい?」
「………クソババア。死にきれなかったのかい?」
「相変わらず威勢だけは一人前らしいねぇ」
「何をトチ狂ったのやら………もう一度、地獄に送ってあげるよ」

 ジャニスに対峙するのは、伝説の魔女ジャニンバル・デイジー。ジャニスが魔女となった原因となった人物である。
その恐ろしく似た容姿は、あるいは双子なのではないかとすら錯覚してしまうだろう。
しかし、デイジーの方は、腰まである白銀の髪に、黒で統一された魔女のイメージ通りの格好。
それに対するジャニスは、同じ白銀の髪でもショートカットで、格好は白づくめのスーツ。
外見はまるで正反対である。あるいはジャニスはデイジーに格好まで似せたくなかったのかも知れない。

 4人はそれそれが深い因縁で結ばれた相手と対峙していたのだ。まさに、強敵が勢ぞろいといった風である。
それは、まさに悪夢そのものであった。
これは、その当人が一番出会いたくない、あるいは強敵だと思っていた敵がそのまま現われたのかも知れない。
質が悪いといえば、これほど質の悪い罠はなかった。

 そして、自分達がそれそれの敵と二人きりになった事に気付いた時。
戦闘は始まった。



<続く>





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