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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ17 作;雪乃丞

眠り姫の見る夢は 《2》






 街を襲った巨大な雹は尋常でない被害をもたらした。
だが、今はその雹も降らなくなり、今や穴だらけになった家から次々と病院に患者が運び込まれていた。
しかし、その運搬に車はつかえない。 街は今度は10メートル先すらも見えない濃霧に閉ざされていたのだ。
 病院の中は怪我人で埋まり、医者と看護婦は総出で怪我人の治療にあたっていた。
怪我の軽い者もそれを手伝い、廊下にまで患者が溢れ出す有様は、まさに野戦病院といった風であった。
だが、その病院の中で一つの奇跡が起こった事を知る者は少なかった。
その奇跡の瞬間に立ち会ったのは、その部屋に怪我人を運び込むための準備を手伝っていた昌平だけであった。

 昌平は、あの公園で奇跡的に骨折だけで済んでいた怪我人を背負ってここまで運んで来たのだ。
そして、その後は、ここで怪我人の世話を手伝っていた。
部屋の外には怪我人の面倒を見ているキリトの姿もあった。 キリトには応急処置の心得があったのだ。
それは何百年も前のものだが、骨折した箇所の骨をつないで添え木で固定する技術は熟練者のものだった。
「オレの故郷では、これくらは誰でも出来た」などどという声も聞こえてくる。
意外と、骨折専門の名医なのかも知れない。

 その部屋は本来、意識の無い・・・植物状態の患者専用に割り振られていたものだった。
だが、今のような状態ではそんな事を言ってはいられない。 病院中は怪我人で溢れかえっていたのだ。
その部屋に、布団を抱えて入ってきた昌平に、その声はかけられた。

「あなた・・・誰?」

 そう声をかけてきたのは、計器に囲まれたベッドから半身を起した高校生くらいの女性だった。
だが、その体は痩せ細り、手足は白蝋のように白い。 それは長いこと日の光にあたってない事を表していた。

「オレ、風守昌平っていうんだ。 ゴメンな。 おこしちゃったか?」

 その部屋が意識のない患者専門だという事を昌平は知らなかった。

「・・・ううん。 なんだか今まで長い夢を見てたような気がするけど・・・でも目が覚めたから、それでいいわ」

 そう、どこか空虚感のある答えを返した女性に、昌平は勤めて明るく問いかけた。

「キミ、名前は?」
「御国優美(みくに ゆみ)。 今、いつなの?」
「いつって・・・なんで?」
「・・・ここは何処なの?」
「は?」

 これでは、まるで記憶喪失同然である。

「キミ、もしかして記憶がないのか?」
「ううん。 ・・・でも、なんだか、最後に見た所じゃないみたいだから」
「最後に見たって?」
「青い空だった。 とても綺麗で・・・私もそんな場所に行きたかったのもかも知れない」

 まだ、脳が寝ているのかも知れない。

「えー・・・っと、ここに怪我人運びたいんだけど・・・いいかな?」
「ならここ使って。 私は家に帰るわ」

 そういうと、優美は多少おぼつない足取りでベッドから下りようとした。 だが、その足は体重を支え切る事は出来なかった。
そんな優美を咄嗟に飛び出した昌平が抱きとめた。 そして、昌平はその体のあまりの軽さに驚いた。

「優美ちゃん。 大丈夫?」
「変な人ね。 私の事なんて放っておけば良いのに。 それに初対面の人に『ちゃん』ずけはよくないわ」

 優美は、助けてもらったのに感謝の言葉も無い。 それどころか・・・。 そんな優美になんとか昌平は言葉を返した。

「そっか。 なんて呼べば良い?」
「そうね・・・御国さんはアレだし・・・やっぱり優美ちゃんで良いわ」
「・・・分った」
「それなら、そろそろ放してくれない?」
「え? あ、ああ。 ゴメン」

 そう言われるまで昌平はずっと優美を抱きかかえていたままだったのだ。 慌てて放すと、優美は今度こそ床に倒れた。
それを見て焦ったのは昌平である。

「ああ! ゴメンな!!」
「大丈夫。 気にしないで」

 しかし、優美は動じない。 昌平は今度は腕をつかむようにして優美を助け起こした。

「本当に大丈夫か?」
「本当に大丈夫よ。 それに私はアナタにとって他人よ。 他人の事なんてどうでも良いでしょう?」

 そう静かに告げられた言葉に、なぜか昌平はゾッとするものを感じた。

「そういう訳にもいかないよ。 それより、まだ寝てないと・・・」
「ううん。 多分もう大丈夫だと思う」

 そう言うと、昌平の手を借りて少し歩く練習をした。 すると、まだかなり危なかしいが、一応歩けるようになった。
だが、久しぶりの運動だったのか、少し歩いただけで優美は息を切らせていた。

「これなら、文句、ない、でしょう?」

 意外と意地っ張りで負けん気の強い子なのかも知れない。

「そ、そうだけどさ・・・なんか危なかしいな。 やっぱりまだ寝てた方が良いんじゃないかな?」
「私が、どうなろうと、あなたには、関係ないでしょ? けど、今は、その忠告を、聞いて、おくわ」

 そういうと、息も絶え絶えな優美は大人しくベッドに戻った。 そんな二人の姿を見て驚いた者がいた。
それは昌平の返りが遅かったから様子を見に来た看護婦の一人であった。

「先生! 先生! 御国さんが! 御国さんが目を覚ましました!!」

 後は大騒ぎであった。
駆けつけてきた担当医の検査の結果、優美は筋力トレーニングをした後ならば退院できると言われた。
しかし、まだ数日は入院しなくてはならないらしく、機器のなくなった部屋で優美は怪我人に囲まれて過ごす事になった。
そんな優美は、甲斐甲斐しく怪我人の面倒をみる昌平とキリトの様子をただ眺めているのだった。







 来須達は霧に閉ざされた街を歩いていた。 車はすでに危険だという理由で乗り捨てていた。
街中に入って、少し霧が薄くなってきてきているが、それでも視界は10メートルもない。
車で移動するには、視界が悪過ぎたのだ。

「なにがあったんでしょうね?」

 そう柳井が呟いたのは当然であろう。 その目の前には霧の中にたたずむ家があった。
霧の切れ間から除くその家の天井は大穴が幾つも開いていた。

「まるで戦争でもあったみたいな有様だねぇ」
「真上からのようだな。 それに・・・地面に転がってる氷のかけらから見るに・・・雹だろうな」

 道路には、もう大分溶けてしまって小さくなった氷の破片が幾つも転がっていた。

「雹でここまで酷い事になりますかね?」
「サイズが大きかったんだろう。 サイズが10センチを超えれば、それは隕石と変わらんしな」
「これも夢の仕業かねぇ」
「かもしれんな。 ともかく生存者を探して事情を聞かんとな」
「それより、外部から救急車でも呼んだ方が良いんじゃないですか?」
「それが出来ないから、オレは一切の侵入を禁じたんだ」

 そう言われて携帯を取り出して連絡を取ろうとした柳井は、携帯が通じない事を知った。

「あれ? アンテナ3本立ってるのに・・・」
「ここはな・・・一度入ったらもう出られないんだ。 ドリーマーを始末するまではな」
「そ、それじゃあ・・・やっぱり殺すんじゃないですか!」
「無論、ほかの方法もある。 ドリーマーから夢を奪えば良い」
「夢?」
「ああ。 ドリーマーの見る夢から開放されれば、ここは普通の空間に戻る。
大人しくドリーマーが夢を捨ててくれれば・・・問題なく事件は片付くんだ」
「でも、それはドリーマーの心を殺すことにもなるんだろう?」
「そうだな。 だから、大抵はドリーマーは死を選ぶ。 まあ、全てはドリーマーを探し出してからの事だ」

 そう言うと、来須は話しを一方的に打ち切った。
そんな来須の態度に何か変な物を感じた柳井は小声で横をあるくジャニスに問いかけた。

「来須さん、なんか変じゃないですか?」
「こういったケースは後味の良いものが一つもないんだよ。 みんな殺されるか・・・」
「ジャニス。 お喋りは後にしろ」

 そう注意されたジャニスは肩をすくめて答えた。
それを見た柳井は、その他の方法というのがロクな手段でないであろうという事を感じた。
だが、来須はあえて黙っているのだ。 それを無理に聞き出そうとするのは無理だろう。
今は大人しく指示にしたがって生存者の探索を続けるしかないのであった。

 生存者は、ほどなくして見つかった。 それは家の中にいて無事だった者だった。
彼らは雹の止んだ後、街から逃げようとしたがどうしても街から逃げられないと知るや、家にいる事にしたらしい。
だが、それは正解であろう。 いつ又雹が降ってくるか分らないのだ。 むしろ恐れるべきはパニックの方だろう。
ここがアメリカなら暴動のような騒ぎになっていてもおかしくない程の異常事態なのだ。

「ちょっと、聞きたい事があるんだがな・・・」

 そう言うと、来須は懐から地図を取り出す。 それはこの地域の拡大地図だった。
そこに赤く円が書いてある。 直径は4〜5キロくらいだろうか? これがドームの範囲なのだ。

「このあたりに御国っていう家はないか?」
「御国・・・さあ。 知りません」
「何年か前に父親が娘に刺し殺されたらしいんだがな・・・それでも知らんか?」
「ああ、それなら知ってるよ」

 そう答えたのは、高校生くらいの女性だった。

「どのあたりに住んでたか知らないか?」
「うーん。 私も人から聞いただけだからねぇ」
「娘さんの方の話しか?」
「うん」
「じゃあ、その娘さんの事を詳しく聞かせてくれないか?」
「良いけど・・・なんで?」
「ちょっと訳があってな。 こっちのヤツは刑事だから信用してくれ」
「え!? 本当!」
「本当です。 柳井といいます。 構いませんか?」

 そう柳井が警察手帳を見せて問いかけたのは、その子の両親に対してだった。
日本人は権威に弱いと言われる。 そして、それは警察関係者に弱いという事でもある。
だが、その住民の警察への協力的な態度が、日本の犯人逮捕率の異様な高さの秘密でもあるのだ。
そして、この場合も柳井の刑事という立場は十二分に役に立った。
まさか、一緒にいるのが秘密結社の戦闘員と魔女だなんて想像も出来ないだろう。

「たしかそんな話しは聞いたよ。 でも、もう4年くらい前だよ?」
「思い出せる範囲で頼むよ」
「確かねー・・・勉強が出来るけど、どっか暗い感じの子だったって言ってたなぁ」
「友達から聞いたのかい?」
「うん。 又聞きだけどいいの?」
「構わないよ」
「えーっとねぇ。 その子、小っちゃい頃に母親を亡くしたらしいんだけどさ。 それが原因だったのかなぁ。
なんかノイローゼになったらしいよ。 それで勉強とかも出来なくなってきてぇ。
最後はヒッサンだったらしいよー。 手首切ったリとか。 でも極めつきは父親を刺しちゃったことだろうねぇ。
刺した後に、なんか飛び下り自殺とかしたって聞いたけど・・・うん。 知ってる事って言ったら、それくらいかなぁ」
「ありがとう。 協力を感謝するよ」

 話しはそれで終わりだった。







 その家を後にしてから数分後。 柳井は、来須に不審げに問いかけた。

「来須さん。 御国って人の事件と今度の一件。 どんな関係があるんです?」
「御国優美。 御国重雄(みくに しげお)の娘。 そいつが多分ドリーマーだ」

 柳井の質問に、来須は淀みなく答えた。

「なんで、そう思うんです?」
「御国優美は自殺しようとして九死に一生を得た。 だが、その時の怪我が元で意識が戻らなくなった。
この地域にいる意識不明患者で若い者は、御国優美だけだ。 さっきの話しで確認も取れた。
ドリーマーは間違い無く御国優美だ」
「・・・確かなんですか?」
「間違い無い」

 そう答えた来須は、煙草に火を灯しながら続ける。

「多分、御国優美は今頃もう目を覚ましているだろう」
「でも・・・意識が戻らなくなったって・・・」
「ドリーマーは夢をみる。 それは、この空間そのものだ。 御国優美は本当はまだ目は覚めてなんていないんだ。
だが、夢の中では御国優美は目を覚ましている。 だから、この空間の中では御国優美は目を覚ます」
「なんか禅問答みたいですね。 でも、夢ですか?」
「そうだ。 夢の世界の内容が、この空間を作ってる。 この霧も夢の世界のものなんだからな」
「この霧が?」
「お前、霧の中を歩いているのに湿っぽくないだろ?」
「そういわれてみれば・・・」
「つまり、そういう事だ」

 普通、霧の中を歩くと服は湿ってしまう。 それは霧は水蒸気のようなものだからだ。
しかし、このドームに入って数時間は経つのに、柳井の服は湿ってなどいなかったのだ。
その説明をジャニスが補足した。

「この空間では、現実の世界と夢の世界が混ざってるのさ。 現実の世界では御国優美はまだ目を覚まして無いんだけねぇ。
でも、夢の世界では御国優美は目を覚ましてるんだよ。 だがら、この空間の中では御国優美は目を覚ます事が出来るのさ。
つまり、そういう事なんだよ。 分った?」
「なんとなくですけど、分りました」
「今はそれで十分だ。 御国優美が目を覚ましたのは間違い無いんだ。 それはこの空間が証明している。
ドリーマーは夢で現実を侵食しない限り、こっちでは目を覚ませない。 だから、こうなった以上はもう目を覚ましたはずだ。
ただ、問題は何をしたくてこっちに帰って来たかだな」

 目的も無くドリーマーは目を覚まさない。 目を覚ましたのは何か目的があるためなのだ。

「動機ってヤツですね」
「流石は刑事だな。 そのへんは心得ているらしいな。
ドリーマーにとって現実は辛いだけだ。 なんで楽園から、この辛いだけの現実に帰って来たのか・・・。
それをなんとか探らんとな」
「ちょっと待ってください。 なんで現実は辛いだけなんです?」

 その質問に、来須は僅かに苦渋を感じさせる口調で答えた。

「ドリーマー誕生には共通した背景がある。 みんな・・・心を深く傷つけられられているんだ。
そして、ドリーマーになるのは圧倒的に若い女性が多い。 それは夢見がちな者が多いからだ。
だが、夢見がちでなくても、現実から目を背けたくなる時ってのはあるものさ。 特に若い女性ならな。
さっきの話しで大体、自殺の理由も想像出来ただろ?」

 そう憎憎しげに言われた柳井は、少し考える。
優秀だが、陰のあった少女。 そしてノイローゼとなり、自殺未遂。 最後は父親を刺し殺して投身自殺。
それらから想像できる少女の自殺の原因はなにか? そう考えた柳井は、嫌な結論に辿りついた。

「ま、まさか・・・」
「多分な」

 その言葉に、ジャニスは忌々しげに吐き捨てた。

「殺されて当然だねぇ」
「同感だな」

 それは来須も同じであった。 もし御国重雄が生きていれば、悲惨なことになっていたであろう。
それからは誰もが押し黙ってしまった。 その重苦しい沈黙を破ったのは、柳井だった。

「それで、御国優美をどうするんですか?」
「ドリーマーにとって、現実は辛いだけだ。 それなら夢の世界に帰ってもらうのが一番なんだがな」
「でも、素直に帰るでしょうか? まだ目的が分らないんで説得のしようもないですけど」

 その問いに答える来須の声に迷いはなかった。

「無理にでも帰ってもらう。 現実への侵食がこれ以上進んでは手に負えないからな。
それに、御国優美をどうにかしないとこの空間は元には戻らないんだ」

 しかし、この空間が元に戻るという事は、御国優美の意識がなくなるという事だった。
御国優美は、この空間でだけ意識を保っていられるのだから・・・。

「でも、それだと・・・」
「ああ。 この空間を元に戻す事は、御国優美をもう一度意識不明患者に戻すことにもなる。
それは、この世界との別れって事でもあるんだ。だが、御国優美には、何かしたいことがある筈だ。
それが達成されてないと、そう簡単には戻らないだろうな。 それに御国優美は中学生くらいで自殺しようとしたという。
もしかすると・・・厄介な目的を持ってこっちに来てるかもしれんな」
「?」

 どうやら柳井には分らなかったようだ。 そんな柳井にジャニスは苦笑混じりに告げた。

「鈍いねぇ。 それくらいの子が、あんな悲惨な目にあったせいで、やり残した事さ。 想像出来ないかい?」

 それに又もや悩む柳井。 それから数秒後にようやく答える。

「・・・もしかして、恋人ですか?」
「かもしれん。 それだと非常に厄介だ。 恋ってのはそう簡単には終わらんだろうしな」

 そして、そこにはもう一つ留意する点があるのだ。

「しかも・・・相手が、あの子だと最悪だよ」

 今度は柳井にもすぐ分った。

「昌平って子ですか?」
「あの子はこういった事件に・・・しかも核心部分に遭遇しやすい血統なのさ。 前もそれでエライ目に会ってるしねぇ・・・。
信じられるかい? あの子は一時期、日本政府とアメリカ政府を敵に回したんだよ?
それで、テロリスト扱いされたんだから。 もっとも、キッチシ仕返しはしたみたいだけどねぇ」
「仕返し?」
「核兵器が見つかって大騒ぎになっただろう?」
「ああ、覚えています。 確か国会議事堂で見つかったんですよね」
「そうそう。 わたしゃ大笑いしたよ。 やるときゃ徹底してるってねぇ」

 そう、さも面白そうに言うジャニス。 来須も苦笑を浮かべていた。 だが、柳井は青くなっていた。

「・・・まさか・・・」
「真相は誰も知らないけどね。 その子の・・・まあ、同居人の仕業だと思うけどさ。
でも、あの子の受けた悲しみと仕打ちに比べれば・・・あの程度は我慢して貰わないとねぇ」
「テロリストも真っ青ですね」
「でも、少なくとも初恋の相手には最適だろうねぇ。 底抜けにお人良しで、優しくて、見た目も悪くないしね」
「あいつが御国優美と出会ってないと良いな」
「そうだねぇ」

 こんな口調で話す来須の声は、柳井は初めて聞いた。
一介の大学生が、この人外の存在とも言えるこの二人にここまで心配されるというのも、なんだかおかしな話しである。
今頃、昌平はくしゃみでもしているかもしれない。

 だが、御国優美と昌平の恋の結末は、酷く悲惨なものになる事が分っているのだ。
ジャニスからさりげなく距離を取りながら、柳井はおそるおそる尋ねた。

「もしも、ですよ。 もしも、二人が出会って恋人同士とかになってたら・・・どうするつもりなんです?」
「いざとなったら御国優美には死んで貰うつもりでいるが・・・下手に殺す訳にもいかないんだ。
ドリーマーの力はこの空間では神同然だ。 夢の世界はなんでもアリなんだしな。
下手をすると、このドームごと消滅するかも知れん。 だが、オレはまだ死ぬつもりはない」
「私もだよ」
「それは、私もですけど・・・。 他に方法はあるんですよね?」
「まあな。 古傷をえぐるのが一番だろうな」
「・・・」

 そのなんでもない事のように言われた言葉に、柳井は言葉を失った。
御国優美の悲惨な体験を知っておきながら、それを平然と武器にするという来須の精神は柳井には理解できなかった。
それはジャニスも同じなのか、来須の方を見ないようにしていた。

「ドリーマーの心はヒビ割れたガラスみたいなものだ。 おそらく御国優美は過去の事件を故意に思い出さないようにしている筈だ。
そうしないと、こっちの世界にはいられないんだからな。 だからこそ、ドリーマーにとってそれは致命的な弱点となる。
その記憶を蘇らせれば、間違い無くもう一度現実逃避を起すだろう。 下手をすると発狂するかも知れん。
なんでオレが今まで黙ってたか、これで分っただろ? オレもこの方法は気にいらない。
だが、やらなければならないなら、躊躇はしない。 オレは・・・御国優美の心をもう一度砕く」

 それは、あまりに非道な手段だった。

「く、来須さん!! それは、あんまりです!!」
「分ってる。 オレは外道にもおとる手段を使う。 だが、そうでもしないと・・・ドリーマーには勝てないんだ」
「勝てない?」
「言っただろ? 敵は夢を操る者だ。 そして、その空間では夢は現実になる。 いわば、神同然の力があるんだ。
だが、今はまだ現実世界の方が優位に立っている。 それはこの風景から見てもわかることだ。
おそらく、御国優美はまだ自分の意志で世界を変えられる事に気付いていない。
御国優美が本格的に目覚める前に・・・夢の世界に追いかえすしかない」

 それは、どこまでも不本意ながら、一番効果的で安全な方法なのだろう。
又してもそれが分るだけに、反論の出来ない柳井であった。



<続く>