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夢の話しをしよう。 夢と言うのは不思議なものだと思う。 夢の世界は何でもアリだ。 その世界では、人は自在に空を飛び、言葉の壁もなくどんな存在とでも話しを出来る。 そして、時に神の視点で事象を見て、その世界で遊ぶヤツだっているんだ。 まさに、夢の中では、夢を見ている者は神そのものだと言っても過言じゃないだろう。 また、その夢では見た事の無い国や文化に触れる事もある。 時として、それは悪夢とも呼ばれるが、その悪夢だけが神秘の世界に繋がる唯一の道だとも言われているのだ。 だが、人はその世界では神にはなれない。 人はどこまでいっても人でしかないのだ。 その悪夢の中、人はただ翻弄され、嬲られるしかない。 夢は自由にならないからこそ夢なのだろう。 だが、その夢を自在に操る者がいたとしたらどうだろう? しかも、その夢が現実となったら・・・どうなると思う? これはそんな話しだ。 その日。 青年は夕日に染まる商店街を、夕食の材料の買出しをすべく歩いていた。 季節は初夏を迎え、周囲の人達もすでに半そでの人も珍しくない。 その青年も薄めのシャツを着ているだけだ。 昼間の暑さも、夕方になるど過ごし易い程度となり、その青年も今のような季節の気候が好きだった。 早めに終わったバイトから帰った後、いつもは同居人に任せる買物を買って出たのも、そんな理由だったのかも知れない。 その青年の名は風守昌平。 見た目は180を超える身長の青年で、人あたりの良さそうな顔に、意志の強そうな目のどこにでもいそうな青年である。 しかし、その実体は世間一般からは大きく外れているのだが、それを周囲の人達が知る筈もない。 「昌平」 そう小さく声をかけられた昌平は、こちらも小声で返した。 「どうした?」 「天気がおかしい」 「雨か?」 「いや・・・だが、風に混じる空気の質が段々変化している。 夕立の前兆に似ているんだ」 そう言われて、一人で歩く昌平は空を見上げた。 そこには雲一つない夕日の赤に染まった空が広がっていた。 ちなみに周囲には誰もいない。 数メートル離れた場所には何人かいるが、そこから聞こえるのはただの世間話しである。 昌平は、誰と会話しているのだろうか? 「雨なんて降らないんじゃないか?」 「だからおかしいと感じるんだ」 「まあ、キリトの言うことなら信じた方が良いかもしれないな」 そうして昌平は、近くのコンビニで傘を買うと、手早く夕食の材料の買いだしを済ませて帰路についた。 しかし、空は相変わらず晴れており、雨の降るような気配はなかった。 「なあ、昌平。 こんな事をいうのもなんだが・・・雨が降ると思うか?」 「どうだろうな。 確かに湿度が上がってきてるけど・・・」 その声と共に、昌平の頭にコツンと何かが当たった。 「ん?」 そして、周囲からもコツンコツンコツンと絶え間無く音が聞こえる。 「まさか・・・雹(ひょう)?」 あわてて傘を指した昌平だったが、それは果して有効だったのだろうか? 周囲には季節外れも甚だしい雹が降って、にわかに騒がしくなってきていた。 しかも、その雹は、どんどん強くなり、しかも巨大化していっているようだった。 「昌平! 急いでどこかの物陰に隠れるんだ! このままだと危険だ!」 そう言われるまでもない。 既に通行人もまばらになった道路を急いで避難する。 行き先は、すぐ側にあった公園の公衆便所。 あそこならコンクリート製で、滅多なことでは問題にもならないだろう。 そう考えた昌平は、既に役に立ちそうもない歪んだ傘を捨てると、急いで公園に向かった。 既に雹は3〜4センチまで成長し、直撃するばタダでは済まないだろう。 だが、その危険な雹は、昌平の周囲で何かに砕かれるようにして、その体に届かない。 そして、数分後。 公園の公衆便所に駆け込んだ時、周囲は凄まじい騒ぎになっていた。 「う・・・うそだろ」 そんなうめき声を上げる昌平の視線の先では、直径10センチを超える巨大な雹が次々に地面に激突して鈍い音を立てていた。 「なんだよ・・・これ」 そして、その砕けだ氷のブロックが散らばる公園の中。 昌平の目は現実とは思えない物を見ていた。 ドシ、ゴッ、ゴスッ、ドン。 そんな鈍い音を立てる公園の中に広がる地獄絵図。 逃げ送れた老人は無慈悲な氷の砲弾を食らい肉の塊と化していた。 その横には、孫であろうか? 奇妙に変形した子供の遺体。 そこから目を背けても、不幸にも足に直撃を受けらしく動けなくなっている母親にすがって泣く子供がいる。 その親子も昌平の視線の先で無残に打ちすえられ、血を撒きちらかしながら死んでいく。 それは、まさに数分前まで平和であったこの地域を襲った悪夢の出来事であった。 「ク、クッソーーー!! キリト! 助けにいくそ!」 そう言って安全な場所から飛び出そうとした昌平を、いきなり背後から抱き止める者がいた。 それは黒髪に、黒一色の服をまとった18くらいの青年だった。 その青年の名は風守切人。 キリトの愛称で呼ばれる、妖怪・カマイタチである。 しかし、その体のアチコチには青痣が出来て、額と右手からは血を流していた。 「馬鹿な事を言うな! お前まで死ぬぞ!」 「じゃあ、どうしろっていうんだ!」 「おちつけ! 少しは冷静になるんだ!! 今はどうにもならん!」 そう言って、キリトは昌平の頬を叩く。 頬を叩かれた昌平はようやく落ちついたのか、外に出ようとはしなくなった。 「お前だけならオレでも守れる。 だが、もう一人となると守り切れる自身はないんだ」 「・・・キリト」 そう諭すように言われた昌平は、そのキリトと呼ばれた青年の右手が血を流しているのに気がついた。 「どうしたんだ? それ? 血が出てるじゃないか?」 「あの雹は、ただの雹なんかじゃない。 おかしな力が宿ってる。 おかげでこの有り様だ」 そういうとキリトは、右手の鎌を伸ばす。 しかし、その鎌は無残に歯こぼれを起こし、歪んでしまっていた。 「あの雹はオレの鎌では切れない。 なんとか砕くだけで精一杯だった。 おかげで要らない直撃を食らった」 その体の青痣は体を張って昌平を守った為なのだが、それを言うつもりはないらしい。 額からの出血は既に止まっていた。 「大丈夫なのかよ?」 「放っておけば自然に直る。 だが、折れてしまっては直るのに時間がかかる」 「・・・すまない」 「なんの事だ?」 「オレはいつもお前に守ってもらってばかりだ」 「お前はオレの盟友だ。 守る力がある者が守るべき者を守るのは、オレ達にとって当たり前の事だ」 そう真顔で答えたキリトに、昌平は静に告げた。 「・・・キリト」 「なんだ?」 「一つ言っておきたい事があるんだ」 「聞こう」 「お前は、オレをいつも守ってくれている。 それはオレにとって凄く嬉しい」 「そうか」 「でも、お前は・・・」 そう良い募ろうとした昌平を背後に押しやってキリトは左手に真紅の鎌を生やした。 その視線は、公園の中央に向けられており、そこに宿る殺気は戦いの時のものだった。 「ど、どうしたんだ?」 「下がっていてくれ。『何か来る』」 その公園では、既に動く者はなく、ただ雹の砕ける音だけが響いていた。 そして、その公園の中央。 砕けた氷の破片とブロックで埋め尽された地面から、突如として霧が発生していた。 その霧はまるで間欠泉のように勢い良く噴き出し、周囲を白いベールで覆っていく。 「なにが起こっているんだ?」 「霧だけじゃ済みそうも無い。 昌平。 オレから離れるな」 そして、その霧にはまるで周囲を飲み込むかのように広がり続ける。 だが、その霧は公園から発生しているだけではなかった。 その霧は街の各所から噴き出していたのだ。 そして、それから、ものの10分もの間に、霧はこの街を完全に覆い尽くしてしまったのだった。 その日。 周囲は集まった野次馬とマスコミと周囲を封鎖する警察官、機動隊、自衛隊の隊員達でごった返していた。 彼らは『あるもの』を包囲するかのように囲っている。 その封鎖線は、ある地域を覆うかのように張り巡らされていたのだ。 そして、空には報道関係のヘリコプタが幾つも飛び交っている。 彼らが見つめるその先には街の一区画を覆い尽くすほど巨大なドームが出来上がっていた。 しかも、そのドームは奇妙な事に霧で出来ているのだ。 その白乳色の壁は崩れることもなくただ霧が漂っているだけだが、その霧は消える事もなくただその壁のあたりで漂っている。 しかも、その霧は常識外の濃さを持っており、壁の中はどうやっても見る事が出来なかった。 それは、まさに霧のカーテン。 常識ではありえない光景であり、現象であった。 そんなドームを見つめる一人の刑事に、その声はかけられた。 「おい、柳井。 あの人達が来たぜ?」 そう同僚に言われた柳井弘一は、安堵のため息をついた。 向けた視線の先では、なにやら軍関係者とも思われる者と話しをする黒ずくめの男性と、白を基調とする派手な格好をした女性がいた。 「助かった。 あの人が来ればなんとかなるよ」 「オレ達は助かるけどな。 でもお前はどうだろうな?」 「どういうことだ?」 「しらないのかよ?」 「ああ」 「警察からも視察部隊に何人か入るんだぜ?」 「オレはないだろ。 ヒラだし」 「ヒラだからこういう時は指名されんだよ。 お偉いさんとか、エリートがこんな時出てくるわけ無いだろ?」 「・・・でも、オレこんなケースは初めてだぜ?」 「それはここにいる全員そうだぜ? ・・・まあ、あの人達は抜きだけどな」 「なら、オレなんかより・・・」 「残念だがそうはならないんだよな」 「なんで!?」 「そう怒るなって。 しょうがないだろ? お前、おかしな事件担当して、一応解決したんだから」 それは今から数ヶ月。 柳井は亡霊の起したという連続殺人事件を一応解決したという事になっている。 それは犯人不在であったが、なぜか解決した。 というのも、いない筈の犯人を柳井が逮捕してきたからだ。 その犯人は催眠術を使ったことになっている。 とにかく、そうなったのだ。 しかし、柳井は真相を知っている。 それは生活に困っている人が進んで犯人となっているだけだ。 いわば、不可解な事件へのエスケープゴート。 残された家族は中流家庭の暮らしを満喫出来るし、働く必要もない。 今頃は、海外で優雅にくらしているだろう。 そして、その犯人役も、あと半年で獄中で死んだことになり、その家族の待つ海外に出国する事になっている。 その犯人役は、もう二度と日本に帰らない事を条件に、新しい人間となるのだ。 そう、顔も、国籍も、何もかもが、新しくなって第二の人生を送るの事になるのだ。 おそらく、そうやって、今までも不可解な事件は闇に葬られて来たのだろう。 柳井はその時に言われた言葉を思い出していた。 『これなら誰も不幸にはならない。 遺族も犯人が捕まって獄中で死んだとなれば溜飲を下げるだろうしな。 誰も喜ばない迷宮入りなんて御免だろ? これでも目一杯予算使って綺麗に終わらせたんだ』 『でも、真実はどうなるんですか?』 『誰も信じない内容なんてのは真実なんかじゃないんだ。 真実なんてのは、新聞を飾る内容だけで良いんだよ。 誰も不幸にならないなら、それが一番だし、それが真実って事でいいだろ?』 『私は真実は、世間に知らされるべきだと思います』 『そして、みんなで不幸になるか?』 『そ、それは・・・』 『心配するな。 これなら誰も不幸にはならないんだ。 こういった終わり方が一番なんだよ』 その言葉に、柳井はまだ反論出来そうもない。 だから、出来ることならまだ再会はしたくなかったのだが・・・。 運命というのは実に皮肉な物らしい。 そう考えて、ため息をついたのを諦めと感じたのか、同僚は面白そうに告げた。 「お前もいよいよ日本のモルダーみたいになってきな」 「なんだよ? それ?」 「お前、X−FILE見てないのかよ?」 「見てない。 けど、それくらい知ってるよ。 けど、オレはモルダーじゃないさ。 しいて言えば・・・あの人達だろうな」 「モルダーとスカリーか? でも、あの人体はゴーストバスターズだろ?」 「じゃあ、なんでオレはモルダーなんだ?」 「決まってる。 刑事で、おかしい事件を担当して、事件に翻弄されて、真実を世間に知らせる一歩手前でコケたからさ」 その同僚は年も近い事もあって、よく飲みにいったりしている。 いわば親友と言っても言い間柄だった。 そして、亡霊の起した事件の真相も伝えてある。 信じているかどうかは不明だが・・・。 「うるさいな。 いいんだよ。 真実ってのは・・・」 「でも、お前は真実だけが欲しいんだろ?」 そう言葉の途中に割り込まれた柳井だったが、キョトンとした顔で同僚を見た。 「お前はいつも言ってるよな。 マスコミってのは真実だけを報道するべきだって」 「あ、ああ」 「でも、今回の一件はどうやっても一般には詳しく知らされない。 報道管制も時間の問題だろうしな」 「まあ、そうかも、な」 「真実を知るには、自分から行くしかないんだよ。 モルダーみたいにさ・・・どこまでも突っ走って、見てこいよ。 真実ってのを」 その時、柳井はその同僚の父親が警察官僚の実力者だったことを思い出した。 「ま、まさか!」 「嫌か? 中に入りたいって言い出すだろうと思ったから、お前が偵察部隊に入れるように色々根回ししといたんだぜ?」 「・・・いいや。 ありがとな。 行ってくるよ。 オレ」 「そう言うと思ったぜ。 ただし!!」 そう言うと、その同僚は柳井の目の前に人指し指を突きつけた。 「な、なんだよ?」 「これは貸しにしとくからな。 今度、お前のおごりで飲みに行くぞ」 「・・・分った。 無事に帰ってくる」 「よっし。 行って来い!」 そういって背を叩かれた柳井は、少しよろけながらも、偵察部隊の集合場所に向かって行った。 柳井が偵察部隊に参加する人間の集合場所に向かう時。 柳井は、知り合いの人達が、軍関係者と思われる初老の男性に何か文句を言われているのに遭遇した。 「どうあっても、自衛隊員は連れて行かないとおっしゃるんですな?」 「くどい。 そんなに部下を死なせたいのか?」 「そもそも、この中にはなにがあるんですかな?」 「それも何度もいった筈だ。 分らんとな」 「ならば、それを調べるだめにも・・・」 「断る。 それにオレには原因の心当たりがある」 「それはなんですかな?」 「確信がないから言えない。 それに、お前さんに言っても信じないだろうしな」 「それはどうですかな。 試しに言って見て下さらんか?」 「無駄な事はしたくないんでな」 「では、やはり自衛隊員を・・・」 「しつこいな。 要らんと言っている」 そんな堂々巡りをため息混じりに見つめる女性に、柳井は声をかけた。 「ジャニスさん」 「おや? 珍しいところで会うねぇ」 「そうですね。 やはりこの事件への協力で?」 「そうだねぇ。 まあ、ちょうど東京に居た事もあるし、依頼もあったんだけどさ・・・ちょっと耳かして」 そう言われて耳を貸した柳井に、ジャニスは小声で告げた。 「依頼だけじゃないんだよ。 私には、他にやる事もあってねぇ」 「やること?」 「まあ、それはいくらアンタでも教えられないけどねぇ」 そう言うと、ジャニスは来須の方に向き直った。 そこでは、まだ押し問答が続いていた。 「何で、もめてるんです?」 「自衛官を連れて行けってうるさくてねぇ」 「連れて行かないんですか?」 「まあ、アンタなら分るかも知れないけどさ。 あいつら相手に一般人が太刀打ち出来ると思う?」 「・・・ああ、なるほど。 これもそんな話しなんですね」 「そういう事さ。 それに、こんな代物はあいつら以外に作れないだろう? でもねぇ・・・」 「出発は何時になるんでしょうね?」 押し問答が続いている限り、出発出来ないのだ。 「もうすぐ済むだろうけどねぇ。 まあ、アンタには関係のない話しだよ」 「いいえ。 私にも関係する話しなんです」 「・・・アンタ、まさか・・・」 「はい。 偵察の一員に志願しました。 私も連れて行って下さい」 「正気かい?」 「勿論です。 私は真実だけを知りたいんです」 その時、ようやく話しを終えたらしい来須が戻って来た。 「どうした? ・・・柳井だったか? 久しぶりだな」 「はい。 私も連れて行って下さい」 それを聞いた来須は、ため息混じりにタバコに火を灯し、紫煙と共に問いかける。 「・・・覚悟は出来てるのか? 死ぬかもしれんぞ?」 「それほど危険な相手なんですか?」 「多分な。 これはドリーマーの目覚めの前兆だ」 「ドリーマー?」 「夢を操る能力者の事さ。 でも、問題はそいつの見る夢が現実世界に影響を及ぼす事なんだけどねぇ」 「・・・じゃあ・・・」 「ああ。 これをどうにかするには、そいつをどうにかするしかない。 しかも早急にな。 そうしないと・・・」 「どうなるんです?」 「これは夢の世界の卵みたいなものだ。 だが、これが破れれば・・・夢の世界が、こっちに押し寄せてくる」 「・・・想像出来ません」 「だろうな。 オレも出来ない。 だが、それがお菓子の城とかならまだマシだ。 悪夢だったらどうなる?」 東京郊外に立つお菓子の城。 それはそれで悪い夢だとしか思えないだろうが・・・それでも悪夢よりはマシである。 悪夢とは、人が恐れ、恐慌をきたすからこそ悪夢なのだ。 そして、悪夢には大抵とんでもない化け者が現われる。 それが夢なら目を覚ませばそれで終わりなのだが、悪夢が現実となっては逃げる術はない。 それは、まさに悪夢そのものとなるだろう。 「でも、どうにかするって・・・まさか、殺すんですか?」 「まだ分らん。 だが、殺さない方向で考えてはいる」 「殺さないで済む方法はないんですか?」 「お前にはまだ分らんだろうけどな。 時として人は死んだほうがマシって場合もあるんだ」 「どういう意味ですか?」 「時がくれば嫌でも分る。 だが、これだけは覚えておけ。 真実ってのは、いつだって優しくなんてないんだ。 むしろ、オレには真実ってのは悪魔みたいなツラして、それを求める者を飲み込もうとして手ぐすねひいて待ってるとすら思える。 いつだって真実を知った者を待つ運命は残酷な代物なんだからな」 そう苦渋まじりに告げた来須に、痛々しい目でジャニスが問いかけた。 「来須・・・昌平の事を考えているのかい?」 「よりによってアイツの住んでる街でドリーマーが目覚めるとはな。 これも、あの時みたいに偶然とは思えない。 下手をすると・・・あいつはまた巻き込まれる。 そして、そうなった場合は・・・。 オレは・・・今度もあいつを辛い目に会わせることになるかも知れん」 それは一年くらい前におきたある事件の話しだった。 一般には米国の不祥事事件として記憶されている。 「誰です? その昌平っていうのは?」 「風守昌平っていう大学生さ。 ちょっと変わってる子でねぇ。 こんな事件に巻き込まれ続けてる可哀相な子さ」 「風守昌平・・・あのテロリストって指名手配された!?」 「まあ、そうなってるねぇ」 苦笑混じりに答えたジャニスだった。 「でもさ、そのテロリスト一味に私もいたって言ったら信じるかい?」 「な・・・なんで?」 「まあ、色々あってねぇ。 その子・・・人類を守る為に、自分を兄と呼んで慕ってた女の子を殺したんだよ。 今の世の中があるのは、あの子のお陰なのかも知れないねぇ」 「・・・そ、そんな・・・。 でも、それって犯罪じゃないですか?」 そう思わず呟いた柳井は、胸板をいきなりジャニスに掴まれた。 「いくらアンタでも、あの子の前で、あの時の事を犯罪だなんて言わせない!! いいかい? あの子の前で・・・もし、そんな事を言ってみなよ? 殺すよ?」 その目には涙が滲んでいた。 そんなジャニスの肩を来須は優しく掴んだ。 「ジャニス。 もうそのへんにしておけ。 それに柳井はあの時の事を知らないんだ。 彼から見れば昌平も、オレ達もただの人殺しに過ぎないんだからな」 それを聞いたジャニスは、乱暴に柳井を突き放した。 「あの子は・・・ヒミコを殺したくて殺したんじゃない! 誰よりもヒミコの事を救いたがってたんだ! 私は昌平の事を人殺しなんて呼ぶヤツを絶対に許さない!! それだけは覚えておくんだね!」 困惑した柳井にそう言い残すと、ジャニスはその場を去って行った。 「済まんな。 あいつはまだあの時の事を吹っ切れてないみたいなんだ」 「な、なにがあったんです? ジャニスさんがあそこまで取り乱すなんて初めて見ました」 「まあ、色々とな。 時間があればゆっくり話してやるよ。 ただし、面白い話しじゃないぞ」 「覚悟しておきます」 「ふん。 いい返事だ。 お前にはこれを預ける」 そう言うと、来須は車から布に包まれた剣らしきものを渡した。 「これは?」 「セント・アンデルムスの聖剣。 ヴァチカンが保有する武器の一つだ。 お前にはうってつけの武器だろ?」 それは少し前の事件の話しである。 来須とフレデリックは厄介な刺客に狙われた。 それはヴァチカンからの刺客でもあったのだ。 その事件の謝罪として(奪い取ったともいうが・・・)フレデリック個人に贈られたのが、この聖剣だった。 フレデリックは「どうせ使わないから」という理由で、来須に気前良くプレゼントしたのだった。 だが、来須も貰って困っていたのだ。 彼は主に銃を武器として使っている。 予備の武器としては銀の短剣もある。 それに剣術の心得なんてないのだ。 それで、どうしようかと思案していたのだ。 そこに、柳井が現われた。 柳井は剣豪・柳生十兵衛(の亡霊)に剣で勝った程の剣士だ。 この聖剣を使う者としては、彼以上の適役はいないだろう。 あるいは、これも運命だったのかもしれない。 「セント・アンデルムス・・・」 「オレもその剣がどの程度の力を秘めているかは、よく知らない。 だが、ヴァチカンの保有する武器で、聖人の名を冠する物はたった一つしかない。 おそらくはエクスカリバー・シリーズの一本だろうな」 「エクスカリバー・・・ゲームで出てきますね」 「伝説の武器と言われる所以はその力にあるらしいがな。 だが、オレではその剣は上手く使いこなせない。 だから、お前に任せる。 それに、その剣は持っているだけでオレと同じように守りの力が得られるらしい。 お守り代わりだと思って持っていくんだな」 「分りました。 大切に預かっておきます。 でも、それなら尚更来須さんが持っておいた方がいいんじゃないですか?」 「心配するな。 オレもにもあるんだ。 コレがな」 そう言うと、来須は胸元からメダルのような物を取り出した。 それは聖剣と共に贈られた物だった。 そして、それもフレデリックから来須にプレゼントされた。 こっちの方は来須も使えそうだったので、それ以来愛用していたのである。 「それは?」 「聖杯と呼ばれるものだ」 「ああ、確かにカップみたいな印が刻印されてますね」 「聖杯をかたどった装飾だ。 だが、これは持っているだけで色々な効果があるんだ」 「と言いますと?」 「オレも良くは知らんのだが、どうも癒しと精神力の増幅の効果があるらしい。 だた、これは素質が求められる類の道具だからな。 精神力制御の出来ないお前には使えないんだ」 「へー・・・でも、来須さんには必須ですね」 そんなやり取りをしていたところに、自衛隊員が声をかけた。 「出発の準備が整いました」 「さて、行くか」 「はい!」 「ジャニスには一応謝っておけ。 あいつも内心反省してるだろうが、意地っ張りなヤツだからな」 「分りました」 そうして、3人を乗せた車はゆっくりと壁の境界線を超えてドームの中に入っていくのだった。 <続く> |