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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ16 作;雪乃丞

千の顔を持つ男 《1》






 オレは全身を貫くような痛みの中で目を覚ました。

「目が覚めたか?」

 オレにそう問いかけたのは、ジャッカルの戦闘服を着込み、奇妙な形をした銃を手にした我が上司だった。

 彼の名はフレデリック・龍(ロン)。 組織の若き大幹部にしてオレの上司。
だが、その経歴は年齢からすると特異過ぎた。 彼の組織に入る前の経歴は一切不明なのだ。
一説には香港の街を支配していた黒社会(マフィアのようなもの)の幹部だったと言われているが、それを確かめた者はいない。
組織の調査力をもってしても分らない経歴から、おそらく偽名を名乗っているのではないかとも言われているが・・・。
だが、経歴よりも確かなものがある。 それは彼が間違い無く有能な戦士であり、卓越した指揮官であることだ。
 彼は組織に入るやいなや傭兵部隊ジャッカルの隊長となり、数々の任務をこなしていった。
それには集団での任務もあれば、個人の任務もあった。 彼はそのどちらでも最高の戦果をあげて見せたのだ。
特に集団での任務で見せた指揮能力はまさに天才的だったと言われる。
そして、彼は個人の戦闘力でもハンターに匹敵するとまで言われている戦闘の天才なのだ。
それがオレの上司である人物なのだ。 ある意味、組織の幹部にこれほど相応しい人物はいないだろう。

 だが、そんな上司が、なぜここにいるのか? なぜ彼がもはや着る事も無いはずの戦闘服を着ているのか?
オレはただ混乱していた。

「・・・ここは?」
「私の研究施設に近い部屋・・・まあ、仮眠室といったところだよ」

 その部屋は、幾つかの簡易ベッドが並んだ狭い部屋だった。
オレのその部屋のベッドの一つに横になっていたらしい。
穴だらけになり、鮮血に染まったコートはベッドの脇に吊らされ、オレの服に染みた血はベッドを赤黒く染めていた。
コートからはまだ血が滴っているところを見ると、オレが気を失っていた時間はそんなに長い時間ではなかったらしい。

「さっきまでヒーラーが治療していたんだが、キミだけに構ってもいられないんでね」
「後は自分で直せって事ですね」
「その通りだ。 止血と、ある程度の治療は済んでいる。 残りの傷は自分の力で直したまえ」
「分っています」

 そう答えると、オレは全身の傷を一つずつ癒していく。
幸いにも、オレの力の及ばないような傷は一つも無い。 恐らく酷い物はヒーラーが直しておいてくれたのだろう。
これなら10分もあれば直せる。

 オレ達ハンターの使う白魔術と、彼らヒーラーの使う白魔術は大きく異なる。
彼らの能力は治療に特化されたものなのだ。 そして、その魔術は桁外れに強い力を持っている。
さらにその魔術を現代の医療技術と組みあせた結果、他では見られない程の回復力を持った存在となった。
死なない限り、彼らはどんな重傷者でも回復させてしまうのだ。
噂では失われた手足をも復元させるとまで聞いている。 あるいは死人すらも蘇らせるのではないかとも。
そんなヒーラーのお陰でオレは死なずに済んだのだろう。

 だが、失われた血液だけは魔術ではどうにもならないところに、自然の摂理ってうやつがあるのかもしれない。
オレは、貧血からくるダルさを我慢しながらも銃の整備を続けるフレデリックに問いかけた。

「さっきの武器は、その銃ですか?」
「これがよく銃だと分ったな」
「まあ、ショットガンに似ていたものですから」
「これは、開発中の物で、試作品の一つだ。 まだまだ実戦では使い物にならんがね」
「さっきの弾丸は、これで撃ったものなんですか?」
「ああ。 HEAT弾と呼ばれる弾の一種だ。 これでも極限まで小型化しているんだがね」

 そういうと、フレデリックはオレにその銃の弾丸を手渡した。
それは、一見したところ小型の迫撃砲の弾のようだった。 直径は2センチを超え、長さに至っては15センチ以上ある。
これが携帯用の武器の弾だと言っても誰も信じてはくれないだろう。

「えらくデカイですね」
「元々は対戦車用の弾丸だからな。 大きくて当たり前なんだよ」
「装弾数は?」
「一発きりだ。 しかも有効射程距離は20メートルプラマイ50センチ。
それより近ければ貫通してしまうし、それより遠ければ標的を外してしまう。
しかも、一発撃つごとに銃身が歪んでしまうから、整備しなおさないといけない。 厄介極まりない銃さ」

 そういうと、フィレデリックは苦笑を浮かべた。

「・・・確かに実戦ではつかえそうもないですね」
「だから試作品なんだがね。 だが、威力はキミも見た通りだ。 この弾は相手の体内でナパーム効果を発揮する。
この武器ならば、大抵の魔物はハンターでなくとも滅ぼせるだろう・・・そう、ジャッカルの戦士でもね」

 そういうと、フレデリックは薄く笑った。

 元々、HEAT弾というのは対戦車用の兵器だ。
その弾は、戦車の装甲を貫通し、その中にいる砲手と操縦士にナパームの数千度の炎を浴びせかける。
航空兵器にとってのスティンガーミサイル同様に、戦車にとっては天敵とも言える兵器なのだ。
だが、それは生物相手に使う事は想定されていない。 対戦車用の兵器だけに貫通力がありすぎるのだ。
それを生物(魔物)相手に使えるように改良したのが、この銃らしかった。
しかも、この弾丸には呪術的処置まで施してあるらしい。 だからこそハンターでもあるJBに通用したのだろう。
そして、JBに通用にするという事は、大抵の魔物にも効果が期待出来るという事だ。
いつの日か、オレ達ハンターはお役御免となる日がくるのかもしれないな。

「これで、オレ達ハンターの仕事は減りますかね?」
「キミ達の需要は常にある。 いつもこんな武器を使えるミッションとは限らないからな。
むしろ、ナイフ一本でも魔物と対等に渡り合えるキミ達の仕事は今後も増える一方だろう」
「魔物が存在する限り・・・オレ達は必要だという訳ですね」
「そんなキミ達の苦労を減らすためにも、ジャッカルがある程度の魔物相手に戦えるようにならないといけないのさ。
これもそんな研究の成果の一つという訳だ。 後はいかに相手の体にめり込ませるか・・・まあ、そこが問題なんだがね。
もっとも、この銃の試し撃ちはもう終わりだ」

 そう言うと、フレデリックは手にしていた銃を床に投げ捨てた。

「いいんですか?」
「構わない。 どうせ、もう修正不可能なほど銃身が歪んでしまって、まともに弾は飛ばないんだからな。
そんな事よりも、今はJBをどうやって捕獲するかが問題だ。 もうさっきみたいな不意打ちは効かないだろうしな」
「ヤツはリジェネレーター・・・不死身の化け物です。 生半可な攻撃では足止めにすらなりません」
「そうだな・・・キミならどうやる?」
「捕獲など諦めて、殲滅します。 なんとか肉弾戦に持ち込んで首を落せれば、流石に殺し切れるでしょう」
「フッフッフッ」
「何がおかしいんですか?」
「いや、すまない。 キミ達の悪い癖だと思ってな」
「なにがです?」
「正攻法にこだわる事さ。 キミ達はある意味卑怯とも言われかねない程の力がある。 だから無意識の内に正攻法をとろうとするのだろう。
だが、私にはキミ達のような力はないし、簡単に致命傷を受けてしまう」
「ハンターだって、致命傷を受ければ死にますが?」
「だが、キミ達には私達にはない力がある。 白魔術の守りの力がね。 だが、私達にはそんな力はない。 だから色々と企むんだ」
「・・・なるほど。 罠ですか?」
「そうだとも。 非力な者には、非力な者なりの戦い方という物があるんだからな。
ハンター来須、覚えておくといい。 戦いというのは勝たなければ意味が無いんだよ。 勝利こそがその戦いを正義たらしめるんだからな。
そして、勝利を収めるためには、手間をおしんではいけないんだ」

 そういうと、フレデリックは来須に作戦プランを説明した。

「問題は、どうにかしてそこまでJBを誘い込まなくてはならないという事だ。
キミは、先ほどの戦いで銃を失った。 そして、ここにはまともに使い物になる銃はない。 さっきみたいな試作品ばかりだ。
普通の銃もあるにはあるが、それではハンターでもあるJBには通用しないからな」
「いざとなれば、これだけでも戦えます」

 そういうとオレはベッドの脇に吊るされたコートから銀の短剣を取り出した。
呪術的処置を受けていない銃では、ハンターは殺せない。 そんな銃よりは、まだこの短剣の方が役に立つ。
呪術的処置を受けている武器にハンターの守りの力は無効化されるのだ。 これなら、JBの守りを貫通するのは簡単だ。

「だが、キミの今所持している武器はそれ一本だけだ。 しかもその短剣は銀製だからな。 JBに撃たれればひとたまりもなく砕けるだろう。
彼は腐っても一流の戦闘能力を持つ腕利きのハンターだ。 短剣を狙い撃ちにする事くらいは造作もなくやってのけるだろう。
そこで、私に一案がある。 キミにはこの作戦の前に、ある場所から武器を調達してもらう」

 そう言うとフレデリックはこの階から少し下のフロアにある研究施設の場所を見取り図で示した。

「そこに呪術的処置を受けている武器があると?」
「まあ、その代用品のようなものだ」
「それは?」
「魔物の爪だ。 怨念の篭った魔物の爪は、死後もその力を残すことがある。 それなら守りの力も無効化できるだろう」
「・・・」
「正直、私もこんな方法は使いたくない。 だが、今は非常時で、JBに対抗できるのはキミくらいのものだ。 キミに死なれては困るんだよ」
「・・・分りました」
「せめてHEAT弾用の銃身の試作品がもう一つあれば良かったんだが・・・済まないな。 こんな方法しかなくて」
「いえ・・・銃を失ったのは私のミスですから」
「では、早速だが爪を入手してきたまえ。 JBにその短剣の事を気取られないようにな?」
「分っています。 使う瞬間まで隠し持っておきます」
「では、また後で会おう」
「はい。 そちらも十分に気をつけて下さい」
「分っている。 私はいくら戦闘の天才などと言われてもハンター相手では赤子同然だ。 せいぜい見つからないように気をつけるさ」

 そう言うと、フレデリックは足音も立てずに部屋を後にした。 その姿は組織幹部などではなくジャッカルの隊長そのものだった。
彼のような天才と呼ばれる人物にとって数年のブランクなど無いに等しいものなのかも知れない。

 だが、その時オレは奇妙な事に気がついた。
その時まで気付かなかったのだが、オレをここまで運んできたはずの彼の服は血に染まってなどいなかった。
まあ、おそらく部下に運ばせたのだろうが・・・。 だが、その部下達は何処にいったのだろう?
あるいは、既に罠を張る準備をしているのだろうか?
オレはそんな疑問を脳裏から追い払うと、穴だらけのコートをまとってその部屋を出て新たな武器の調達に向かった。







 フレデリックは来須と別れると、奇妙に静まりかえった廊下をあるフロアに向かって歩いていた。
だが、その歩行は一切の音を立てない。 しかも、気配も自然に消していた。
ここが街中であれば、彼は周囲の人間に気付かれる事すらなく、その中を横断する事すら可能とするだろう。

 だが、そんな彼に気付いた者がいた。

「これはこれはフレデリック師ではありませんか。 そんな格好をしていると組織の大幹部とは思えませんな」

 JBであった。 JBはそう告げると、通気口から飛び出すようにしてフレデリックの前に下り立った。

「JBか。 大人しく引退するかと思っていたが・・・なぜ戻ってきた?」
「戻ってきた? オレは一度も引退したなんて言ってねーぜ? 仕事で少し組織から離れていただけだ」
「行き先はヴァチカンだったそうだな? 来須から聞いたぞ。 なんでも再生能力者となって舞い戻ってきたとか・・・」
「あのおしゃべりな若造め」
「今ではキミの方が余程若いがね」
「違いない。 これからは来須さんとでも呼ぼうかな」
「キミの戯言に付き合っていられるほど私は暇ではないんだ。 何か聞きたい事でもあるのかね?」
「・・・冷静ですな。 自分が無敵の存在だとでも思ってらっしゃるので?」
「とんでもない。 私はただの人間だ。 ハンターやお前のような化け物とは違う」
「ならば、なぜ、恐怖しない? オレがこれからお前を殺すと言っても、その余裕が保てるか?」

 そう言うと、JBは銃を構える。 その距離は1メートル足らず。 かわしきれる筈の無い距離であった。

「これは困ったな。 さて、どうするか・・・」
「・・・お前、何者だ?」
「どういう意味だね?」
「オレは魔物相手に30年以上戦ってきた」
「らしいね」
「・・・オレにはお前が人間だとはどうしても信じられない」
「私が魔物だとでも?」
「いや・・・お前は人間だ。 それは間違い無い」
「おかしな事をいう人だね。 さっきキミは何と言った?」
「オレの目には・・・経験から言ってお前は人間にしか見えない」
「当然だよ。 私は人間なんだからな」
「だが、オレの勘がお前が人間だと言うのを拒否しているのは何故だろうな?」
「知らなかったよ。 キミは哲学者だったんだな」
「・・・オレにはもう分らない。 だから、これで確かめる」

 そう言うと、JBは両手の銃を連射する。
次々に銃弾を撃ち込まれるフレデリックはまるでダンスを踊るかのように体を仰け反らせ続け、その周囲には彼の流した血が撒き散らかされた。
そして、JBの銃身がスライドしたまま戻らなくなる。 どうやら弾切れを起したらしい。
その銃弾による死のダンスから、ようやく開放されたフレデリックはもんどりうって床に這う。 その体から溢れ出した鮮血は床に血溜りを作りだしていた。

 それを見たJBは素早くマガジンを交換すると、その床に這う死体に向かってさらに銃弾を撃ち込んでいく。
1発、2発、4発、7発、13発・・・それでもJBは撃つのをやめない。 最後の4発は頭部に向けて撃ち込まれた。
そして、JBの銃身が再度スライドしたまま戻らなくなった時。 ようやくJBはため息混じりに呟いた。

「・・・人間だったか。 オレの勘も鈍ったものだ」

 ここまで徹底して殺されれば、リジェネレータであるJBですらも死んでしまうかも知れない。
だが、弾切れを起すまで弾を使い切ってしまうなど、JBのようなベテラン戦闘者にとっては、あってはならないことだった。
それはJBの混乱した精神状況を表していたのだった。

 そして、その死体を蹴ってひっくり返りた時。 JBは恐怖と共に戦慄を覚えた。
その顔は、別人のものだった。 その死体は、フレデリックの物などではなかったのだ。

「・・・奇術師も真っ青だぜ、フレデリックさんよ・・・」

 その声には、間違いなく恐怖が溢れていた。



<続く>