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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ16 作;雪乃丞

千の顔を持つ男 《1》


 妖怪ハンター16です。 今度は来須さんメインです。 視点も彼の一人称+αです。
しかも銃撃戦メイン。 例によって血まみれです(笑)
あと、今回は今まで脇役だった人が思い切り出張ってます。 それは・・・。






 オレは数年振りにとある大学の地下施設を訪れていた。

「ハンター来須狩夜様ですね」

 その研究員らしい白衣を着た30代の女性は、喫煙室(ここは基本的に禁煙だ)で煙草を吸っていたオレの前に現われるなりそう告げた。
時計を見ると、時刻は約束の時間の5分前。 ここの研究員は時間にルーズな者が多いが、彼女はそうではないらしいな。

「様はよしてくれ。 ハンタ−来須か、来須と呼んでくれ」
「分りました。 ハンター来須。 私の事はジャネットと呼んでくださって結構です」
「分った」
「それで? 今年は少しは生きの良いのが入ったのか?」
「はい。 今年はあなたのような有名人が講師だと聞いて、みな緊張しています」
「有名人・・・ね」

 その有名なハンターが些細なミスの代償に、こんな仕事を受ける事になった事を、ジャネットはどう思っているんだろうな?
オレのそんな思いが顔にでたのか、ジャネットは苦笑を浮かべながらオレに告げた。

「まあ、色々と思うところもあるでしょうが、これも仕事だと割り切って下さい」

 どうやら、そういうことらしい。 まあ、ミスの代償とは言っても仕事は仕事だ。 オレは気分を切りかえるとジャネットに尋ねた。

「それで? オレが担当するのはどんな連中なんだ?」
「一応、訓練過程で上位の成績を残した人達だそうです。 もっとも・・・」
「まだ、こっちの世界の住人じゃないって事だな?」
「はい。 今日はアナタの時と同じように、それを教えてあげて欲しいのです」
「訓練生なんだから、手加減しろってことか?」
「いいえ。 身をもって現実を知らせるのが目的ですから。 まあ、殺さない程度にお願いします」
「良いのか? そんな事言って?」
「ここは研究施設ですから。 いつでも数人のヒーラーが常駐しているんですよ」
「そういえば、そうだったな」

 オレは苦笑混じりにそう答えると、吸いかけの煙草を灰皿に放り込み、その部屋を後にした。
今回の仕事はじつに簡単で単純で・・・厄介な代物だ。 その仕事とは、組織の訓練生相手の講師だ。
 今までそんな事をやったことの無いオレだが、過去の講師と同じ事をすればいいのは分っていた。
今年の訓練生がここで何人脱落するか・・・ちなみに、オレの時は、オレ以外の全員がハンターとなるのを諦めた。
それほどの恐怖心を植え付けられる『講義』なのだ。







 オレが訓練生達の待つ部屋へ向かっている時、ジャネットは思い出したかのようにオレにたずねた。

「そう言えば、今日はフレデリック様も視察にこられているそうですが・・・御存知でしたか?」

 知っているも何も、数時間前まで一緒だったんだ。 知っているに決まっている。
今は、地下の兵器の開発・研究を行っている施設の視察を行っているはずだ。

「彼の護衛も今回の仕事には含まれているからな。 彼は今は兵器関連の施設の視察を行っているはずだ」
「しかし、フレデリック様のような若い方が大幹部だなんて正直、驚きます。
でも、護衛の仕事があるのに講義を受け持ったりなどして・・・よろしいのですか?」

 オレの今の上司、フィレデリック師は組織でもトップクラスの大幹部だ。
そして、その個人の戦闘力においても大幹部中トップクラスなのは間違い無いだろう。

「彼は昔、あのジャカルの隊長を勤めていたほどの人だ。 滅多な事では殺せないさ」

 オレの言葉を聞いて、ジャネットは納得したようだ。

 オレの所属している組織は、規模から考えると意外なほど役職の数が少ない。
基本的には【首領】【大幹部】【幹部】【戦闘員】【非戦闘員】の5つに便宜上分類されているに過ぎないのだ。
戦闘員には、オレ達のようなハンターや魔道師に、傭兵部隊ジャカルや一部のエージェント達などがいるが、オレ達の立場に上下はない。
しいていえば、ハンターが若干重要視されるだけが、それは人数が少ないためだからに過ぎないのだ。
組織に所属する戦闘員は、それぞれのグループで独立していると考えていいだろう。
そして、そのグループ同士を繋ぐのがエージェント達の存在なのだ。
そういう意味では、複合企業などが一番モデルとして想像しやすいだろうな。

「そういえば、あなたも昔この施設で講義を受けたんですか?」
「まあな。 その時にはここのヒーラーに世話になった」
「講師は誰だったんですか?」
「マッドJB」

 その名を聞いたジャネットは、顔色を変えた。

「!? ・・・よく生きていましたね」

 無理も無い。 今はもう引退したとは言え、マッドJBの悪名はいまだ組織の中でも伝説のように語られている。
ヤツは、それほど恐れられ、忌避されていた。

「当時オレはまだ一般人だったからな。 生きていられたのは幸運だった。
・・・ここにはもう二度と来ることはないと思っていたんだがな・・・」

 実際、オレ達ハンターは慣れない内は組織の支部などに常駐していたりするが、十分な経験を積めば組織の施設にいることは無くなる。
必要に応じて、支部に顔を出したリ、エージェントから指令書を受け取るだけになるのだ。
オレは、自分の他にどんなハンターが組織に所属しているのかすら良く知らない。 そして、それは他のハンター達も同じだろう。
もっとも、有名なハンターの名は嫌でも耳に入ってくる。 JBもその一人だった。

「毎年、多くの人達が来ますが、そう何度もくるような場所ではないですからね」
「特に、講義を受けた後なら二度と来ようとは思わないだろうしな」

 オレの言葉に、ジャネットは苦笑混じりに答えた。

「そんな場所でも私達にとっては職場ですから」

 組織に所属する人数の比率からいけば、圧倒的に多いのがジャネットのような研究員や一般のエージェントのような非戦闘員だ。
そして、それを上回るのが、非戦闘員補佐とも言うべき、一般職員達。
秘密結社で職員などと言うのも変かもしれんが、彼らがいなければ組織は運営出来ないのも、また事実なのだ。
オレ達が無類の戦闘力を発揮できるのも、すべては彼らの研究成果と資金援助があるお陰なのだ。

 だが、一般の職員達は自分が秘密結社で働いているとは想像だにしていないだろう。
その一般職員達が働いている会社は、表向きには普通の会社や企業でしかないのだからな。
オレ達のような影の仕事に従事する人間の数は、組織の全体で見ればわずか5%足らずでしかいないのだ。
しかし、その5%の人間達が大国の軍隊に匹敵する戦闘力を秘めているのだからな・・・。

「そういえば、あなたほどのハンターとなれば、一度くらいは首領に会った事があるのではないですか?」
「いいや。 残念ながら一度も会った事はない。 大幹部ですら会った事のない者が多いと聞いている。
もっとも、オレの上司は会った事があるそうだがな」

 オレ達を指揮するのが、幹部や大幹部といった管理職の人間だ。 そして、その幹部達の頂点に、組織の首領がいる。
もっとも、オレも姿を見たことはおろか、声すらも聞いた事がない。
本当にいるのかどうかすら分らない存在。 それがオレの所属する組織の支配者なんだからな。
あまりにも似合い過ぎて、かえって納得出来てしまう。

「流石は時期首領候補筆頭の方は違いますね」
「本人は、そんな大役は御免こうむりたいなどと言っているがな」
「へぇ・・・意外ですね。 なぜなんですか?」
「これ以上、上のポストは欲しくないんだそうだ。 他の幹部と違って現場からの叩き上げに近い人だからな。
現場から遠のくのが単に嫌なだけなのかも知れんな」

 オレのはそんな話しをしているうちに、その部屋の前にまで辿りついていた。

「それでは、後ほど清掃員と救護係りの者をよこしますので」

 オレを案内したジャネットはそう言い残してその場を後にした。







 部屋に入るなり、オレの耳には怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやら、待ち時間の間に訓練生同士の喧嘩が始まったらしいな。
まあ、これもいつもの事だ。 そう珍しい事じゃない。 これも・・・予定の内だ。

「元気が良いのは結構だが、そろそろ講義をはじめる。 聞きたくない者は今すぐここから出て行け」

 オレの静かな呼びかけの結果、その喧嘩はほどなくして一時中断となった。

「オレはハンター来須狩夜。 今年の講義をうけもつことになった。 何か質問はあるか?」

 オレの声に、数名が手を上げる。
オレは、その中でも一際体格の良い(おまけに気が荒そうな)ヤツを選んだ。
そいつはさっきまで喧嘩をしていたヤツだ。 ちなみに相手は部屋の隅の方で倒れている。
それを誰も気にしてないあたり、こいつらの前途は有望と言えるかもしれないな。

「名は?」
「マックスだ」

 マックスはそう短く名乗り、質問してきた。

「アンタは有名なハンターだと聞いた。 それは本当の事なのか?」
「オレは自分の事を有能だとか有名だとか思った事はないが、周囲はそう思っているらしいな」
「オレにはアンタが強そうには見えない」
「強さというのは、見た目では分らない。 それを教えるのもオレの仕事の内だ」
「なら、それを教えてくれよ」

 そういうなり、マックスは座っていた椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
身長は2メートルを超えてる。 確かに体格からいえば、オレはマックスの3分の2くらいだろう。
マックスは、舌なめずりしながら歩み寄ってきた。 その身のこなしは何か格闘技をやっている者特有のものだった。

「良いだろう。 ・・・マーシャルアーツか?」
「ああ。 海兵隊では敵無しだった」
「ならば、やりあう前に聞いておく。 マックス・・・お前はなんのためにハンターになりたいんだ?」
「決まってるだろ? 殺しのライセンスが欲しいからさ」

 マックスはオレの質問に、そう冗談を言うようにして答えた。
だが、その目を見たオレはマックスが冗談などではなく本気で言っているのだと感じた。
戦う事が・・・そして、なによりも殺し自体が楽しくてしょうがないのだろう。
戦闘中毒者、いや殺人中毒者じみた雰囲気がマックスにはあったのだ。
たまにこんな勘違い野郎が入ってくる。
ここは人類を守る為に、魔物と戦うための人材を育てる場所だ。 決して殺人者を育てるための場所などではない。

「お前はハンターの仕事を誤解しているようだな」
「何が誤解だ? 人や人もどきを殺して報酬が貰えるんだろ? 結構な仕事じゃないか?」
「フッ・・・お前には、ハンターどころかジャッカルやエージェントすら勤まらんさ」

 オレが苦笑混じりにそう言うのと、マックスがパンチを撃ち込んでくるのは同時だった。
オレはそれを避けもしない。 しかし、その拳はオレの顔に届く前にそれていた。

「どうした? お前は突っ立てるだけの人間にパンチも当てられんのか?」

 マックスは、自分の拳を不思議そうに身やリながらも、再度殴りかかってくる。
しかし、その拳はオレには届かない。 いや、届くはずがないのだ。 オレの守りの力は弾丸ですら弾くのだから。
マックスはそれから数度、突きや蹴りを打ちこんでくるが、それはことごとくオレの体に届かない。
そんな醜態の結果、部屋の中からは失笑が聞こえた。 それが益々マックスから冷静さを失わせた。

「クソがぁ!!」

 マックスはその巨躯を生かしてタックルを仕掛けてきたが、それすらもオレは一歩も動かずに避ける。
目標を見失ったマックスはそのまま無様に部屋の壁に激突した。
このマックスという男。 確かに軍隊上がりだけあって根性はあるが、こういった場合にはもっと冷静にならなければならない。
だが、訓練生にそこまで望むのは酷という物だろう。

「くそ! どうなってやがる! テメー、なにかおかしな技をつかってやがるな!」
「そうだ。 これがハンターの力ってやつだ。 納得したか?」

 無論、理由も無くこんな無駄な事はしない。 これは、ハンターの戦闘力を身を持って実感させるための講義なのだ。
オレも過去に、同じような講義を受けた。 その時は両腕とアバラをヘシ折られた。
オレはそこまで無慈悲にはなれないから、こうやってその力の一端を見せるに留めようかと思っていたのだが・・・。

「自分の無力さ加減が分ったなら席に・・・」

 そんなオレの慈悲に、マックスは気付かなかったようだ。
その言葉の途中、マックスは隠し持っていたらしい銃をオレの額に向けた。 その距離わずか数センチ。 子供でも外さない距離だ。

「へ、ヘヘッ・・・こ、これなら・・・おかしな真似はできねーだろう」

 その声は興奮のあまり上ずっており、その目は歓喜の感情を伴ってた。
そんな殺人中毒者特有の熱に浮かされたような視線が、オレの推測を肯定していた。
こいつはやはり心を病んでいる。 はやり、今のままではハンターどころか組織の戦闘員の一員にすらなってはならない。

「まあ、持ち物検査なんぞないところだから、何を持ち出そうと驚かんが・・・」
「どうだ!? いくらテメエがおかしい技を使っても、これはかわせねーぞ!」

 その時、オレは慈悲の心を捨てる事にした。
こういった連中には、早めに教訓というものを与えておいたほうが本人のためでもあるのだ。
どうせ、いつかは通らねばならない道なら、オレが引導を渡してやるのも良いだろう。

「お前は分っているのか?」
「な、なにをだ?」
「お前は、オレに向かって銃を向けた。 これは殺意があるという事だ」
「ああん? 今更、命御いか?」
「まったく・・・」

 オレはため息混じりにマックスの腕を無造作に掴む。 ちなみに銃はまだオレの頭を狙っていた。

「テ、テメー! 死にてーのか!!」

 マックスは想像だにしなかった事態に慌てふためいている。 どうやら、ここまでが一般人の限界らしいな。

「こんな玩具でハンターは殺せない。 それに・・・」

 オレは僅かに《力》をこめて、マックスの腕を締めつけた。

「ク、クソ! 離しやがれ!」
「銃を向けたら躊躇わず撃て。 そうしないと・・・」

 グジョ。 オレの腕はそんなおかしな音とともにマックスの腕を握り潰していた。

「こうなる」

 マックスはすでに、白目を剥いて失神していた。
失神したマックスを床に放り出すと、オレはその部屋にいる者達に向かって告げた。

「お前達も覚えておけ。 躊躇は死を呼ぶ。 それはここでなくても戦場ならどこでも言えることだ。
今のように撃たなければならない時に撃てないのは戦闘者としては失格と言わざるえない。
だが、撃ってはいけない時を見極められない者に居られては周囲の仲間が迷惑をこうむるだけだ。
撃たなければならない時、撃ってはならない時。 それを冷静に見極められる目を持つことが重要なんだ。
そして、相手が赤子だろうが、老人だろうが、女子供だろうが、相手を撃つ時には躊躇するな。
お前達が相手をする事になる魔物とは・・・そういった擬態が得意な連中なんだからな。
他に、質問のある者は?」

 その声に答える者はいなかった。

「では、これより講義をはじめる。
お前達に自分達が目指している領域を身をもって知ってもらうのがこの講義の趣旨だ。
どんな方法でも良いからオレの攻撃をかわしてみせろ。 それが出来れば今すぐにでも訓練生を卒業できるだろう。
だが、攻撃を避けられなければ・・・マックスのニの舞だ」

 そして、その部屋は阿鼻叫喚の地獄へと変わったのだった。







 その騒ぎは、オレが動く者のいなくなった部屋を後にしようとしていた時に聞こえた。
どうやら研究施設で何かがおきたらしい。
オレがその騒ぎの原因となっている場所に向かっていると、反対から研究員らしい人物が走ってきた。

「何があった?」

 オレがそう聞くと、その研究員は手短に状況を説明した。
ここよりさらに地下にあった幹部クラスの個人が所有する研究施設から実験中の披験体が逃走したらしいのだ。
ここのような設備の整った研究所には、大抵幹部クラスの人間専用の研究施設が作られる。
フレデリック師の視察している兵器開発の研究施設も、彼個人が所有・出資している施設なのだ。

 そことは違う場所の施設から実験生物が逃げ出した。 それは、ここにいる研究員の生命の危機でもあった。
なんと言ってもここは組織の研究施設だ。 実験生物と言ってもそれは魔物の類である事も少なくない。
特に幹部クラスの人間が研究していた生物となると、どんな化け物が出てきてもおかしくないのだ。
だから、ここにはいつも数名のヒーラーが常駐しているんだからな。

「どんな実験生物が逃げ出したんだ?」
「に、人間らしいです」
「人間?」

 オレにはなぜかイヤな予感がしている。
それは勘に過ぎないが、こんな時の勘は自分でも嫌になるくらい良くあたるものなんだ。

「どうせ、ただの人間じゃないだろうがな。 名前は? 実験体が人間なら名前くらいあるだろう?」
「そいつの名前は・・・」

 その披験体の名は・・・オレの予感を見事に肯定していた。

「JB!? マッドJBか!?」

 マッドJB。 その悪名は組織の中でもよく聞いたし、オレにとっては因縁浅からぬ名だ。
本名はオレも知らないが、その味方をも平然と巻き添えにする戦い方は悪評となってオレも聞いていた。
もっとも、数年前に再起不能なほどの大怪我をおって引退したと聞いていたのだが・・・。
そうやら、この研究施設で何かの治療でも受けていたらしいな。

「あいつはここでどんな治療を受けていたんだ?」
「それは・・・」

 その答えは本人から聞かされた。

「治療などではない。 人間を超えた存在の研究に協力していたんだ。 もっとも・・・それも今日までだがな」

 オレの向けた視線の先。 どこかの配管が壊れたのか、廊下を満たす水蒸気の幕の向こうからヤツは現われた。
全身を返り血で染め、その両手に握られるのは二丁の銃。 一体、ここまで来るのにどれほどの犠牲者をだしたのか・・・。
二丁拳銃というのは、相手にすると厄介極まりない。 熟練者ともなると、左右の銃のマガジン交換に1秒とかからない。
オレのようなリボルバー一丁だと、威力の面ではオレの方が勝っているが、手数の面では絶望的な開きがある。
特に、オレ達のようなハンター同士の戦いともなると、その手数の差が致命的なハンデになりかねないのだ。

「マッドJB。 久しぶりだな。 まだ生きていたとは知らなかったぜ」
「クックックック・・・そう簡単にくたばってたまるものかよ」
「確か、今年で50だと聞いていたが・・・随分と若返ったな?」

 JBは見た目オレより若い。 20代くらいだろうか?

「フッフッフ・・・もうオレには老いもない。 永久に戦い、殺し続ける人を遥に超えた存在。 それが今のオレだ」
「30年以上も殺し続けてまだ血が足りないか?」
「当然だ。 死ぬまでオレは殺し続ける。 それがオレの生きる糧にもなるんだからなぁ」

 そういうと、JBは唇を歪めて笑う。 今まで色んなヤツを見てきたが、これほど邪悪な笑みを浮かべるヤツは初めてだ。
・・・いや、あの時にもコイツはこんな笑みを浮かべていたな。

「・・・変わらんな。 お前がオレと初めて会った時の事を覚えているか?」
「覚えているとも。 両腕を砕かれながらも向かってきた訓練生はお前がはじめてだった」
「そんなオレに止めをさそうとして、他のハンターに取り押さえられたのも覚えているな?」
「さてな、そんな昔の話しなんざ、忘れちまったぜ」
「では、その時にオレが言った言葉も忘れたか?」
「いや、それだけは忘れてない。 確か・・・ゴメンナサイだったか?」
「この借りはいつかノシをつけて返してやる、だ。 見た目は若くなっても脳はボケたままらしいな」
「ああ、ああ、そうだったな。 ようやく思い出したぜ。 たしか、どっかの惨めな負け犬がそんな事を言っていたなぁ」
「どの道、正規の手続きなしにここから出すわけにはいかないんだ。 良い機会だ。 ここであの時の決着をつけようじゃないか」

 オレはそう言うと、懐から銃を抜きだした。

「お前は身の程というものがまだ分らんらしいな。 経験の差は永遠に埋まらんのだぞ?」
「お前は何年もここにいた。 その間、オレは外で血反吐を吐きながら戦っていたんだ。
ブランクのあるクソジジイ相手に送れなんぞとらんさ」
「若造のくせに威勢だけは一人前とみえる」
「もう、あの時のオレじゃねーぜ? ジジイ?」
「どうしても、死にたいらしいな。 若造」

 それが戦闘開始の合図となった。 オレ達は違いに銃を突きつけ合う。

「殺してやるぜ! JB!」
「ハッハァッ!」

 オレは自分と同じハンターを相手にして、はなから無傷で勝てるなどとは思っていない。
銃を持たない腕で頭部をガードすると、反対の腕に構えた銃をロクに狙いもつけずに連射した。
どうせ、この狭い通路では遮蔽物など存在しないのだ。 相手を先に殺した方だけが生き残る。
これはそういった戦いだ。

 JBの弾丸は、オレの体の各所を貫通していくが、咄嗟に使った痛み止めの呪が、その苦痛を無視させた。
オレ達はお互いに呪術的処置された銃と弾丸を使っているせいで、互いに守りの力が役に立たない。
せいぜい、痛みを抑えて、相手より先に致命傷を与える事くらいしか勝つ手段はないのだ。
まあ、その力のお陰で弾丸が体内に残らない事だけは幸いといえるだろう。

 そして数瞬後。 オレの弾丸はJBの胸板を抉ると共に、ヤツの額を撃ち抜いていた。
JBはそれでもオレの体に数発の弾丸を撃ち込んでくる。 そして、それから思い出したかのように倒れ込んだ。

「ようやく、死んだか・・・」

 それを見たオレは、さすがに立っていられなかった。 膝をついて、全身を襲う激痛に耐えながらも血止めの呪を施す。
痛み止めの呪が効いているとはいえ、全身に銃弾を受けたのだ。 その数は優に10を超えている。
痛み止めの呪を施していななれば、ショック死してもおかしくない程の重傷だった。

「生き残ったのはオレだ。 オレの勝ちだな」

 そう口から溢れ出す鮮血と共に呟いたオレに、鮮血に染まった腹部を抑えた研究員が答えた。
不幸にも巻き添えを食ったらしい。

「ハ、ハンター来須。 ま、まだ、です。 ヤツは・・・再生、能力者、です」
「なんだと!?」

 オレはその声に痛みも忘れて振り返った。

 再生能力者。 それはリジェネレーターとも呼ばれる存在。
全身の細胞の再生力を限界以上に発揮できる人間で、その再生力はヴァンパイアにも匹敵すると言われる。
人類の化学力が闇の眷属相手の最終兵器として産み出した生物兵器だ。
だが、その技術はヴァチカンのエクソシストどもが独占していたはずだ。 こんな場所にいるはずがない。

 そんなオレの疑問に答えるかのように、その研究員はオレの目の前で額を撃ちぬかれた、
そして、間を置かずに、オレの銃を握っていた右手の甲も撃ちぬかれて、銃が床を転がっていく。

「グッ!」

 撃ちぬかれた右手を抑えながら振り向いたオレの視線の先には・・・ヤツが平然と立っていた。

「そうだとも。 オレを殺したければ、首でも切り落とすんだな」

 そう言うと、JBは平然と立ちあがる。 すると、その額から、オレが撃ち込んだ弾丸がこぼれ落ちた。
その傷は早くも再生をはじめているようだった。
頭を撃ち抜かれて平然としている生物など人間といえるのだろうか?

「化け物め」
「化け物か・・・そうかもしれんな。 だが、ハンターの力と闇の眷属をも超える再生力を持った存在を人とはいえまい?
だからそこ、オレは人を超えた存在だと名乗ったんだからな」
「ハンターを廃業した後、ヴァチカンにでも転がり込んだか?」
「さあな。 冥土の土産なんぞ甘いことを考えているなら無駄だぜ? お前はオレになぶり殺しにされるんだからなぁ」

 そう邪悪な笑みともに言うと、JBは両手の銃でオレの両足の甲を撃ちぬいた。
流石に、足の甲を砕かれては立ってなどいられない。 オレは無様に床に転がった。

「クックック・・・うめき声すらあげんとは見上げたものだ。 だが、楽しみはこれからだぞ? 若造?」

 そう言うと、ヤツはオレに銃を向けたまま歩み寄ってくる。 流石に、弾切れをおこした銃を拾って反撃するような気力は残っていなかった。
だが、どうにかしてここから逃げないと、オレは間違い無く嬲り殺しにされるだろう。
そう考えたオレは最後の気力を振り絞ると、銃を掴もうと左手を伸ばした。 だが、その手が届く前に、その銃はJBによって撃ち砕かれた。

「悪あがきはよすんだな。 お前はもう終りだ」

 万事休す。 そんな言葉がオレの脳裏を駆け巡った。 そんな時。
『ボジュン!』といった鈍い音と共に、ヤツの再生途中の胸板に何かが突き刺さった。
そして、その直後。 その傷と顔から青白い炎が吹き出した。 その炎は内蔵を焼き、口と鼻から噴き出したのだ。

「ギイイイヤアアアァァァァァッ!!」

 いくら無限に近い再生能力があっても、痛みを感じる生身の生物には違いないのだろう。
その体を焼かれる苦痛から逃げるようにして、JBはその場から逃げ出していた。
そして、それを見たオレの意識も闇に閉ざされたのだった。



<続く>