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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ14 作;雪乃丞

月下の剣士 《2》






 その日は月が綺麗だった。
世界は優しい銀色の明かりに照れされ、ここ柳生谷も静寂と共にその全貌が見て取れる。
友矩(とものり)はそんな夜を、死に装束である白の胴着を着て、縁側で過ごしていた。
その姿には一分の隙もなく、どこまでも美しい青年であった。

 友矩は母親に似ていたといわれる。
その端正な顔と、生まれもった血のように赤い唇。 抜けるような白い肌と、ほっそりとした体。
誰が、この人物を兄十兵衛をも超える剣の天才だと信じられるだろうか?
小袖でも着せれば、そのまま女性として扱えそうな・・・そんな危うさをも秘めた中性的な美貌を持つ青年だった。
 彼が三代将軍家光の指南役(剣の先生)となったのは、運命であったのかも知れない。
そして二人は恋に落ちた。
しかし、その恋の成就には大御所・二代将軍秀忠の死によって、監視の目がなくなるまでの数年を必要とした。
あるいは、秀忠は家光と友矩の恋の結末を予感していたのかも知れないが・・・それが裏目に出た。
障害があればあるほど愛が深くなるのは男女とも同じである。 まさに大恋愛といって良いだろう。

 衆道。 それは今の時代の言葉で言うと同姓愛。 当時は、今のように道ならぬ道などではなかった。
かの織田信長公ですら森 蘭丸という小姓を側においていたくらいなのだ。
しかし、友矩は家光の寵愛を一人占めにしてしまった。 当然、周囲の寵を受けていた男女が面白い筈も無い。
それが、友矩とその一族の不幸であったのだ。 むろん、それは望んでの事ではない。
 友矩は性に対して恐ろしく淡白だった。 望めば抱かれる。 そういった関係だったらしい。
あるいは、それすらも家光を狂わせた要因だったのかも知れないが・・・。
しかし、そんな関係ではあったが、友矩は確かな幸せを感じていたのだ。
女性をどうにも好きになれない自分と、自分を心底から愛し、求めてくれる相手。
最愛とも言える伴侶を得た彼は、この関係が永遠に続くと信じた。

 しかし、その関係を認める事の出来ない人物がいた。
友矩の父、柳生 宗矩(むねのり)である。 彼は幕府惣目付の役職についていた。 惣目付とは、大名全体の監視役である。
その内情、財政などを調べ、不備があれば注意を与え、時にはその家を取り潰したりもした。
そんな人物の息子が、仕える君主の愛人なのである。 しかも周囲に公然の仲だった。 それでは良い噂など立つはずもない。
 無論、彼がその役職についたのは、息子を家光に差し出したからなどではない。
二代将軍秀忠に仕えた陰働きが認められての事だった。 しかし、それは周囲に知られる訳にはいかない。 だから何かと噂をされた。

『宗矩殿は良い息子を得られましたな。 どんな方法でも出世する、その覚悟は見習わなければなりませんな』
『槍働きならぬ、尻働きですか? ・・・いや、色仕掛けで出生するなど、武士も落ちたものですな』

 二代将軍秀忠の世を影から支え続けた柳生一族の名誉と誇りは地に落ちた。
このような屈辱に耐えなければならない柳生一族は、ひたすら不幸であった。
武士にとって恥とは死と同類語である。
柳生一族が友矩をなんとかしようとしても、それは無理のない話しだったのだ。

 なぜ、こんな事になったのか?
全ては友矩が美しすぎ、強すぎたのが原因であった。
想像してみて欲しい。 女性より美しい男性が将軍に戦場までも共をし、その周囲を守る。
相手は剣の達人で、品性は良好。 難癖つける点はただ一点。 将軍家光の愛人である事だけ。
 そんな完全無欠のパートナーに狂った家光と、その家光を愛した友矩を誰が責められようか?
そして、その周囲の男女の嫉妬(寵を受けていた男は他にも数人いた)は、その一族に向いたのであった。
まさに、宗矩と柳生家は窮地に立たされていたのだ。

 まず、宗矩は友矩を家光から遠のけた。 尾張の柳生谷へ病気治療と称して帰らせたのだ。
そして、その日から三月が経過した。
友矩は無論悲しかったが、それでも耐えた。 彼は家光と同じくらい柳生一族を愛していたのである。
しかし、家光はその事に耐えられなかった。 そして、運命の日がやってきたのである。

「兄上、そこにおられるのでしょう?」

 その静かな問いかけに姿を表したのは、兄の十兵衛。 その手には既に剣が握られていた。

「やはり、そうなりましたか。 私が上様の元からここ柳生谷に帰るよう指示されてから三月。
上様が私を大名にして江戸に連れ戻そうとしているのは存じておりました」

 それが家光の探し出した友矩を江戸に戻らせる方法だった。
大名になれば参勤交替という法により、江戸に住まなくてはならなくなるのだ。
しかも、友矩は13万石(4万石という説もある)という破格の待遇となっていた。
宗矩は度重なる暗殺や謀略の代償として、ようやく1万石の大名となったのだ。
その事に烈火のごとく怒ったというのも無理はなかった。
しかも、それは徳川に仕える1万石以下の家も同様であろう。
このままでは、徳川の支配体制は崩壊し、世は再び戦乱に包まれる事になるだろう。
 たかが恋のために、家光はこの世を再び戦乱の世に戻そうとしていたのだ。
そんな事を許せるはずもない。 しかし家光を殺すわけにもいかない。
そうなると、どうしても友矩には死んでもらうしかないのだ。

「お主は我が一族の面汚しだ」
「承知しております。 ここでは家人に迷惑がかかります。 川原に参りましょう」

 そういうと、友矩は兄と共に、遠く離れた川原に向かった。
その日は月が綺麗だった。 川は月の明かりを反射して銀色の流れとなっていた。
そして、その銀に染まる川原に、剣を携えた兄弟が対峙した。

「友矩、我が一族の為に・・・いや、天下万民のために死んでくれ」
「分っております。 しかし、私も剣士の端くれ。 ただでは殺されませぬ」
「なんだと?」
「兄上、その右目、冥土の土産に頂いて参ります」
「いいだろう。 我が剣をこえられるか・・・試すがよい」
「兄上の剛剣、確かに生半可な剣では超えられませぬ」
「お主は超えるか?」
「否、力に力で向かうは愚かです。 我が『柳枝の剣』の妙、とくとご覧あれい」
「面白い、参るぞ!」

 そして、兄弟は剣を交えた。

 その日。 柳生谷に十兵衛が帰った記録は残っていない。
しかし、何者かに殺された友矩は病死として記録され、十兵衛は、その日右目を失った。

 それは恋に生き、一族の為に死んだ一人の男の悲恋の物語り。







 ジャニスの話しを聞き終えた来須は、タバコを灰皿に押しつけながら告げた。

「今も昔も、悲劇的な恋愛話はあった。 もっとも、男同士ってのはイマイチ理解出来ないがな。
しかし、この事件の裏にその男の亡霊がいたとして・・・なぜこんな事をする必要があるんだ?」
「それを聞いてみないとねぇ」

 ジャニスの再びサングラスに覆われた視線は、机に突っ伏したままの柳井に向けられていた。

「そこまでは詳しく分らなかったって事か?」
「日本の医者ってには、秘密主義のやつが多いのさ。
まあ、患者のプライバシー保護ってのもあるんだろうけどねぇ。
それに、急ぎの調査だったからねぇ。 ここまで調べるだけで精一杯だったんだろうさ」
「まあ、詳しい話しはコイツから聞けばいいだろう。 こいつがその夢を見ていた事は確かなんだからな」
「そうだね」
「どうする? 一緒に来るか?
こんな事をした後だ。 今回はお前も居心地が良くないだろうから、オレ一人でやってもいいんだがな」
「そうだねぇ・・・お言葉に甘えて待機しておくことにするよ。 手が足りなかったらいつで呼んでおくれ」
「わかった」

 そう告げたジャニスは、来須に資料を渡すと、その場を後にした。
そして、その姿が喫茶店から消えてから数十秒が経った時、来須は目の前で突っ伏した人物に声をかけた。

「・・・さて、コワイ女は去ったんだ。 そろそろ寝たフリをやめるんだな」
「気付いてらっしゃったんですか?」

 そう答えた柳井は、体を起こした。 彼はすでに数分前から目が覚めて聞き耳を立てていたのだ。

「まあな。 人は起きている時と寝ている時の呼吸のサイクルが違うんだ。 覚えておくといい」
「流石ですね」
「さあ、話しは聞いていたんだ。 聞かせてもらおうか。 なぜ殺人鬼は夢を見た者を殺すんだ?」
「それは私にも分りません」
「なら、その夢の内容を聞かせてくれ」
「・・・分りました。 夢の中で私は・・・左門友矩という名の男になっていました」
「友矩・・・夢の中の事件の中心にいたヤツの名前だな」
「はい。 私の見る夢は続いています。 段々と夢の話しが進んで・・・まるでドラマみたいな感じなんです。
内容はさきほど聞いた通りの物でした。 今は柳生谷で静かに暮らしているあたりです。
その事から考えると、数日中には死の日に至るかと・・・」

 その時、柳井の携帯が鳴った。

「失礼します」

 そういうと、柳井は携帯で何かを聞いた。 そして、その顔色が一変した。

「来須さん・・・出ました。 殺人鬼です」

 その声を聞いた来須は、伝票片手に立ち上がった。







 現場に到着した来須達を待っていたのは、無残な死体と日本刀をぶら下げた若者だった。
その場所は、早くも警察の手によって封鎖されており、周囲に一般人の姿はない。
その全身を血に濡らした若者は、鈍い銀色の盾とその合間から構えられる銃に囲まれ、進退が極まっていた。
しかし、その顔には焦りなどは皆無だった。 むしろ周囲の警官達の方が余程、緊張しているかも知れない。

 その異様な雰囲気の一角を少し離れた場所から眺めた来須は、小さい声で横にいた柳井に語りかけた。

「あいつか。 ・・・あの日本刀、やはりおかしいな」
「そうですか? 私には、普通の刀に見えますけど・・・。
まあ、大した業物(わざもの)だろうとは思いますが・・・それだけなのでは?」
「お前の目は飾りか? 少しは考えろ。 人を斬ったばかりの刀が血に染まってないのはどういう訳だ?」
「・・・確かに」

 その言葉通り、袖や服に大量に飛び散った鮮血(返り血)はその刀を濡らしていない。
達人は人を切っても、刀身に血を残さないというが、これほどの返り血を浴びて刀身が血を浴びていないのは不自然であった。

「なぜ、あいつはここから逃げないんだろうな? これまではすぐに逃げていたんだろう?」
「・・・待っているんでしょうか?」
「誰をだ?」
「誰かを・・・です」

 その言葉を肯定するかのように、周囲の警官達の間から一人の中年刑事が姿を見せた。

「観念しろ。 お前は逃げられない」

 その手には、棒状のスタンガン。 どうやら、生け捕りにする気らしい。
鉄製の武器を持つ生身の相手には有効な武器であった。

「これが何か分るか? スタンガンだ。 刀や体のどこに触れても、お前は終わりだ。 諦めろ」
「・・・小癪な道具を。 だが、ワシにはそんな物は効かぬぞ?」

 そう無表情に答えた若者は、その手の刀を構え直しもしないで答える。

「正気か? 貴様、周りの銃が見えないのか?」
「関係無い。 ワシには死はないのだからな・・・」
「イカレてやがる・・・。 オレが殺されたら、躊躇するな。 射殺するんだ」

 そう周囲に告げると、その中年刑事はスタンガンを構えて飛びかかった。
そして・・・その中年刑事の体は切り裂かれ、斬った側の若者も周囲で発砲された十数発の弾丸で蜂の巣にされた。
その若者が倒れると同時に、周囲の警察官が殺到する。
そんな混乱の中、その若者の手から落ちた日本刀が、まるで地面に吸い込まれるようして消え失せたを来須は見逃さなかった。

「・・・こういうトリックか。 あれ自体が何らかの妖物なんだろう」

 しかし、柳井にはその日本刀よりももっと気になる事があった。 それは若者の使った技の事であった。

「・・・あれは、『無行の位』から繰り出された・・・『逆風の太刀』でした」
「逆風の太刀?」
「はい。 夢に出てきた柳生の剣技の型の名前です。 柳生新陰流の基本に『型』はないんです。
自然体であること。 それを推し進めた構えが、あの何の変哲も無い・・・無行の位なんです。
逆風の太刀というのは、自分に向かってくる風を切り裂くようにして振るわれる太刀なので・・・。
その二つを組み合わせるなど、柳生新陰流にしかない型だと思います。
しかも、あれは・・・友矩の兄の剣筋に似ているように感じました」
「友矩の兄・・・十兵衛か?」
「はい。 私がこんな事を知っているのも、全ては夢のおかげなんですが・・・」

 そこまで言うと、柳井は日も傾き、夕暮れになりかけた空を眺めながら告げた。

「なぜ私がこんな夢を見るのか・・・なぜ、夢を見た者が斬殺されるのか・・・。
私には、全ては夢の事件の結末に関係あると思えてなりません。
夢はもう終わりまできています。 あと少しで分ると思うんですが・・・」

 そう告げた柳井に、来須はタバコに火をつけながら答えた。

「夢を見ていた者は全員殺されている。 その意味を分って言っているのか?」
「はい。 あれが十兵衛の亡霊の仕業なら・・・あるいは私が最後の標的になるのかも知れません」

 そして、柳井は一つ身震いすると、その場から離れた。
その脳裏に浮かぶのは、射殺される間際に見せた若者の笑み。

「でも、私には、さっきのあれが十兵衛の仕業だとはどうしても思えません」
「なぜだ?」
「・・・勘です。 そうとしか言えません」

 それは、夢で見たある人物の笑みに似ていたのだった。
そして、その人物は・・・十兵衛などではなかったのだった。







 その後。 来須と柳井は、柳井の実家である剣術道場に向かった。
それは柳井からの要請によるものだった。

「来須さん。 念のために実家に戻って刀を取ってきたいと思うんですが・・・」
「なぜだ? お前は刑事だ。 銃の携帯も今なら許可されるだろう。 銃の方がいいんじゃないか?」
「いえ。 銃では操られる者を殺すだけです。 あの亡霊を止めるには刀が必要だと思います」

 そう言い切った柳井に来須は問う。

「お前・・・あの刀に宿った亡霊を斬るというのか?」
「分りません。 でも、あの亡霊をどうにかするには、刀が必要な・・・そんな気がするんです」
「お前は剣術をやっているのか?」
「はい。 幼い頃からやってます。 もう20年くらいになります」
「皆伝は?」
「まだです。 でも、休みの日には道場で師範代もやってます」
「分った。 お前が夢を見たのも、剣術をやっていたのも、この件の担当になったのも・・・。
オレには偶然とは思えない。 そこには、なんらかの因縁があるはずだ。
お前がそう感じるなら、そうなんだろう。 オレはお前の勘を信じようと思う」
「ありがとうございます」

 その言葉を最後に、車内は沈黙に包まれた。

 それから数十分後。 柳井の実家の道場に到着した。
そして、その道場の裏手に回っている時、柳井は不意に来須に問いかけた。

「来須さん、あなたもこの因縁に何らかの関係があるんでしょうか?」
「さあな。 オレは夢も見ていないし、お前からの依頼でここにいるだけだ。
因縁に関係あるとは思えないがな・・・」
「私にはそうは思えません。 間接的に関係していると思うんです。
こんな話しを知っていますか? 剣術家同士の果し合いには『検分役』というのがいるんです。
まあ、今の時代の話しで行くと審判ですね」
「オレがその審判だってのか?」
「分りません。 そう感じただけですから・・・。
しかし、その検分役は果し合いの結果を見るだけでなく、卑怯な振る舞いに対しての制裁役も兼ねているんです」
「つまり・・・オレがその役目だというのか?」
「はい。 尋常な果し合いでない場合は、その相手を殺す役も受け持つんです。
だから、検分役は関係者以外の第三者が勤めるのですが、その条件は強者である事となっています」
「・・・なるほどな。 確かに因縁の中に組み込まれているな」

 そんな事を話しながら、二人はその道場の裏手にあった家に入った。
この時間帯は、家は無人であった。

「家族は?」
「祖母と祖父はもう亡くなりました。 母も私が幼い時に亡くなりましたので、今は父と二人暮らしです。
その父も今は地方に出張していますので、今日は私だけです」

 その説明を受けた後、柳井は来須を玄関に残して家に入り、一振りの刀を持って来た。

「備前長船金政・・・家宝とも言える業物です。 私が成人した時、父より授かったものです」

 そして、その刀を鞘より抜き放った。
その刀身は、まるで鏡であるかのように光を反射して、一個の芸術品ともいえるかのような代物だった。
刀に素人の来須も、その刀の見事な作りと、丹念に手入れされているのであろうという事くらいは分った。

「見事な刀だか、お前にそれが扱えるのか?」

 そう言うと、懐からタバコを一本取り出すと投げる。
そのタバコは弧を描くように、柳井に向かって飛び・・・宙で真っ二つにされた。

「・・・どうです?」

 そう残心のポーズのまま、聞いてきた柳井に、来須は「見事だ」とだけ答えた。







 刀を鞘に戻して、家を共に出ようとしていた柳井に対して、来須は問いかけた。

「お前、この後の予定は?」
「特にありません。 一応、署の方に戻って・・・」
「なら、眠れ」
「なぜです?」
「夢を見るんだ。 お前が夢を見終わらない限り、この事件の真相は掴めない」
「なるほど・・・分りました」

 そして、柳井は家の中に戻る。

「お前はオレから連絡があるまで、決してこの家から出るな。 それを守らなかった場合は命の保証は出来ない」
「・・・どうする気なんです?」
「あいつが入ってこれないようにしておく。 お前はとにかく夢を見て、その内容を記録しておけ」
「わかりました」

 そう答えると、柳井は玄関を閉めた。
それを確認した来須は、家の周囲に結界をはるべく車に道具を取りに戻った。
その時、携帯がなった。 相手はジャニスであった。

『さっき言われた今回の被害者の名前・・・名簿に載ってたよ』

 ここに向かう車内で、今回犠牲になった者と刑事の名を調べてもらえるように頼んでおいたのだ。
その話しをしながらも、来須は荷物片手に家に向かった。

「関係者か・・・これで何人目の被害者だ?」
『14人・・・依頼人を含めると15人が関係者って事になるねぇ』
「最低、その人数だとすると・・・狙われている者の多くは、前世で裏柳生の忍びだったのかも知れんな」
『なんで、裏柳生なんだい?』
「敵は柳生十兵衛かもしれん 柳井が夢の情報からそう感じたんだそうだ」
『だって・・・十兵衛は柳生一族だし、裏柳生の総帥を務めたんだろう?』
「さあな・・・オレもただそう感じただけだ。 真相がわかるまでは推測しか出来ないんだがな・・・」
『依頼人は?』
「今は夢をみてもらっている」
『・・・そろそろ合流した方がいいんじゃないかい?』
「そうだな。 それなら・・・」

 来須は住所を伝えると、携帯を切った。

「さて、この結界があいつに効くといいがな・・・」

 そうぼやきながらも、家の周囲に結界を張っていく。
その頭上では、日も沈み、月が都会の夜を照らしていた。
今夜は満月。 おりしも友矩の見た最後の月と同じであったことを知るよしもない来須であった。



<続く>