[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ13 作;雪乃丞

永遠の歌姫 《4》






 ジュリアを連れて九流和邸についたのは、それから数十分後だった。
そして、その豪邸の近くまで来ると、周囲の気配を探る。

「どうしたの?」

 そんなノートによる問いかけも、今の壬生には届かない。
そして、頭痛がするほど集中すること数十秒。 ついに、壬生は見当ての人物をみつける。
その人物はさほど離れていない場所。 路上に駐車されていた国産車の中にいた。
壬生が、その車に歩み寄ると、その車の窓が静かに開いた。

「青年。 オレは護衛を依頼したはずだぞ?」

 中に乗っていたのは来須だった。
壬生は、恐らくこの屋敷の周囲にいる筈だと予想していたのだ。
そして、それは当たった。

「これを」

 来須の言葉を無視するように、壬生は一本のテープを差し出す。
それをバッグから出したウォークマンで聞いた来須は、顔をしかめて答える。

「そうか・・・知ったのか」
「アナタは知っていて私達をここに近づけないようにしていたんですね?」
「まあ、な」
「なぜです?」
「知らなきゃ、知らないで幸せになる事もある」
「・・・ボクは何も知らないで幸せになるより、知って苦しむ方が良いです」
「・・・本当にそう思っているのか?」
「勿論です」
「やめておけ。 お前は必要最低限の知識だけを抱え込んでおくだけでいいんだ」
「なぜ? ボクはそんなに弱い人間に見えますか?」
「いいや・・・お前さんは強い。 だが、脆い」
「諸い?」
「ああ。 張り詰めたギターの弦みたいなモンさ。 いつ切れることやら」

 そんな冗談めかした来須の言葉に、壬生は怒りを滲ませた声で答える。

「本気で言っているんですか?」
「忠告だ。 お前はあと数日以内に悲しい出来事に出会う。 それに耐えられるように・・・ここに残れ。
この屋敷で辛い想いをすると、止めになりかねん」
「またその話しですか。 ・・・ボクは何もかも人任せにして結果だけ待つのは真っ平です。
それに・・・九流和の始末を人任せにしては、僕の正義は死んでしまうでしょう」
「・・・分った、 その代わり、ジュリアは守りぬけ」
「無論です」

 その答えを聞いた来須は、ため息混じりに携帯電話で仲間に連絡をとる。

「予定より早いが、作戦を開始する。 各員に連絡をとってくれ。
・・・ああ、そうじゃない。 都合とタイミングの問題だ。 ・・・そうだ。
あいつらには、今まで通り魚人どもの警戒にあたってもらってくれ。 一匹も近づけるな。
・・・こっちはオレ一人で十分だ。 ・・・・火を放つのは最後に回せ。 そうだ。
全てが終わったら連絡する。 頼んだぞ」

 そういうと、携帯電話をしまう。

「またせたな」

 そういうと、車から降りて、バックを背負う。

「いくぞ」
「はい。 ジュリア、おいで」

 そうやって、3人は高い壁を乗り越えて屋敷の中に入りこんだ。







 屋敷に入って、すでにどれほどの時間が経過したのであろうか?
これまでに、いったい何人の人間を気絶させただろう?
この屋敷の中にいる人の数は異常といえるくらい多かった。
そして、それはここが犯罪の行われている場であることを示していた。

「随分と見まわりが多いですね」
「犯罪者ってのは群れるものだ」

 来須は低い声でそう言うと、曲がり角から現われた数人の男達を有無を言わせずなぎ倒す。
その手には、アイスピックに似た道具。
その道具からはケーブルが伸びており、そのケーブルは背負ったバッグの中に消えていた。
それは、少し異様な形をしていはいるが、スタンガンの一種だと説明を受けていた。

「しかし、こう多いといつかは気付かれるな」
「そう、です、ね」

 壬生は返事をしながらも、失神して床に倒れている男達を近くの部屋に放りこむ。
もう何人空き部屋に放りこんだのであろうか?

 目的を達成するまでは、隠密行動を取るつもりらしく、来須は銃を使っていない。
その代わり、高出力のスタンガン使っている。
壬生は元々格闘技の達人級の腕前なのでそんな物に頼る必要はない。
もっとも、屋敷に入ってから今までその足が振るわれたことは無いのだが・・・。
そうして、3人の通った後には気絶させられた人物の山が築かれていく。
しかし、こんな事を繰り返していては、そんなに長いこと隠密行動などとることは無理であろう。

「目的の場所はどこなんです?」
「屋敷の中央。 主人の書斎に入り口があるはずだ」
「パターンですね」
「まったくだ。 独創性がカケラも無い」
「・・・待ってください」
「どうした?」
「あの曲がり角の向こうに数人います」
「ほう。 流石だな。 どうする? 一度に黙らせるには、少々数が多いぞ?」
「今度は、ボクに任せてくれますか?」
「・・・出来るのか?」
「後片付けばかりは飽きました」
「面白い。 やってみるといい」

 その言葉を聞くと、壬生はポケットから毛糸の束を取り出す。

「?」

 壬生は、その毛糸を数本たばねた物の端をにぎると、軽く振る。
その毛糸は意志を持ったかのように宙を走り、曲がり角の先に消えていった。
そして、数秒後。 壬生は、掴んだままだった毛糸を思いきり引く。
すると、通路の先で重い音が数個聞こえた。

「もういいですよ」
「・・・? まあ、信じてみるか」

 そして、通路の先のを覗くと、そこには数人の警備の人間が転がっていた。
その首には毛糸が巻きついている。

「面白い技を使うな」
「拳銃を持った相手と戦うための技です。
毛糸に『氣』を通わして操って、間接的に相手に『氣』をぶつけたり、切り裂いたりする。
まあ、そんな感じの技です。 これなら相手に近寄らなくても倒せますから」
「しかし、なぜ毛糸なんだ?」
「色々試したんですが、毛糸が一番ボクの氣の質に合っているみたいなんです」
「フム。 なかなか理想的だ。 持ち運んでもそんなに怪しまれないし、金属探知機にも引っかからない。
良い『道具』だ。 オレはお前の戦闘力を過小評価していたかもしれんな」
「まあ、アナタと出会った時には使わなかった技ですから」
「その時は、持ってなかったのか?」
「はい。 今回はたまたま持っていたので」
「今後は常に持ち歩くんだな」
「いえ、そんなに多用したい技ではないんです」
「なぜだ?」
「疲れるってのが一番の理由ですが・・・それだけじゃないんです。
これは・・・物を作るための道具です。 戦うための道具ではないんです」

 壬生にとって、物を作るための道具まで人殺しには使いたくなかったのかもしれない。
しかし、その道具が自分に一番あった武器だというのは、まさに皮肉としか言いようがなかった。
それを知る来須は、壬生の自嘲気味の言葉を笑うような事はしなかった。
ただ黙ったまま、先に進む。 そんな来須の後をジュリアを連れて歩く壬生。
目指す屋敷中央の部屋までは、後僅かであった。







 広い書斎の中。 そこには館の主『九流和 源蔵』がいた。
その九流和の側には屈強な男が一人立っている。 どうやら護衛役らしい。

「ついにここまで来おったか。 悪い事は言わん。 命が惜しければ、その子を置いて去るといい」

 この館の主、九流和源蔵は椅子に座ったまま、そう言葉をかける。
やはり、自分達は派手に動き過ぎていたらしい。 すでに侵入はバレていたようだった。

「この子を連れて、先に行っていてください」

 そういうと、壬生は自分の背後に隠れていたジュリアを来須に預ける。
その壬生の言葉に、来須は静かにうなずく。
そして、事前に調べておいたらしい隠し扉を開けると、ジュリアと二人で地下におりていった。
そんな来須の動きを、護衛役は黙って見送った。

「良いのか? 一人でここに残って?」
「ええ。 ボクの仕事はここで・・・アナタに罪を償わせる事だからね」
「良く言った。 ならば・・・」

 そういうと、九流和は側に控えていた護衛役にアゴをしゃくると、自分は開きぱなしになっていた隠し通路に向かう。
それを阻止しようとした壬生の前に、護衛の男が立ちふさがる。

「まあ、そんなに急ぐ必要はないだろう? オレと少し遊んでくれよ?」

 そういうと、両手に構えた棒状の武器を一閃させる。
壬生は、それを軽くかわすと、何を思ったかさらに男との距離をとる。

「仕込みトンファー・・・随分と面白い道具を使うね」

 完全にかわしたはずの武器からは、その瞬間、刃が飛び出し、壬生の胸を浅く切り裂いていたのだ。
幸い、服を切り裂かれただけで、かすり傷すら負ってはいない。
それはその瞬間、とっさに大きく距離をとったおかげであった。

「まあ、な。 これの不意打ちを完全にかわしたのは、お前が二人目だ」

 それは並外れた動体視力と、戦士としての勘のなせる技だった。

「一人目はどうなったんだい?」
「頭を割られて死んだ」
「今度も、そうなるとは限らないよ?」
「さてな。 一つ教えておいてやる。 この刃には猛毒が塗ってある。 カスリ傷であの世行きだぜ?」

 そういうと、その男は鋭い刃の仕込まれたトンファーを構える。
その構えは見事な物で、そこからは僅かな隙すらも見出せない。
しかも、そのトンファーは自在に刃を出し入れ出来るらしい。
常に刃が出ているなら叩き折る事も出来るのだが・・・。 これでは、それも叶いそうになかった。

「・・・面白い。 誰に喧嘩を売ったか教えてあげるよ」

 そういうと、ゆっくりと間合いをつめていく。 そこには、猛毒の刃を恐れる気配など微塵もなかった。
そんな壬生の姿に、その男は舌なめずりしながら、嬉しそうに答えた。

「粋がったセリフが何処までもつか・・・楽しみだ」

 書斎としては広いが、戦場としては決して広いとはいえない部屋の中。
猛毒の刃を持つ武器相手に、壬生は己の不利を悟っていた。







 壬生が思わぬ強敵に足止めを食らっている頃。
薄暗い通路を、来須とシュリアは早足で進んでいた。

「ジュリア」
「ナアニ?」
「いいのか?」
「ヴン。 アゾゴニイデモ、邪魔ニナルダゲ」
「まったく・・・お前はもう少し、自分のために残された時間を使ったらどうなんだ?」
「・・・」

 そんな問答をする二人の前に、頑丈な扉が見えてきた。
その扉に来須は、懐から取り出したカードキーを通すと、同じく手帳に書かれたナンバーを入力していく。
それは、数日前、壬生達拳武館から奪った道具だった。
この施設に入る為に、来須はどうしてもあの研究員の持つカードと歴代のナンバーをメモしてある手帳が必要だったのだ。

「・・・よし、まだこっちの登録情報は生きてたか」

 その通路は正規の物ではない。 いわば、九流和専用の特殊な通路だ。
そのために、本来なら使えなくなっているはずの情報も生きていたらしい。

 恐らく、九流和は自分のセキュリティーナンバーが度々変更されるのが面倒だったのだろう。
そのせいで、古いセキュリティーナンバーしか知らない来須でもそこを通れたのだ。
管理情報の最後の更新はいつだったのか・・・。
鉄壁のセキュリティーに穴をあけるのはいつでも地位の高い、無知な年寄りなのだという良い証明であった。

「しかし、3年前のナンバーがまだ生きてるとはな。 ずさんな管理で助かった」

 そう苦笑混じりに呟くと、その金庫のような扉を押しあけて先に進む。
そして、扉の先に踏みこもうとして、来須は何かを思い出したかのようにその場に立ち止まる。

「ジュリア」
「?」
「いいか? ここであのボーヤが来るのを待ってるんだ。 いいな?」
「・・・ウン」
「絶対にここに入るな。 約束できるか?」
「・・・ワガッダ」

 その言葉を聞いた来須は内心不安を感じながらも、一人でその施設に入りこむ。
そして・・・己の用心が妥当であった事を知った。

 そこは、まさに悪夢のプラントだった。
来須の目の前には、大量に人間大のチューブが並んでいる。
その中には、目を閉じた数十人の同じ容姿を持った人魚。
ジュリアに似た銀髪の人魚の子供が、大量に並んだチューブの中で『生産』されているのだ。
そして、その子供の数体は、来須の目の前で作業員の手で機械に放りこまれ・・・粉々の肉塊になっていた。
 その血まみれの肉塊はさらにコンベアで運ばれ・・・処理施設に流される。
そこで、どのような処理がされるのか・・・。
『原液』と書かれたタンクには、ピンク色をした『液体』が、ゆっくりと流れ込んでいた。
これが・・・日本一を誇る化粧品の原料。 奇跡のコラーゲンの正体だったのだ。

『悪魔・・・いや、悪夢そのものだな。 やはり、あの子を連れて来なかったのは正解だった』

 そして、懐から取り出した数本の短剣を、作業員に次々に投げつけていく。
その動作は恐ろしく早く、その作業員達は次々に咽喉に短剣を突きたてられ絶命していった。
その異常事態にようやく気付いたのは、最後の一人になってからだった。

「な、なんだ貴様は!」

 その男に向かって手にした短剣を振りかぶった来須は、ゆっくりと言葉を告げる。

「貴様ら悪魔同然の行いをした人間に、魂の冥福は決して訪れないと思え」
「な!?」
「地獄で己の罪を償って来い!」

 そういうと、その男に向かって投げつける。 その短剣は狙たがわず、眉間に突き刺ささる。
さらに、その短剣は、その男の頭を突きぬけて背後の制御盤らしい機材に突き刺さると、盛大に火花を飛び散らせた。
それは、来須の怒りそのものだっかのかも知れない。
強力な精神力を込められた短剣は、まさにロケット弾さながらの破壊力を見せていた。
その結果、プラントは暴走を始めたのか、異様な音をたてて鳴動しはじめた。

「アーメン」

 そう忌々しげに呟いた来須の背後に、人の気配が生まれた。 しかも二人。

『あのボーヤ・・・何を考えているんだ?』

 来須は、こんな場所にシュリア連れてきた壬生の短慮を怨み、しぶしぶ背後を振り向く。
しかし、そこには壬生の姿はなかった。

「やってくれたな。 まあ、良い。 この子がいれば代わりなんぞいくらでも作れる」

 その代わり・・・九流和と、その手に構えた銃を向けられて身動きの取れなくなったジュリアがいた。
そして・・・その悪魔のプラントを目にしたジュリアは・・・青ざめて震えていた。
その震えは、一筋の涙によって、限界を迎え・・・。

「イ、イヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァl」

 ジュリアは、自分の数少ない望みの一つ『コロナとの再会』が永遠に叶わなくなった事を知った。







 ジュリアが九流和の魔手に囚われる少し前。
壬生は、慣れない武器を使う相手に思わぬ苦戦をしいられていた。

「ホラホラ、どうした!?」

 その声と共に振り回されるトンファーを十分な距離をもってかわす。
しかし、かわすさいに距離を取りすぎたせいで反撃することまではできない。

「どうした、どうした、そんなもんか!?」

 さらに、突き出されたトンファーをかわすと、今度はその腕めがけて反撃の蹴りを放つ。
しかし、その蹴りは反対の腕のトンファーが気になるために、十分な威力を発揮できない。
いつでも、蹴りの軌道を変えられるように、渾身の力を込められないのだ。
一撃必殺の刃とは、とにかく厄介な代物であった。

「貴様も今までのやつら同様に、毒に苦しんで死ぬか?」

 相手は、先ほどからずっと毒の存在を言葉にのせる。
そして、それを再認識させられる度に、壬生の動きはますます固い物になっていく。
それは、目に見えない毒の・・・目前に見える死へのプレッシャーであった。

「くそっ」

 思わず、そう呟くと、振り回されるトンファーの隙をついて、足払いをかける。

 ガキッ!

 しかし、その足には何が仕込まれいたのか・・・蹴った壬生の足は、酷い激痛を感じていた。

「はっはっは、みんな考える事は同じだな。 もっとも、オレには足払いは効かんぞ?」
「えらく・・・頑丈なプロテクターだね」
「3トンの衝撃まで受けとめる代物だ。 人間の力で壊せる代物じゃねーぜ?」

 これで、足払いは封じられたも同然だった。

「さて、そろそろ、死んでくれや。 この毒なら苦しみもがいて死ねるぜ?」

 その男が舌なめずりしてそう言った時。 部屋の外が騒がしくなる。

「お? 増援か? お前も運が無いな。
ここでオレの毒にかかって死ぬか、やつらに蜂の巣にされるか。 好きな方を選びな」

 そう言った時。 部屋の外で聞こえた銃声と共に、懐かしい巨大なプラーナが炸裂した。

 バガーン!!

「な!?」

 部屋の扉を突き破って吹っ飛んできた男と共に、トンファーを構えた男も吹き飛ばされる。
そして、そこに一人の少年が姿を見せた。

「どうしたんだい? キミらしくもない。 えらく苦戦してるみたいじゃない?」

 そういって現われたのは・・・女と見間違うかのような美貌の少年だった。
その不敵で、不遜で、不思議な優しさを持った笑みと、全身から溢れ出す巨大な氣。
それは、最後に会った時から幾分も変わってなどいなかった。
そんな彼に、壬生の頬も自然な笑みを浮かべる。

「まあ、色々あってね」
「それより、あいつ何者? まだピンピンしてるみたいだけど」
「ああ、卑怯な武器を使う悪者だよ」

 そんな、なめきった会話に、その男は怒りをあらわにして突っかかっていく。
それを二人は左右に分れてかわす。
その時、壬生は懐かしい感触が己の魂を捕らえるのを感じていた。
その感覚に逆らう事無く、壬生は己の魂の内側から沸きあがってくる言葉と力を、そのままつむぎ出す。
それは、壬生の正面にいる少年も同様だった。

「陽たるは、空昇る龍の爪・・・」

 その言葉と共に二人の体から溢れ出す『氣』は相手の体にからみつく。

「陰たるは、星閃く龍の牙・・・」

 相手の体にからみついた『氣』は相手を金縛り同然の状態にした。

「表裏の龍の技、見せてあげましょう」

 そして・・・技は完成した。

「「秘奥義・双龍螺旋脚!!」」

 完璧に合ったタイミングで放たれる双龍の蹴りは、金縛りにあっていた相手を下から上へとなぎ払う。
そして・・・爆発的に膨れ上がった陰陽の『氣』が、相手の体を螺旋状に駆けぬけた。

「グアアアァァァァァ!!」

 そんな巨大な氣の奔流を生身で受けとめた男は、そんな悲鳴に似た悲鳴をあげて気絶した。

 その技は『方陣技』と呼ばれる技の一種だ。
なぜこのように自分の能力を超えるような技が使えるのかは、壬生自身にも良く分らない。
ただ、『使える事が分っている』のだ。 あるいは、それは前世で身につけた技だったのかもしれない。
そんな技の数々は、彼ら東京の危機を救った仲間達全員が使えたのだ。

「ミサちゃんに頼まれて手伝いに来たんだ。 後は任せて!」

 そう言う残すと、その少年は壬生の返事も聞かずに部屋を飛び出しいく。

「まったく・・・相変わらず慌しい人だね。 でも感謝するよ。 龍麻」

 壬生は、そう苦笑混じりに呟くと、九流和の後を追って地下施設に入りこんでいった。







 壬生が思わぬ助っ人の出現に深い感謝を感じていた時。

 来須は、己の不手際を呪っていた。
間違っても、何の戦闘力も持たない今のジュリアを一人にしてはいけなかったのだ。

「さあ、お前が何者かは知らんが、武器を捨ててもらおうか?」

 九流和はジュリアの頭に銃を押しつけてそう言い放つ。
いつもの来須なら、こんな状況でも決して銃を手放したりたりはしなかっただろう。
「それがどうした?」とでも平気で言い放つ。 彼はそんな男である、 特に人質が人間でなければ尚更だ。
しかし、今はジュリアに死なれては困る。 なんといっても、この後には母親との対面がまっているのだ。
「見殺しにしました」では、決して協力などしてはくれないだろう。
それに・・・来須自身、シュリアを殺したくはないのだ。

 来須は、一つため息をつくと、懐から銃を取り出し床に落す。 さらに、残った短剣が全て床で跳ね返る。

「・・・これで全部だ」

 その言葉に嘘はない。
下手な嘘などついて、ボディーチェックなどされては助かる者も助からない。

「いいだろう。 それでは・・・死ぬがいい」

 そういって、手にした銃を来須に向ける。 本来なら、こんなチャンスには滅多に無い。
銃を向けられていないジュリアに逃げて欲しいところなのだが・・・。
肝心のジュリアはあまりの衝撃に、自失呆然状態。 そんな事を考えられる状態ではなかった。
そんなジュリアの姿に、来須は無意識の内に奥歯をかみ締める。

「なぜだ?」

 その来須の問いかけに、有頂天の九流和はペラペラと己の悪事を話し出す。

「なぜか、だと? このプラントのことか?」
「ああ」
「復讐みたいなものじゃよ」
「復讐? 何に対してだ?」
「・・・オーロラだ」
「オーロラ? なぜオーロラに復讐などしなきゃいけないんだ?」
「ワシはいつまでも一緒だと思っておった。 じゃから、ワシは愛した。 オーロラはワシの全てじゃった。
しかしな・・・老いるのだよ。 人は。 そして、あ奴は若いまま・・・次の男を捜すのじゃ。
ワシを捨ててな。 分るか? この苦しみが? いや、分らんだろうな・・・貴様はまだ若い。
この身を焦がす怨みを・・・憎しみと苦しみしか感じない、この想いを妄執と言いたければ言うが良い。
ワシはそれでも・・・若返りの秘薬が欲しいのだ! ワシは何としても若返ってみせるぞ!!
オーロラはワシだけの物じゃ! 誰にも渡さん!」

 その老人の目には狂気が宿っていた。

「それで・・・このプラントと、若返りの秘薬が何の関係がある?」
「全ては、ヤツラとの契約じゃ。 あと数年で事は成る。 そして、ワシは若返り、永遠の命を得るのだ」
「・・・馬鹿な事を。 深き者どもと契約したか」
「そうじゃ。 人魚の肉から抽出した猛毒は、人の体を魚人に変える。
おかげでこの化粧品愛用者は、皆魚が好きになるのだ。 そして、行く末は・・・」
「化け者の仲間入り・・・か」
「それが契約じゃからな。 10年後この日本はヤツラの仲間で埋め尽くされるだろうよ。
もっとも・・・そんな事、ワシの知ったことではないがな」

 そういうと、老人は咽喉を震わせて笑う。

「お前は、自分の子供を犠牲にして何とも思わんのか?」
「自分の子供? ああ、コロナの事か。 それくらい、なんでもない。
ワシはオーロラさえおれば、それで文句はないんじゃからな」

 そういうと九流和は満足したのか、来須に向けた銃を構えなおす。

「少しばかりお喋りが過ぎたな。 さあ、死ねい!」

 その引き金が引かれる瞬間。 老人の手は『何か』に引かれるようにして真上に向いた。
そして、その銃弾は天井を走っていた管を突き破り・・・老人にプラントから生産された原液を浴びせかけた。

「ギャアアアアァァァァァァ!!」

 そして、その薬品を浴びた老人は全身を急激に変質させながら、床に崩れ落ちる。 そして、数秒後。

「ギョア! グア! グウア! ギャピ!」

 そこには、不気味に蠢く魚人に似たピンク色の肉塊が痙攣していた。
それはまさに天罰。 いや、コロナの逆襲だったのかも知れない。

「貴様にはそんな末路だけが相応しい」

 そう言い放った壬生の手には一本の毛糸。 反対の腕にはジュリアを抱きかかえている。
どうやらシュリアが老人の巻き添えを避ける事が出来たのは、彼のおかげらしかった。
そんな壬生に、来須は苦笑混じりに声をかける。

「遅かったな。 間に合わないかと思ったぞ?」
「済みません。 少し手間取りまして」
「まあ、良い。 さあ、もう余り時間が残ってない。 急いでオーロラを助けるぞ」
「はい」

 そういうと、ジュリアを抱きかかえたままの壬生と来須は施設の奥へと進んでいった。



<続く>