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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ11 作;雪乃丞

都市伝説 《前編》






 オレにとって、この身に宿る強大な精神力と白魔術は『戦うための牙』だ。
その力は、組織のためでなく『牙』をもたない弱者を守るためにある。
オレはずっとそう考えてきたし、これからも変えるつもりはない。

 だが、それは牙を持つ者のおごりだったのだろうか? 守るべきは自分であって他人ではないのだろうか?
それは・・・未だにわからない。







「ハンター来須狩夜。 キミは一体、何を考えているんだ?」

 来須は搬送された医療施設での治療を受けながら、若き上司フレデリックの叱咤の声を聞いていた。
フレデリックの声は呆れかえっているといってもいいかもしれない。

「申し訳ありません」

 来須の怪我は全治1週間と診断された。 いや、怪我自体は大した怪我ではなかった。
来須自身、この程度の怪我なら白魔術を使って数秒で治せたはずなのだ。
しかし、今回は自分自身で治せない理由があった。
今、問題になっているのは、一緒に食らった正体不明の『呪い』の方だったのだ。
その呪いのせいで・・・すべての魔術、退魔術を封じられてしまったのだ。
これでは、今後ハンターとしては働けないだろう。

 話しはほんの数時間前に遡る。
来須は次の『仕事』に備え、現地での待機を命じられていた。
そこで偶然にも、魔物にとり憑かれた女性と出会い・・・勝手に動いて『処理』したのだ。
その結果、その女性は救われたが、来須は『仕事』の出来ない体になってしまったと言う訳だ。

 組織に雇われている以上、その組織からの依頼や命令に反して動くのはルール違反だというのは来須自身にも分っている。
まして、相手が依頼料金を払えない程の低収入な人物だというのは論外だったのだろう。
しかし、魔物に苦しめられている人物をどうにか出来る能力をもっていながら、見殺しに出来るほど来須は非情にはなれなかったのだ。
今までも、そうやって勝手に動いて処理してきたのだ。 しかし、それは仕事の合間に勝手に動いていただけだった。
組織に迷惑をかけないのなら何をやっても良い。 そう黙認されていただけだったのだ。
だが、今回は勝手に動いた結果・・・組織の作戦プランを完全にぶち壊してしまった。
 組織に与えた被害は甚大な物だったのだろう。 いつもは必要な時にしか姿を見せないフレデリックが直に訪れた。
それは、組織における来須の立場が苦しくなっているという証明でもあった。

「ハンター来須。 私は君に無期間の謹慎処分を下す事にした。 今からキミは謹慎が解けるまでハンターでなくなる。
この意味がわかるな?」

 来須は上司の好意に対して素直に感謝することにした。

 フレデリックは、ハンターとして役立たずになった来須を守るためにこの処分を下したのだ。
そうやって被害の穴埋めが済んで、来須が元通りの体になったら・・・再びハンターとして呼び戻す。
そう言ってくれているのだ。 本来ならハンターでなくなった来須を放置しておける程、組織は甘くない。
組織の数多くの秘密を知る『一般人』に成り下がった来須に下される処分はただ一つ。『死』のみであろう。
そうやって、今まで闇に消えて行った人間は数知れない。
それを免れるには、ハンターでなくなった事を隠し通すしかないのだ。

「感謝します」
「気にする必要はない。 君はまだ回復の望みがある。 私はそう考えてこの決定を下したまでだ」

 そういって、フレデリックは来須に手を差し出した。 ハンターを休業する以上、来須は狩人であってはならないのだ。
来須は身につけていたすべての装備品をフレデリックに手渡した。
それを受け取ると、手にしたバックに放りこみながら、フレデリックは問いかけた。

「復帰はいつ頃になりそうだ?」
「わかりません。 しかし・・・なんとかしてみせます」
「そうか。 それなら良い。 ところで、謹慎中はどうするつもりなんだ?」
「身を隠すためにも祖国に帰国しておきます。 相棒から頼まれている事もありますので・・・」
「君の非公式の相棒か・・・彼女もしばらく休みたいと組織への休職願いを出していたよ」
「私の祖国を案内しろと言われました。 今までの借りを返す意味でも断れません」
「そうか。 君と再び仕事が出来る事を祈っているよ」

そう言い残すと、フレデリックは来須と握手を交わして病室から去って行った。
こうして、来須の無期限の謹慎は始まった。







 来須が病院を出ると、そこには旅行の準備を整えた『相棒』のジャニスが待ち構えていた。

「はい、これ預かってきたよ」

 そういって差し出されたのは、新しい身分用のパスポートや身分証明書などであった。
これが誰から渡されたのもなのかは考える必要すらない。 フレデリックだろう。 これを使って身を隠せといっているのだ。
来須は、それを受け取るとコートのポケットにしまい込んだ。

「それじゃ、着替えて出かけるとしようか?」
「着替える?」
「そうさ。 折角の依頼抜きの旅行だよ? まさかその黒ずくめで行くつもりじゃないだろうねぇ?」
「・・・白い服でも着ろってのか?」
「それも悪くはないけどねぇ。 ・・・今は黒を着る必要はないだろう?」
「それもそうだな。 黒は復帰までお預けにしておくか・・・」

 そうして、来須は自分のアパートに戻ると普通の服に着替える。 すると、今まで感じなかった不安が一気に押し寄せた。
こんな格好をすることがハンターになって以来、あったのだろうか?
戦う牙を無くした事への不安が、ようやく実感として感じられたのだ。 それは一度戦う牙を持ったから、より一層強く感じるのかもしれない。
来須は部屋の外で待っていたジャニスに、ため息混じりに告げた。

「これが力を失うということか・・・ようやく実感できたよ」
「まあ、それを解決するためにも、アンタの祖国にいくんだけどねぇ」
「なに?」
「ちょっと気になる記事を見つけてねぇ」

 そういって差し出されたのは妖しげな表紙の雑誌『月間黒ミサ通信』。 なんだか非常に妖しい雑誌であった。
しかも、これが月刊誌として世界各国で発行されていると説明を受けた来須は、違う世界の物をみた気分を味わっていた。
そんな来須の心も知らずに、ジャニスは嬉々として説明を続けた。

「そこに面白い投稿があってねぇ。 石化病って知っているかい?」
「石化病? 石になるって病気の事か?」
「そうなんだけどねぇ。 その病気の最新のレポートでチベット産のハーブなどを原料とする薬が効くとか・・・。
まあ、問題はそこじゃないんだけどねぇ。 最近、東京でおかしな事件が立て続けに起こっているらしいんだよ。
その事件の影には・・・色んな能力を持った異能者たちがいるとか・・・まあ噂に過ぎないんだけどねぇ」
「確かに面白い話だな」
「だろ? それに、東京には結構有名な呪術道具を専門に扱うお店があってね。 そこに良い品があるかも知れないんだよ」
「だといいがな・・・しかし、詳しいな」
「ちょっとね。 色々と情報収集してたんだよ。 アンタには色々貸しがあるんだ。 このまま居なくなるなんて許さないよ」

 その真摯な言葉とは裏腹に、顔が笑みを浮かべているのは何故だろう?

「魔女への貸しは・・・高くつくんだったな」
「そうさ。 しかも返すまで一生逃げられないんだ。 忘れんじゃないよ?」

 そうして、来須とジャニスは日本の東京に向かった。







 東京についたのはもう日が沈む時間帯だった。
そんな夕日に照らされた道を、空港からある人物のまつホテルに向かうタクシーの中。
赤く染まった町並みを眺めながら、来須は物想いにふけっていた。

『東京か・・・あいつはまだ、あそこにいるんだろうな』

 来須に脳裏に浮かぶのは、冴えない高校教師の姿だった。
指は、その人物の事を思い出しながら、無意識の内に頬の傷を撫でていた。
その人物の名は犬神杜人。 彼の頬に一生消えない傷を刻んだ人物・・・いや、魔物の名前だった。

 その魔物はなぜか高校の教師という仕事をしていた。
1年くらい前に偶然、犬神と出くわした来須は、その日が満月である事を失念していたのだ。
人気の少ない公園で始まった戦いで、劣勢になった犬神はついに魔物としての本性を表した。
人狼。 それは満月の下では無敵を誇る魔物だった。 満月の夜に人狼を簡単に殺せるはずもない。
弾はあっという間に使いきった。 銃の弾を使いきった来須は、それでも銀の短剣を武器に戦い続けた。
そうして、その魔物の勤めているという学校での戦いにもつれこみ・・・その瞬間が訪れたのだ。
 運悪く遅くまで学校に残っていた女生徒が、狼の本性を表していた犬神を見て・・・大きな悲鳴をあげて気を失った。
あるいはそれも犬神の作戦だったのかもしれない。 その瞬間、来須はそっちの方に気を取られてしまったのだから・・・。
その瞬間。 顔面をするどい爪でなぎ払われるようにして切り裂かれ、校舎の窓から叩き落された。
その時、唯一の武器だった短剣まで失った来須は、命からがらその高校から逃げたのだった。

 過去、あれほどの強敵と出くわした事はなかったし、これほどの屈辱と恐怖を味わったこともなかった。
普通の状態でも再び戦って勝てるかどうか・・・。 今の状態の来須が相手をしても、到底勝てるはずもない相手だった。

『くそ! 今あいつに出くわしたら・・・』

 いくら人口過密の大都市にいるといっても、来須は魔物に色々と縁のある人物だ。
どんな偶然が、来須と過去に苦い敗北を味わった魔物とを再会させるのか・・・決して油断はできなかった。
そんな不安は来須の表情を苦々しいものにしていた。 そんな来須の変化にジャニスは気付いたようだった。

「どうしたんだい? そんな不景気な顔して」
「いや・・・なんでこの街はこんなに渋滞が多いんだろうと思ってな?」
「そういやそうだね。 まあこんな狭いところに、これだけ人が詰まっているんだ。 少しは道も混むだろうけどねぇ」
「そうかもしれんな」

 そうこうする内に、車は高速道路を降りる。 目指すホテルに到着するまで後数分だった。
ホテルに到着して車をおりると、来須は空港で感じた『空気の変化』をますます強く感じていた。

『以前、この街を訪れた時には、こんなにおかしな気配は感じなかったんだがな・・・。』

 大地から感じる『力』は以前の比ではなくなっていた。 これほどの力を感じるのは相当な霊場以外考えられない。
なぜ、この街はこんなに強い力に包まれているのか・・・それが来須の不安をますますあおっていた。

「なあ、この街は・・・おかしくないか?」
「そうだねぇ。 一説には世紀末にここで何か起こるって噂されているそうだけどねぇ。
まあ、それもあながち外れちゃいないかもしれないよ。 たしかに・・・この力は普通じゃないからねぇ」

 それを聞いた来須は、旅立つ前にジャニスのしていた話を思い出していた。

「しかし、こんな街になら・・・噂の異能者ってのも本当にいるかもしれんな」
「そうさ。 期待して良いと思うよ。 明日にはお店の方にも行って見たいしねぇ」

 そうして、二人はホテルへのチェックインを済ませると待ち合わせの場所に指定しておいたラウンジに向かった。

 その待ち合わせの人物とは、『風守 昌平』。 色々と二人に縁のある一般人だった。
だが、彼も妖怪と呼ばれる魔物に縁の深い血筋の人物なのだ。
そのせいで、彼は今・・・妖怪カマイタチの『キリト』と同居しているという世にも不思議な人物だった。
そうして、その世にも不思議な境遇にいる大学生は、そこにいた。

「久しぶりですね」
「ああ。 前に会った時から大分経ったからな」
「どうだい? 彼とはうまく共存してるかい?」
「はい。 今は席を外してますが・・・今も変わらず共に生きています」
「そうかい」
「それで、頼んでおいた店の場所は分ったか?」

 ジャニスは電話番号しか分らないそのお店を探す手伝いを、昌平に頼んでいたのだ。
組織の援助を得られない二人にとって、東京にいる昌平は何よりも得がたい協力者だったのだ。
それを理由も聞かずに引きうけたのは、昌平なりに恩返しをしたい気持ちがあったのかもしれなかった。
そうして、昌平は色々と情報を集めてジャニスに教えていたのだ。

「はい。 北区にそれらしいお店がありました」
「良く見つかったな」
「まあ、偶然かもしれませんが・・・北区周辺の電話番号だというのは分ったんです。
それでキリトがそれらしい店を探して飛んでいたら・・・もの凄い強固な結界の張ってあったお店を見つけたらしいんです」
「結界か・・・たしかに呪術道具を扱う店ならそれくらいはやっているかもしれんな」

 そうして、昌平はその場所を来須たちに告げる。 幸先良く目的のお店の見つかった二人は安堵のため息を漏らした。
しかし、ジャニスの関心事はそれだけではなかった。 昌平からもたらされたもう一つの情報があったのだ。
それは、異様に高い的中率を誇る高校生の占い師の話しだった。

「じゃあ、もう一個の方の首尾はどうだったんだい?」
「ああ、今噂になってる高校生の占い師の話ですよね。 週末の夜に新宿にいくと会えるって聞いたんで行ってみたんです。
オレが行った時には、キリトもみてもらったんですけど・・・多分、その人は本物だと思います。
キリトが自分の年齢を当ててみろっていったら・・・500を超えてるって答えたんです」
「それは・・・凄いねぇ」
「はい。 占った本人が一番驚いてましたけど・・・キリトの正体も薄々気付いていたみたいでした」
「なにものだ? その人物は?」
「わかりません。 でも・・・怖いっていうか・・・暗い雰囲気を持った女の子でした。
ああ、そういえば、新宿にある真神学園って学校の3年生だって・・・」
「真神だと!」

 その話にいきなり犬神のいる学校の名前が出てくるとは思えなかった来須は、驚愕の声を上げてしまう。
まさに不意打ち。 しかも古傷を思いきり抉られた感覚であったかもしれない。

「どうしたんだい? そんなにビックリする話だったかい?」
「い、いや・・・済まないが、その占い師の方は一人の方で行ってくれないか? オレは一緒に行けない理由が出来た」

 仮にも犬神に関係するかもしれない人物だ。 特に今は絶対に会いたくない人物だった。
用心に用心を重ねても、まだ用心し足りないという事はないだろう。 それほど来須は現時点での犬神との遭遇を恐れていた。

「後で説明くらいしてくれるんだろうねぇ?」
「あ、ああ。 オレは北区にあるとかいう店の方に行ってみる」
「済みませんが、オレはここで・・・明日の午前中に大学の方で落せない講義があるんです」
「ああ。 済まなかったな」
「いえ・・・お二人には色々お世話になってますから。 それじゃ、これで」

 そういって昌平はその場を後にした。
ホテルから出た昌平の周囲で軽い風がふく。 席を外していたキリトがかえってきらしい。
そうして姿を消したまま、キリトは昌平に語りかけた。

「昌平、あの二人・・・格好がおかしくないか?」
「格好? まあ、ジャニスさんの白いスーツは今更珍しくないけど」
「いや、あのハンターの方だ。 黒いコートでないな」

 来須の今の格好は茶色系のジャケットとコートをラフに着た感じの格好だった。
確かに今までのような黒で統一された格好ではないが、普通の格好だったせいで気付かなかったのかもしれない。

「そういえばそうだな。 なんであんな服着てるんだろう? 荒事に向いた色には見えないけど・・・」
「まあ、荒事を起こすつもりが無いのかもしれんがな」
「そっか・・・ジャニスさん喜びそうだな」
「なぜ、そこで魔女の名前が出てくるんだ?」
「だって・・・前に来須さんに黒以外の服を着てもらいたいって言ってたんだ」
「今までが黒白コンビだったからな」
「お前・・・もしかしてジャニスさんの事嫌いなのか?」
「好きなはずがない。 いや、単に怖いのかもしれん」
「怖い?」
「ああ。 オレはあのハンター相手なら何とか逃げ切れる。 だが、魔女からは無事には逃げれないだろう」
「大丈夫だよ。 あの二人には、お前をどうにかしようって考えなんてないだろうし」
「それならいいがな・・・」

 キリトは過去にジャニスに大怪我を負わせた事があるのだ。
魔女の執念深さを図書館で知ったキリトは報復が怖かったのだ。 それで、同席を断ったのだ。
作られた物語をそのまま信じてしまうあたり、まだまだキリトは勉強不足なのだが、それを本人はまだ知るはずもなかった。







 ジャニスはその噂の占い師とかいう人物に会うために夜の新宿を一人で歩いていた。
もちろん、サングラスをしているのだが夜ということもあり、薄い色のものしかかけていない。
そうして夜の新宿をさ迷うこと数十分。
ジャニスは僅かな魔力の変動を感知して、人ごみの先にある列の出来た占い師を見つけた。

『本物・・・っていうより、そのまんま魔女って感じだねぇ』

 その視線の先にいるのは、白と黒で構成されたテーブルと衣装を着た高校生くらいの女の子だった。
その女の子は、水晶にかざした手を複雑に動かす。 その手の動きに合わせて軽い魔力が変動しているらしかった。
ジャニスは内心複雑なものを感じて列の最後尾に並んだ。

『魔女が占いをやってる街・・・想像できなかったねぇ。
プラハやロンドンにだってここまで堂々と魔女が占いをやってる街なんてないよ』

 プラハやロンドンにも多数の魔女がいるのだ。 決して表には出ないが、それを知る者が多いのも事実である。
しかし、この街では堂々と魔女が占いをやって、それが噂になって長蛇の列を作っている。
その異様な事実に内心複雑な思いはするが、それはそれ。
ジャニスも魔女である以上はその若き魔女に少なからず興味を抱いた。 そうして、並ぶこと数十分後。
ついにジャニスはその人物に出会った。

「うふふふ〜いらっしゃい〜。 でも、アナタが私に占って欲しい事なんであるの〜」

 その言葉は、ジャニスの正体を少なからず見抜いての言葉だろう。
見た目はいかにも魔女っぽいが、実際にはハッタリでしたってパターンの多いこの業界である。
半信半疑で訪れたジャニスは、目の前の若き魔女がある意味『本物』であることを確信した。
少なくとも、成長すれば最低でも自分の弟子達とほぼ同格くらいにはなるだろう。
あるいは自分をも超えるかも・・・そんな確信を抱いたのだ。
そこで、ちょっとしたイタズラを仕掛けてみることにした。

「へぇ、なかなかやるねぇ。 じゃあ、私の用件も当然分ってるよねぇ?」
「それは〜無理〜」
「でしょうねぇ。 そんなの私にだって無理だからねぇ」

 そのイタズラは見事にかわされ、ジャニスは多いに満足したようだ。 その笑みがますます深くなる。
どんなに優れた占い師でも、詳細な未来を・・・特に自分自身の未来を占う事はできない。
せいぜい、未来に起こりうる事態の概略を知れれば良い方だろう。
それは未来が、確定されない可能性の集合だからだ。 確定されない限り、それを観ることは出来ないのだ。

「それで〜、何を占えばいいの〜?」
「人探し。 いや、道具でもいいんだけどねぇ・・・呪いを解く道具なり人を探しているんだよ」
「呪い〜? どんな呪いなのぉ〜?」
「魔術を封じられた仲間がいてねぇ・・・正体不明の呪いだけに質が悪いんだよ。 手がかりすらない状態じゃお手上げさ。
それで、それをどうにか出来そうな人物なり道具を『観て』欲しいのさ」
「うふふふ〜なんだか面白そうな話ね〜」
「出来そうかい?」
「任せて〜」

 なかなかに腕のよさそうな占いであった。 しかし、この間延びした喋り方はどうにかならないのだろうか?
ジャニスは自分の事を棚に上げて、一心不乱に水晶玉に向かう若い魔女の事を眺めていた。







 来須はジャニス別行動をとると、新宿を大きく迂回して北区へ向かっていた。
目的地は北区にある骨董品店。 なんでもえらく古いお店で扱っている物も一筋縄ではいかない物ばかりらしい。
実は、来須もそのお店の事は知っていた。 いや、噂だけを知っていた。
東京のどこかに長い歴史を持つ、呪術的な商品を多数扱うお店がある・・・と。
今までは組織から武器を提供されていたので、そんなお店を利用する必要がなかったのだ。
しかし、今のように組織の援助を打ち切られると、そのようなお店の存在は非常にありがたいものだった。

 そうして、北区に向かうために環状線に乗っていた時。 来須は一人の女子高生をみつけた。
その子は・・・どうやら魔物にとり憑かれているようだった。 しかもそれに自分自分気付いていない。
このままではとり殺されるだろう。 出会ってしまった以上は、なんとかしてあげたいのが人の情である。
しかし、今の来須にはどうにも出来ない。 それが分っていながらも、来須はその人物の後を追う様にして駅を降りていた。
その駅は目的地からはまだ遠く離れている。

『何をやりたいんだろうな・・・オレは』

 そう自嘲気味に考えながら、足音もなくその少女の後をつける。 このへんはさすが組織に属する者、手馴れたものだった。
そうして後をつけること、数十分後。
その少女は店員すらいない寂れたゲームセンターの片隅にある一台の占いゲーム機に向かっていた。

『ゲーム機?』

 来須の見守る中、その少女は100円を投入して早速占いを始める。
その結果はなんだったのだろう? 少女は顔を真っ青にしてそばの椅子にうずくまってしまった。
その怯え様は凄まじく、手にした占い結果を握り締める指は真っ白に変色してしまっている。

『オレもやってみるか・・・』

 来須はその占い機に100円を入れると、画面に現われた色々な記号が乱舞するのを眺める。
そうして、気がついた時には・・・少女同様自分もとり憑かれた事に気付いた。

『まさか・・・こんな方法で憑くとはな・・・』

 そうして、数秒後。 占い結果を見た来須は呆然とする。

 〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜

  AGES、占いくんVer1.3を御利用ありがとうございます。
  あなたの本日の運勢です。
   金運:良し 健康運:最悪 運勢:無限凶 総合:最悪の運勢です
  アドバイス
   その場を動いてはいけません。 もしもこのお店から出たら・・・。
   あなたには死よりも辛い結末が待っています。

 〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜

「・・・なんだ? これは?」

 呆然とうなった来須に対して、それまでうずくまっていた少女が声をかける。

「あ、あの・・・占い結果を見せてもらえませんか?」
「ん? ああ。 これだが」

 そういって差し出したプリント用紙を見た少女は顔を青くして衝撃の事実を告げる。

「あの! その・・・本当に死にたくなかったら・・・この通りにするしかないんです。
こんな事言っても信じてもらえないかもしれませんけど・・・。
でも! この占い結果を信じないで今まで何人も死んでいるんです!」

 それは死刑宣告同様であった。 来須はこの店から出るなと言われたのだ。
そして、その話しが本当であれば・・・この店内に魔物が潜んでいるかも知れないのだ。

「・・・詳しい話しを聞かせてもらえるか?」
「はい・・・ところで・・・」
「ああ、自己紹介がまだだったな。 オレは来須狩夜という。 キミは?」
「わ、私は・・・大森 和子といいます」







『予定ではそろそろ連絡のあるはずの時間なんだけどねぇ・・・』

 そんな事を考えながら、ジャニスは北区に向かう道中で、先程まで一緒にいた若き魔女の事を思い出していた。

『うふふ〜、見付けた〜。 お探しの品は〜北の方角に〜。 多くの呪具の中にその勾玉は眠る〜。
ここから北の方角だと〜多分、如月くんのところじゃないかな〜』
『キサラギ? 骨董品店の事かい?』
『そう〜』
『アンタなかなか良い腕だよ。 精進するんだねぇ。 縁があればいつか交わる運命もあるだろうからさ』
『ううん〜。 多分、私はここにいると思う〜。 だって両親もいるし〜私を必要としてくれる人もいるの〜』

 こんな現実信仰者しかいない街で『魔女』として生きながら、そんな彼女を擁護する親と必要としてくれる友人達がいる。
それは魔女になったジャニスには与えられなかったものだった。
ジャニスにはうらやましかったのかもしれないし、奪いたくなかったのだろう。

『私の下で黒魔術を極めてみる気はないかい?』

 その一言が言えなかった。 素質はある。 筋も良い。 知識と洞察力も年齢からすれば、かなりのものだ。
自分の後継者として、ぜひ欲しい人材。 喋り方を抜きにすれば、まさに得がたい魔女のタマゴであった。
しかし、今の彼女が幸せそうであるだけに・・・ジャニスはその言葉をかけられなかった。
魔女になった者に、不幸な人生を送る者は決して少なくない。 自分達の世界に待つ末路は惨めで孤独な死が多いのだ。
その分、幸せな境遇にいる魔女に遭遇するのは、同じ魔女として嬉しくもあり、壊したくない幸せであった。
結局、お互いに名乗る事もせず、その若き魔女の元を去ったジャニスだった。

『せっかく、勧誘しに来たってのに・・・何をしているんだろうねぇ』

 きっかけは例の雑誌の投稿記事だった。
それには新しい着眼点による召還術についての論文らしきものがあった。

『強い《陽》のプラーナを持つ人間のプラーナと、自分の《陰》のプラーナと魔法陣上で反作用させる。
そうして得られた魔力で、通常の召還術よりも手軽でハイレベルな召還を行う。 これなら実戦でも使えるだろう。
今後の課題は、即時召還であるためにごく短時間しか召還しておけない魔物をいかにこの世に留めておけるか?
その一点のみである』

 要約すればこんな感じになる。 それは実に目新しく、その分興味をそそられる投稿だった。
実戦で使えるのかどうか謎ではあるし、そんな強い《陽》のプラーナを持つ人物がいるのかはもっと謎であったが・・・。
しかし、その自信に満ちた文章は、まるでその召還に成功したかのような書き方であったのだ。
もっとも、匿名投稿だったために、国籍しかわからなかった。 そのためにで今まで会うことを諦めていたのだ。

 そうして、今回の事件の情報収集中。 偶然にもその記事に関係ありそうな人物の情報がもたらされた。
昌平からもたらされた情報に、それらしい人物か、あるいは関連していそうな人物を見付けたのだ。
それで会ってみたくなり、来須の件も兼ねて会ってみた。 そして勧誘を断念することにした。
結果は不本意だが、これもまた運命なのだったのかもしれない。

 そんな後ろ髪を引かれる気分を吹っ切るように、ポケットから携帯電話を取り出すと来須に連絡をいれてみる。

「・・・圏外?」

 この東京で携帯電話の通じないのは地下くらいしか考えられない。 おそらく地下街にでもいるのだろう。
しかし、ジャニスはなぜか強い不安を感じている。
こんな時は自分の直感を信じる事にしているジャニスは、さらに数十分の間に数回連絡をとってみる。
しかし、やはり圏外。 これは何かあった。 そう考えるのに十分な動機であった。
そうして、今度は違う人物に電話を入れる。

「都合が悪いのは知ってるけど、どうしても手伝って欲しいんだよ。
・・・来須のダンナが姿を消したんだ。 もしかするとマズイ状況に巻きこまれている可能性が高いんだよ。
・・・ああ、確かにあの人なら多少の危険は自分で何とか出来るけど・・・今は特別なんだ。
・・・あの人は今・・・魔術の使えない体なんだよ。
だからさ・・・頼むよ。 どうしてもアンタとキリトの力がいるんだよ」

 その声は勤めて平静を保っている。 しかし表情はそうはいかない。 その顔は、今にも泣き出しそうになっている。
昌平に自分の思いを悟られては、いつか来須は死ぬことになるかもしれない。
そんな最悪の事態を避けるためにも、必死で声を作るジャニスだった。







 ジャニスが不安を感じていた頃。
大森は来須に『過去に起きた事件』のあらましを語り始めていた。

「最初は私のクラスメートだったんです。 その子が廃棄処分になったはずの珍しい占いゲームを見付けたって・・・」

 ゲームセンターの中の自動販売機で買ったジュースを手渡しながら、来須は大森の向かいの席に座る。

「それで、その奇妙な診断結果を一切信じずに・・・『最高のブラックジョークだ』って・・・。
何度も面白がって占っていました。 そうして・・・回を重ねるごとに占いの結果は酷い物になって。
最後には・・・総合で最悪の運勢ってなったんです。 それを彼女は面白そうにみんなに見せていました。
その日の帰り道・・・その子に向かって車が車道から突っ込んできたんです。
私・・・どうしてもその子の死の真相を知りたかったんです!
それで・・・日記帳を貸してもらってここの存在を知ったんです。 最初一緒に着てたクラスメートは全員死にました。
残ったのは・・・もう私しかいないんです。 なんでこの機械の占いは・・・こんな結果を生むのか。
それをどうして知りたかったんですけど・・・」

 そこまで言うと、大森は来須に数枚の占い結果を手渡す。
そこには『数日以内に再度占いをしなければ最悪の結末が訪れる』と書いてあった。
そうして・・・最後の一枚には『ここから出たら最悪の結末が訪れる』とある。 来須と似た診断結果であった。

「これを破壊するって手はないのか?」
「何度も壊しました。 でも、翌日には元通りになっているんです」
「・・・ただの占いゲームじゃなさそうだ」

 そういうと、来須は携帯電話を取り出す。 すると、携帯電話の画面には奇妙な文字が踊っていた。

「小癪なマネを・・・しかし、これでは外部と連絡がつかんな」

 薄暗く、各種ゲームの電飾で飾られた寂れたゲームセンター。 そこには都会に潜む魔物がいたのだ。
そうして、力を失った来須と、大森は閉じ込められた。

 そうして数時間が経った時。 その音は聞こえた。 時間は午前3時過ぎ。 まさに降魔ヶ刻だった。

「・・・なに?」

 その声は誰が発したものだったのだろう?

 パキ、ペキ、ピキ、パキ。

 おかしな音を立てながら周囲のゲーム機の蓋が開き、そこからいびつなフォルムを持った怪物が姿を表す。
その体は数枚の基盤と電気をショートさせる電線の束。 顔に相当するディスプレイには血まみれの亡者の顔。
その顔は苦悶するようでもあり、生者に体する憎しみのようでもあった。
これが・・・今までの被害者の末路だったのだ。 その魂は魔物に捉えられ、永遠の苦しみに苛まれている。

「く、来須さん!」
「オレの背後に隠れていろ」

 そんな二人に対してどっからともなく声がかけられる。

『キャハハハハア!! 諦めろィ!! オ・マ・エ・ら・の! 今日の運勢は最悪だぁああ!!』

 ついに本性を剥き出しにした怪物は、占いゲーム機の中であざ笑う。
それは白面でパッチの似合う邪悪なピエロ。 占いゲーム機の中に潜む悪魔の姿であった。

「どうしたら・・・」
「オレにもどうしていいか分らん」

 そうして電線をスパークさせながら近づく手下の魔物の集団に、二人はゆっくりと狭い店の片隅に追い詰められていく。
この東京の片隅の、ちっぽけな魔窟に二人は知らずに入りこんでしまったのだ。
そして、店から逃げれば待つのは死のみ。 まさに前門の悪魔、後門の呪い。 絶体絶命である。
それを後悔のなかで思い知った来須だった。



<続く>