|
ハンター。 それは闇の世界の住人から光の世界の住人を守るため創設された組織に所属する狩人の名称。 しかし、組織の創設から数世紀がたった今。 当初の理念から外れた行動も多くなってきた。 理想は地に落ち・・・依頼ならどんな汚い仕事でもやる秘密結社と化してしまった。 しかし、それでもオレは今でもこの組織にいる。 この組織が化け物に敵対する存在であり続ける限り、オレはここに留まるだろう。 オレがこの組織に入って何年だっただろうか・・・。オレは今でも初仕事の事を忘れられない。 オレの初仕事は実にシンプルな仕事だった。 それは・・・。 オレが射撃訓練施設にいたとき、その声はかけられた。 「ハンター来須、喜びたまえ。初仕事だ」 オレはその言葉を待っていた。 ハンターになって数ヶ月。 オレは地獄の訓練で身につけた巨大な精神力の制御方法を叩きこまれ、今では一通りの技を使えるようになっていた。 しかし、それも実戦で試さなければ本当に身についたかどうか分らない。 オレはとにかく化け物ども相手に暴れたかったのだ。 それがいよいよかなう時がきたようだ。 「わかりました。 それで私はどんな化け物を狩ればいいんですか?」 「そう急ぐ必要はない。 まずは話しを聞きたまえ」 「・・・どんな仕事なんですか?」 「掃滅戦。 ゴミ処理だよ」 「相手は?」 「ソンビーどもだ。 しかも数が多い。 よって『ジャッカル』と一緒に任務に当たってもらう」 『ジャッカル』。 組織の中でも特に異彩を放つ存在。 別名、ハイエナ。『血に狂った殺戮者』とまで呼ぶやつらもいるな。 それくらい徹底して破壊と殺戮を行う。 元々は誇り高い傭兵集団だったらしいのだが、今では組織に属する飼い犬同然だ。 命令されればなんでもやる。 まあ、オレとしても初仕事が頼もしい強者達と一緒だというのは心強い。 「わかりました」 「ところで・・・訓練の方は済んだかね?」 「はい。 これでノルマは終わりです」 オレはそういうと最後の標的。 鋼鉄の的を走らせる。 「聖者と聖霊の御名を持って魔を滅ぼしたまえ」 オレの精神力をこめて撃った弾丸は、厚さ数センチの鋼鉄の的の中心を撃ち抜く。 これも訓練の賜物だ。 今では普通の弾でもこれくらいの芸当は出来るようになった。 「・・・アーメン」 元々は敬虔なクリスチャンであったオレは『あの事件』をきっかけに神を捨てた。 それ以来、己の力だけを信じるようになったのだ。 しかし、オレの精神力を最も発揮させる事のできるキーワードがこれなんだから皮肉な話しだ。 「見事なものだ。 さっそく任地に向かってくれたまえ」 オレは輸送機の中で仮眠を取りながら数時間前の話しを思い出していた。 『キミに望む事はただ一つ。 生きて帰りたまえ。 それだけだ』 『どういうことですか?』 『ジャッカルの連中はハンターではない。 おっと、勘違いせんでくれよ。 確かに連中は優秀な戦闘集団だ。 だが、優秀ではあるが『ただの人間の集団』でしかない。 本物相手には歯が立たないのだよ。 今回は・・・本物に遭遇するかもしれん。 そのためにキミが同行するんだ』 『初仕事ですがね』 『経験うんぬんは関係無い。 キミはハンターなんだ。 それを忘れないことだ』 『・・・死ぬな・・・そう仰るんですね』 『そうだ。 君の価値は今回同行するジャッカル全員よりも高い。 この意味は分るな?』 『・・・分りました』 今回の任務は至ってシンプルだ。『ただ生きて帰ること』だけだ。 出来れば大物を仕留めたいが、いざとなれば一人でも帰って来い。 そういうことらしい。 確かにオレは新米ハンターとしては突出した能力をもっているらしい。 『人気商品』になれそうなオレに初任務早々死なれては、組織としても面白くないのだろう。 オレがそんな不愉快な結論に達したとき・・・。 「ハンター来須さん」 ジャッカルの新米らしい少年が声をかけてきた。 「来須でいい」 「じゃあ、来須さん。 アナタも初任務らしいですね。 ボクもそうなんです。 お互い生きて帰れるといいですね」 その新米と思われる少年は歳はまだ20にも満たないだろう。 緊張の余り、全身を振るわせていた。 彼らのような『捨て駒』扱いされる部隊の人間は、恐ろしく入れ替わりがはやい。 ジャッカルの平均帰還率は60%オーバー。 普通の人間で構成された部隊としては異例の高さを誇る。 しかし、生と死は半々であることに変わりはないのだ。 プレッシャーを感じて当然だろう。 「死を恐れないことだ」 「・・・え?」 「死神は恐れを抱いた者を好む。 蛮勇は唾棄すべきものだが、勇気を持つのは悪いことじゃない」 「そうですね・・・覚えておきます」 オレがかけた言葉に、輸送機の中のあちこちから舌打ちが聞こえる。 綺麗事を抜かすな・・・そう言いたいのだろう。 まったく・・・文句があるなら面と向かって言えば良いだろうに。 「・・・怖くないんですか?」 「何がだ?」 「その・・・死ぬことがです」 オレは精神力強化訓練で体験した度重なる『擬似死』のおかげで、どんなプレッシャーでも克服できる。 それには『死の恐怖』すらも含まれる。 「別に・・・オレは化け物どもを殺せればそれでいい。 生きて帰ればなお良いが、最悪でも・・・化け物は狩ってみせる」 「・・・強いんですね」 その少年の言葉に含まれた僅かな羨望と嫌悪感。 まあ、他人に理解できる考え方でないのは自分でも分ってるさ。 ジャッカルの連中がハイエナ扱いされるのと同じように、ハンターも魔術師同様『人外の存在』として認知されている。 確かに、ハンターの戦闘力は人間の範疇を遥かに超えている。 だから・・・普通の人間はハンターを忌避する。 一般人にとっては、オレも化け物同然の存在なのだろう。 オレの初任地は、山に囲まれたへんぴな村だった。 といっても、住人は数百人はいるだろう。 村の規模に比べて住人が多いのはこの辺りが農耕に向いた土地だったからだ。 そうして・・・そんな住みやすい場所には、例外無く獣と化け物も住みたがる。 いわばパワーゲームだ。 強い者のみが生き残る。 そうして住人は勝負に負けた。 そういうことだ。 「ハンターさんよ、アンタの役目はなんなんだい?」 オレはジャッカルの連中が本営を設置している間、ずっと村を観察していた。 そこに、いかにもといった感じの傭兵が声をかけてきたのだ。 「親玉の駆除」 「いればの話しだろ?」 「どうだろうな・・・しかし、いる可能性は高いな」 「なんで分る?」 バカにしたようなその問いかけに、オレは手にした双眼鏡を渡す。 「見てみろ」 「・・・お〜お、うようよいやがる。 こりゃあ狩りがいがあるぜ」 「村人の大半がゾンビー化しているようだ」 「そうらしいな」 「だが、やつらには仲間を増やす事が出来ない」 「まあ・・・食っちまうからな」 「なんであそこまでゾンビーの数が多いのか・・・オレはそこが気になる」 「それで・・・いるってか?」 「さあな。 行って見るまでは何ともいえんさ」 実際にここで得られた情報は、敵の雑魚が無数にいる。 それだけだ。 大物が潜んでいるのが何処なのかなんてのは、実際に村に入ってからしか分らない。 つまり・・・少数を犠牲にして本物の場所を特定するってわけだ。 それはオレの前にいる男にも分っているだろう。 今までがそうだったんだからな。 「あんたはいいさ。 オレ達が本物相手に四苦八苦してんのみてから動けばいいんだからな」 「心配するな。 オレも偵察には加わる。 お前らだけを死地に追いやるような真似はしない」 だが、実際には偵察の人間の犠牲なしには敵の居場所すらわかない。 それが・・・現実なのだ。 後は、オレが一番先に大物と遭遇できることを祈るのみだ。 周囲でジャッカルの連中の銃声と爆発音の響く中、オレは村の中心にある教会に辿りついていた。 ここならどこに現われても、すぐに駆けつける事ができるだろう。 その協会の中に潜むゾンビーどもを塵にかえしている時、その子供は現われた。 「ねえ、おじちゃんは病気じゃないの?」 「ああ。 もう安心していいぞ。 オレはゾ・・・病人を始末にきた」 「それじゃあ・・・もう助かったんだね」 「それより、この建物には他に病人はいるか?」 「ううん。 見かけなかったよ」 「そうか」 その子は今までこの教会の中に隠れていたらしい。 薄汚れているが、りっぱな生存者だ。 「明日の朝にはすべてが片付く。 それまでの辛抱だ」 「うん。 ボクはミシェル。 おじちゃんの名前は?」 「来須だ」 そのミシェルと名乗った少年は12〜3才くらいだろうか。 この教会で隠れていたので無事だったが、数日間に渡る緊張感はその少年から子供らしい表情を奪っていた。 無表情。 人間は絶望に包まれ続けた時、こんな顔をするのかもしれない。 「クルスおじちゃん・・・外に出たいからついてきて」 「家族を探しにいくのか?」 「うん。 ボクをここに閉じ込めて逃げていったんだ」 オレはその言葉に僅かな違和感を感じた。 しかし、薄暗い協会の一室で長い時間一人ぼっちで過ごした少年が、自分をそんな目に会わせた家族を怨んでもしょうがないだろう。 「ミシェル。 お前はここの閉じ込められたと思っているのか?」 「だって・・・」 「全てはお前を救うためだったんだろう。 そう考えてやるんだな」 「そう・・・なの?」 「たぶんな」 その少年はオレの言葉を聞くと、うつむいたまま教会から出ようとする。 「まて。 外はまだ危険だ。 人を呼ぶからそれまで待て」 「・・・」 この少年は自分の考えを確かめたいのかもしれない。 恐らくは家族と会って話しをしたいのだろう。 しかし・・・村人の生存率は0に近い。 少年の家族も無事だとは思えない。 それでも、この少年を一人にしておくわけにはいかない。 オレは無線で近くにいる者を呼ぶとミシェルの護衛と保護を頼んだ。 そして、待つこと数十分後。 ジャッカルから連絡が入った。 それは予想通り・・・戦死者発見の知らせだった。 その場所は表通りに面した路地の中ほど。 丁度表から死角になった場所だった。 人口が多いだけあって、この村は小規模な町のような町並みをもっている。 オレは市街地を想定した訓練場を思い出していた。 被害者は先程少年を連れていったやつだった。 その少年はすこし離れた場所で見つかっていた。 恐怖の余り、放心状態になっているらしい。 まったく・・・どんな化け物にあったのやら。 「怪我の様子は? 致命傷はなんだ?」 「鋭い鉤爪で首を始め数カ所。 致命傷は・・・何かで腹を刺し貫かれていますね」 爪か。 悪魔系の魔物は己の爪を武器にすることが多いと聞いている。 腹の傷は抜き手か・・・尻尾かもしれないな。 「断定は危険だが・・・悪魔かもしれんな」 「悪魔だと! そんな大物に今の兵装じゃ勝てやしねーぜ!」 「心配するなって。 そのためにハンターさまがついてきているんだろう?」 その言葉には不安が滲んでいた。 それはそうだろう。 いくらハンターとはいえ、新米だからな。 「オレじゃ役不足か?」 「そうは言ってねーけどよ・・・相手が相手だしな。 ここは逃げの一手が有効かもな」 「まあ、仕切り直しはいつでもできる。 今は敵の正体を掴むのが先決だ。 さあ、さっさとゾンビーどもを片付けてこい」 その指揮官とおもわれる男の言葉に、周囲に集まっていたやつらは散っていった。 唯一残った指揮官が見守るなか、オレは死体の銃を手に取って調べる。 「・・・おかしい」 「どうかしましたか?」 「この銃には、まだグレネード弾が残っている」 ジャッカル専用の特注品のこの銃は、改造マガジンで40発の鉄鋼弾とグレネード弾が装填できる。 しかし、一番強力な武器を使わないでそのまま死ぬなど、戦闘のプロにあるまじき振る舞いだとオレには思えた。 「とっさだったからなんでは?」 「一撃で殺されたにしては・・・上半身の傷がやたらと多い」 オレはそういうと、マガジンを抜き取る。 すると・・・。 「やっぱりな。 見ろ。 フルオートで撃ったらしいな。 弾がほとんど残ってない」 周囲の壁には何かを追ったかのような線状につながった弾痕が残っていた。 「ソンビー相手に撃ったんだと思いますよ」 「この路地にはゾンビーの死体がない。 周囲に散らばった薬莢と壁の弾痕がなによりの証拠だ。 こいつは、ここでグレネードを使えない理由があったんだ」 この路地でグレネードを使えなかった理由。 それが分らない限り、オレは敵に勝てないのかもしれない。 ジャッカルの戦死者はその日だけで3名。 ソンビーどもは全滅したが、肝心の大物に遭遇する前に一体何人の戦死者が出るのか・・・。 オレには悪い予感しかしなかった。 そうして日も沈み、電気の供給も途絶えたらしい村は闇に包まれた。 しかし、発電機が無事だったおかげで、この建物は闇に閉ざされる事を免れていた。 オレはジャッカルの生き残り十名と一緒に電気の点された食堂で簡単なミーティングを聞いていた。 「今日の戦死者は3名。 内一人は正体不明の怪物と交戦した形跡が残っていた。 まあ、のこり二人は運悪くゾンビーの密集する建物に不用意に踏み込んだせいで死んだんだがな。 お前らもそんな無様はしないように気をつけろ」 死んだ人間には一抹の同情も与えない。 それが彼らの流儀らしい。 生き残った者だけが報酬を貰えるってことだな。 「夜の見張りなんだが、ハンターさん。あんたはこの一階の部屋にいてくれ。 残りの連中は、5人ずつ4時間交代で休息をとる。 敵を確認したら躊躇せず撃て。 銃声でハンターさんが駆けつけるはずだ。 お前らの仕事は死なないで敵を引きつけておくことだけだ。 ハンターさん。 なんか言っとくことはあるか?」 そこまで話すと、指揮官はオレに話しをふってきた。 「見張り役が減ると困る。 だから死ぬな。 大物を狩るのはオレの仕事だ」 「・・・他には?」 「戦闘に入ったら遠慮せず撃て。 相手はこっちの常識の外にいる怪物だ。 躊躇すれば死ぬのはこっちのほうだ。 いざとなればオレもろとも化け物を撃ち殺せ」 「・・・分った。 聞いたな。 無理せず助けを呼ぶことを忘れるな」 短い会議が終わった後は、偵察組が宿の周辺を見て周り、残りの連中は部屋に戻った。 部屋は二人で一室。 あぶれた指揮官は少年といっしょの部屋にいる。 オレは自分に割り当てられた部屋に入ると、窓を開けてベッドに腰掛けた。 勝負は今夜だろう。 敵も自分の得意とする夜の時間帯を選んで攻撃を仕掛けてくるはずだ。 そうして、どれくらい時間がたっただろうか・・・。 オレの部屋をノックする音が聞こえた。 「おじちゃん」 その声は昼間の少年。 ミシェルのものだった。 「カギはかかってない。 入っていいぞ」 ミシェルは青い顔をして部屋に入ってくるなり、オレに告げた。 「上で・・・上のみんな・・・死んでるんだ」 「なに!?」 オレはミシェルを部屋に残すと、二階に駆け上がった。 そこには・・・無残に頭を砕かれた死体が5つ転がっていた。 「な・・・なにが・・・あったんだ?」 オレは今まで魔物の気配を感じ取れなかった。 確かに、オレは戦闘訓練では上位の成績を残しているが、探索などの技能は決して良い方の成績ではない。 しかし、これほど近くに敵がいたのに気付けないとは思えなかった。 敵は気配を殺してやってきてこの五人を順番に殺して去っていったとでもいうのだろうか? 5人の内、一人・・・指揮官の部屋では、指揮官は寝たまま頭を砕かれていた。 ほかの4人に共通しているのは、一人が背後から襲われたしいこと。 そうして、もう一人が呆然となっていたのか、応戦の跡もなくベッドに転がっていることだ。 その3つの部屋は隣接していたにも関わらず、中の連中は隣の部屋の惨劇に気がつかなかったようだった。 その天井まで血に染まった部屋を出た時、外から銃声が聞こえた。 「くそ! 今度は外の連中か!」 オレは自分の能力の過信からとんでもないミスを犯したらしかった。 敵に各個撃破という策をとられてしまったのだ。 オレは懐から銃を抜くと、外に飛び出すなり大声で生き残りの連中に呼びかけた。 「どこだ! なんでもいいから音をたてろ!」 オレの声に答えるように、近くの路地から銃声が聞こえた。 その路地に飛びこんで目にしたのは、屋根にまで飛び上がっていく尻尾の生えた化け物だった。 オレはその化け物に銃を向けたが、すぐに視界から消えたため撃つことはできなかった。 「くそっ・・・大丈夫か?」 その生き残りは、息も絶え絶えにオレに告げる。 「・・・アクマ・・・騙され・・・」 そういて息を引き取った。 致命傷は見るまでもなく腹部に大きくあいた穴だ。 敵はやっぱり悪魔らしい。 騙された? いや、騙されるなか? 一体、どんなヤツが相手なんだ? オレはその場から急いで離れると、おそらく唯一の生き残りであるミシェルを守るために宿に戻った。 ミシェルまでいなくなった部屋で、オレは途方にくれていた。 オレは今までの自信が音をたてて崩れるのを感じている。 今までの訓練の成果は何一つ生かせない。 敵は常にこっちの裏をかき、オレは後手に回り続けていた。 挙句の果てに味方を全滅させたうえに、ミシェルまで連れ去られてしまった。 「くそ・・・オレはなんて役立たずなんだ」 その声が聞こえたのか、どうか。 その肝心のミシェルが戻ってきた。 「・・・ミシェル・・・よかった。 無事だったのか」 「お風呂に入ってたんだ。 いままで教会で隠れていたからお風呂に入れなかったから」 ミシェルからは、ボディーソープの良い香りがしていた。 確かに妙にさっぱりした感じのミシェルは、風呂にでも入っていたんだろう。 「そうか・・・心配したぞ。 お前まで殺されたかと思った」 「運は良いみたい」 そういって薄く笑ったミシェルに昼間の陰はなかった。 極度の緊張から開放されてから数時間が、この少年の両親に対する思いこみを解消したのかもしれなかった。 それに汚れた体を洗えて気分も良くなっていたのかもしれない。 「朝までここにいろ。 オレが見張っている。 朝になったらこの町から逃げるぞ」 もうオレには手に負えない。 そんな最悪の気分だった。 「じゃあ、ボクもう寝るね。 ベッドの下に潜りこまないで寝るのなんて久しぶりだよ」 そういってミシェルはベッドに潜りこむなり眠りについた。 まあ、色々あって疲れていたのかもしれないな。 風呂上りらしく、ほほの上気した顔はいかにもこの世代の少年らしかった。 オレはミシェルの寝顔を眺めながら、今日一日の事を思い出していた。 輸送機の中で話した少年は哀れにもゾンビーとの戦いの中で命を落した。 同じようにゾンビー相手に命を落した人間がもう一人。 そうしてゾンビーとの戦いで生き残った人間も・・・オレの不注意が原因で全滅した。 しかし、敵はどんな怪物だ? いくら不意をついたといっても相手は強者ぞろいのジャッカルだぞ? 一発も反撃しないで惨殺されるなんて事がありえるのだろうか? 外での遭遇戦では反撃していたにも関わらず、一方的に殺されていた。 戦闘力は決して低いものではなさそうだが・・・。 これは、オレのミスだろう。 今にして思えば、連中を帰してオレ一人だけ残ればよかったのだ。 変に自分の能力を過信したせいでこの有様だ。 己の経験不足が今になって悔やまれる。 しかし・・・よくミシェルはベッドの下にいただけで助かったものだ。 本人のいうように運が良いのかもしれない。 こうなった以上は、ミシェルだけでも救いださないとな・・・。 そうして、緊張と後悔に満ちた一夜があけた。 朝日が闇を駆逐し始めた頃。 朝もやの漂う中をオレはミシェルの手を引いて歩いていた。 今度こそ油断しないように、銃はもう抜いてある。 「おじちゃん・・・ボクまだ眠い」 しょうがない。 オレは銃をズボンのベルトに挟むとミシェルを背に背負うために背中を向けて座り込んだ。 「背負ってやるから掴まれ」 「うん」 その時、ようやく山の頂上を超えた朝日がオレ達二人を照らし出した。 その影は、長く伸びて民家の壁にオレ達二人の影を映し出していた。 そうして・・・ミシェルの影には尻尾が生えていた。 「聖霊の矢よ!」 オレは躊躇もなく自分の腹ごと背中におぶさってきたミシェルを撃ちぬく。 『ギャァアアアアアアァァァァァァ!!』 ミシェル・・・いや、悪魔はオレの背中から吹き飛ばされて地面に転がった。 オレはようやく全てを理解した。 悪魔は・・・こいつだったのだ。 それなら全ての疑問に答えがでる。 今までも、子供のふりをしてジャッカルの連中の目を誤魔化して不意打ちしてきたのだろう。 「く・・・化け物め・・・よくも・・・コケにしてくれたな」 オレの苦痛をこらえた声を聞きながら、その子供の姿をした悪魔は耳障りな声で高笑いした。 『ギャハハハハ・・・間抜けな人間め。 運が良いな。 しかし、お前もその傷では助かりはしないぞ!』 オレは血の噴き出す腹部に掌を当てると、ゆっくりと精神を集中させる。 すると、傷は一応塞がった。 しかし、無理に動けば再び開くだろう。 「残念だったな。 この程度でオレは死なん」 オレはそういうと、未だにあきらめていないらしい悪魔に祝福された弾丸を全部撃ちこんだ。 『ギャア!、ギェ!、ギャ!、ギャアアアア!、グエ!・・・・人間め・・・何を・・・』 オレは痛みに苦しむ悪魔の尻尾を踏みつけると、足に精神力を集中させて踏み壊した。 尻尾が灰になった痛みに再び悲鳴をあげる悪魔。 その悪魔を前にして、オレは『憎しみ』という真っ黒な感情に己が支配されていくのを感じていた。 「ク・・・クククク・・・お前、オレをここまでコケにしておいて楽に死ねるとでも思っていたのか?」 『コ・・・コノ・・・悪党が!』 悪魔の悔し涙をみたオレは、極上の美酒を飲んだように浮かれていた。 「ハハハハハハッ! そうだ! 苦しめ! のたうち回れ! 痛みに泣き叫べ! 命ごいでもなんでもしてみろ!! 貴様らのその声を聞きたくて、オレはハンターになったんだからな!」 そうして、オレは手持ちの弾丸全てをゆっくりと時間をかけて悪魔にお見舞いしてやった。 弾が尽きると、今度は近くにあるものを選んでは叩きつけた。 叩きつけるものがなくなると、今度は殺さない程度の精神力を足に込めて蹴りつける。 足が疲れてくれば殴りつけ、腕が疲れたら再び蹴りつけた。 それはまさに拷問同然のなぶり殺しだった。 そうして、悪魔が死にかけると死なない程度に傷を癒してやり、再び責め続けた。 その悪魔が、ようやく死ねる事に涙しながらオレに頭を踏み潰されたのは、その日の昼になってからだった。 オレが貧血を起こしながら回収場所に到着したのは、それから数日後のことだ。 ジャッカルをミスから全滅させたことに叱咤は免れないと思っていたのだが・・・。 「ハンター来須。 よく任務を達成した。 今はその傷の回復だけを考えるといい」 「はい・・・ところで・・・」 「どうした? 他になにかあるか?」 「いえ・・・ジャッカルの件なんですが・・・」 「ああ。 キミは任務を果たした。 それだけで十分だ。 その上、大物まで仕留めたそうだな。 よくやった」 所詮は捨て駒なんだから気にするな。 そういいたいらしいな。 反吐の出そうな考え方だ。 「・・・わかりました」 こうしてオレは『後悔』と『苦痛』と『暗い喜び』に包まれた初任務を終えた。 オレはまだまだハンターとしては半人前どころか駈け出しのヒヨッコ。 素人同然だ。 だが、オレはこの命ある限り・・・あいつら化け物を狩り続けてやる。 あいつらの悲鳴を、泣き声をあの世まで響かせてやる。 それが・・・あの日、化け物に皆殺しにされた家族へ対する鎮魂の歌となることを信じて。 <終わり> |