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東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ7 作;雪乃丞

外法兵器 《転》






昭和12年12月−南京

 その老人は軍の管理するある施設を訪れていた。

「ようこそ、南京兵器開発局へ」
「ワシをわざわざ呼び出したんだ。 それなりの成果があがったと考えていいんだろうな?」
「もちろんでございます。 では、さっそく地下の実験施設へ」
「ここは化学兵器を研究しているそうだな」
「いいえ。 もっと凄い兵器を開発しています。 今日はその兵器の視察と伺っておりますが?」
「そうだ。 予算が欲しければワシを満足させるんだな」

 その老人は尊大な態度で研究員を脅しつける。

「では、この部屋の中をご覧下さい。 丁度、実験が始まる時間です」
「部屋の中で実験? 何を実験しているのだ?」
「生体爆弾とでもいいましょうか・・・生きた爆弾を作る力があるんです」
「ほう、面白いな。 興味が沸いたぞ。 見せろ」
「はい」

 その言葉に、研究員は窓にかけられていたカーテンを開けた。
その中には床で痙攣する数名の男性と、その中心に抱き合う格好で座り込んだ二人の幼い男女がいた。
その二人は肌と髪の毛が白く共に痩せており、男の方は、体のアチコチに包帯を巻いていた。

「・・・白いガキどもがなんで爆弾を作れるんだ? ワシを馬鹿にする気か?」
「滅相もございません! あの子達は人の心を砕く力を持っているんです!」
「そんな武器役に立つか! ワシはもっと大量に殺せる兵器が欲しいんだ!」
「ここからが本題です。 その子の周囲にいる人間はみんな・・・生きた爆弾になるんです。
あの子、ヒミコの感情の爆発がトリガーになって爆弾になるんです」
「ヒミコ?」
「あの白い女の子のことです。
我々は恐れをこめる意味もあって、あの子にヒミコという名をつけているんです。
まあ、元々は卑弥呼がルーツですが・・・」

 それから研究員は、その老人に必死にヒミコの能力について説明した。
それを聞きながら、尊大な態度の老人は研究員を怒りを込めた声で問いただした。

「・・・どれくらい殺せるんだ?」
「は? どれくらいとは?」
「戦艦や戦闘機を落すのに使えるかと聞いておるんだ!」
「まだ実験中です。 どれくらいの範囲であの子の能力が有効かはわかってないんです。
それに理論上、その能力があると思われるだけで、まだ一度も成功していないんです」

 申し訳なさそうな声に、老人の怒りは頂点に達した。

「わ・・・ワシこんな訳のわからない実験のために・・・資産を使い果たしたのか・・・」
「もう実験は最終段階まできてます。 もうすぐ成果がでます!」
「・・・見せろ」
「は?」
「今すぐ見せろ! ワシはこの実験に全財産を投資したんだ! こんな小奇麗なガキ一匹で満足できるか!
敵国の半分くらい殺せるというからワシは投資してきたんだ! 今すぐ成果を報告せねばワシは破滅だ!」
「しかし・・・まだ一度も成功してないものを、今すぐ見せろと言われても・・・」

 実験中の物を見せろという、老人の要求の方がムチャなのだ。

「ええい!ラチのあかんヤツだ! 感情がどうとか言っていたな! 死にかけたらその力も発揮できるだろう!」

 研究員は、老人が銃を抜いてその部屋へ通くドアを開けようとするのを必死でとめた。

「ま、待ってください! そんなことをされては!」
「ええい! ジャマをするな! この役立たずが!」

 研究員を持っていた銃で撃ち殺した老人は、部屋の中にはいり込んだ。
そうして、兄にしがみついて震えるヒミコに歩み寄ろうとすると、その前に兄である少年が無言で立ちふさがった。

「・・・」
「どけ! ガキ! 貴様も殺してやろうか! この失敗作どもが!」
「・・・」

 少年は無言のままに、わめき散らす老人を睨みつける。。
その少年の体から沸き出た力は、怒り狂った老人の心を激しく締めつける。

「がぁぁあああぁぁっぁぁっぁ!」

 その悲鳴も、老人の銃が少年の体を打ちぬくまでだった。

「ハァハァ・・・飼い主に歯向かうペッドは・・・処分だ」

 そういって勝ち誇った老人の足元に崩れ落ちる少年。
その姿を見たヒミコの目に、おそらく生涯始めてであろう怒りと悲しみの感情が宿った。

「オ・・・オニ・・・イチャン・・・イヤァアアアアアアァアァァァァァァァァ!」

『『『イヤァアアアアアアアァァァァァァァァァ』』』

 ヒミコの悲鳴は周囲で痙攣していた人間と、研究員にも及んだ。
その叫び声は、なぜか老人を除く人間全員に伝播して、大合唱となっていく。
ヒミコの外法兵器としての能力が、暴走という形で始めて発動されようとしていたのだ。

「ええい! 黙らんか! 黙れ! 馬鹿者どもが! ワシを誰だとおもっとるんだ! ワシは・・・」

 うろたえ、わめき散らす老人の周囲で悲鳴をあげていた人間が次々と爆発するように砕け散っていく。
部屋は白から、どす黒い赤に染まり、その施設を・・・ヒミコを中心に『死の波動』が吹き荒れた。

 ヒミコから噴き出した『死の波動』は老人に襲いかかり、その体を粉砕していく。
粉微塵に砕けていく己の体を無感情に眺めながら、狂った老人の心には狂喜が踊っていた。

『こ・・・この兵器なら・・・亜米利加を・・滅ぼ・・・せ・・・』

 その日。 南京にいた30万人ちかくの人間が消滅した。

 それは後に南京大虐殺と呼ばれる事になるが、それを証明できる物は何も残っていない。







昌平宅‐夕方

 たった数時間の外出のはずなのだが、そこで語られた内容は昌平の精神を疲弊させていた。

『ヒミコが・・・外法兵器だってのか?』

 ジャニスの語った『妹』から、あの天下泰平楽なヒミコを想像することはできなかった。
しかし、ヒミコ本人は・・・命を狙われると言っていなかったであろうか?
それを考えると、やはりヒミコが外法兵器なのだとしか考えられなかった。

 自分のマンションに辿りついて、部屋に入ろうとしたところで、背中に何か固いものが押し付けられた。

「アナタ風守昌平サンですネ? 黙ってあのコ渡してくだサイ」

 そのたどたどしい日本語から相手は外人だと分ったが、なぜこんな事になったのかは理解できなかった。

「あんた誰だい?」
「何処デスか? あの白い子供デス」
「・・・知らないよ」
「アナタ・・・オニイチャン呼ばれてましたね? あなた目撃者たくさんいますヨ?」
「・・・まいったな。 盲点どころか・・・筒抜けかよ」
「・・・サア、答えなサイ」

 その時、昌平の周囲を懐かしい感触が覆う。

「それはあんまり良い選択とはいえないねぇ」

 その声は背後の外人のさらに後ろから聞こえてきた。 いうまでもなくジャニスである。

「・・・とんだジャマが入りましたネ」
「あんたらの一番偉いタイショーに伝えな。
そんなに国民を皆殺しにしたいんなら、自分の白い家にICBM落してから考えなってねぇ」
「・・・ワレワレは諦めるとイウこと知りまセン。 敗北もありまセン。 正義でアルために勝つのデス」
「それも国民の支持あってのものだろう?」

 その男は、さらに懐から銃を取り出して、ジャニスに向ける。

「アナタ・・・魔法使いとかイウ、オカシな奇術師ですネ?」
「奇術? 私のは全部リアルだよぉ? アンタ・・・いっぺん死んでみるかい?」
「おっと、動いてはダメですヨ?
レディーを殺すのは心が痛みマスが・・・こいつの命ガ惜しければ何もセズ死になサイ」
「へ! チキンヤロー、やれるもんならやってみろ!」
「チキン? ボーズ、死にたいのか?」

 紳士ぶった仮面を捨てた男に向かって、昌平の後ろ蹴りが飛ぶ。
それは簡単に受けとめられ、反対に蹴飛ばされて壁に叩きつけられた。
しかし、昌平は毛ほどの痛みも感じない。 反対に蹴飛ばした足の方が激しい痛みを感じていたほどだ。
全てはジャニスの防御魔法のせいなのだが、それはこの男の理解出来ることではないだろう。
 そこにジャニスの電撃が炸裂した。
その電撃の力はスタンガンなどの比ではなく、髪の毛を坂立たせた男は吹き飛ばされて床に倒れこんだ。

「一丁あがりだね。 どうする? コイツ?」
「スマキにして川にでも放りこみますか?」
「面白いねぇ。 やろうやろう」

 そうして、哀れな○Sネイビーの人は結構な流れのある川に放りこまれましたとさ。







 昌平が予想外のアクション・シーンを演じている頃。

 キリトは疲れていた。
初体験の絶叫マシン10連発は、彼の覇気を奪っていた。
スピード命のカマイタチらしからぬと思われるかも知れないが、拘束されての高速移動など始めてであったのだろう。
その顔には疲労が色濃くあらわれていた。

「少し休まないか?」
「うん。 いいけど・・・」
「どうした?」
「あれ・・・美味しそう・・・」

 視線の先にはソフトクリーム。 定番と言えば定番であるかもしれない。

「買ってくるといい」
「え? いいの? ありがとう、キリトお兄ちゃん!」

 そういって代金を渡すと、嬉しそうにその売り場に走っていく。
その後ろ姿を見つめるキリトの視界を、数人のスーツを着た男達が遮った。

「済まないが、職務質問ってやつだ。 ついてきてくれるか?」

 そういって、ベンチに座ったキリトの両手を左右から掴もうとした男達が次の瞬間、硬直する。
キリトの両腕の掌からは、真紅と銀色の長大な鎌が生えていたのだ。
その二本の鎌は、それぞれ切っ先を左右の男達の咽喉に当てていた。
突然の事態に硬直する男達に、キリトは冷たい笑みを浮かべて告げる。

「人間は人間だけを相手にしていろ。 オレのような存在に関わると大怪我をするぞ」
「・・・どんなトリックか知らんが・・・歯向かうとロクな目に合わんぞ」
「去れ」

 そう告げて両手の鎌をしまうと、左右の男達は慌てて逃げて行く。
しかし、正面の男はまだ諦めていないようで、懐に手を突っ込んで、銃を取り出す。
その銃をキリトに向けた瞬間、銃は真紅の閃光によってバラバラに切り刻まされた。
接近戦でキリトに勝てる人間など、おそらく存在しないだろう。

「・・・次は何を出す?」

 その声に、抵抗をあきらめて逃げていく男を見ながらキリトは、ヒミコの姿を探す。
すると、ヒミコも数人の男に囲まれていた。

 手だしするべきがどうか悩んでいると、その男達が気を失ったように倒れこんだ。

『やはり・・・あの子は人とは違うようだな』

 そうして、自分自身の行いの結果を悲しそうに見つめるヒミコの肩を抱くと、そのままその場を後にした。
後の騒ぎなど、知ったことではなかった、

「・・・キリトお兄ちゃん」
「気にするな。 自分を守ることは悪い事じゃない」
「・・・でも」
「お前のことを害しようとした報いだ。 そう考えておけ」
「・・・お兄ちゃんに嫌われないかな?」
「大丈夫だ。 オレは酷いヤツだが、あいつはオレとの共存を望んでくれた」
「キリトお兄ちゃんって、どんな人なの?」
「・・・お前は妖怪というものを知っているか?」
「う〜ん、聞いたことあるよ。 ザシキワラシとかいるんだよね」
「そう。 オレはその妖怪の一種だ。 人ではないんだ」

 そういって掌から少しだけ鎌を生やす。

「わ! 凄いね・・・これ本物?」
「本物だ。 これで今まで散々人を・・・切ってきた。 もう何百年も前の話しだがな」
「そうなの? でもキリトお兄ちゃんは・・・きっと優しい人だよ」
「優しい・・・か?」
「うん。 優しいよ」
「そうか」

 その言葉は、キリトの心にゆっくりと染みていくのだった。







 そうして数時間後。

 遊園地から疲れ果てたキリトが帰ってきた。 ヒミコはその背中で熟睡中である。
そうして部屋に入るなり・・・固まる。

「・・・なんで魔女がここにいる? なんでお前は魔女の作ったメシを食っている?」
「美味いぜ? これ?」
「しかもなんで味噌汁やご飯や卵焼きなんだ? なんで和食なんだ? お前は外人なんだろう?」

 確かに基本中の基本のような・・・典型的な和食メニューが並んでいた。
キリト愛用のエプロンを身につけているところをみると、作ったのはジャニスらしい。

「まあ、色々思うところがあってねぇ。 和食を覚えたんだよ」
「ジャニスさん、おかわり貰えます?」
「はいよ。 アンタも食べるかい?」
「・・・とりあえずこの子を寝かしてくる」

 追求をあきらめたキリトは、ベットにヒミコを寝かせると電気をつけたままその部屋の扉を閉めた。

「お茶はあるか?」
「ああ、あるよ。 玄米茶とは渋いセレクトだねぇ」
「・・・ほっといてもらおうか」

 それでも湯のみに注がれたお茶は不思議と美味かった。

「・・・昌平。 メシが終わったら事情を聞かせてもらえるか?」

 食事の終わった昌平から聞かされた話しは、キリトの眉をしかめさせた。

「・・・それで? お前らはあの子をどうするつもりなんだ?」
「できれば・・・殺したくはないねぇ」
「オレはなんとかする方法を探したいと思う」
「なんとかする? どうにかなる代物なのか?」
「わからない。 でも・・・諦めて良い事じゃないだろ? どうにかしてやりたいだろ?」
「・・・アンタの望みが叶うといいんだろうけどさ。 事態はそんなに簡単には収まらないと思うよ?」

 ヒミコを狙う人物はこれからも来るであろうからだ。
そうなっては・・・まともに生活することすら難しい。
今や世界一危険で平和な部屋の住人となった昌平は、決断を迫られていた。

「とりあえず・・・ここを出よう。 今度は手榴弾でも投げこまれるかもしれないしな」
「そうだねぇ。 私もついていってやるよ」
「・・・魔女の護衛か?」
「せめて名前で呼んでくれないかい?」
「・・・なんでです? 来須さんを裏切るんですか?」
「来須に好きにしていいって言われているんだ。 ・・・あの人も迷っているんだとおもうよ」

 すべての事情を知っているからこそ・・・来須は迷っているのだった。







 その日の夜。

 来須は本部に電話をかけていた。
もはや彼にもどうしていいか分らなかったのかもしれない。

「いよいよ他の組織も動き出しました。 もう収集のつかない騒ぎになるかもしれません」
『そうか。 そろそろ各国も嗅ぎつけて動き出してくるころだろうとは思っていた。
最新情報だ。 さっき『白い家の家主』が決定を下した。
これから24時間以内に外法兵器を破壊できなかった場合・・・TOKYOを地図から消すそうだ。
すでに横須賀を始めとする各基地に撤退命令も出た。 やっこさん、どうやら本気のようだな。
日本はもう一度核の悲劇を味わうことになるかもしれん』

 来須は思わず自分の耳を疑った。

「・・・正気ですか? 世界経済がひっくり返りますよ?」
『人類が滅びるような武器を作った責任をとらせるそうだ。
まったく、あきれた理論だ。 核兵器を腐るほど保有しておいて何を言っているのやら。
まあ、そういう事だ。 24時間以内に外法兵器を破壊しろ。 これは依頼ではない。 命令だ』

 依頼ではなく命令。 これは組織に属する来須にとっては絶対的なものだった。

「もう手段は選ぶな・・・そうおっしゃるんですね?」
『そうだ。 非常手段でもなんでも使って、なんとしても破壊しろ。
世界経済の破綻は組織にとっても良い結果は生まないし、不本意の極みだ』

 24時間の制限時間の中。 来須達はそこに住むすべての人間を守るため、一人の少女の抹殺を決定した。



<続く>