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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 妖怪ハンターシリーズ7 作;雪乃丞

外法兵器 《承》






昭和13年−第二次世界大戦中

 船の甲板に二人の初老の男がたたずんでいる。
その視線は、目の前で水面に降ろされていく鋼鉄製の棺に向けられていた。
その棺の蓋は溶接され、生半可な事では開かないようになっていた。

「本当に捨てていいんですか? これは私達を・・・日本を救う最後の手段なんですよ?」
「いいんだ。 こんな厄介な『物』は二度と見つからない場所に捨ててしまうに限る。
それともキミは世界を・・・人類を滅ぼしてまでも国を守りたいのかね?」
「・・・そうですね。 南京の悲劇はもう二度と繰り返してはいけませんね。
こんな『物』あってはならないんですね・・・こうするのが、一番良いんですね」

 海に沈んでいく棺を見つめる二人の男性の目には、明らかな『恐怖』が浮かんでいた。

 その棺からはかすかに何かの音が聞こえていた。 それは弱々しく蓋を叩く音だった。
耳を当てれば中で弱々しく響く泣き声すらも聞こえるかもしれない。

『・・・アケテ・・・ココカラ・・・ダシテ・・・』

 その棺には・・・『誰が』が生きたまま閉じ込められていたのである。







昌平宅‐深夜

 明るく照らされた室内で心地よさそうに眠っているヒミコを眺めながら、昌平はキリト相手に酒を飲んでいた。

「しかし驚いたな。 部屋を暗くしただけであんなに泣き出すとは思わなかったよ」
「暗闇を恐れるのは人の本能だ。 しかたあるまい。 まあ、この子の場合はちょっと度が過ぎているがな」

 それは数十分前の話しだ。
風呂からあがったあと、眠たそうにしていたヒミコをベッドに寝かして部屋の電気を消した時。
突然ヒミコが泣き出してしまったのだ。 どうやら暗い部屋が怖かったらしい。
それで、電気をつけたまま眠っているのだ。

「しかし・・・無邪気なもんだな。
命を狙われてるって本人がいってたのに、こんなに気持ちよさそうに寝てるんだからな」

 その言葉を聞いたキリトは、グラスに残った日本酒を一気に飲み干すと、ため息混じりに告げる。

「お前と出会ったのが・・・偶然なら良いんだがな」
「・・・何が言いたいんだ?」
「お前のように人外の者と少なからず因縁を持つ者は、オレ達のような人外の者と出会いやすい。
あの子からはわずかにオレ達と同じ気配がする。 あるいは・・・人とは違う生き物なのかもしれん」
「それで? 人でないというだけでこの子を拒絶するほど腐っちゃいないぜ?」
「お前はそうかもしれんがな」

 苦笑混じりにそういってキリトは一升瓶から酒をグラスに注ぐと、半分ほど飲み干す。
かなりのハイペースではあったが、酔った気配は微塵も見せていない。
いや、そもそも酔うという感覚はキリトにはあるのだろうか?

「お前・・・頼むから暴れないでくれよ。 お前が酒のんで切れたら止める事の出来るヤツなんていないぜ?」
「心配するな。 酒は強い方だ」
「その妙な自信が心配の種なんだよ・・・」

 酒に酔って、縦横無尽に暴れまわる超音速の空飛ぶ刃・・・イヤ過ぎる想像であった。

「どうも、お前は話しの腰を折る傾向があるな」
「ああ、そうだった。 それで? ヒミコがどうしたって?」
「この子はお前のことを慕っている」
「ああ。 オレは、この子のお兄ちゃんにソックリなんだってな」
「では兄はどうなったのだろうな?」
「え?」
「この子は両親の死は平然と受け止めているらしい。 しかし、兄の事には決して触れようとしない」
「そういえば、そうだな」
「この子の過去に一体何があったのか・・・オレはそこに何か似た境遇を感じるんだ」
「・・・酷いトラウマでも抱えてるってのか?」
「さあな。 オレはオレの感じたままを言っている。 事実はこの子だけが知っている」
「こんな小さな子に・・・いつまでも一人で抱え込ませていたくはないよな」
「そうだな。 お前はオレの死にかけた魂を救った。 今度はこの子の魂も救ってやってくれ」
「・・・オレに出来る事なら、なんでもやってやるさ。 それでこの子の魂が救われるならな」

 二人の視線の先には、涙を流しながら眠るヒミコの姿があった。







 翌朝。 昌平は明るすぎる部屋の床で眠ったせいか、すこぶる目覚めが悪かった。
そこに電話がかかってきた。 朝っぱらからかかってきた電話に眠い目をこすりながらでる。

「はい。風守です」
『昌平、今日時間は空いてるかい?』
「・・・ジャニスさんですか?」
『流石にすぐ分ったみたいだねぇ。 オネーサンは嬉しいよ?』
「あなたの喋り方は独特ですから」
『ますますアンタを弟子にしたくなったよ。・・・まあ、冗談はこれくらいにしとこうか。
今日はアンタに聞きたい事があるんだ。 2時間後に駅前の喫茶店に来て欲しいんだよ。
アンタも訳もわからずに命を狙われたくはないだろう?』
「・・・わかりました。 2時間後ですね」
『待ってるよ。 あと、来須は来ないからそのつもりで準備しておくんだね』
「いいんですか? そんな事言って」
『貸しにしとくよ。 魔女に貸しを作ると後が大変なんだよ。 それがイヤならちゃんと待っておいで』

 そう告げると、電話が切れる。

「こんどは魔女がお前に用か? お前も色々と忙しいな」
「オレの周囲はハンターに魔女にカマイタチに正体不明の謎の少女っと・・・まるで人外魔境だな」
「寝ぼけてないでさっさと準備しろ。 どうせお前の留守中に何か起こる可能性が高いんだろう?」
「ああ。 多分来須さんが来る。 お前はヒミコをつれて遊園地にでもいっててくれ」
「・・・分った」

 そういうと、昌平は盗られて困るものをまとめカバンに詰めると、出かける準備をする。
そこにヒミコが起きてきた。

「おはよ〜」
「ああ、おはよう。 今日はキリトに遊園地にでも連れていってもらってくれ。
オレはちょっと用事があるから出かけてくるよ」
「は〜い」

 まだ寝ぼけているようであった。 ヘタに泣かれても厄介なので、昌平はそのままでかける事にした。
部屋に残ったのは、まだ寝ぼけているヒミコと朝食の準備をしているキリトだけだった。

「キリトお兄ちゃん、ユウエンチって何?」
「楽しくて安全なトコロだ」
「安全?」
「ああ。 人が多いからな。 お前も安心して遊べる」
「そうなの?」
「さあ、顔を洗ってくるといい」
「は〜い」

 洗面所に向かったヒミコを見つめるキリトの目はただ優しかった。
それはヒミコの境遇に、今は亡き弟を重ねていたのかもしれない。







 昌平は駅前の指定された喫茶店のテーブルでコーヒー片手に新聞を読んでいた。
そこに白を基調とした派手なスーツを着た女性が声をかけてきた。

「ちゃんと来たみたいだねぇ」

 その女性は昌平の向かい側の椅子に腰掛けると、自分もコーヒーを注文した。

「ジャニスさん。 相変わらず白の服が似合いますね」
「お世辞は結構だよ。 まあ、似合わない色だっていうのは自分でも分っているんだけどねぇ。
なんか黒ってのはイメージじゃないんだよねぇ」
「・・・ホントに魔女なんですか?」
「それは来須にもさんざん言われているよ。 荒事に向いた色の服にしろってねぇ」
「荒事に向いた色?」
「黒だよ。 血が目立たないだろ?」
「・・・それで、いつも来須さんは黒の服を着ているんですか?」
「らしいよ。 あの人もいつか白の服を着れるといいんだけどねぇ」
「そうですね」

 二人の間に短い沈黙が流れる。 それを破ったのはジャニスの方だった。

「無駄話はこれくらいにして本題に入ろうか。 どうやってあの病院から逃げ出したんだい?」
「・・・なんであんなマネしたんですか?」
「皆殺しのことかい?」
「・・・はい」
「必要だったからさ。 どうしてもやらなきゃいけない。 しかたない。 こんな言葉を信じるかい?」
「聞かせてください。 なんであんなマネをしたのか、なにをしたかったのか・・・。
それを聞かせてくれれば・・・オレの方も全部話します」
「いいよ。 でもそっちが先に話して欲しいねぇ。 こっちの話しは長くなるからねぇ」
「分りました。 二郎が一緒にいたんです。 それで・・・」
「なるほどねぇ。 ・・・あいつ生きてたのかい?」
「はい。 今は風守切人って名乗ってます」
「切人?」
「はい。 自戒を込めてっていってました」
「なるほどねぇ」
「私達の一族はこれからは彼と一緒に生きて行くんです。 それが彼らに対する罪滅ぼしだと思います」
「強いね・・・アンタは」

 そこには、始めて会った時から変わらぬ優しさと心の強さを持った少年がいた。
それが嬉しくもあり、悲しいジャニスだった。

「ところで・・・子供を知らないかい?」
「子供?」
「ああ。 白い髪の子なんだけど・・・」
「・・・そんな女の子は知りません。 今度はそっちの番ですよ?」

 丁度、その時コーヒーが運ばれてきた。
そのコーヒーを一口飲むと、ジャニスは話し始めた。

「まあ、アンタはヒミコって子の事を知らないことにしといてあげるよ。
子供って聞いて、女の子って答えたことまで含めてね」

 何も言い返せない昌平に笑みを返すと、ジャニスは静かに話し始めた。

「話しは50年くらい前にまで遡るんだ。
当時、日本の軍隊では・・・呪術的な研究が行われていた。 ここまでを、まず信じておくれ。
その研究の中心には『外法』と呼ばれる呪術があったんだよ」
「外法?」
「ああ。私も詳しくは知らないけど・・・えらく古い魔術らしいねぇ。
なんでも卑弥呼とかいう呪術士が使っていた特殊な呪術で、大地の力まで操れる程のものだったらしいけどねぇ」
「卑弥呼って、あの教科書に載ってる?」
「らしいよ」

 話しは日本の古代まで遡っていた。

「また・・・随分と古い話しですね」
「そうだね。 でもそいつの残した魔術のせいで・・・とんでもない化け物が生まれたんだよ」
「化け物?」
「ああ。 二次大戦で生まれた・・・関東軍の最終兵器さ」
「兵器? 生物なんでしょう?」
「生物兵器ってやつだね。 元々は暗殺者を作っていたらしいんだ。 人の心を砕く暗殺者をねぇ」

 話しはどんどん理解不能な領域に入り込んでいた。

「なんかマンガにでも出てきそうな話しですね」
「そうかい? まあ、アンタにとってはそうかもしれないけどねぇ。
そこから・・・突然変異を起こした予想外にして唯一の成功例である兄弟が生まれたんだよ」
「兄弟?」
「ああ。 度重なる失敗の末に生まれた・・・最強の暗殺者になるはずだったんだろうけどねぇ」
「どうなったんです?」
「兄貴の方は・・・周囲の人間の心を見境なくぶっ壊す歩く凶器になったんだよ。
しかも無意識のうちに壊してしまうんだ。 質の悪い話しだと思わないかい?」

 昌平には想像すらできない力だった。

「・・・そんな事できるんですか?」
「できたらしいよ。 それでも妹よりはまだマシな力だけどねぇ」
「妹の方の力っていうのは?」
「元々、呪術的な能力は女の方が開花しやすいものなんだよ。 命を宿す力があるからねぇ。
それでかもしれないけどさ。 兄貴と同じ処置と訓練を受けた結果、妹の方が数倍強力な力を身につけたのさ」
「やっぱり・・・心を砕くんですか?」
「ああ。 兄貴よりも強力な力で人の心を砕くんだ。 まあ、こっちの方はまだ制御できたらしいけどねぇ。
それよりも問題だったのが・・・もう一つの制御できない力の方だったのさ」
「もう一つの力?」
「周囲の人間の命を触媒として、半径数キロに及ぶ範囲の中にいる生物を皆殺しにするんだよ。
感情の爆発で、その秘められた能力が発動するって話しだったけどね」

 それはまさしく能力の爆発なのであろう。

「歩く・・・原子力爆弾?」
「似たようなものだろうね。 外法兵器とでも言える能力だからねぇ。
しかも、その威力は・・・触媒になった人間の数に比例して大きくなっていくんだよ」

 ジャニスのタメ息まじりの言葉には、多分に疲れが滲んでいた。







 昌平がジャニスの話しを聞いて青くなっている頃。
キリトは赤くなっていた。

「楽しいねぇ」
「そうか?」
「楽しいよ、私こんなのに乗ったの始めて!」
「・・・そうか」

 メリーゴーランドである。 あの木馬がくるくる回るバキバキに派手なアレである。
ヒミコ一人ではいざという時、守れないのでキリトも人の姿で一緒に乗っていたのだ。
しかし・・・見た目18才くらいの彼は、黒ずくめで痩身のなかなかの美男子であったのだ。
全身黒ずくめなのは、本性のイタチの体毛の色が黒いせいなのでしょうがない。
しかし、一緒に乗っているヒミコの髪と肌の白さのせいで・・・えらく目立っていた。
 キリトにとって注目されるのは本意ではない。 本来、カマイタチは人目に触れない生物なのだ。
注目されること自体慣れていない。 いや、あってはならないのだ。
しかし・・・ヒミコを遊ばせてくれと頼まれている以上は『我慢』の二文字であった。

「キリトお兄ちゃん! 次あれ!」

 ヒミコの指す先には・・・ジャットコースター。

「あれに乗りたいのか?」
「うん! なんかみんな凄い声だしてるし・・・面白いんだよ、きっと!」
「怖がっているんだと思うぞ」
「・・・ダメ?」

 上目づかいで、こういう頼まれ方をしてはOKというしかないキリトだった。
・・・で、数分後。 ゆっくりと頂点に進む座席の中で二人そろって固まっていた。

「な、なんかドキドキするねぇ」
「・・・オレは」
「なあに?」
「・・・始めて乗るんだ」
「そうなの? 私もそうだよ」

 そうして、頂点に達する。 後は・・・突進あるのみである。

「キャー!」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
「キャー!キャー!」
「ひええええぇぇぇぇぇ!!」

 ・・・どっちがより怖がっているのかは、この声で分るだろう。

 「もう一回乗ろう」の声に彼がなんと答えたのかは不明である。







 昌平の周囲には、重たい空気が流れていた。

「あの病院にその・・・妹の方がいたんですか?」
「私達の調べたところによるとね。 工事現場の事故は知っているかい?」
「はい。 なんでもガスの噴き出す事故があったとか・・・。
それでオレ達は強制的にあの病院に収容されたんですから」

 偶然、近くの公園にいた昌平は、無理やりその病院に連行されたのだ。

「海に捨てられて地中深くに沈みこんでいたその妹が・・・蘇ったんらしいんだ。
工事現場にいた人達は、可哀相に残らず心を砕かれて廃人になっていたよ」
「そんな・・・」
「それで周囲を緊急封鎖して、危険を承知で一箇所に集めたんだよ。
私達は当時の関係者の生き残りから、その妹の力に関する話しは聞けたんだけどねぇ。
肝心の人相とかは聞けなかったんだよ」

 ここで昌平には、一つの疑問が生まれた。

「・・・ちょっと待ってください。
今のは、何十年も前の話しなんでしょう? 今生きてれば何歳なんです?」

 当時10才だとしても・・・すでにおばあちゃんであろう。
第一、何十年も海底にいて生きているはずがないのだ。

「その子はね・・・成長が止まったんだよ。 霊的な実験と薬物投与の副作用によってね。
それに 自分を一種の仮死状態に近い状態にも出来るんだ。
そうでないと自分の力で自分まで殺してしまうだろう?」

 それは現在まで生き残る可能性を秘めた能力だった。

「今まで海底で生き残っていたのは、そのせいなんですか?」
「多分ね」
「・・・なんで海底に?」
「捨てられたのさ」
「捨てた?」
「怖くなったんだろうねぇ。
異常なほど強力なその能力が、自分達に向けられた時の事を考えたんだろうさ。
東京の海に沈めたのは・・・自分達の目の届く場所に沈めたかったんだろうけどねぇ。
その用心も・・・肝心の資料を敗戦時に焼いたせいで、オジャンになったけどねぇ」

 そのせいで、今まで分らなかったのだろう。

「なんで殺さなかったんですか?」
「わからないよ。 多分、殺そうとしたら力を使われるとでも考えたんだろうね」
「にしたって・・・抵抗しなかったんでしょうか?」
「優しい子供だったらしいよ。 そのせいで滅多なことではその力を使えないんだろうね」

 その優しい外法兵器が、今この町にいる。 そういうことらしい。

「その子が・・・蘇ったんですね?」
「その妹の力が、万が一この町で使われたら・・・人類の大半は消し飛ぶかもしれないのさ」
「それで・・・あの病院の人達を殺したんですか? その妹ともども皆殺しにするために?」

 昌平の静かな怒りの声に、ジャニスは苦渋を滲ませて答える。

「それだけじゃないんだよ。 妹の力の怖いところはね。
妹の周囲に数時間いただけで・・・その妹との霊的なラインが作られるのさ。
そうなったら、どんなに離れても・・・妹からの力の流入は避けられないんだよ。
私達の任務は、妹の周囲にいる人間を殺すだけじゃないのさ。
過去、妹の周囲にいた人間まで・・・残らず殺さないといけないのさ。
私達は・・・昌平、アンタも殺さないといけないんだよ」

 ジャニスの目には涙が滲んでいた。

「・・・どれくらい凄い力なんです?」
「10人くらいを触媒として・・・半径数キロ内にいた30万人を皆殺しにしたよ」
「やけに具体的な話ですね。 まさか・・・以前に使われた事があるんですか!?」
「突発的な事故として一度だけね。 有名な話しさ。 あんたもきっと知ってるよ」
「・・・知りません」
「中国の南京で研究されてたって言ったら分るかい? 化学兵器開発を隠れミノにしてね」
「・・・まさか・・・」
「ああ。 その通りさ。 あの『事件』だよ」

 それは恐るべき話しであった。
その兵器が都市の人ごみで使われたら最後・・・人類は死滅しかねないのだ。

 そして・・・その妹を昌平は知っているのかもしれないのだ。



<続く>