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それは私がフロントで書類書きの仕事をやっている最中に聞こえてきた。 『予定より早そうだねぇ』 もはや説明する必要すらないだろう。 デイジーだ。 『今、忙しいの。 後にしてくれない?』 『そういう訳にはいかないとおもうよ?』 『・・・何が早そうなの?』 『悪魔の復活』 ベキ。 私は思わずペンをダメにしてしまった。 なんでそんな事をさらっというかなー・・・。 『マジ?』 『大マジ。 さっさとクルスを呼んでおいで』 『なんで彼が関係するの?』 『・・・彼ならなんとか出来る。 勘だけどね。 さあ!』 うるさい居候にせっつかれて私はクルスの部屋の前まできた。 しかし・・・なぜか、ノックしにくい。 『なにやってんだい? さっさとお呼びよ?』 『昨日の夜の事もあるし・・・なんか話しにくいのよね』 『もしやとは思っていたけど・・・。 あんた、あの男にホの字なのかい?』 「ちょっ!! そ、そんなんじゃないってば!」 突然、とんでもない事を言われて私は思わず大声をだしてしまう。 私の頭の中ではデイジーが腹を抱えて笑い転げている。 くっそー・・・やっぱりコイツは悪霊だわ! 「・・・なにがそんなのじゃないんだ?」 しかも、最悪のタイミングでクルスが部屋から姿を見せていた。 「ちょっ、ちょっとね。 それより大変なの!」 「まあ・・・ここじゃなんだ。 入るといい」 周囲の目を気にしたのか、クルスは部屋に私を招き入れる。 始めて入った(部屋の清掃は私の仕事ではないのだ)彼の部屋は、数日間過ごしたとは思えないほど生活臭がなかった。 チェックインしたときに持っていた大きめのバッグが一つ。 それに壁にかけられた黒いコート。 解かれた荷物・・・何かのケースだろうか? 聖書なんて言っていたがウソだろう。 後は・・・薄いファイルケースが一個。 何か書類でも入っているのだろうか? 「本当に何もないわね」 「そんな事を言いに来たわけじゃないだろ? 何が大変なんだ?」 そう言われて私はデイジーの言葉を思い出した。 「そうそう。 デイジーが悪魔が目覚めるって」 「なに!? おい、デイジー。 詳しく聞かせろ」 はいはい、また口を貸せばいいんでしょう? 「・・・私の予想より大分早いねぇ。 何が原因なのかは知らないけど」 「予想? なんで分っていたんだ?」 「私が目覚めた事で均衡が破れたんだ。 今までは過去の呪縛と私の霊力を使って封じてたんだけどね。 私が目覚めたもんで、過去の呪縛が効果を無くしかけてるんだよ」 「・・・なんでお前が目覚めると呪縛が緩むんだ?」 クルスの疑問はもっともだ。 私も理解できない。 「それは、私の魂を使って封じていたからさ。 この子の記憶にあった伝承ってのは大分あってるよ。 確かに私はこの地に悪魔を封じたんだ。 その悪魔を縛るのは・・・過去の私の魂だったのさ」 「つまり、お前は転生術を使った上で、自分の命を重しにして封じたんだな。 そして・・・お前は転生した。 それによって、過去に施した封じからお前の魂が剥離した。 そういうことだな?」 「まあ、そうだね。 問題は・・・目覚める悪魔を殺す方法を、私が持ってないって事さ。 これは私の勘だけどさ・・・あんた白魔術使えるんじゃないかい?」 「・・・ああ、使える。 だが、それが何の関係があるんだ?」 白魔術? なんだが、スゴイ話しになってない? 「私は使えない。 それであの悪魔を滅ぼすことが今まで出来ないかったんだ。 あと・・・推測だけど、この子に白魔術を使わなかったかい?」 「・・・一回だけだ」 ・・・いつそんな気味の悪いモノの使われたんだろう・・・。 あ! そういえば、二日酔いが急に治った事があった! あれはクルスがやったのか・・・。 「それでだろうね。 私はアンタのような人間を待っていたんだ。 転生術の術式に条件を加えたんだよ。 『白魔術の退魔の法を使えそうな人間に遭遇すると私の魂が転生する』ってねぇ。 分ったかい? 今回の事件はあんたの責任、義務でもあるんだ。 イヤでもやってもらうよ」 「随分と勝手な言い草だな。 だが、オレも無関心ってわけじゃない。 悪魔をなんとかするって昨日ジャニスとも約束したしな。 ・・・少し待っていろ」 そういって彼はバッグを開ける。 そこから取り出したのは・・・銃? しかもかなり大きいタイプの銃だ。 彼はホルスターから銃を抜き取ると、苦笑を浮かべて見つめる。 「己の宿業・・・か。 結局はこうなるんだな」 そう呟くと昨日届いた荷物のケースを開く。 そこにはケース一杯に弾丸が詰まっていた。 ・・・やっぱり聖書なんかじゃなかったのね。 そこから弾丸を取り出すと、何かの器具に取りつけてポケットに収める。 おしらくすぐに弾込めするための道具だろう。 映画で見た事あるわ。 さらに手に持った銃を簡単にチェックして異常が無いのを確認すると、弾を装填していく。 その手際は慣れた感じがした。 彼は装填の済んだ銃をホルスターに収めてを身につけると、コートを羽織る。 さらに、バッグから銀色のナイフを何本か取り出してコートの内側にいれる。 ここからでは分らないが、そのあたりにナイフを収納するための、何かがあるのだろう。 それで準備は済んだらしい。 「待たせたな」 「ねえ、聖職者って銃とか持っていいの?」 「護身用に持って歩いていたんだ。 使うつもりはなかった。 ・・・行こうか」 そういって彼は、私をうながして部屋を出た。 『ねえ、デイジー・・・さっきの苦笑と言葉はどういう意味だったんだろう?』 『色々と思うところがあったんだろうねぇ』 私達は昼も過ぎて、活気に溢れた町を歩いていく。 目的地はすでにデイジーから聞いていた。 それは私にも馴染みの深い場所だった。 私は彼を先導するように歩きながら、昨日からずっと感じていた疑問をデイジーにぶつけた。 『・・・彼って本当は何者なの? 今度こそ教えてよ?』 『ああ、教えるよ。 おそらく、対魔物専門の狩人だろうね。 昔もいたよ、彼のような人間が』 『狩人? 魔物専門? 彼は宣教師だっていってたわよ?』 『狩人には白魔術が使えないとなれないのさ。 だから彼もれっきとした聖職者さ』 『・・・白魔術ってなんなの?』 『私は錬金術と黒魔術が使える。 まずは錬金術だねぇ。 錬金術は総合学問さ。 特別な才能はいらない。 誰でも決められた手順道りにやれば同じ結果が出る。 あんたらの科学や化学と同じようなものさ。 薬学もそうだねぇ。 まあ、そういった学問をゴチャ混ぜにしたものだと思って頂戴な。 次に黒魔術だ。 黒魔術は実践学問とでも言えばいいのかねぇ。 錬金術と違って才能が大きく結果を左右するんだ。 それは白魔術も同じだよ。 決められた手順で様々な準備をして、後は精神力と集中力の勝負なんだ。 精神力と集中力、後は才能かねぇ・・・。 まあ、そういった感じの技術の集大成なんだよ。 白魔術とちょっと系統が違うんだけど・・・まあ、原理的なものを除けば、ほとんど同じものだよ』 『そうやって説明されると、魔術がなんだかひどくポピュラーな感じがするわ』 『昔はそう珍しい物でもなかったんだよ?』 『まあ、そこまではいいわ。 それで・・・白魔術にも才能がいるの?』 『ああ。 際立って強い意思力と精神力がいる。 意思力と精神力で物理法則をねじまげて様々な奇跡を起こすんだ。 その力はほとんどが癒しや守りなどさ。 まあ、破壊の術が多い黒魔術と対極の性質を持つところから白魔術って名づけられただろけどねぇ。 他にも、精霊魔術や、死霊魔術だろ? 召還魔術ってのもあるねぇ。 まあ・・・色々あるんだよ。 面倒だから一々説明はしないけどね』 『やっぱり性質で名前が決められたの?』 『そうだねぇ。 黒魔術は破壊と創造の術。 白魔術は癒しと守りと浄化の術。 精霊魔術は自然に宿る力の行使の術。 死霊魔術は死者と霊魂を操る術。 召還魔術は色々な生物や植物を自分のいる場所に呼びだす術。 昔は、そう区分けされていたよ。 今はどうか知らないけどねぇ』 『ふーん、いっぱいあるんだね』 『まあ、数こそ多いけど、魔術なんてどれもこれも同じようなものだよ。 どの系統の魔術も、アンタらの慣れ親しんだ『物理法則』なんて、完全に無視ってトコロは同じだしねぇ。 結局は術の性質から名前をつけられて、区分けされたものなんだからねぇ』 そういってデイジーは笑い出す。 ・・・『ふぁんたじー』だわ。 『・・・知らない世界の話しね』 『そうだねぇ。 目に見える物しか信じられないアンタ達には所詮、縁のない話しだよ』 『そうかもしれないわね。 じゃあ、悪魔ってどんな生き物なの?』 『異界の住人さ。 ちょっとした偶然でこっちの世界に入り込んだあっち側の人間だよ』 『人間? 羽とか尻尾とか生えてるのに?』 その言葉に悲しそうに答えるデイジー。 何か気に障る事を聞いてしまったのだろうか? 『・・・まあ、羽が生えてるから人間で無いなんて思うのもしょうがないだろうねぇ。 じゃあ、こう考えてみなよ。 自分達と違う進化を辿った人間がいたとしよう。 彼らには人間が進化の過程で捨ててきた、尻尾と羽が残っていた。 しかも目が真紅だった。 確かに、彼らは我々と同じ人間では無いだろう。 しかし、彼らが私達と同じ人間という種族の一種であることは変わりないんだ。 それでも、彼らの事を化け物あつかいするのかい?』 『・・・難しい問題よね』 『そうだね。 人間は肌の色が違うだけでその人間を特別視しちまう生き物さ。 体の構造の違う彼らを、自分と少し違う人間と考えるなんて・・・所詮は無理ってもんなんだろうねぇ。 だから・・・私達は決して彼らと共存なんてできないんだろうね』 なぜか、妙に悪魔の存在を肯定するのね。 『・・・殺すか殺されるかしかないってわけ?』 『そうだねぇ。 悲しいけど、生きて帰れないのならいっそ楽にしてやった方がいいかもしれないからねぇ。 それに・・・やっぱり彼らは普通の人間にとっては邪悪で危険な猛獣なんだよ。 だから・・・殺さなきゃいけないのさ』 なんだが最後にはイヤな結論に至ってしまった。 こういった話しをするのがイヤで、あんな悲しそうな顔をしていたのだろうか? デイジーは普通でない世界を生きてきたせいで、私とは違う考え方をするのだろう。 こういった物の考え方や発想は私にはできない。 そんな話しをしている内に、私達は祭壇跡地の近くまできていた。 私達は少し離れた場所で祭壇跡地を監視する。 今は5体程度だろうか? 一生懸命に地面に埋まった黒い岩を掘り出そうとしている。 『あいつらを始末したら、あの石を破壊しないといけないよ』 『・・・あの石はなんなの?』 『ゲートデーモンの魔石って呼ばれる悪魔の一種さ』 『・・・悪魔なの? 石よ?』 『どんな原理であんな生き物が生まれたのかは知らないけどね。 でもあいつは同族を呼ぶ能力があるのさ』 『・・・ファンタジーね』 『あっちの世界の魔法装置か・・・あるいは私と同じ魔法使いかもしれないねぇ』 とりあえずクルスに伝えないと。 「クルス、あの石も悪魔の一種なんですって。 あいつを殺さないとどんどん増えるわよ」 「・・・どうやって殺せばいいんだ?」 『ありったけの精神力を使って浄化するんだねぇ。 それでダメなら・・・私達の命を使って封じるしかないから頑張れって伝えな』 ・・・この厄病神・・・。 「・・・一生懸命お願い。 ダメなら私ごと封印するって・・・」 「ふー・・・お前も不憫なヤツだな。 まあ、ありったけの力を使ってなんとかするから心配するな」 そういってクルスは、私の頭を軽くなでると悪魔達に向かって行った。 悪魔達はクルスに気付くと、キーキー金切り声をあげながら向かってきた。 クルスは先頭の二体に向かって銃弾を連続して打ちこむ。 その悪魔達は血と灰を撒き散らかしながら倒れこんだ。 しかし、悪魔の後続の三体までは手が回らなかったのか、鋭い爪でクルスの体のあちこちを引き裂いていく。 その3体の悪魔はクルスを囲むようにして包囲していた。 そこにさっき地に倒れこんだ悪魔が起き上がってくる。 状況は良くないようだ。 私はクルスを包囲した悪魔達の一体と、偶然にも視線が合ってしまった。 『・・・まずいね。 あんた、死にたくなかったら体を私に貸しておくれ』 『ちゃんと返す?』 『ああ。 まだ私も死にたくないからねぇ』 『分った。 たのんだわよ? デイジー』 『まかせときな!』 そうして私の意識はゆっくりと闇に閉ざされていく。 デイジーはこんな闇の中で、これまでの数日間を過ごしてきたんだろうか? 目が覚めるとそこには額から血を流したクルスの顔があった。 「・・・あ、クルス?」 「動くな・・・今はまだ治療中だ」 私はお腹に酷い熱さを感じた。 そこに目を向けると・・・大きな切り傷があった。 傷の周囲は流れ出した血で赤く染まっている。 しかし、何故か熱さしか感じない。 痛みが無いのはありがたいが、ちょっと怖いかも・・・。 その大怪我が、ゆっくりと傷口を閉じていくのを見ながら、私は奇妙な安堵を感じた。 「これが・・・白魔術?」 「ああ。 オレの本業には欠かせない技だ」 そうか。 癒しと守りっていってたもんね。 「・・・ねえ、なんでこの町に来たの? 悪魔の復活を阻止するために?」 「いや、この町にきたのは偶然だった」 「そうなの?」 「だが、オレは無意識の内に事件の起こる場所にいたってわけだ」 「・・・本業は何なの?」 「妖物・魔物専門の殺し屋。 ハンター『来須 狩夜』。 それがオレの肩書きだ」 そこまで話すと彼は「もう動いていいぞ」というと、木に背を預けて座り込んだ。 魔術というのは随分疲れるものらしい。 その顔には色濃い疲労が浮かんでいた。 「大丈夫?」 「ああ。 少し休めば動けるようになる」 「なんで・・・そんな仕事をしているの? それに休業してるっていったわよね?」 「・・・随分前の話しだ。 オレの家族が魔物に殺された。 それでハンターになったんだ。 それからもう数え切れないほどヤツラを殺してきたよ」 「なんで休業することにしたの?」 「オレは家族を殺した化け物どもを殺す事で・・・悲しみを癒そうとしていただろうな。 でも、そんな毎日に最近、嫌気がさしてきた。 憎しみだけを糧に生きるのに疲れたんだよ。 それでハンターを休業して、ただの情報収集の仕事をしていたんだ」 「宣教師も?」 「情報収集の一環だといわれてな。 我ながら似合わない仕事だ。 オレには向いてない」 「道理で布教がヘタだと思ったわ」 「あの合いに来ていた人は?」 「オレのスポンサーの仲介人さ。 オレに依頼を伝えにきたんだ」 「依頼?」 「ああ。 キミの監視と警護を依頼された。 くわしくは話せないが、デイジーの復活を予言したやつがいてな。 その復活にキミが大きく関係しているといわれた。 驚いたよ・・・まさかキミに転生してくるとは予想できなかったからな」 「盛り上がってるとこ悪いけど、大急ぎで町に戻って頂戴!」 ・・・また勝手に私の口を使う。 いいかげんにして欲しいわね。 『デイジー・・・何があったの?』 「今の今まで気を失ってたんで気がつかなかったよ。 ゲートデーモンはもう一体いたんだ!」 「まさか・・・博物館のヤツか?」 「ああ。 あっちは大物だよ。 あいつが目を覚ましたら厄介なことになる」 「急いで戻ろう」 「私はもう少し休ませてもらうよ」 その言葉を最後に、私の中のデイジーの意志が消えて行く。 眠ったらしい。 その話しを聞いたクルスは、疲れてふらつく足をひきずるようにして町に向かおうとしている。 「肩を貸すわ」 「・・・ああ。 急いでくれ。 町の岩は、さっきの岩より相当大きい代物だ。 あいつが目を覚ましたら・・・町は全滅しかねん」 何か・・・私達は、何か大切なコトを見落としている・・・そんな気がする。 なぜか、私にはそんな不安が残った。 <続く> |