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その日は風が鳴っていた。 その風は山から下り、谷を通り、谷の入口に広がる村に吹いていた。 この地方独特の切り立った崖に挟まれるようにして、広がる谷の出口にその村はあった。 『加瀬谷村』。 地元では『風谷村』と書く。 それほど年間を通して風が強い地域なのだ。 その谷の入り口付近では、深夜の突貫工事が行われていた。 「では、手筈通りにこの鳥居を撤去してください」 「でもよぉ・・・本当にいいのかい?」 「構いません。 この土地は我が社が買い取った。 我が社の開発計画に、この鳥居は邪魔です」 「何が起きてもしらねーぜ。 オレは反対したからな」 「ふん。 迷信ですよ、そんな物。 ・・・何も起こるハズないじゃないですか」 その声を聞いて、難色を示していた作業員は重機を操作して鳥居の周囲を掘り始める。 その時だった。 その作業員に向かって一人の青年が怒鳴り声をあげた。 「おい! この鳥居を壊すなんて、何考えてんだ!」 「キミ、何をしているんだ? ここは我が社の土地だぞ。 関係者以外は立ち入り禁止だ!」 「あんたが責任者か?」 「そうだ。 開発会社の者だ」 「あの鳥居だけは壊しちゃダメだ!」 「何を馬鹿なことを。 大方、村の連中に何か吹き込まれたんだろうが・・・」 「この鳥居は谷に『あいつら』を閉じ込めておくための物なんだぞ!」 「ああ、ああ、聞き飽きたよ。 それならせめて『あいつら』とやらを私に見せてから言ってくれ」 「そ、それは・・・」 「話しは終わりだ。 さっさと出て行ってくれ」 話しはそれで終わった。 今時、証明できない迷信話しなど信じる者はいないのだ。 そうして、その青年は作業員達に工事現場から叩き出された。 「くそ! どうなっても知らないからな!」 青年は大声でそう言い残すと、工事現場から去って行く。 その様子を見ていた男女がいた。 青年はその事に気付いてはいなかった。 「あれが、『風守の一族』か」 「なんとも熱血漢だねぇ」 「しかも迷信深い・・・か?」 「そうでもないよぉ。 確かにこの谷には尋常でない『何か』がいるらしいからねぇ」 「お得意の占いか? ジャニス?」 「馬鹿にしないで欲しいねぇ。 未来を見て、冥界の声に耳を傾けるのは、私達にとっては当たり前の事なんだからねぇ」 「オレは運命ってヤツを信じてないからな」 「まあ、信じる者が救われる訳ではないからねぇ」 「それもまた『信仰』ってやつか」 「そうかもしれないねぇ。 しかし、私達に信仰ってのはあるのかねぇ?」 「さあな。 オレに聞かれても答えようがあるまい?」 「そうだねぇ。 アンタは『狩る者』だからねぇ。 おっと、始まったみたいだよ?」 「いくか」 何か工事現場の方で騒ぎが起きたようだ。 作業員が次々と逃げ出していた。 それに気付いた二人は工事現場の中に入っていく。 男の方は黒のコートを着て、右手に銃をぶら下げ、その腰には刀を携えていた。 女の方は銀色の髪で、やたらに派手な色のスーツを着ている。 彼女の方は素手である。 しかし、その両手にはめられた数多くの指輪と、手首に巻かれた金属製の装飾具が目をひく。 その工事現場で悲惨な事故が起きたことを、風守の一族と呼ばれていた青年が知るのは翌朝の事である。 鋭利な刃物のような物で、胸を半ばまで切り裂かれるという酷い死に方だった。 死んだのは、現場監督をやっていた開発会社の社員であった。 風守の一族と呼ばれていた青年は、名を『風守 昌平』という。 年齢は17。 まだ高校生である。 昌平は昨夜事故があったという工事現場に入りながら毒づいていた。 「だからいわんこっちゃねーんだ!」 その谷の鳥居は、傾いてはいるがまだ残っていた。 その鳥居をどうにかしようという勇気は、もはや作業員にはないようで現場は閑散としている。 昌平は鳥居に近づくと、鳥居に昨日までなかったはずの『おかしな傷』を見つけた。 それはまるで刀傷に見える。 「・・・なんだ? これ?」 この村には古い建物が多い。 そんな家には今でも昔の武士達の残した刀傷が残っている。 だからだろうか? まるで薄い刀で切り裂かれたかのような傷がどうしても刀傷に見えてしまうのだ。 その傷を見た昌平の脳裏に、昨夜の事件が浮かぶ。 「鋭利な刃物のような物で切り裂かれたような死に方をしていたって言ってたよな」 よく注意して見ると、周囲には他にも何かが落ちていた。 「なんだ? これ? ・・・薬莢ってやつか? ・・・まさかな。 ここは日本だぜ?」 昌平はそんな馬鹿なと、己の考えを捨ててさらに鳥居を中心に見て回る。 ほかの場所は何ともないのに、何故か鳥居を中心とした辺りだけがおかしく感じられる。 『何か起きたのか? 本当に言い伝え通りに・・・あいつらが出たのか?』 それからしばらくして、工事現場から立ち去ろうとした昌平の前に一人の男が現われた。 「風守の者か?」 「そうだけど・・・アンタは?」 「一郎という」 「オレは昌平だ」 「お宅にお邪魔している客人に『昨日のカリは必ず返す』と伝えておけ」 「客? いたかな・・・そんなヤツ?」 「忘れるな」 一郎と名乗った男は昌平にそう告げると、背を向けて目の前の林に入っていく。 「お、おい! 待てよ!」 昌平が一郎を追って林に入り込むともうそこには誰もいなかった。 「どうも昨日から変なことが多いな」 誰に告げる訳でもなく、そうつぶやいてしまう昌平だった。 昌平が家に帰ると、玄関に見慣れないブーツが二つあるのを見つけた。 『客?』 部屋に戻る途中に応接間から出てきた父『勝司』に呼びとめられる。 「昌平、お客様だ。 挨拶しておけ」 部屋には黒のコートを着た男と、白を基調とした派手なスーツを着た外人の女性が座っていた。 「風守 昌平といいます」 「オレは来須 狩夜という。 こっちはジャニスだ」 「安心して、日本語は大丈夫だからぁ」 来須と名乗った男性の顔には刀傷のような物がついていて、薄い色のサングラスをしていた。 ジャニスと紹介された女性は、銀色の髪でショートカット。 背が高く派手なスーツも似合っているのだが、なぜか冬だというのに濃い色のサングラスをしている。 まあ、それよりもその舌っ足らずな喋り方の方が特徴的ではあるが・・・。 「彼らは私の客だ。 失礼のないようにな」 そこで思い出した。 たしか一郎は伝言を伝えろみたいな事をゆってなかっただろうか? 「ああ、そういえば・・・父さん、オレ一郎って人から伝言預かってるんだけど」 「伝言?」 「うん。 お客二人に『昨日のカリは必ず返す』って」 「そうか・・・。 それでは、早速ですが今日からお願いします」 「元々そのつもりだった。 それより、詳しい話しを聞かせてもらいたい」 「昌平も同席してもいいですかな?」 「構わんが、オレ達の事は内密にな?」 「わかりました」 その時、気付いたのだが、来須は座ったソファーに刀を立てかけていた。 「その刀・・・」 「ん? ああ、本物だ。 銃刀法違反になるから警察には黙っていろ?」 「違反って・・・」 来須の冗談めかした物騒な物言いに、昌平は思わず頭痛を感じる。 こんな物騒なやつとこれからしばらく同居するだなんて・・・。 「昌平、とりあえず話しを聞きなさい。 聞けば分るが、その刀はこれからどうしても必要なんだ」 「わかったよ」 「我が『風守の一族』は、この谷に封じられた『あるモノ』を監視するために、この土地にいます」 「聞いている。 たしか、『カマイタチ』とよばれる魔物だったな」 「はい。 それもただの妖怪ではありません。 昔、この地方で暴れまわった大物だと聞いております」 「・・・昨日、封印の解けた直後のヤツラと戦った。 正直・・・戦いにくい相手だ」 そう言って、来須は腕を見る。 コートの袖からのぞく腕には、血の滲んだ包帯が巻かれていた。 「姿が見えないからねぇ。 刀でもないと、ロクに応戦も出来やしない」 「やつらの封印が昨夜解けた。 ヤツラがこの土地から逃げ出す事は考えられるか?」 「いいえ、それはありえません。 それにあの魔物達は、まだ封印からは完全に解き放たれてはいないと思います。 少なくとも、あの鳥居がまだ健在で、私達がこの地にいる限りは・・・」 自分達の一族が『何か』を封じているのは知っていたが、そんな話しだったとは知らなかった昌平が抗議の声をあげる。 「オ、オヤジ! そんなの始めて聞いたぞ!」 「だから同席させたんだ。 黙って聞いていろ」 「わ、わかったよ・・・」 「やつらが鳥居の封印を破っても、この土地に施された封印があります。 その要となる、我が風守の一族の血がこの土地からの脱出を防ぎます。 あの鳥居と、我ら一族がこの土地にいる限り、ヤツラはこの地より離れることは出来ません」 「つまり、次に狙われると思われるのはお前達だということだな」 「いえ・・・そこまでヤツラが知っているとは思えません」 「次に狙われるのは誰だろうねぇ」 「あの鳥居の向こうに入り込んだ者は無差別に狙われるでしょう。 封じられるまでは、谷全体がヤツラのテリトリーだったと聞いています」 「工事の再開まで、あと数日間しかない。 それまでカタをつけたいところだがな」 「難しいねぇ。 相手はとにかく動きが早いからねぇ」 それまで、リラックスして話しをしていた来須が急に緊張する。 「・・・来たな」 「まだ大分先だけど・・・この異常な妖気は昨日のやつらかねぇ」 「準備しろ。 すぐに来るぞ」 来須は刀を身につけ、ジャニスはメガネをを外す。 ジャニスの素顔は昌平からは陰になって見えない。 事態についていけない昌平はオロオロするばかりだ。 「ア、アンタたちは何者なんだ!?」 応接間から出て行こうとしていた来須とジャニスに、気にかかっていた事を思わず聞いてしまう。 「オレ達は妖怪・魔物専門の殺し屋、ハンターだ。 あいつらを『狩る者』さ」 「私は・・・こいつの雇われ助手ってところかねぇ」 昌平はメガネを外したジャニスの目を見て驚いてしまう。 「あ、あんたの目って・・・」 「はっはっはっ、ボーヤァ? この目がそんなに珍しいかい? あんたは本当に面白いねぇ。 生きて帰ったらゆっくり教えてあげるよ」 ジャニスは笑いながら出て行く。 昌平は聞いた事を思わず後悔していた。 ジャニスの目はまるで蛇の目のように縦に割れたいたのだ。 風森の家から出た二人は、止めてあったジープに飛び乗って移動し始める。 いくら田舎とはいえ、こんな民家がある場所ではまともに戦う事ができない。 「工事現場にいくぞ」 「はいよぉ、守りは任せときなぁ」 車を発進させてから数分後。 山に向かって疾走するジープの背後から強烈な疾風が吹きつけてきた。 ジープの周囲で無数の火花が飛び散る。 「なんて力だい。 あと10回・・・いや、8回が限度だねぇ」 「なんとか耐えろ」 「ムチャをお言いでないよ、こっちの身がもたないよ」 それから、山の工事現場付近に辿りつくまでに、数度に渡って攻撃を受ける。 そして、工事現場を目の前にしてついに守りが破られた。 「最後の防りが破られたよぉ!」 「くそ!」 その声と同時に、二人に向かって突風が吹きつけてくる。 その風に乗って何か鋭利なモノが来須に向かって飛ぶ。 ギィイン! その不可視の刃を、とっさに来須の刀が弾く。 運転放棄しての防御だった。 しかし、その弾かれた刃は軌道を捻じ曲げながらも、ジープのハンドルを切り裂いた。 その結果はすぐに訪れた。 工事現場の資材に車が突っ込んでいく。 来須は車が資材に突っ込む前に、ジャニスを抱えて飛んでいた。 来須はジャニスを守るようにして地面を転がると、その勢いを利用して立ちあがる。 「ム、ムチャするんじゃないよ!」 「苦情は後にしてくれ」 来須は頬を歪ませて笑いながら、懐から銃を取り出す。 刀を地面に突き立てて銃を構えると、空に向かって数発撃つ。 「・・・やはり当たらんか」 「相手は風より早いんだよぉ? そんなモノ役に立つ訳ないだろぉ?」 二人の周囲では先ほどから空気が渦を巻いていた。 かなり不自然な風である。 「つかまったかねぇ」 「マズイな」 来須は銃をしまうと、刀を構えてジャニスと背中合わせになる。 「結界を使わないのかい?」 「逃げられなくなったら、死ぬぞ」 「弱気だねェ」 ジャニスは笑いながら言うと、右手を振る。 その手には銀色の杖が握られていた。 「魔女が手を借すんだ。 相手が何者でも負けはないよぉ」 「引分けはあるがな」 その声と同時に、空気の流れが変わる。 吹きつけてくる風を切り裂くように来須の刀が振るわれる。 バキィン! 今度は今まで違い、真紅の軌道が走った。 その真紅の刃を受け止めきれずに来須の刀がへし折れた。 真紅の刃は軌道を変えたが、それでも来須の右腕が大きく切り裂かれ、鮮血が霧状に舞う。 その時、来須の背後から声が上がった。 「黒き使徒なる闇の猛獣、邪悪なるその牙をもって!」 ジャニスだった。 ジャニスの声に、吹き抜けた風の通り道にあたる場所の空間が抉り取られて、人ならざる悲鳴が上がる。 『GYAAAAaaaa』 それっきり、不自然な突風はやんだ。 「・・・やったか?」 「良い感じの手応えだったけど・・・逃げたかねぇ」 「・・・持久戦に持ちこむ気か」 「山に踏みこむ気かい?」 「いまなら、さっきみたいなマネはもうできないだろう」 「片足くらいは消し飛んだだろうからねぇ」 「次に戦うなら・・・人の姿で挑んでくる・・・か」 「それもアンタとの密着状態での接近戦だねぇ」 「お前の魔術が脅しになるか?」 「そう、離れたら・・・あんな風になる」 その視線は、先ほどの魔術の炸裂した空間に向けられている。 その空間に巻き込まれた工事現場の柵は、その部分が跡形もなく消し飛んでいた。 その魔術の名残を横目に見ながら来須は腕の傷に血止めと痛み止めの呪をかけた。 さらに治癒の呪も使って傷口を閉じる。 傷は予想以上に酷い。 傷口を包帯などで固定しておかないと、すぐに傷口が開いてしまうだろう。 「一旦、戻るぞ」 「家の中なら、もっとやりやすいかねぇ?」 「来る方向さえ間違えなければな」 「しかし・・・ムカツクやつらだねぇ。 一張羅だったのにぃ」 その服はカマイタチの起こした風の刃であちこちが切り裂かれて、所々に血が滲んでいた。 それはまともに疾風を受けた来須も同様である。 もっとも、こっちは元々黒いので血は目立たない。 「そんな格好で来るほうがおかしいんだ」 「あんたみたいな黒ずくめかい? ポリシーに反するねぇ」 「魔女が黒を嫌ってどうするんだ?」 「うるさいねぇ。 あたしゃ、あのいかにもって感じの色が嫌いなんだよ」 二人はいつ果てるとも知らない口論を続けながら、工事現場を後にした。 「・・・大丈夫なのかよ」 その声は、来須の右腕に包帯を巻いているジャニスに向けられていた。 昌平である。 「あたしゃ軽傷だよ。 かすり傷ってやつさぁ」 「オレも平気だ」 傷にはすでに痛み止めの呪と、止血の呪をかけてある。 盛大に切り裂かれたといっても、白魔術の使える来須にとってはまだ軽傷の分類に当たる。 切り落とされていれば重傷間違い無しであっただろうが・・・。 「刀は何処にやったんだ?」 出かける際に持っていったはずの刀がないことに気づいた昌平が疑問の声をあげる。 「折れたから捨ててきた」 「武器を無くしてどうするんだ!? それじゃ打つ手なしじゃないか!」 「うるせーな、それを考えているんだ。 黙ってろ、ガキ」 そんなやりとりを聞きていたジャニスが、人の悪そうな笑みを浮かべて来須に声をかける。 「・・・今の今まで忘れたけど、良い手があるよぉ?」 「なんだ?」 「あんたの反応速度を数倍に跳ね上げる手があるんだよぉ」 この段階で言うということはかなり質の悪い方法であると分る。 それはジャニスの表情でも予測できることだ。 相手は魔女であることを忘れてはならない。 来須は嫌な予感を感じながらも問いただす。 「・・・副作用は?」 「もちろん、あるよぉ! 有効時間は10秒! 副作用は1週間の地獄の頭痛と筋肉痛、さらに発熱ってのはどうだい?」 「満面の笑顔でそういうことを言うから、お前はイマイチ信用できないんだ」 来須のしかめっ面に、ジャニスがますます笑みを深くして問いかける。 「で? やるのかい? やらないのかい?」 よっぽど、試してみたい術らしい。 「それはどういった術なんだ?」 「このあいだ開発したフィジカル・エンチャントって呼ばれる類の術の一つでね。 脳の反射速度と肉体の動作速度を強制的に高めるんだ」 早くも不安一杯だ。 そんな術をかけられてまともに戦えるかどうか自信の無い来須だった。 「・・・注意点は?」 「むりやり動くんだ。 慣性を無視して体を動かすと筋肉が裂けるか、骨が砕けるよ。 用心するんだねぇ。 あと、会話も出来ないよ。 私達と術のかかったアンタじゃ話す速度が違いすぎるからねぇ。 早回しのテープ聞いたって訳わかんないだろ? 聞こえる音も声もそうさぁ。 未確認だけど、白魔術も使えなくなるかも知れないねぇ」 このままでは苦戦は必死だ。 ヘタをすると命を落とすだろう。 不安はあるが、悪い手でもないだろう。 「いいだろう。 その手を使おう。 後は刀をどうにかしないとな・・・」 「その状態なら、多分だけど銃も当たるよぉ。 見えるだろうからねぇ」 その声に、今まで黙っていた昌平が声を声を荒げてしまう。 「やっぱり、銃を持ってたのか!?」 「黙ってろと言ったぞ、ガキ。 刀がないと弾を交換するときに無防備になる」 「ガキガキって連呼しやがって・・・。 あ! 刀ならあるかも!」 「なに? 本当か? 使いものになるやつだろうな? 飾り刀は役にたたねーぜ?」 「多分、大丈夫。 うちに代々伝わるモノだって聞いたから」 そういって部屋から出て行った昌平は、父と一緒に一振りの刀を持ってきた。 その刀を抜いた来須は、見事なこしらえの刀に感歎の声をもらす。 「・・・見事な刀だ」 「風切りの太刀と呼ばれています」 「風切り・・・か。 これならあの真紅の鎌を受け止められるかもしれん」 「大丈夫でしょう。 これは昔、あのカマイタチと戦った者の残した物だと聞いています。 先程はすでに刀をお持ちのようだったので、あえて渡さなかったのですが・・・。 折れたというのであれば、これをお使いください」 「じゃあ、あいつらが来るまで休憩にしようよぉ。 もうヘロヘロだよ」 ジャニスの提案に来須はうなずく。 「そうだな。 じゃあ、この廊下の真ん中にある部屋で休んでいるといい。 そこが迎撃場所に一番近い」 「あんたはどうするんだい?」 「歓迎の準備さ」 来須は、道具の入ったバッグを片手に家の周囲に結界を張る。 さらに、家の中にも張る。 もちろん、侵入経路、脱出経路を限定するためだ。 どうやら来須は、縁側に面したこの長い廊下を決戦の場に選んだようである。 来須と勝司の去った後には、縁側で気持ちよさそうに日を浴びるジャニスと昌平が残されていた。 「あの・・・ジャニスさん」 「なんだい?」 「休まないんですか?」 「その前に話しでもしないかい?」 「ああ、出かける前に言ってたやつですか?」 「ああ。 ボーヤ・・・この目が怖くないのかい?」 サングラスは派手なアクションの代償に壊れてしまっていた。 「最初は驚いたけど・・・もう慣れました」 「いいねぇ、その柔軟さがウチの両親にもあれば良かったんだけどねぇ」 「両親?」 「あんた・・・学校で魔女狩りって習っただろぅ?」 「はい」 「私って、その生き残りなんだよぉ・・・っていったら信じるかい?」 「まさか、だって何十年前の話なんです!? それ?」 ジャニスはどう見ても20代後半だ。 とてもそんな年齢には見えない。 「フフフッ・・・冗談さ。 でも魔女だと言われて殺されそうになったことはあるんだ。 それも両親にねえぇ。 まあ・・・全部、私が悪いんだけどねぇ」 冗談めかしてはいるが、とても笑えるような話ではない。 「何が・・・あったんです?」 「私はねぇ・・・子供の頃からこことは違う世界があるって信じていたんだ。 そして・・・チャネリングってやつにはまってねぇ。 『本物』を呼んじゃったのさ。 ・・・わかんないかい? 大昔の魔女ってやつをさ。 それで・・・そいつに取り憑かれたんだ」 「じゃあ、今のジャニスさんには・・・二人分の命があるってことですか?」 「ハッハッハッ、本当に面白い考え方をする子だねぇ。 でも良い線いってるよ。 私はそいつの能力を受け継いで『魔女』って呼ばれる存在になったのさ。 この目は・・・その魔女の特徴であった『蛇眼』ってやつさ。 あいつは『力の象徴だ』っていってたねぇ。 でもさ、良い事ばかりでもないんだよ。 私はその魔女の力を受け取ったかわりに・・・一つの呪いをうけたのさ」 「呪い?」 その疑問には、ジャニスは意味深な笑みをかえしただけで何も答えなかった。 「・・・お喋りが過ぎたねぇ。 ここからが本題だよ。 どうだい? 本気で『こっちの世界』に来る度胸があるなら・・・私が一人前の魔法使いにしてやるよ?」 「魔法使い・・・ですか?」 「興味無いかい? 今時、あんたほど柔軟性を持ったやつは珍しいんだよ。 後継者や仲間が欲しいのさ」 「そりゃあ・・・ありますよ。 格好良いし」 「そうかい? それじゃあね・・・」 ぼそぼそと昌平の耳もとで言葉を告げる。 「なぁ!?」 「・・・フフフッ、魔女や魔法使いってのはそういうのが大好きなのさ。 聞いたことあるだろ? 黒ミサって? あれは本当にあったことなんだよ?」 なぜか耳まで真っ赤になってうろたえる昌平と、ほんのりの頬を赤らめているジャニス。 いったい何を吹きこんだのであろうか? 「ジャニス、そこまでだ。 依頼人の一家を人の道から外させる訳にはいかないだろ?」 「まったく、頭が固いねぇ。 それに間も悪いわぁ」 間が悪いと評されたのは準備の終わった来須だった。 ジャニスは『やれやれ』といった感じで肩をすくめる。 「おい、ガキ。 こいつの吹きこんだのは全部嘘だ。 魔女の言葉を本当に信じれば、待つのは破滅だけだぞ」 「・・・嘘?」 「フフフッ、本当さ? ボーヤ、私を信じなよぉ」 「嘘だと言っている」 「だああ! どっちなんだよぉ!!」 その二人の言葉に頭を抱える昌平、まだ若干17才であった。 <後編へ続く> |