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それは仕事明けの習慣。 戦果を思い出しながらの飲酒。 オレは小さな田舎町のさびれたBARの片隅で、ウィスキーの注がれたグラス片手に思う。 ・・・マズイ。 なんでマズイのに飲んでいるだろうな? もしかするとオレはこうやって『何か』に懺悔しているのかも知れない。 仕事とはいえ、事あるごとに化け物の命を奪ってきた。 罪悪感? 違うな。 オレは嬉しいんだ。 オレから『生きる糧』を奪ったあいつらを塵に返すのが。 オレはグラスに半分ほど残った苦い酒を流し込む。 「エクソシストって御存知ですか?」 いつの間にか隣に座っていた黒ずくめの男から、その問いは発せられた。 「なんの話しだ?」 オレはそいつの事を見もしないで問い返す。 「悪魔を祓う人のことですよ。 御存知かなって・・・思いましてね」 知ってるも何も・・・オレは魔物・妖物専門の殺し屋『来須 狩夜』だぜ? もしかしてオレのことか? ・・・冗談さ。 オレも仕事柄、そういった知識には事欠かない。 今でも田舎町などでは精神病やノイローゼなどを『悪魔憑き』として断罪することがあると聞いている。 その役目を果たすのが主にキリスト教会から派遣される悪魔祓い師。その者の事をエクソシストという。 だが時として『本物』に墜ちた人間や、化け物に取りつかれた人間がいることもある。 そういったモノに出会ったとき処理できる人間が果たしてどれくらいいるんだろうな? いわば本物のエクスシストってやつさ。 あんがい偽者が多いんだ。 そういった連中は。 「知っている」 「そうですか。 では昔話しを教えてあげます。 この町で行われた神の使徒と悪魔の闘いを・・・」 オレは廃墟と化した教会の黒く焦げつき、朽ちかけた長椅子に横たわり、夜空を眺める。 この教会はいまから10年くらい前に全焼したそうだ。 火をつけたのは、ここの教会の神父。 焼身自殺だったそうだ。 『悪魔の呪いにかかった』だの『ノイローゼにかかった』とか色々噂されたそうだが・・・。 実際のところはどうなんだろうな? 今でも、この教会から『神父の懺悔の声』だの『少女のすすり泣く声』が聞こえるとかなんとか。 ・・・幽霊騒動か。 化け物がおこしているイタズラならすぐにでも解決してやるんだがな。 『一人の少女を生き地獄から救いきれずに、本当の地獄に落としてしまったんです』 あの黒ずくめの男の言葉が脳裏に蘇る。 当時、この教会の神父はまさに『神に仕える者』としての絶対的な信念と誇りを持っていた。 それが脆くも崩れたのが一人の少女にとりついた悪魔の出現だった。 少女は父親と二人で町の校外の一軒家に住んでいたらしい。 ある日、その少女が突然奇行を行うようになった。 目撃者の証言によると『人の家に入り込んでペットを包丁で切り刻んだ』だの『突然、クラスメートに淫猥な言葉を投げつけた』だの『自分で自分のことを悪魔の子供だと主張した』だの・・・。 敬虔なクリスチャンだった少女にあるまじき振舞いに、当時は誰もが『悪魔憑き』になったと考えたらしい。 そこでこの教会の神父が家に呼ばれた。 その子の父親は酒癖がすこし悪いくらいで、おおむね信頼を得ていた人物だったらしい。 その父親が『仕事の都合で、最近ミサの出席が滞っていたのが原因だ』と涙ながらに神父に訴え、神父もその信心ぶりに心をうたれてエクソシズムを決意したらしい。 放っておくと何をしでかすか分からなくなっていた少女が、手足をロープでベッドに結び付けられた部屋に何日も出入りし、言葉を交わした神父は間違いなく『悪魔憑き』だと断定した。 なんでも『悪魔がついているのは父親のほうだ』だの、『教会には入れない』とか『いつかこの体を焼きたい』だのと症状は悪化の一途をだどっているようだった。 そしてエクソシズムが始まった。 まず、少女の宝であった人気ロックグループの関連グッズを焼却。 『彼らの歌には神に対する冒涜が多く含まれている』そうだ。 次々に少女が大切にしていた物を目の前でどんどん焼いていく。 『まず、少女のフリをしている悪魔の化けの皮をはがさなくてはならない』のだそうだ。 そんな事をやったら普通怒るだろうが、その少女は最初の関連グッズの時以外は何の関心も示さなかったそうだ。 その様子を見た神父は、父親に『ロープで拘束したのは良い判断でした』といった。 その瞬間、悪魔が正体をあらわしたのだ。 その恐ろしい声と神に対する罵声は近所の家にまで響いたそうだ。 神父は必死で神の偉業をたたえ、悪魔に少女の体を返せと説得しつづけた。 そして、エクソシズム開始から7日後。 少女は普通に戻り、父親を今までどおり『パパ』と呼ぶようになった。 ちなみにそれまでは『悪魔』だの『クズ』だのとロクな呼び方をしていなかったそうだ。 やはり悪魔のせいだったのだと、神父に深く感謝する父親に対して、神父は『これが神の愛の力』ですと答えたらしい。 そして、一週間をこえる拘束から開放された少女を優しく抱きしめたそうだ。 汚い話しだが、実際に7日もベッドに拘束され続けた少女がどういう状態だったか想像できるか? その汚れた少女を何の躊躇もなく抱きしめれるあたり、この神父の信仰心の強さが分かるな。 身だしなみを整え、父親と一緒に教会でミサに参加した様子を見て、神父は自分のエクソシズムの成功を確信して神に感謝の祈りを捧げた。 それでこの話のが終われば綺麗な顛末だったのかも知れないがな・・・。 それから数ヶ月後、悪魔は再び少女にとりついたのだ。 いや、祓われたフリをしていたのだ。 彼女は前回の教訓を生かして拘束される前に、父親を包丁で刺し殺してこの協会にやってきた。 そして、神父の前で『これがお前の犯した過ちの結末だ』と言い残して、父親を刺した包丁で自分の喉を刺して自殺したそうだ。 神父は自分の過ちに気付き、悩み抜いた結果・・・教会ごと神の元に去った。 以上が、この教会最後の神父を襲った悪魔憑きの事件の顛末だ。 少女の住んでいた家は住民たちの手で焼き払われたらしい。 まあ、悲惨な事件のあった家だ。 買い手もつかなっただろう。 オレは黒ずくめの男に言われたのだ。 『もしも悪魔祓いの出来る人が知り合いにいたら、教会の廃墟に巣食う幽霊を成仏させてやってくれ』ってな。 それでこうやって出てくるのを待っているのだが・・・。 オレは周囲の空気の変化を感じると同時に銃を構える。 それから数秒後、教会の朽ちた十字架の前にうずくまる少女の幽霊が現れた。 「・・・お前が悪魔に憑かれたって少女なのか?」 幽霊は何も答えない。 「分かってるさ。 お前があの神父に本当の事を伝えたのに悪魔だといわれて苛め抜かれたことは」 その言葉を聞いて、始めて幽霊の顔がオレに向けられる。 その首には今も生々しく血を流し続ける傷口が開いていた。 間違いないようだ。 この子は今も泣き続けているんだ。 ・・・銃は必要無いかもしれないな。 オレは銃をしまうと少女の幽霊の言葉を待つ。 『ワタシハあくまつきジャナイ』 「分かってる。 大方、父親の苦し紛れの嘘だったんだろう?」 『ぱぱガあくまニトリツカレタノ』 「ああ。 お前は悪くない。 悪いのは神父の方だ。 親父の演技に騙されてお前を狂うまで虐めた神父が悪いんだ。 だから・・・もう泣かなくていい」 『モウダレモ、イジメタリシナイ? モウヘンナコトシタリシナイ?』 「ああ。 だから安心して神様の元へいくんだ。 大丈夫だ。 お前なら必ず天国にいける」 オレはそういって優しく少女の幽霊を抱きしめてやる。 『・・・ヤサシカッタぱぱニモウいちどアイタイ』 「お前の父親も優しい父親に戻って待ってるさ。 さあ、もう行くといい」 少女はようやく安心出来たのか、オレの腕の中から消滅する。 もう、この教会に狂った少女の幽霊が現われることはあるまい。 せめてあの少女が魂の安らぎを得られるように祈ってやるか・・・。 オレが少女の冥福を祈っていると、背後に人の気配が生まれた。 「あなたはエクソシストだったんですか?」 予想通り黒ずくめの男だったようだ。 オレは振り向きもせず答える。 「いや。 だが、これでも一応は聖職者の端くれなんでな。 安らぎを得られないまま苦しみ続ける霊魂の訴えてくる言葉に耳を傾けて、あの世に送り出してやることもあるのさ。 ・・・話しは聞いたな?」 「ええ。 その・・・あなたの言葉の意味を教えてくれませんか?」 「簡単な話しだったのさ。 あの子は恐らく父親に性的な虐待を受けていた。 それが原因でノイローゼになって・・・多重人格症を引き起こした」 「多重人格症?」 「ああ。 全てを憎むにはあの子は優しすぎた。 それで何もしてくれなかった神を憎む人格が生まれた。 その人格が表に現われるたびに、気付いてくれない周囲の人間を憎み、神を呪い・・・一見、奇行にしか見えない行動をとった。 それを神父は悪魔と勘違いして虐め抜いたんだ」 「・・・そう・・・だったんですか」 「神父の犯した過ち。 それは信心のあまり父親の嘘を見抜けなかったことさ。 そして・・・それからも性的な虐待は続いて・・・全てに絶望した少女は死を選んだ。 しかし・・・敬虔なクリスチャンに自殺なんて出来なかった。 そこでもう一人の自分に頼んだんだ。 父親と神父と自分自身を殺したいほど憎んでいたもう一人の少女は目的を達成して・・・成仏できたと思う。 でも・・あの子は自分の頼み事の結果を悔やんでいた。 ・・・誰かに『お前は悪くない』っていって欲しかったのさ」 黒ずくめの男は崩れ落ちるように床に座り込む。 「それで・・・父親を殺して・・・『私』の前で・・・自殺したんですね」 「・・・神父さん。 あんたの心残りも叶えてやった。 あの子の父親の待つ地獄とやらに進んで落ちてもいいし、全てを神の御心とやらに任せてみるのもいいだろう。 あとは好きにしな」 オレは床に座り込んだ神父の幽霊を残して、教会の廃墟を後にする。 きっと今から飲む酒はいつもに増してマズイことだろう。 <終わり> |