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オレは物陰から、ろくに狙いもつけずに弾をばら撒く。 バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! 弾を使い切った銃身はスライドしたまま紫煙を漂わせる。 くそ! 弾切れか! サイレンサーが付いていても音は出るし、紫煙の独特の酸っぱい匂いは格好の目印になるだろう。 それはこちらの居場所を白状するのと同じことだ。 当たったかどうかなんて気にしてる場合じゃない。 ヤツが生きていればすぐにでもこっちに向かってくる。 オレは銃からマガジンを抜き取ると、素早く次のマガジンを装填する。 抜き取ったマガジンを懐に収めながら、銃身をスライドさせてチャンバーに弾を送り込む。 最後の一発まで撃ち切っちまうなんて素人のやることだぜ? 慣れないタイプの銃なんて使うもんじゃねーな・・・。 こんなことならいつも通りの銃を持ってきておくんだった。 そんな後悔を今さらしてもしょうがないのだが、そう思わずにはいられない。 すぐにでも戦闘に戻れる態勢を整えながらタバコに火を付ける。 今更場所を隠す必要なんてない。 残りの弾はマガジン3本。 弾数にして12*3で・・・36発。 それが多いと思うかどうかは場所次第だ。 こんな山奥の遮蔽物だらけの場所では、いつものように貫通力の高い銃弾の方が良いに決まっている。 厄介な敵だ。 オレは銃を握りなおすと、苔むした大木に背を預けて迎撃の体制を取りながら、数日前のことを思い出していた。 「ハンター『来須 狩夜』さんですね。 今回の依頼書です」 今回はホテルの一室で待ち合わせて依頼の確認を行う。 今回は『狩り』ではないらしい。 いつもの『狩り』ならエージェントは来ない。 指令書と補給物資が渡されるだけだ。 どれどれ・・・潜入、暗殺、奪還? 「やれやれ、『組織』も焼きが回ったか? 頼む相手を間違ってるぜ?」 「いえ、今回の潜入はリスクが高い。 ですから『戦闘向き』で『タフ』な人物でないといけません」 「厄介な相手でも待ち構えてるのか?」 「はい。 ある意味そうです」 「ある意味?」 「ここまで調べるのに組織のエージェントがすでに何名も消息を絶っています」 「・・・確かにオレ向きかもな」 「はい。 あと、奪還対象だけは殺してはいけません」 「『殺すな』だと? ・・・テメエ・・・」 オレは無意識のうちに懐の銃に手を伸ばす。 「・・・奪還対象ってのは『化け物』のことなのか?」 「はい。 本来でしたらジェノサイド専門のあなたに頼むべき仕事で無いのは分かっています。 しかし、この任務をこなせるのは国内ではあなたしかいません」 「・・・くそ! オレにプライドを捨てろってのか!?」 「今回だけは目をつむっていただきたい」 「やなこった! オレはオレのやりたいようにやる! 化け物を生かしたまま連れかえるなんて御免だ!」 「それは話しを聞いてからにして頂きたい」 どうやら殺されてもオレにこの仕事をやらせたいらしい。 いいだろう、そこまで覚悟を決めているのなら話しくらいは聞いてやる。 「話してみな。 ただし、どーでもいいような話しなら今すぐ神様とやらのところに送ってやる」 「結構です。 今回の依頼の詳細と『裏』をお話しします・・・」 結局オレは依頼を受けた。 ドえらい仕事の一端を背負っていることはわかった。 まあ、それで十分だ。 結果的にあいつらを皆殺しにできるならなんの不満もない。 「それでは今回は、この武器を使ってください」 そういうとエージェントはアタッシュケースを取り出す。 3重にかけられたカギを外すと、中からはオートマチックタイプの銃が大小二挺。 サイレンサーが二本。 予備のマガジン5本。 さらに、銀の短剣。 無数の銀の弾丸。 「・・・なんでこれを使わないといけないんだ?」 「今回だけはいつものような炸裂弾は使えません。 それに任務の性質上、サイレンサーは必須です」 通常弾に『破魔の呪法』を施しただけの武器で任務をこなせってことか。 それに銃もサイレンサー付きのオートマチックタイプ。 リボルバー愛用者にとってジャムる(弾が詰まる)タイプの銃なんて怖くていけない。 まあ、ここはしょうがないと思って諦める。 ただでさえサイレンサーのせいで弾自体の威力が落ちるのだ。 弾が炸裂弾頭でない以上は、後は手数で勝負するしかない。 手数勝負でリボルバーは不利だ。 そうなると必然的に装弾数の多いオートマチックタイプを使わざるを得ない。 「それでは御武運を」 オレはそれらの武器を携えて、目的地に赴く。 付近の住人に場所を聞いて山に入る。 目的の建物は山奥にある豪邸。 その屋敷の『際奥の間』。 そこに忍びこまなければいけない。 この屋敷はこの地方の豪商の屋敷らしいが、警備体制はかなり厳重だ。 真昼間に正面から乗り込む訳にはいかない。 夜を待って裏手から侵入した方が無難だな。 そうして夜の闇にまぎれて侵入しようとした時、鬼の面を付けたヤツに強襲された。 今までのエージェントはことごとくコイツに殺られたのかもしれない。 気の抜ける相手ではない。 お互いに決定打を与える事なく、場所を移動していって現在の場所に入り込んだってわけだ。 「・・・貴様は何物だ?」 声が間近から聞こえる。 くそ! どこにいる! 「侵入者さ。 今までも来ただろ? それの本命ってヤツさ」 「・・・ならば・・・狙いは恵毬(えいが)か?」 「さてな。 それを確かめに行くのもオレの仕事さ」 「なぜだ? ・・・なぜ、あの子をそっとしておかぬ。 今でさえあの子は・・・囚われの身であるというのに」 声に憤怒の感情が混じり、空気に殺気が篭る。 気配は消せても殺気は消せない。 ・・・見つけたぜ、鬼面ヤロー。 「・・・名を聞いておこうか」 オレは両手で正面に銃を構えて問う。 「恵毬の守護者、無手の鬼面」 答えと共に殺気の塊が落ちてくる。 「聖霊の矢よ!」 オレは略式呪法で神聖力を弾に与えながら、両手を上に向けて銃を連射する。 時間にすると1秒にも満たなかったはずだ。 体に数発の弾を受けた鬼面は、血と灰を撒き散らかしながらも、オレの右肩を強打していく。 「・・・右腕は貰ったぞ」 鬼面はその言葉を残して砕け散った。 オレの右肩は・・・折れたか。 侵入がばれた以上、これ以上時間をかけるのは下策だ。 一気に決める以外なさそうだな。 オレは折れた肩に痛み止めの呪法をかけて、それを応急処置とする。 左腕一本で残りの守護者を倒さなきゃいけねーのか・・・。 キツイな。 いくら厳戒体制になったとはいえ人間の警備など、オレにかかればないも同然だ。 問題は化け物共だ。 やつらにしてみれば匂いも隠さず近づくオレの方がアホウってことになるのかもしれない。 エージェントの情報によるとこの屋敷に巣食う化け物の数は3匹。 恵毬を会わせると4匹。 鬼面を倒して・・・あと2匹。 痛みこそないが、熱を持った右肩が鬱陶しい。 早くケリを付けないと・・・。 すこし注意が散漫になっていたのだろうか? 気付くとオレの正面数メートルの所に老人が立っている。 今度は猿面か。 右手に持った杖に要注意だな。 「名を聞こうか」 「ワシは猿面の抜刀斎という。 そなたは?」 「そっちだけ名乗らせて悪いが、馴れ合いするつもりはねーんだ」 「フォッフォッフォ、面白いが、無礼なヤツだな。 年配者への礼儀というものを教えてやるぞ」 そういうと老人は無造作に間合いを詰めてくる。 その瞬間、オレの中で警鐘が鳴る。 とっさに屈みこむ。 その瞬間、背後から首の位置に銀の閃光が走った。 オレは屈みこんだ姿勢から、老人が数瞬前まで立っていた場所まで一気に飛ぶ。 飛びながらも、オレは背後に銃弾を数発ばらまく。 狙いなんてつけていられない。 振り向いた先には左腰に杖を当てて、その柄と思われる部分に右手をそえた老人が立っていた。 名前から予測がついていたが、やはり居合術か。 飛びのく際に数発打ち込んだ弾丸は、一発だけ老人の左肩に命中していた。 だが、祝福されただけの弾ではやはり力が足りないらしい。 とっさだったために呪法を上乗せできなかったのだ。 大したダメージではなさそうだ。 右肩を撃てなかったのが悔やまれる。 「ほぅ。 すこしはやるようだのぉ?」 すべては勘のなせる技だ。 二度は出来ない。 だが、こいつの手は読めた。 こいつは動きが恐ろしく速い。 今も、目の前から背後に一瞬で移動して仕込み杖の刀で切りつけてきたのだ。 問題はその動きの速さなのだが・・・。 「じいさんも歳の割には早いな」 「フォッフォッフォ、殺すには惜しい男だ」 再び老人は間合いを詰めてくる。 そして、数個の閃光が走った。 今度は小細工なしの真正面だ。 背後に注意していたオレはかわせない。 オレの体のあちらこちらから血が噴き出して、手から銃がこぼれ落ちる。 「しくじったぜ・・・」 「フォッフォッフォ、油断したな。 何も毎回、背後から切りつけるとは限らぬさ。 騙し、騙され、敗れて命散らん・・・か、死ねい!」 屈み込んだオレに向かって剣を振り上げる。 その瞬間、オレは左足首に巻いておいた銀の短剣を投げつける。 「ぐわ! ・・・小僧・・・騙しおった・・・な・・・」 老人の手から刀が落ちる。 「騙し騙され・・・だろ? 聖なる祝福を受けた、聖者と聖霊の御名を刻まれし聖剣をもって、我、退魔の法をなさん! 聖なる光よ! 神の使徒よ! 御使いよ! 魔を滅したまえ!」 老人の胸に突き立った短剣を掴みながら、全身全霊の力をもって破魔の呪法を行う。。 老人は体の内部から溢れる出た"聖なる光"を受けて、木っ端微塵に砕け散った。 それと同時に銀の短剣も砕け散る。 「アーメン」 血まみれの傷だらけになりながらもオレは勝利を掴んだ。 一応、痛み止めと血止めの呪法をかけるが気休め程度のものだろう。 力を出しきって朦朧とする体に加えて貧血気味か。 ろくなもんじゃねーな。 残りは一匹。 もはや勝てるかどうかではない。 生きて帰れるかどうかの瀬戸際かもしれない。 おかしい。 もうすぐ『際奥の間』だってのに最後の化け物が現われない。 そろそろ出てきてくれないと・・・場合によっては残り2匹を同時に相手にすることになる。 そうなっては勝ち目なんてない。 今まで以上のヤツが残っているとなると・・・神にでも祈ってみるか? そんなくだらないことを考えながら、オレは足を止める。 際奥の間。 ここに奪還対象の魔物『恵毬』がいる。 場合によっては最後の守護者も。 今更何をしようと無駄なあがきにしかならないだろう。 銃の弾は予備のマガジンも含めて全弾装填済み。 5*12で60発。 銀の短剣は失った。 勝てるか? ・・・いや、勝つ! オレは死ねない! 化け物どもはまだこの世にうようよしてやがる。 そいつらを狩り尽くすまでオレは死なない! もはや全身の傷の熱さも何も感じない。 最高に気力が充実しているのが自分でも分かる。 「さて、行くか」 誰にともなしに呟くと、オレは『際奥の間』の襖を開ける。 その部屋はある種異様な装飾がされていた。 壁という壁に貼られた異常な数の呪符。 それらは外部からの侵入を防ぐと同時に、内部からの脱出も防ぐ。 その内側に特殊な編み方をされた布で幾重にも覆われた繭のような物体。 どうやらその布自体にも内部の物を外に出さない力があるようだ。 正面に30センチ足らずの穴があって、内部を見ることが出来るようだ。 その内部には・・・美しい女が膝を抱きかかえる姿勢で浮かんでいた。 「これが『恵毬』・・・なのか?」 俗にいうアルビノ(白子)ってやつだ。 全身の体毛から皮膚、瞳にいたるまで色素がなく、血液の色によってその瞳は真紅の色をしているという。 美しい女だ。 だが、その何も身につけてない体は無数の鉄芯で刺し貫かれ、その鉄芯同士が鎖で結ばれている。 御丁寧にその鎖一本一本に封じの呪符と思われるものが巻きつけてある。 その顔も布で目と口を封じられている。 やはり封じの布なのだろうか? 化け物相手とはいえ、女にここまでするか? これでは身動き一つできはしないだろう。 なぜここまでして封じていなければならないんだ? それぞれの鉄芯からは今も血がにじんで全身を白と赤のマダラ模様に染めている。 その薄汚れた体を、血に染まった鉄芯と鎖、その鎖に無数に巻きつけてある血のにじんだ呪符が覆う。 オレ同様、血まみれであるが・・・それでもこの女は美しいと感じさせる何かを持っている。 「その者は・・・我らの長である、富をもたらす祟り神『恵毬』」 その声はオレの背後、開け放した襖の外から聞こえた。 長大な鎌を持った狐の面をした女か。 最後の守護者の『巫女』ってやつだな。 「私は狐面の巫女といいます。 その者の従者で世話役ということになります」 「祟り神? お前ら化け物どもの親玉か?」 「富を特定の個人にもたらす代償として、世を祟る。 そういう神なのです」 「悪いが、いつまでもお喋りしている訳にもいかないんだ。 こいつは貰って行くぜ」 「殺さないのであれば・・・どうぞ、お連れ下さい」 「なんだと?」 「その者の世話役である私もお供します」 「・・・どういうことだ?」 「私達は古来から様々な者に囚われ続けてきました。 今さら主が変わることに何の意味がありましょう・・・」 「お前は契約外だ」 「私達は二人で一人です。 私がいなければ彼女には富をもたらす術がありません」 「なら、ついてこい」 「分かりました」 「問題はこのお姫さんをどうやって運ぶかってことだが・・・」 「戒めを解いて一歩でもここから出せば、この世は悪夢に見舞われましょう。 もっとも、それもいいかも知れません。 過去に何度か戒めを解かれた事がありました。 その結果、大量の人間が死にました。 今の世も人が多すぎます。 少し減らすべきかも知れません」 「まあ、オレもこの世がどーなろうと知ったこっちゃねーけどな。 そんなことしたら夢見が悪くなりそうだ」 「では、どうなさいますか?」 「前回はどうやった?」 「部屋ごと運びました」 「それは無理ってなもんだ」 「では・・・滅ぼしますか? 主もあるいは・・・それを望んでいるかもしれません」 「それは契約違反」 「・・・自分で考えてください」 「なあ、お前は力が強いのか?」 「まあ、人よりは」 「なら、お前が運べ。 お前の主なんだろ?」 「・・・なぜ、私が人のために何かせねばならぬのですか?」 「お前の主のためだ」 「断ります」 「まあ、戒めは解いてやれねーけど、今よりちったぁマシな環境を用意するって言ってもか?」 狐面から怒りが噴き出す。 今まで押さえていた怒りが一気に噴き出したかのような変わり身の早さだ。 「・・・なぜ我らを放っておいてくれぬ? なぜお前ら人間は何でも自分の物だと思えるのだ? もうたくさんだ。 我らの主の命は主だけの物だ! これ以上、貴様ら人間に我が主を自由にはさせぬ!!」 狐面が鎌を構える。 よしよし、契約通りに事が運びそうだ。 「それじゃ力ずくで防いでみろ。 主をこれ以上引っ張りまわされたくなければな」 「・・・なめるなよ、人間。 お前は我が主を物同然に扱おうとしている。 この世の地獄を味合わせてやるぞ」 狐面が部屋に踏み込む。 そう、『魔物よけの符』の上にだ。 符を踏んだ素足から白煙が上がり、全身の毛穴から血が流れはじめる。 これほど強力な結界の内部に無理やり侵入したのだ。 もってあと十分だろう。 オレの目の前に立ったときには全身血まみれの鬼女って風情だ。 疲労のせいでふらふらしていた狐面の姿が、急にかすむ。 オレは真横に飛びながら、両手で大小の銃を構える。 肩の傷なんて考えていられる状態ではない。 着地と同時に狐面の両足に向かって弾を撃ちこむ。 今のオレの状態は長くは続かない。 狙うなら相手の足だ。 白煙を吹き上げる足なら神聖力の上乗せなしでも壊せるはずだ。 祝福された弾丸を数発受けて、弱っていた右足首が砕け散る。 だが、狐面の動きはこっちの予測をことごとく裏切る。 右足を失って姿勢を崩して倒れたと思ったら、そのまま両腕を軸にして飛び起きる。 そんな不自然な態勢のまま、鎌を振り回してくる。 とっさに受け止めた小さい方の銃が盾になって何とか右腕を切り落とされるのは防げた。 もしも両足が顕在ならこんな受け方では防げなかっただろう。 もっとも、そのせいで右腕に構えていた銃はオシャカだ。 部品とあまった弾丸を撒き散らかしながら壊れる。 その衝撃で倒れたオレは必死になって左手の銃を構えて、なけなしの精神力を振り絞る。 「聖者と聖霊の御名を持って魔を滅ぼしたまえ! アーメン!」 相手も不自然な鎌の振り回しで態勢を崩していた。 そこを狙って、あるだけ全部の弾を足に向かって打ち込む。 だが、オレはその時気付いた。 銃が発砲される瞬間、狐面は確かに相打ちを狙って鎌を投擲しようとしていた。 だが、何かが彼女のその行動に歯止めをかけたようだった。 彼女は鎌を振りかぶった構えのままに、両足を砕かれて地に這う。 地に叩きつけられた時に、鎌は手の届かない場所に転がっていってしまっている。 仮面も外れてしまったようだ。 青ざめて血の気を失った顔がさらされる。 「・・・なぜ鎌を投げなかった?」 「・・・主がお前の後ろにいた。 お前の方こそなぜ私を殺さなかったのだ?」 オレはその両足を失って全身を血で染めた女の姿に・・・血まみれの『恵毬』の姿がダブってみえた。 「始めからお前が最後の守護者だったのは知っていた。 今回の仕事はお前を滅ぼして、あいつを祟り神に落とすのが目的だった」 「・・・なぜ今更そんなことをいうのだ?」 もはやどのような事になっても結果は変わらない。 この女はあと数分でこの結界の力で死ぬ。 今更外に出しても滅びてしまう事には違いない。 だが、真相を知らずに死を迎えさせるには、この二人は哀れすぎた。 「同情だ」 「・・・これで我が主は正真正銘の祟り神だ」 「すまんな」 「礼に教えてやろう。 なぜ私達がここまで人を憎みながらも主と共に生きてきたのか・・・。 主はもう百年もの間眠りつづけている。 囚われた時はお前達人間の基準でいうとまだ10才くらいだった。 昔はここまで祟り神の力が強くなかったせいもあって・・・閉じ込められているだけだったのだ」 オレは弾を装填しながら話しを聞く。 「その頃は・・・自由ではなかったが楽しかった。 私達3人の守護役と主の4人で一緒に遊んで・・・。 よく笑う人だった。 本当に良い笑顔だった。 今でも鮮明に思い出せる」 血まみれの顔が優しく微笑む。 そのころの出来事でも回想しているのだろうか? 「そして・・・今から百年近く前の話だ。 成長して今の姿になったとき・・・主は地獄におとされた。 我らは主自身を人質に取られている。 なにも手出しできなかった」 一瞬、嫌な予感にとらわれて手が止まる。 「まさか・・・」 「そうだ。 主は我らの目の前であの姿にされたのだ。 それからの百年は我らにとって地獄そのものだ。 寝ても覚めても・・・聞こえるのは主の悲鳴だけ。 見えるのは・・・主の泣き叫ぶ姿だけだ。 それからさ。 私達が己の涙と苦悩を隠すために仮面をかぶるようになったのは・・・」 オレはあまりの話の展開に我が耳を疑う。 「それでも我らは・・・主の笑顔をもう一度見たかったのだ。 いつか・・・本当の自由を取り戻した主と一緒に山に帰りたかったのだ」 巫女の顔には涙が光っている。 「もうそれも叶わぬ。 人とはなんとムゴイ生き物なのだ? 主にさらなる苦悩を味わせたいのだな・・・。 私は呪うぞ・・・お前を。 この顔と涙を生涯忘れぬがよい。 これが・・・私の・・・呪い・・・だ」 その言葉を残して狐面の巫女は灰になった。 山奥の屋敷を傭兵部隊が強襲したのは、その日の明け方ごろだった。 もともとこういう手筈だったのだ。 しかし、いくら完全武装の傭兵でも化け物には歯が立たない。 そこでまずオレが先行して化け物を狩る。 その後に人間達を傭兵が狩る。 戦闘はものの10分足らずで終わった。 今ごろは『祟り神』が海を越えた先にある国に送り届けられているだろう。 今回の契約は『富をもたらす祟り神』を『ある国』の『ある人物』に渡すことだ。 ただし、その国は将来的に、再びこの国の強大な敵対国になる恐れが高い。 その国を疲弊させるのが今回の『裏』の契約だ。 渡す際には『祟り神』の戒めを当然ゆるくしておく。 そして、巫女が『事故』で死ねば・・・『恵毬』は単に綺麗なだけの『祟り神』に成り下がる。 そう。 『あの国』の異常に肥大した国力を削り取るのが目的なのだ。 まったく、この国の高級官僚どものハラワタを一度見てみてーぜ。 きっと腐り果てて悪臭を放ってるだろうよ。 オレは今日の戦果を思い出しながら酒を飲む。 たまたま見つけた化け物を2匹に、契約通りに化け物を3匹。 会わせて5匹か。 ここ数週間では最大の戦果だな。 しかし・・・なんでこんなに仕事開けの酒は不味いのだろう。 早いものであれから一ヶ月がたとうとしている。 色々、怪我をしたが白魔術は浄化と回復を主とする術が多い。 生きて帰れば2週間もかからず治す事ができるのだ。 そんなことを考えながらホテルのTVをつける。 すると『ある国』が国土を覆うほど巨大な台風に襲われているというニュースを流していた。 その台風の他にも、色々と災害が起きているらしい。 へえ、台風に地震に森林火災か。 この国も災難だな。 厄介な祟り神なんか送られて・・・。 はらわたの腐った連中はさぞ喜んでいるだろうよ。 せいぜい今までのウサを晴らすがいいさ。 お前らは人という怪物に捕まった哀れな生き物だったんだ。 つかまったころは10才くらいの子供だったか・・・。 『座敷わらし』も成長するとりっぱな祟り神になるのか? いや、違うな。 人の欲が『幸福を連れてきて、幸福と共に去って行く者』の性質を捻じ曲げちまったのかもしれない。 そうしてもう一度、今世紀最大の台風の映像を見る。 オレにはなんとなくあいつら4人の楽しそうな笑い声が聞こえたような気がした。 <終わり> |