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空に月が輝く頃、オレの仕事は始まる。 まず、ターゲットの尾行。 ここまではほとんど勘の世界だ。 だが、異形であるゆえにやつらは人の世界ではなじまない。 違和感ってやつだ。 それを頼りに探し出す。 こいつは間違いなく化け物だ。 今までの経験上、それは間違いない。 後は・・・仕掛ける場所か。 このクソッタレどもは人に化けるのが上手い。 よほど上手にやらないと・・・捕まるのはこっちの方だ。 ・・・人気のない公園に入ったか。 気配を殺して周囲の状況を探る。 OKだ。 仕掛けるには今しかない。 オレは吸いかけの煙草を吐き捨てると、懐から銃を取り出して一気に仕掛ける。 「聖者と聖霊の御名を持って魔を滅ぼしたまえ、アーメン!」 オレの声に反応して逃げようとするが無駄だ。 この距離で狙いを外すほどヘボじゃない。 GAOooon!! 深夜の公園に銃声が響く。 心配はいらない。 仕掛けると同時に簡単な結界を張っている。 結界の外では花火程度の音にしか聞こえないだろう。 聖なる御名を刻まれ、祝福を受けた銀の弾丸は狙い違わず、女の背から入り込み内に秘めた神聖力と炸裂弾頭の破壊効果を同時に発揮する。 白魔術と祝福された武器を使ったオレのオリジナル退魔法だ。 並の化け物に絶えられる代物ではない。 女に化けていた化け物は砂袋が砕け散るかのように、服ごと粉微塵になる。 その様子を確認するとオレは銃を懐にしまって、新しいタバコに火をつけた。 オレの仕事は化け物どもを滅ぼすこと。 断じて、邪悪なものではない。 邪悪なのはあいつらの方だ。 あの人に紛れ込んだクソッタレどものほうだ。 オレはこの命が天に召されるまで・・・化け物どもにこの銀の弾丸をぶち込み続ける。 そう誓ったのだ。 あの夜に惨殺された家族の遺体に向かって・・・。 オレはハンター『来須 狩夜』。化け物を狩るのがオレの生涯を賭けた仕事だ。 たまたま見つけた化け物を狩って宿泊先に帰ったオレに荷物が届いていた。 中身は礼によって指令書と補給物資。 主に金と特殊な銀の弾丸だ。 今度の狩りは組織からの依頼か。 オレは基本的には組織の一員として動いているが、今夜のように独自の判断で動くことも珍しくない。 組織もやることさえキチンとこなし、特に組織の存続に影響を与えないのならと大目に見てくれている。 現に、こうやって祝福された弾をどうやってか知らないが送り届けてくれる。 この国では銃は御法度だ。 厄介なことだ。 あいつらに唯一対抗できる武器である『銃』を持たないこの国の人間にヤツラを狩ることなどできはしない。 一方的に殺されるだけだ。 もっとも、呪術による殺害を法律で禁じていない国だ。 こんなオカルト話しを素直に信じるヤツなんていないだろう。 ちなみに、他の先進国には法律に「呪術による殺害を禁ずる」と明記してある。 他の国に決して引けを取らないくらい古く暗い呪殺の歴史を持つ日本という国にしては悠長なことだとも思うが・・・。 いや、日本らしいともいえるかも知れないな。 まあ、そんなだからオレみたいな『ヤツラにとっての殺し屋』が必要になるんだろうがな・・・。 そう自嘲気味にうそびき、ターゲットの情報をなにげなく見る。 「・・・まだ子供じゃないか」 そう。 ターゲットはまだ幼い少年だったのだ。 しかし、指令は指令だ。 さっそく取りかかるか・・・。 いまいち気が乗らないがな。 ターゲットの少年は、なにかおかしな所があるわけでもなく、どこにでもいるような少年だった。 もしかすると気付いていないのかもしれないな。 たまにいるのだ。 自分がどのような生き物が知らないで育つようなやつが。 古い話でいくと、取り替えっ子ってやつだ。 化け物どもが、自分たちが育てることの出来ない子供を人間の子供と取り替えてしまうのだ。 そして、その子供は大きくなると神隠しにあう。 つまり、本当の両親同様に闇に生きる世界へ帰るのだ。 ・・・舐めた話しだ。 育てて貰った恩を忘れてバケモンになるってわけだ。 取り替えられた子供の運命は推して知るべしってやつだろう。 こんなこと放っておけやしない。 だが、ターゲットの親族にはなんと言ってやればいい? いつも通りやるには今回は問題が多い。 なんといってもここは島国である日本だ。 犯罪者が国外に出るのは結構大変なんだ。 一番確実なのは、山など捜索に時間がかかる場所に連れ出して始末するって方法だ。 これなら死体は服ごと粉微塵になるから問題ない。 絶対に見つからない。 連れ出す瞬間さえ、目撃されなければ・・・。 いや、それは下策だな。 もしも本来の力に目覚められては厄介だ。 結局、オレはいつも以上に細かい調査を行い、厳重な罠の中に誘い込むことにした。 多重結界。 幾層にも重ねて張った結界の内部なら銃声も漏れないし、目撃者もない。 しかも・・・ヤツラはそこから容易には逃げ出せない。 もっともオレも目標を封殺するまで外に出られなくなる。 危険な綱渡りにならなければいいがな・・・。 オレはターゲットのいつも通る道である公園にその結界を張ることを決めた。 『揺れるな、オレの心。 迷いは死を呼ぶ。 恐れるな、闇の住人を。 忘れるな、あの時の憤りを』 オレはいまだに決心が固まりきっていない。 今回はターゲットの年齢が年齢だけにキツイ仕事だ。 出来るだけ一撃で決めなければ・・・。 夕闇の迫る公園を勢い良く少年が駆け抜ける。 結界の中心を通り過ぎたタイミングで結界を発動させる。 もう、これで逃げられない。 ヤツも・・・オレも・・・。 「坊主。 お前は人間じゃない。 死んでもらうぞ」 「な、何? おじさん?」 少年は心底驚いた風にこっちを見返してくる。 くそ! 決心が揺らぐ。 少年はとっさに逃げようとするが結界に阻まれて外には逃げられない。 透明な壁に突き当たったかのようなものだ。 恐らく、混乱の極みにあるだろう。 今ならたやすく殺せる。 仕事を終わらせることができる・・・。 しかし、オレは銃を抜く気にはなれない。 まだ迷いがあるのか? ・・・いや、違うな。 今のオレの姿を傍目に見たならなんなのだろう? そんな考えが浮かぶのだ。 今のオレはあの子にとって魔物、オレ自信の忌み嫌う化け物そのものだろう。 その化け物が自分を殺そうとしている。 「助けて!」 少年の悲鳴がオレの心を揺さぶる。 それでも・・・、オレは・・・。 右手でゆっくり銃を抜く。 銃自体はなんてことはない、普通のマグナムを祝福してもらったものだ。 しかし、弾丸は違う。 弾丸自体の素材も、元々は教会で祝福され続けた十字架から作られたものだ。 さらに炸裂弾頭とオリジナルの白魔術を組み合わせた物が付加されている。 オレの知る限りでは個人で行える退魔法で最強の部類に入るものだ。 こんな何の力も持たない少年など一撃だろう。 「聖者と・・・聖霊の御名を持って・・・魔を滅ぼしたまえ・・・」 オレはゆっくりと祈りを唱えながら銃を構えると狙いをつける。 「アーメン」 その瞬間、わずかに少年が体をよじる。 GOOOOoooon!! 密室状態の結界内に銃声が響く。 少年の右胸に食い込んだ弾丸は、その部分で炸裂して少年の右肩から先の部分を吹き飛ばす。 粉々に砕け散った右腕が、この少年を人間でないと証明している。 「な、なに? これ? なんなの!?」 少年は粉状に砕け散った自分の右肩を見てますます混乱している。 「わかったろ? お前は化け物なんだ。 人間なら・・・赤い血が流れる」 半分は自分を納得させるための言葉だ。 「ち、ちがうもん! ほら! 口からは赤い血が流れてるもん!」 少年はそういって自分の口から流れた血を示す。 「そうだな。 お前も人間らしいところもあるってことか・・・。 だが、死んでくれ」 オレはそういって再び銃をポイントする。 「い、いやだ! 僕はまだ死にたくない!」 少年はそれでも逃げようと必死でもがく。 しかし、人間でなくても瀕死の重傷だ。 動けるはずもない。 「いたずらに騒ぐな。 貴様も化け物ならそれらしい死にかたをしてみろ」 少年はこちらを睨み付けると、弱々しく答える。 恐らくは肺まで傷は達しているだろう。 「僕は・・・人間だよ」 「違うな・・・お前は化け物だ。 将来は人を食い殺す化け物になる」 「だから・・・殺すの?」 「ああ、そうだ。 将来、貴様らみたいなものに襲われるだろう、戦うための爪も牙も持たない人間にためにな・・・」 観念したのか少年はうつむきながら、それでも答える。 「そうなの? 僕は将来・・・おじいちゃんと・・・おばあちゃんを・・・殺しちゃうの?」 「・・・そうかもしれん。 だから今、殺す。 それがお前のためでもある」 「・・・僕が死んだら・・・あの二人はどうなるのかな?」 「・・・さあな。 しったことじゃないな」 無責任といわれるかも知れないが、実際にオレにはどうしようもないことだ。 「そうだね。 わかったよ。 でもさ・・・あの二人に伝えて欲しいんだ。 僕は生まれ故郷に帰らなくちゃいけなくなったからもう会えないと思う。 最後に挨拶できなくてゴメンネ・・・って」 「わかった」 そこまでいうと少年は静かになる。 「汝の魂に主の祝福がありますように・・・アーメン」 GOOOOoooon!! 引き金を引くと、破魔の弾丸は少年の頭を吹き飛ばす。 その瞬間、少年の傷付いた体が粉微塵に砕け散った。 日頃は神なんぞ信じていないオレだが、この化け物・・・いや、少年だったな。 この少年の魂の救済だけは祈ってやるさ。 これでも、一応は修道士のはしくれだ。 仕事明けの酒は不味い。 今日はいつもにまして不味い。 今回は、なんとも後味の悪い仕事だった。 オレはあの日の夜、少年の遺言を電話で伝えたのだ。 『・・・そうですか。 いつかこんな日がくると思っていました。彼は捨て子だったんです』 「そうだったんですか?」 『あの子はいつか山に帰るときが来るっていってました』 「それが現実になったって訳です」 『ええ。 覚悟はしていました。 彼は山人の末裔だったのですから・・・』 「山人?」 『ええ。 この地方に伝わる伝承でしてな。 山の守り神の名前です』 「守り神・・・ですか」 『はい。 それで彼は山に帰ったのでしょう』 「そうですね。 彼は山に帰ったんですよ・・・きっと」 オレは今回の仕事の事を思い出していた。 依頼主は確か日本人の地位の高いヤツだとかいっていたな・・・。 山人と日本人・・・。
あいつが将来、本当に人を食い殺すような化け物になったかどうかまでは分からない。 本当に山人の末裔だとすると・・・いや、やっぱりわからない。 しかし、オレは人食いであろうと、なかろうと、化け物を狩るのが仕事だ。 それが、過去に迫害を受けた異形の民族だろうとなんだろうと構わないさ・・・。 やつらは化け物なんだからな。 それでもオレの心には、あの少年の言葉が残るのだ。 『僕は・・・人間だよ』 <終わり> |