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今夜の番組チェック

東京魔人學園SS 迷探偵シリーズ6.
request by 久我友紀様 / write by 雪乃丞.
ほーむず と わとそん    《前編》

 午後8時15分。
 オレはいつものようにノートパソコンをインターネットに繋ぐと、メーラーを起動する。
そして、そのままパソコンの前を離れると、紅茶の準備を始めた。

「うーん………やっぱ、値段って関係あるのかなぁ」

 ここ1週間くらい、オレは毎夜のように紅茶を入れるのが習慣になっていた。
紅茶をいれて、メールを読んで、返事を返して………我ながら、なんら変わらない夜の習慣。
紅茶をいれる事を抜きにすれば、以前の生活と殆ど変わってはいないはずなのだが………。

「香りが全然弱い………ってゆーか、しない(涙)」

 今では、紅茶をいれてノートパソコンの前に座るのが当たり前になっている自分がそこにいた。
そして、今日のように安物の紅茶の葉(というかティーパックなんだが………)の貧相な香りを寂しく思う自分がいる………。
こんな事からでも、日頃いかに潤いのない生活をしているか、なんとなく分かったような気がするから不思議だ。

「はー………しょうがない。レモンでも浮かべて誤魔化すか………」

 オレが紅茶を飲むようになったのは、本当に偶然………いや、好奇心がきっかけだったのだろうと思う。
2週間くらい前かな?
前から色々世話になっていたままお礼もロクに言ってなかった我が心の友こと、御門へ礼を言うべくオレはケーキを片手に浜名離宮へと遊びに行った。
無論、観光名所な表の離宮ではなく、裏の………芙蓉の手助けなしには入る事さえ叶わない裏の離宮へだ。
 その地図の上には載ってない場所に遊びに行った時のこと。
季節を無視して咲き誇り舞い散る桜の中で、オレは秋月さん手ずからいれてくれた紅茶をご馳走されたというわけだ。
その時いれてくれたのが、オレの最近お気に入りだったアールグレイだったってわけさ。
そして………それは、オレの固定観念−お茶なんて飲めればどれでも変わりない−を吹き飛ばすほど良い香りがするアールグレイだった。

『………凄く良い香りがする………』
『お気に召しましたか?』
『うん。お茶の香りなんて今まで気にしたことなかったから………』

 オレは、その時の秋月さんの紅茶の香りが酷く気に入った。そして、それを分けてもらえないかと頼んだら、秋月さんは快く分けてくれたのだ。
あの日分けて貰った紅茶の葉は、それから毎夜のように飲んでいたので………とうぜん、底をつく日が来たと言うわけさ。
そのせいで、今夜はスーパーで安かったらという理由で買った某社のデッカイパックに100個くらい入った安物で我慢しているというわけだ。
もっとも、オレの舌では、若干渋みが強いかな〜くらいにしか、その味の違いまでは分からないのだが………。
しかし、それ以外の部分………香りだけは誤魔化せそうになかった。やはり、あの香りはティーパックではでないという事なのだろう。
そのカップから漂う香りは、あの葉とはくらべものにならないほど弱いもので………それが少々寂しい。

「………紅茶って高いモンだったんだな………」

 一缶千円以上するなんて何事?って理由で、オレには高い葉に手を出す勇気はなかった。
庶民には庶民にあった慎ましい香りで我慢しろって事なのかも知れない。
 でも、あんなに良い葉(推測)を買ってるのに、秋月さんはあまり紅茶を飲まないらしい。まあ、何か理由があるのだろうけどさ。

『ここでは滅多に紅茶を入れませんからね』
『なんで?』
『彼(御門のこと)は、日本茶党なんです』
『そうなんだ?』
『前はお菓子を作ってくれた時などに良くいれていたんですが………。まあ、この話は止めておきましょう』
『え?』
『短い話ではありませんからね。せっかくのお茶が冷めてしまいますよ』
『………そう』

 あの時の秋月さんの顔………なんか一瞬だったけど、暗い陰みたいなのがよぎったような気がしたんだけど………。
それに、『お菓子を作ってくれた時』って言ってたよな。あの後、急に話を終わらせたって事は、それは失言だったってことだろう。
つまり、言うつもりのなかった言葉………もしくは、その席では話すべき事ではない話題だったって事か………。

「お菓子を作ってくれた時………作ってくれた時、か。とりあえず自分で作ったって意味じゃないよな」

 そうなると、他のメンバーの誰かがお菓子を良く作ってくれていたってことだ。となると………誰だったんだろう?
まさか、御門がケーキやクッキーを焼くはずないし、祇孔に至っては、論外だろう。
案外、カクテルとか作らせたら上手いかも知れないけど、お菓子だけはないと思う。第一、似合わないよ。
祇孔はそんな柄にもない事はしない男だとおもうし、御門はそんな事に割く時間はないはずだ。となると芙蓉さんとか?
………いや、違うな。芙蓉さんも御門の手伝いとか護衛の仕事とかで手の空いている時間はほとんどないはずだし。
それに、あの時に感じた感覚が違うと告げている。
………あの席では話すべき事ではない話題だと感じたのは、他でもない………オレだ。
 あの席にいたのは、いつもの4人。となると、それ以外のメンバーって線が濃厚だろう。

「もしかして………あのメンバーには、以前、他にも誰かいたって事なのかな?」

 思考はいつもここで止まる。考えれば考えるほど、オレには他のメンバーという可能性が捨てきれないのだが………。
だが………オレには、それについては今後も触れるつもりはない。たぶん、誰もが望んでない事になりそうだし。
それに、あのいつも笑みを絶やさない秋月さんが、一瞬とはいえ本当の顔を………何かに耐えているような顔をしたんだから………。
きっと………それに触れてはいけないのだろうから。でも………。

「………やっぱり、気になるよなぁ………」

 あの尋常ではない世界に住んでいるメンバーの中に居た人って、誰だったんだろう?
あのメンバーは全員、陰陽師って仕事柄、呪詛の怖さは誰よりも良く知ってるはずだ。
特に御門はあの長髪だしな。男とはいえ、毎朝櫛で髪を整えるくらいは最低限やらざるえないはず………。
そうなると、呪詛の触媒となる髪の毛とか、愛用品の櫛とか、そういったものに触れる事の出来るメンバーはごく限られた面子にならざる得ない。
離宮の使用人は、それこそ先代か、それ以上前の代から御門家もしくは秋月家に仕えている者達に限られるはず。
とくに、身の回りには用心のためもあって、信頼のおける人物しか置けないだろう。
そうなると、くだんの人物は、食事に関係しているだけに、とくに信頼のおける人物だという事になる。
以前御門から聞いた話が本当なら、そうならなざるえないのだ。

『呪詛で一番厄介なのは、その触媒となるモノを食事に混ぜられた時なんですよ』
『触媒となるモノ?』
『カレーなどの香りと味の強いものに、一滴の血を垂らして誰が気づけると思うのです?』
『その一滴の血が触媒となって………って意味?』
『そう。そのわずか一滴の血のために、万全を喫したはずのこの結界が役に立たなくなる事すらもあるのですよ』
『それが、呪詛?』
『呪い(まじない)の世界に距離は関係ありません。その触媒を介して送り込まれる呪いこそが全てなのです』
『そして、その呪いは体内からやってくるってわけ?』
『そういうことです。そうなると、呪詛を仕掛けた側に、その呪いを返すだけでも一苦労ですよ』

 顔は笑っていたけれど、その目は酷く冷たいものだったと思う。たぶん………御門は、その恐ろしさを味わった事があるのだろう。
聞くところによると、御門は何処に出かけても出された食事には一切手をつけないんだそうだ。
それどころか、飲み物すらも手を出さないとか。御門は、きっと離宮の外では持参した物以外は口に出来ないのだろう。
そういえば、前に御門が珍しく祇孔の事を羨ましがっていたことがあった。

『祇孔は何を食べても、何を飲んでも平気だと』と。『それがひどく羨ましい』と。

 まあ確かに、並外れたというか桁はずれたというか………とんでもないレベルの強運あるから、どんな物を口にしても大丈夫なんだろうけどさ。
でも、そんなある種の自由を満喫できる祇孔は、何かと普段の生活に制約を課せられた御門から見ると酷く羨ましいのかも知れない。
食事はいつも離宮の中で、いつも変わらない風景の中でしか食事できないなんて………。それは、なんとなくだけど………可哀相な事だと思う。

「………なんか湿っぽくなったな」

 まあ、それはいいとして………今は、くだんの人物についてだ。
つまり………頻繁にお菓子を作ってたって人は、食事に関係している以上、相当信頼出来る人だったって事だよな。

「お菓子を作れる人っていうからには、やっぱり女性の人だったのかな?」

 その人の思い出に触れるのが嫌で滅多に紅茶を飲まなくなったくらいなんだから………。
うん、やっぱり女性だろ。いや、まてよ………最近は、男でも料理が出来ても全然変じゃないしな。
あの紅葉の料理の腕前(プロ級だと思うね)を考えると………男って線も十二分にあり得るな。

 可能性その1。祇孔の血縁者。
 う〜ん………違うな。いくら祇孔が側近中の側近って立場でも、血縁者まであの扱いをされるはずない。
それに………なんとなくだけど、祇孔って一人っ子っぽい。いや、一人っ子っていうか………両親と疎遠な感じがするんだよ。
なんか家に帰ってなさそうな感じがするんだよな。離宮に泊まるか、歌舞伎町で朝まで遊んでいるか………。
帰っても、案外誰もないマンションとかってパターンなんじゃないかと思う。
それでもって、そんな時の祇孔の横には、なぜか派手な格好をした女性の姿があってさ………。
うん。それでこそ祇孔って感じだ。よって、ボツ。
どこまで自分の考えが合ってるかなんて分からないけど、これについては案外当たってるんじゃないかって気がするから不思議だ。

 可能性その2。御門の血縁者。
………違うか。そんなの聞いた事もないよ。それに居たら、離宮に行った時にでも紹介されてるって。というわけで、これもボツ。
となると、自動的に秋月さんの血縁者ってパターンも外れるな。

 可能性その3。何か原因があって居なくなった人。
 まあ、これは間違いないだろうけどさ………。問題は誰かってことなんだよな。
あの御門達の側にいて、なおかつ家族のように信頼されていた人、か。
ん?まてよ?………家族?………そうか。その可能性が残ってたな。

「………だー!!やめやめ!かんがえないって決めたんだろ?」

 そう何処までも勝手に暴走して推測する自分自身に言い聞かせると、オレは程良く茜色に染まっているであろうカップの中からティーパックを引き出して………。

「………焦げ茶色」

 どうやら、考え事をしていた時間は、自分で思っていた以上に長かったらしい。
少々というか、かなり濃いめになってしまったが、生来貧乏性のオレは捨てるには忍びなかったので、レモンの輪切りを二枚浮かべて誤魔化す事にした。
しかし、香りはともかくとして、そのエグ味はどうにもならないわけで………砂糖、入れてみるか?
よくよく考えてみれば、このような液体にレモンを浮かべる前に、ミルクを落とす事を検討すべきだったかも知れない。
だが、レモンを浮かべてしまった以上はもうどうにもならないわけで………って、レモンどこいった?

「………あ、沈んでる………」

 もう、手遅れか。ここはやはり砂糖だろう。景気良く4杯くらいいってみるか?

「………なんちゃってレモンティー?」

 なんだか、ずいぶんとわびしい紅茶だな、おい………。あーあ、また、分けてもらえないかな………幾らする葉なのかは分からないけど。
アルバイトもせずに一人暮らしをしている自分の身勝手さを、やたらと広い心の棚の一番上に放り投げつつ、我が身の貧乏を呪う。

「………すべてはビンボーがわるいんだ………」

 まあ、とにかくだ。
話を最初に戻すと、秋月さんに紅茶をごちそうになってからというもの、オレは紅茶党になったってわけだ。
ちなみに、京一はコーヒー党だ。
カフェオレなんだか、コーヒーなんだか区別が出来ないほどに砂糖とミルクを放り込むあの男の行為を容認できるのなら、あいつはコーヒー党という事になる。
だが、紅茶に魅了された今のオレにとっては、あの体に悪そうな醤油の如き黒い液体は、もう飲めた代物ではないわけで………。

「この香りと比べれば、あれは泥水だね」

 そんなどこかで読んだ事のある言葉をつぶやきながら、カップの中の紅茶を一口。う〜ん………。

「………まじゅい(滝涙)」

 今夜の紅茶は、とても苦くて、甘くて、すっぱくて………そして、どことなく塩味がした。







 あの一口は味覚にダメージを与えてくれたので、もう一回ちゃんとした紅茶を入れ直すことにした。
無論、捨てるなんてもったいないことはしない。………根性で全部飲んださ。

「やっぱ、考え事しながらキッチンに立つのは良くないよな」

 さて、さっきは何かと考えが脇道にそれまくっていたが………。

『ポーン♪』

 午後8時34分。
 壁にかけてある時計の針がその時間を指したとき、パソコンがいつもの音を立てた。

「お、きたきた」

 オレは今度こそ良い具合に茜色に染まった紅茶のカップにレモンの輪切りを浮かべると、パソコンの前に戻った。

 どんなものにも偶然というものはあると思う。このいつも決まった時間に届くメールも、その一つといえるだろう。
きっかけは、間違いメールだった。そのメールに「間違えて届きましたよ」とレスを返したのがきっかけだった。
だが、それが間違いのメールでなかったと分かったのは、それから数日後のことだった。
よくよく聞いてみると、それは間違いメールなどではなく、不特定多数の相手の誰かに相手にメールを送るというサービスだったのだ。
手紙を詰めたペットボトルを海に流すって感覚で、ネットの海に繋がった見知らぬ誰かにメールを送る………。
そんなサービスがあることを、オレはそれまで知らなかった。
それからというもの、オレとこのメールを送っている誰かは毎日のようにメールをやりとりしているわけだ。

 メールの相手は『わとそん@入院中』くん。わとそんを名乗るとは、なかなかに愉快な人物だ。
もしかすると『くん』じゃなくて『さん』かもしれないし、『ちゃん』かもしれない。まあ、顔を知らないからね。
ちなみに、オレはその相手に対抗すべく『ほーむず@迷探偵』と名乗っている。………そう、元ネタは、かの名探偵ホームズだ。
ちなみに、平仮名なのは相手の対抗してという意味のない理由だったりするし、@迷探偵に至っては単なる気分の問題だったりする。
『真神の迷探偵』なんて呼ばれているらしいオレのことを知ってるヤツが聞いたら「ヲイヲイ、マジかよ?」とツッコミが入りそうだな。
まあ、そんな事はどうでも良いか。吹聴する気もないしね。さて、今日はどんな内容かな………。

 . 
 こんばんわ。わとそん@入院中です。
ほーむず@迷探偵さん、おげんきですか?ぼくのほうは相も変わらず@入院中がとれません。
なかなか@祝退院にはなれませんね。

 今日は先日の問題の回答を返したいと思います。
ほーむず@迷探偵さんが出された問題はこんな感じだったと思います。

>その夜、夜遅くまで一緒に酒を飲んでいた男Aと男Bが、男Aの部屋に帰ってきた。
>しかし、翌朝Bは死んでいた。Bを殺したトリックを考えてみよ。

>○Aの証言から得られた状況に関する情報。
> その部屋は、二人が帰ってくるまで無人で、鍵がしまっていた部屋だとする。
>(つまり、鍵をこじ開けたりといった痕跡はなかった)
> その二人の男は、その部屋でほぼ同じ行動をとっているものとする。
> 汗をかいていたのだろう、A→Bの順番で風呂にも入り、A→Bの順番で歯も磨いた。
>(常識としてありえないが、同じ歯ブラシを使ったとする)
> 二人は喉が乾いていたのか、寝る前にそれぞれA→Bの順番で水道の水を飲んだらしい。
>(コップは使用後各自が水洗いしたとする)
> そのほぼ同じ行動をとった男の二人目(ここがミソ)が、翌朝死亡したとする。
> その男は何かしら毒物を摂取したらしいのだが………。
> その男を殺し得たトリックを推理してみてほしい。

他にもひげ剃りとかトイレとか色々書いてありましたけど、全部A→Bと使用順が書いてあったので省きますね。
えーっと、この問題を出されてから色々と考えてみたのですが………。
『同じような行動をとっていた上に、同じものを摂取したのに、一人目は平気で二人目だけが死亡した』
『寝るときまで生きていた』
これが、この問題のミソなのだと思います。まあ、問題にも『ここがミソ』って書いてありましたものね。
そこから考えると、いくつかトリックになる可能性があると思いますので、それをあげてみようと思います。

1)寝ている時に何か注射された
 トリックと書いてあるのだから、こういった常識的な方法はないとおもうので却下。

2)Bの男はAとは違って、何か睡眠薬のようなものを摂取していた。そして、その薬の中に毒物が混入していた。
 問題の趣旨とはずれるので却下。

3)Bが寝ている時に、Aが何かを無理矢理飲ませた。
 やっぱり、問題の趣旨とはずれるので却下。

4)Aが首をしめて殺した。
 トリックだといっている(笑) しかも毒物が出てきてない(爆)
 どうあってもAを犯人にしたいのか?< 自分。

あははは………結論としては『わかりません』ってことです。
まあ、遅効性の毒物だろうということと、犯人がAでないということだけは分かっているんですが………。
(Aの犯行だとすると、言い逃れできそうもないですしね)
トリックだけはどうしてもわかりませんでした。
(水道の水を飲むのに別のコップを使ったとすれば話は別ですが………)
是非、トリックを教えてください。気になって気になって………。
それでは。

 . 


 いつしかオレ達は互いにこんな問題をやりとりするようになっていた。
無論、問題としてはありえない状況を想定しているだけに、トリックもチープなものが多いのだが………。
このワンソンくん、なかなかに着眼点がいい。
こんなに限られた情報から、こっちの思惑をほぼ推測できるというのは一種の才能なのかもしれない。

「うーん、惜しい。水道が妖しいってのはバレてるみたいだけど………」

 この問題のトリックなんてものは、別にそう難しいものじゃない。
だが、そのトリックとは別に『誰に殺意があったのか?』という事が問題になるわけで………。
この答えは、この問題に対する答えとしては大減点ものだよな………。

「ま、そのあたりの判断は彼に任せて………。えーっと、レスレスっと」

 相手がワトソンを名乗っているせいか、最近のレスはなぜかホームズ口調になってしまう。
もっともワトソンくんも喜んでくれているみたいだから、これはこれで良いのかも知れないが………。
まあ、これも慣れってことなのかな?


 . 
 親愛なる、わとそん@入院中(ワトソン)君へ。

 まず、答えておきたいのだが、この問題の犯人は二人考えられるのだよ。ワトソンくん。
そして、この問題は、最終的には『だれに殺意があったのか?』という点に全てが集約されるのだ。
その点は最後に述べるとして、まずはトリックだ。

 まず、男Aに殺意があったとしよう。そう仮定すると、行動順が問題になるだろう。
男Aの後に、必ず男Bが同じものを使うのだから、チャンスはいくらでもあっただろう。

 毒物が液状なら、歯ブラシという選択肢もあるが、毒物の味に気がつく可能性があるだろう。
それに、歯ブラシを使う前には、軽く洗ったりはしないかね? 私は結構、念入りに洗う方なのだよ。
よって、『歯ブラシに毒物を塗りつける』という答えは、ハズレとする。

 一応の回答としては、問題は水道のくだりのあるといえるだろう。
Aは水を飲んだあと、コップを洗った。そして、Bはそのコップを使って水を飲んだ。
それならば、『そのコップの底に毒物を塗りつける』という方法がまず考えられるだろう。
口の部分では、そこに口をつける可能性は低いからね。
翌朝、そのコップを綺麗に洗うなり何なりすれば証拠隠滅もできるかもしれない。

 だが、方法はそれだけではない。
水道を使った後に『水道の蛇口に毒物を塗りつけておいた』とすると、どうだろう?
一般に、水道の蛇口は人の視界からは見えない位置にある。仕込みとしては悪くないだろう。
もっとも、毒物が液状であることが条件になるのだがね。
だが、これなら『コップの底の異物に気がつかれる』という可能性を回避できるだろう。
なおかつ『毒物の味に気がつく』可能性も低い。水で薄まるからね。
翌朝、10分くらい水を流しっぱなしにしておけば、後始末にもなるだろう。

 だが、それでも万全とはいえない。
人によっては水道をしばらく流しっぱなしにしてコップを洗って、それから飲む人もいるからだ。
この場合、折角の仕込みも効果は零に近いだろう。
それならどうするかというと………蛇口に時限装置を仕込むのだよ。

 カプセル状の薬があるね?そのカプセルに液体の毒物を仕込み、水道の蛇口に仕込んでおくのだよ。
機会があれば、水道の蛇口を見てみるといい。そこには、金属製のネットのようなものがあるはずだ。
それは、本来水道管内のゴミをこすためのものなのだが、このトリックには大いに役立つといえるだろう。
そのネットのようなものをはずし、そこにカプセルを詰める。これで準備は万端だ。
 Aが水を流すことによって、そのカプセルはゆるみ始める。そして、Bが水を流す時。
その毒を包んであったカプセルは完全に開き、中の毒物は水に混入するというわけだ。
そのカプセルが水に溶けるものならなお良いが、水に触れることによって開くのならとりあえず問題はない。

無論、この方法も問題点はたくさんある。だが、それらはある程度予測できるはずなのだよ。

1)それくらい水を流せばカプセルが開くか、それを予測できるのか?
 それはあらかじめ何度も試す事で推測できるはずだ。
 演習装置として、カプセルの中身に絵の具でも詰めておけば、十分に予測可能だろう。

2)Bが水をすぐ飲むか、それともコップを洗うか。それを予測出来るのか?
 人の習慣や行動というものは、ある程度パターン化するものではないだろうか?
 癖や、習慣。そういったものをつぶさに観察しておけば、Bが水を飲む前にとるであろう行動は推測可能なはずだ。

 ほかにも、Aが「水を飲むか?」とBにもちかけて、Bに水道から注いだ水を渡してやるという方法もあるだろう。
これなら、タイミングの問題も回避できる。その証言が嘘だということを証明する手段はないのだからね。
もっとも、それでは問題の前提条件に矛盾してしまうという問題が残るだろう。
だがね、人はひどく嘘つきな生き物である事を忘れてはならないのだよ。ワトソンくん。
問題に、『Aの証言から得られた状況に関する情報』とあるだろう?
Aが嘘を言っていない証拠など………どこにもないのだよ。
無論、そんな事を言い出しては、問題として成り立たないのだがね(笑)

 だが、これだけは忘れないでほしい。
どんなに誠実な者でも、一生に一回は死ぬ気で嘘をつくものなのだ。それが人という生き物なのだよ。
 人が嘘をつくのは自分のためかも知れないし、誰かのためかも知れない。
自分のために、誰かのために、我が子のために、金のために、己の人生の栄光ために、諦めきれない執着心のために。
忘れることのできない恨みのために、殺してやりたいほどの憎しみのために………人はみな嘘をつく。
もしかすると、それは自分が愛する者のためにつく嘘なのかも知れない。
もしかすると、それは我が子のためにつく嘘なのかもしれない。
自分の愛する我が子を守るために、嘘をつくことを躊躇う親などいないのだからね。
そして、人は正義を行うために嘘をつくことすらもあるのだよ。

 忘れないで欲しい。人は正直でない生き物なのだということを。
人は、人生の色々な局面で、つきたくもない嘘をつかなくてはならないのだ。
今の社会は、そういった嘘を緩衝材として動いているという側面ももっているのだよ。

 もしかしなくても、ワトソンくんはこの意見を否定するかも知れないな。
この意見はあくまでも私個人の考えに過ぎない。どう受け止め、どう考えるかは人それぞれだ。
だが、私は自分の考えを否定しようとは思わない。人は嘘つきだということを知っているからね。
そして、人のつく嘘は、愛情から発するものもある事も知っているからね。
だからこそ、白い嘘という言葉があるのだと………私は思うのだよ。

 話がそれてしまったようだ。本題に戻ろう。

 ほかにも問題はあるだろうが、ようはこういったトリックだったんじゃないかと推測されるということだよ。
だが、そうなると、男Aの犯罪であることは誰が見ても明白だろう。
蛇口のネットが歪んでいるのを見つけさえすれば、いずれ誰かが気がつくチープなトリックに過ぎないのだからね。
その点をクリアできない限り、男Aは捕まってしまうだろう。

 むしろ、私としては『それを狙っている誰か』という可能性のほうがむしろ高いと思えて仕方ないのだよ。
そして『Aもまた被害者である』と想定した場合、どのような犯人像が浮かぶだろうか?
『その部屋に自由に入る事のできる人物こそが、本当の犯人である』と考えられないだろうか?

 その人物は合い鍵をもっていて、なおかつAに恨みがある者。犯人は、そういった人物に絞られるだろう。
合い鍵を持つほどに親密な関係にあったにも関わらず、一方的に振られた女性。憎しみの果てに離婚した妻。
一方的に関係を断たれた愛人。屈折した愛情の果てに憎しみを持つに至った女性ストーカー………。
ごく一般的な可能性としては、そんなところではないだろうか?

 ワトソンくん。この問題の教訓が分かるかな?
互いに『女性には誠実な態度でもってあたろう』ということだよ。最近の女性は怖いからね(苦笑)
それでは、今夜はこのくらいで。

PS.どうにも説教臭いレスでゴメンね。

 . 


 送信ボタンを押して、背伸びをしたとき、時計の針は9時を指そうとしていた。
最近、慣れてきたせいか、なかなかタイピング速度が早くなったと思う。
もっとも、御門のタイピングを見た後では、まるでスローモ−ジョンのようにも思えるが………。

「くらべるほうが間違ってる………か」

 あの電脳陰陽師と比べてはいけないのだろう。彼のタイピング速度は最早神業のレベルに達している。
そう自己完結すると、オレはパソコンの電源を落として、すっかり冷たくなってしまった紅茶の残りを飲み干した。

「今度はどんな問題を作ろうかな?それとも、また彼が問題を作ってくれるかな………」

 いつのまにかオレの中では、ワトソンくんは男性という事になってしまっているらしい。
そんな顔も知らない、ネットの海の向こうにいる彼の事を色々と想像しながら、オレは風呂へと向かったのだった。







 オレは、体の芯からこみ上げてくる震え感じながら、舞い散る雪を眺めていた。
あの珍問答メールからも、相も変わらず『わとそんくん』とのメールのやりとりは続き、その奇妙な関係もはや数ヶ月にも及ぼうとしていた。
しかし、彼の@入院中が@祝退院になる事はなく………そして、オレもそれに何か良くない予感のようなものを感じていたのかも知れない。
怪我ならもう退院していなければならないだろう。となると………わとそんくんは病気か何かだったのかも知れない。
オレは、最近ではもうその事に触れる事はやめて、ただ毎日の出来事をやりとりしたり、例によって『なんちゃってホームズ』を演じていたりした。
その間、交わした問題数は数十にも及び、流石に問題のネタがなくなりかけていた時のこと。

 『一度、会ってもらえませんか?』

 そんな短い文章と住所の書かれたメールを最後に、彼はもうメールを寄越さなくなった。
それがどうにも気になったオレは、顔も知らない相手を探して、遠路はるばるこんな離れた街の一角にある病院までやってきたというわけだ。
ちなみに、ほーむず@貧乏人ことオレがここまでくるために鳴瀧さんに頼み込んだのは余談といえるだろう。
まあ、そんな事はどうでも良いかも知れないが………寒いな。

「クシュン!」
「龍麻………風邪かね?」

 そう苦笑を浮かべて、オレの横でいつもと変わらない格好でハンドルを握る鳴瀧さん。
………そう。丁度、こっちの方へ用事があるという鳴瀧さんにオレは便乗させてもらっていた。
本当に用事があったのかどうかなんて知らないけどね。まあ、好意には甘えておくさ。

「いいえ。寒いダケです」
「………済まないな。こんな時にエアコンが壊れるなんて」

 東京を出て数時間は車のエアコンは元気に動いていたんだけどね………。でも今は冷たい風しか吐き出さない。
高速に乗ってから、いきなり止まっちゃったんだよ。お陰で寒いのなんのって………。

「オレって、運が悪いんですかね?」
「そうかも知れないな」

 ちなみに、車内の気温は確実に0度近いだろう。外と違って風がない分まだ暖かいのかも知れないが………。
オレは、電車で移動できない我が身のビンボーを呪いながら、セータの上に重ね着しているコートの上から体を抱きしめた。
………うん。こうすると、少しだけ暖かいような気がする。でも………なんで、車の中で寒さに震えなきゃいけないんだ?
なんか、理不尽だぞ?それに………寒がってんのオレだけじゃないか?なんで、鳴瀧さんはスーツだけで平気なんだ?
寒くないの?一流の武道家は暑さも寒さも平気だっての?………そういえば、鳴瀧さんは夏でもこの格好だったような気がする。
それでいて、汗一つかかないんだよ。………本人曰く、気合いの問題らしいけど。そんなの変だよ………。

「………龍麻」
「ナンデス?」

 ああ、鼻水が………喋りにくい………。

「煙草を………」
「ダメデス」
「………龍麻。別に窓を全開にしろと言っている訳じゃない。少しだけ開けるだけだ。煙いのはキミも勘弁願いたいだろう?」
「ソレダケワ、カンベンシテクダサイ。ボク、シンジャイマス」
「………なら、少しだけ我慢したまえ。我慢できなくなったら窓を開けると良い」

 そう若干顔の表情を厳しくして鳴瀧さんはスーツの胸ポケットから、煙草を抜き出して火をつける。

「フー………」
「………うっ」

 煙たい。ってゆーか、臭い!目にしみるぅ〜!!

「………ううう………」
「しなくていい我慢なんてしても仕方ないだろう?………窓をあけないか?」
「イヤデス」
「そうか………フー」

 オレが嫌がってんの分かってるんだろうけどね。でも、鳴瀧さんにも譲れない場合があったらしい。
東京を出て、はや半日近いせいか、鳴瀧さんもガマンの限界だったのだろう。
喫煙者にとって煙草の禁断症状というのは、凄く辛いらしいから。なんても大麻とかよりも習慣性が強いんだってね。
まあ、オレは未成年という事もあって煙草は吸わないから、その辛さそのものは、分かんないけどさ。
だからというか何というか………この匂いと煙は嫌いなんだけどね。でも、乗せてもらってる身で贅沢はいえないだろう。しかし………煙たい。

「………げほっ」
「窓を………」
「ダメデス」
「煙たくないかね?」
「………」
「窓をあけたら………」
「ゼンシンゼイレイヲカケテ、コトワリマス」
「………フー………」
「げひょ、げひょっ」
「窓………」
「ヤデス」

 そんなやりとりを繰り返しながらも、オレは目指す病院へとたどり着いていた。
その間、鳴瀧さんが吸った煙草は8本。オレは、薫製さながらにたっぷりと燻されており………。

「………寒いけど、空気が美味しい。にしても………クンクン………くっさー!!」

 鼻が馬鹿になったオレでさえこれだけ臭く感じるんだから………きっと、くっさい匂いを漂わせているだろうなぁ………。
………クソっ。全ては、ビンボーが悪いんだ。



<つづく>





 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
 御意見、御感想、叱咤、なんでも結構ですので、メールや感想を頂けると幸いです。