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東京魔人學園SS オリジナル短編?.
request by タクト様 / write by 雪乃丞.
明日へと続く道

 私が、あの人に出会ったのは、単なる偶然だったのかも知れない。
でも、私はそうは思いたくない。

 なぜ私が、あの人と出会ったのか………。
なぜ、あの人と私が、あの広い街で出会い、そして話しをすることになったのか………。
あの出会いを………偶然なんかじゃなく、必然だと思いたい。

 なぜなら………それが、あの二人へと繋がる糸であるという証なのだから。
そして、その糸の先には、みんながいて、諸羽くんもいるのだと信じたいから。

 だから、私は、それを必然だと思いたい。
きっと、諸羽くんの進む道と、私の進む道は、どこかで繋がっていると思うから。
だからこそ、私はあの出来事を必然だと信じたい。
そう信じている限り、私は元気に歌えると思うから………。
そう信じている限り、私は今日も笑顔でいられるから………。







 欠かさず受け続けていたレッスンの成果なのか、それともあの事件の際に目覚めた<力>のお陰なのか………。
加速度的に人気が上がってきて、アイドルとしての私の仕事はますます忙しくなっています。
でも、今以上に忙しく充実しているかのように感じた………あの決して人に話せないような、不思議で危険な戦いの日々。
そんな非日常的な日々が………いつまでも続くかのように思えた厳しくも充実した日々が、終焉を迎えたあの日。
みんなで日の出迎えたあの日から、はや9ヶ月が経過しようとしています。

 当時高校2年だった私の高校生活も、残すところあと半年足らず。
当時からレッスンに仕事にと時間をとられていた私は、大学への進学を早々に諦め、芸能界一本に進路を絞りました。
そして、今まで以上にレッスンを受け、着実に実力をあげていっている………らしいです。
らしいというのは、自分ではどの程度上達したか良く分からないから。
でも、周囲の人たちがいうには、着実にレベルアップしていっているらしいです。
諸羽くんの言葉ではないけれど『何事も地道な訓練あるのみ』って事なのかも知れませんね。
まあ、そんな訳で、今の私は以前以上にレッスンに仕事にと、なかなかに忙しい毎日を送っている次第です。

その一方で、進路の心配のない私と違って、大学への進学を考えているらしい諸羽くんとは、ここのところ疎遠になってきています。
でも、それは彼のせいなどではありません。全ては私の言い出した事なんです。

 彼は、とても優しく、誠実な人で、すごく努力家で、頭も良く、頼りにもなる人だと思うんですけど………。
その半面、二つの事を同時に進めるといった事が苦手という不器用な人でもあるんです。
今までも、私を守るためためだけに、自分の勉強する時間を犠牲にしてきたんです。
前のようにそこそこ忙しいといったレベルではなくなってきた私につき合わせていては、とてもではないですが勉強などしている時間はありません。
楽屋の長椅子の上に広げた参考書の上に突っ伏して眠っている姿を見たのも、一度や二度ではないのです。
それでも、彼は勉強と私の護衛役を両立出来ると言っていたのだけど………。
一日の平均睡眠時間が4時間を切るような今の私の生活に、彼を巻き込む訳にはいきません。
私は自分の選んだ仕事であるし、好きな事だからいくらでも我慢できるし、苦には思いません。
でも、彼にしてみれば、私につきあっているだけなんですから………。
それに………騒がしく人の出入りの激しい楽屋や、薄暗いスタジオが勉強なんてできる環境なはずがないんです。
私は………彼に、無理はして欲しくなかったんです。

 仕事が終われば、彼は私を家まで送ってくれていました。それが、私と彼の毎日の日課でした。
無論、遅くなるとスタッフの方が車で送ってくれるんですけど………。
その数十分という時間が………。
彼に話す一日の出来事、嬉しかった事、大変だった事、嫌だった事、恥ずかしかった事とか………。
そうやって彼に話しを聞いてもらうのが、いかに私にとって大事な事だったのか………。
いかに、その事が私のストレスの発散になっていたのか………。いかに私にとって救いになっていたのか………。
彼がいなくなった今となっては、それが良く分かります。
たぶん、私にとって、諸羽くんの笑顔を見るのと『お疲れさま』って言ってもらうのが、何よりの精神安定の秘訣だったんだと思います。
でも、その代償に、彼が私よりも睡眠時間が短かくなるのは、間違いないんです。
彼は、それからようやく勉強する時間が取れるんですから。………そんな事をしていたら、彼は間違いなく倒れてしまいます。
だから、私は彼に勉強だけを優先してもらったんです。

 でも………もしかすると、私は彼だけでも普通に生活して欲しいって思っていたのかも知れません。
高校生としての普通の生活というものは、もう今の私には望んでも手に入れられないのですから。
 ここは厳しい世界です。少しでも努力を怠れば、とたんに誰かに追い抜かれてしまうのです。
そして、一度『落ち目』のレッテルを貼られれば、そこから這い上がるのは容易な事ではありません。
………でも、本当のところはどうだったんでしょう?
実際のところは、どうだったのか………何を思って諸羽くんから離れたのか………自分でも分かりません。
でも、諸羽くんにこれ以上迷惑をかけたくないというのが、当時の私の偽らざる気持ちだったのは間違いありません。
それだけは今でも間違っているとは思えません。
たとえ………諸羽くんが、私の知らない子と、最近一緒にいるのを良く見かけるという話を聞いても。
悪いのは………きっと、私なのでしょうから。

 最初は後悔しかしませんでした。
ある程度売れてくると、楽屋は私個人の専用として用意されるんです。
前みたいに、みんなで一緒に使う楽屋などでなく、一人で占有できる広い楽屋………。
それは、一種のステータスみたいなものなんだとマネージャさんも言ってくれます。
だから、私には『前の楽屋に戻りたい』なんてワガママは言えません。
それに、現在売り出し中の人たちの中に、成功した私が混じっていては、周りの迷惑にもなるんだそうです。
(周囲の嫉妬とやっかみの視線も、耐え難いものがあるのは確かですし………)

 それでも、私は、前の楽屋の方が良かったと思うんです。
以前のように、諸羽くんが側に居てくれるのなら、この部屋は………私にとって何よりも嬉しい贈り物になったんだと思います。
でも………一人で楽屋にいると、凄く寂しいんです。
自分で選んだ事なのに………身勝手な話しですよね。でも………本当に寂しいんです。
こんな時は、彼が………諸羽くんが、私の中でどれほど重要な位置を占めていたのか………思い知らされたような気がします。
前に比べると、ストレスとかプレッシャーとか凄いんですけど………でも、私は負けません。いえ、負けてはいけないんです。
ブラウン管の向こうに、普通の高校生としての幸せと日常を満喫している諸羽くんが居てくれると信じて………。
それを信じて、頑張る事だけが私にできる精一杯の事なんです。
マネジャーさんに心配をかけて、その結果として諸羽くんに戻ってきてもらうような事にだけは、決してなってはいけないんです。
それが、今まで諸羽くんに迷惑をかけ続けてきた私にできる精一杯の贖罪なんだと思うから。
それに、これが私の選んだ道なんですから、弱音をはく訳にはいきません。

でも………オフの日だけでもいいから………少しだけでも良いから、会いたいな。
なんでもない、毎日の話が聞きたいな。勉強とか、学校とか………そんな普通の話が聞きたい………。
私のどうでもいいグチなんて聞いてくれなくて良いから………会いたいな。………声が聞きたいな………。
でも、諸羽くんの勉強の邪魔になるから電話も出来ないし、会いたくても合えるような時間はないし………。

………ダメだな、私。一人でいると、こんな事ばっかり考えてる。

「舞園さん、スタジオの方、準備できました。お願いします!」
「はい!今日も、お願いします!」

 さあ、今日も頑張らないと。諸羽くんに心配かけられないもの!







 それは、楽屋で撮影のための準備をしている時のことだった。

「ご免ね。今日の予定、全部キャンセルになっちゃった」
「え?」
「さやかちゃんも知っての通り、今日からロケの予定だったんだけどね………どうやら事故があったみたいなの」
「事故って………何があったんですか?」
「なんでも物騒な事件かなにかあって、警察の人が周囲を封鎖しちゃったんだって。………まあ、お上には逆らえないしね」

 不運………なのかな?それとも運がいいのかな?いや、きっと不運なんだろうな。

「今日はゆっくり休んで良いわよ?ここのところロクに寝てないし、ストレスも溜まってるんでしょ?
街に出て買い物でもして………宿に帰って、温泉にでも入って、今日は早く寝るのね。
貴方がお酒が飲める歳なら、ぱーっと遊びに連れていってあげる!って言えるんだけどね」

 そう苦笑を浮かべながら伝えてくれたマネージャさんのおかげで、急遽私は数週間ぶりのお休みをもらうことになった。
せめて前日に分かっていれば、諸羽くんに会えたかも知れないんだけど………。

「せっかくのお休みだし………。どうしようかな」

今の時間は、朝の9:40分か。今から、東京に戻るとすると………下手すると夕方までかかるかも。
でも、夜には帰ってこなくちゃいけないから………遊べる時間なんて、数時間もないじゃない。
となると、平日だし、誰かを誘ってって訳にもいかないよね。

 しばらく悩んだ末に、私はマネージャさんの助言通り、ロケ地から車で30分くらいの距離にある名前も知らない繁華街に行ってみることにした。
無論、タクシーでね。代金は自分持ち。本屋に行って本を買って、CDショップを冷やかして、旅館に帰る………。
後は食事をして、温泉に入って、早く寝るくらいしか思いつかないな………。我ながら、寂しい休日だと思う。
諸羽くんが居てくれた時には、彼が色々おもしろい場所に連れていってくれたんだけど………。
こうやって一人になると、どこにいったら良いのか分からないなんて………。
でも、一人だと何処にいってもおもしろくないかもしれない。だから………これでも良いのかも知れないな。

 そんなブルーなタメ息でも出そうなほどに暗い結論に達した私に、声をかけてくる人がいた。

「すまない、少し良いか?」

 その声は、私の背後から聞こえてきた。………正直、ビックリした。
私だって、前までは命をかけて戦っていたのだから、背後に誰かが立ったら嫌でも気がつくはずなのに………。
でも、こうなった以上は逃げる訳にもいきそうにない。

「………な、なんでしょうか?」

 服は目立たないものにしてあるし、髪型も変えてあるし、サングラスだってつけている。
夏も終わりだという今の時期に少し変かもしれないけど、それでも私の素性に気がつく可能性は低いはず………。
そんな事を考えながらも、覚悟を決めた私は背後を振り向いた。

「ここは、どこなんだ?」

 そこには………私から、ほんの50センチくらいはなれた場所に、その人はいた。
身長は私より少し高いくらいかな………。でも、その体は栄養状態が悪いのか、えらく痩せているように思える。
それに、少しばかり目つきがキツイ感じはするけど………でも、綺麗な顔をした子。
見た感じ16〜7くらいかな?もしかすると、もっと下かも知れないけど。
でも………なんか雰囲気が年下っぽくないような気もする。かといって、無理して背伸びしてるって感じでもないし………。
超然としているというか何というか………。、もしかすると、私と同じ業界の人なのかも知れない。
子役とか、幼い頃から芸能界にいる人は、実年齢より遙かに精神年齢が高いって聞いた事があるし。

「どこって、地元の人じゃないんですか?」
「ああ。ここがどこなのか分からないで難儀しているところだ」
「道に迷ったんですか?」
「おそらく………そうだと思う」
「どこに行きたいんですか?」
「さあな」
「さあなって………どこに行くつもりだったんです?」
「………」
「分からないんですか?」
「ああ」
「じゃあ、どこから来たんですか?」
「………それは、オレも知りたい」
「………はぁ………」

 なんだか変な人だな。なんか頼りなさげっていうか………でも、それにしては妙に落ち着いてるし。

「私はま………コホン。霧島さやか。貴方は?」

 危ない、危ない。流石にこんな場所で本名は名乗れない。勝手に名字を使ってゴメンね、諸羽くん。

「………おそらく、キリヒトというのだと思う」
「キリヒト?どんな字を書くんです?」
「………霧に人だろう。それ以外に組み合わせは思いつかない」

 どうにも変な受け答えだと思う。私は嫌な予感しかしなかった。

「もしかして………」
「ああ。おそらくはそうなんだろう」

 やっぱり、記憶喪失なのね………どうやら、本人も気がついていたみたいだけど。
でも、なんで、せっかくの休日にこんな変な男の子に出会わないといけないのかしら?
私って、そんなに日頃の行いが悪かったのかな?………う〜ん、良くない………かも。
でも………放っておくって訳にもいかないよね。

「なにか手がかりってないんですか?」
「これだけが、今のところ唯一の手がかりだ」

 そう言うと、霧人さんは、ジーンズのポケットから、手紙を取り出した。

「それは?」
「さあな。ポケットに入っていた。他には身分を証明するような品は何もない」
「見せてもらって構いませんか?」
「ああ」

 受け取った手紙は、まだ新しいものだった。
封筒の裏に書かれた日付は、今日から数週間前。そして、その横には、名前………が………。

「………え?………そんな。………まさか!」

 そこには………私にとって、絶対に忘れられない二人の人物の名前があった。
震える手で封筒を開き、破らないように注意しながら、手紙を取り出し、ゆっくりと広げた。
その手紙には、二人分らしい筆跡の文字があった。

  
骨董屋へ

 こいつはオレが世話になったヤツだ。
 すまねーが、オレのツケって事で、こいつのタメに薬を幾つか見繕ってやってくれねえか?
 代金は、オレが日本に帰ってからキッチリはらうからよ。
 たのんだぜ?

追伸。
 ひーちゃんはあと2,3ヶ月で、そっちに帰るってよ。
 たぶんだけどよ、クリスマス前には帰ってるんじゃねーか?
 オレはまだ修行中だから帰れねーけどよ。ま、代金は踏み倒さねえから安心しな。

                            蓬莱寺 京一


追記。

 上のじゃオレの近況とかわかんないよね?京一にも困ったんもんだ。
 用件しか書かないんだから。というわけで、オレの近況とか書き足しておくよ。
 弦月とオレは、元気にやってます。弦月の姉さんという人が厳しいのなんのって………。
 翡翠にも一回会わせてみたいくらい美人で、キツイ性格の人です。
 京一もえらく難儀な人に弟子入りしたものだと思うよ。
 あと、客人の村の復興は順調です。この分だと、年内に一回くらい帰れそうです。
 まあ、近況はそれくらい。あと、上の件なんだけどさ、オレからもよろしく頼むよ。
 彼にはでっかい借りがあるからさ。よろしくね。

                            緋勇 龍麻

  

 私は、言葉を失った。
まさか、こんな形であの人たちと関係する人に出会えるなんて………。

「どうだ?何か分かるか?」

 その声で、ようやく私は自分を取り戻した。
なんて偶然………。ううん、これは必然なのかもしれない。うれしさで涙が出そう………。

「うん」
「知ってるのか?」
「う、うん」
「どこだ?」
「東京………。東京の北区にある如月骨董品店ってお店に行くようにって………」
「とうきょう?」
「それも、わからないの?」
「………ああ」

 さっき、霧人さんは、この手紙しか持ってないって言ってた。
ということは、たぶんお金も持ってないんだと思う。
身よりも両親の名前も分からないんじゃ、電車にも乗れないだろうし、東京までは行けないかも知れない。

「なら………」

 これはきっと………神様の助言なんだと思う。
 きっと………私に、東京に行けって言ってくれているんだと………思う。

「連れていってあげますよ。東京の如月さんのお店まで」
「いや、それが………」
「あ、お金も私が出しますから」
「………いいのか?」
「はい。私も………用が出来ましたから」

 そう。もう迷う必要なんてないと思う。
ううん………私は、今まで彼に………諸羽くんに会うのを怖がっていたんだと思う。
自分から彼の側を離れて、あげくに彼が私の知らない子と最近仲がいいって聞いて………。
レッスンと仕事に逃げていたんだと思う。結果を怖がって、彼の前に立てなくなっていたんだと思う。
でも、それじゃあ駄目。彼が他の子が好きなら………ちょっと………ううん、凄く悲しいけど。
でも、このままじゃまた諸羽くんに迷惑になっちゃう。私は………もう逃げちゃ駄目なんだと思う。

 それに………会いたい。
久しぶりに、みんなに………諸羽くんだけじゃない。みんなに会いたい。
雨紋くんに如月さん。
美里さん、桜井さん、醍醐さん、壬生さん、紫暮さん、御門さんに村雨さん、芙蓉さん………。
アランくんにコスモのみんな。
 みんなに会いたい。
みんなに、龍麻さんの無事を知らせたい。
みんなに、京一さんの無事を知らせたい。
みんなに、劉くんの近況を知らせたい。
裏密さんに相談しに行こう。紗代ちゃんと、舞子さんにも会いに行こう。
岩山先生なら、霧人さんの記憶喪失も直せるかも知れない。

………うん。やっぱり、これは天恵なんだと思う。

霧人さんと私が、こんな場所で出会ったのも………。
霧人さんが私に声をかけたのも………。
霧人さんがあの二人の恩人なのも………。
もしかすると、記憶をなくしたのも、なにもかも。

きっと………私に、東京に行けと言ってくれているんだと思う。楽しかった、あの頃の思い出のある場所に。

「いきましょう、霧人さん。東京へ!」

 私は、もうじっとしてはいられなかった。
なにやら考え込んでいる霧人さんの手を握って、私は駅へと続く道を急いだ。
みんなに会うために。
みんなの歩むそれぞれの道が………。
あの日………龍麻さんの卒業式の日から別れてしまった道が、まだ完全に分かれてしまっていないことを知らせるために。
そう。
みんなの歩む道は、きっとどこかで繋がっている。
きっと、また一つに繋がる日だって来る。
それは、きっと確かな事だから。
私は、霧人さんのお陰で、それを信じることが出来た。

だって………こんな凄い偶然が、私達と龍麻さん達をつないでいるんだから。
きっと………諸羽くんと別れてしまった道も、すれ違ってしまった道だって………。
たとえ、今日、その道が完全に別れてしまったとしても。

それは、きっとどこかで………未来で繋がっているはずだから。



<終わり>





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