女神転生ソウルハッカーズ SS.
write by 雪乃丞.
残されたモノ.
夢を、見る。
時々訪れる、突拍子もない、夢。
それが何なのか、私は知らない。
覚えているのは、一つだけ。
あの、懐かしい、男の顔。
私は今も………ここにいる。
多分、夢なのだろう。
あの日、ネットの海から迷いこんだ、もうひとつの現実。
レッドマンと名乗るモノによって、オレは別人の人生の一幕を追体験した。
その夢は、その体験の、少し前から始まっていた。
その夢で、オレはあいつともう一度出会ったのだった。
「馬鹿な男」
オレの傍らでそんな言葉をかける彼女が、涼しげに微笑む。
「貴方の命は、あんなに安いものなのかしら?」
「自由に生きるのには、色々と金がかかるものなのさ」
「自由なんて、何の意味もないのに」
「そう言うなよ。オレは、こんなに楽しいぜ?」
吸いかけの煙草を靴で踏みにじり、オレは腰の後ろにあるグリップの感触を確める。
「貴方は、馬鹿だわ」
オレは、その言葉にニヤリと口元を緩ませて、手にした銃のトリガーを引いた。
「知ってるさ!」
バシュ!バシュ!バシュ!バシュ!ガキッ ………チッ。弾切れか。
オレの愛銃が、弾切れを起したのにヤツも気がついたのかもしれない。
その歪んだ四肢を振るわせ、その口元に覗くいびつな牙の並びが歪んだ。
「ケッ。笑ってやがる」
その体に撃ちこまれた銃弾は、大した効果をあげてないようだ。
………ま、期待なんてしてなかったけどな。
「ヤレヤレ、やっぱりな。こんなモン、テメエみたいなブリキ野郎にゃ役には立たないか………」
何しろ、工事現場の資材が滅茶苦茶に組み合わさった代物だ。
こんな豆鉄砲が、効くはずがなかった。
オレのボヤキに、そいつは壊れたスピーカーから響いてくるような音で答えた。
『オロカナ………オレ様が、ソンナものデころセルトデモおもッテイタノカ?』
嫌な声だ………楽しんでやがるな。
もう獲物に武器らしい武器が残ってない事が分っているんだろうが………。
だが、残念だったな。オレにはまだ武器が残っている。
オレは、こういった化けモンをどうやれば殺せるかも、知っている。
しかし、まだ、早い。
あと、少し………あの扉を抜けるまでは、それを使うことは出来ない。
となれば、やることは一つだ。
「クソっ、覚えてやがれ!いくぞ!」
オレは、ヤツが追いつけるくらいのスピードで、逃げる。
そんなオレの影に隠れるようにして、宙を滑るかのような走り方で、彼女も走った。
「やっぱり、馬鹿だわ。貴方」
「知ってるさ」
勝算もなくこんな真似はしない。
全ては、ヤツをあの部屋に誘い込むだめだ。
『むだダ。にガサン』
そして、ヤツはオレを追って来た。
数分後。
オレは窓一つない薄暗い倉庫の奥に立っていた。
それは、彼女も同じだった。
「運動不足?」
彼女は、息を若干乱したオレの横に………いつもの位置に、冷笑を浮かべて立っていた。
「もう歳かね?」
「あら、いやだわ。もうおじいさんになるの?」
「あのな………オレはまだ40にもなってないんだぜ?そう簡単にジジイになるかよ?」
オレのナナメ後ろ………彼女は、そこでいつものように冷たい笑みを浮かべていた。
こんな追い詰められている状況においても………いや、どんな状況においても、彼女はいつも変わらない。
我が相棒の一人にして、我がチームの紅一点とでも言えばいいのかね?
美しく、気高く、そして………冷たい。
それが、オレが最も信頼する………相棒だった。
オレが死んだら、流石の彼女も少しは悲しそうな顔をしてくれるのかね?
それとも、いつもみたいに、冷たく笑うのかね?
………きっと………いつものように、冷たく笑うんだろうな。
そんな埒もない事を考えつつ、オレは煙草を咥えた。
最後の1本、か。
「車に予備を置いてたかな?」
「知らないわ。だって、私はさっき『来た』ばかりだもの」
となりゃ、さっさと終らせるに限るな。
「ったく、ウスノロ。トロイぞ。さっさと来やがれ」
そう咥えタバコでボヤいたオレに、何を思ったのか………。
『かんねんシタカ、にんげんガァア』
それはスチール製の腕を振り上げると、オレに向かって突っ込んでくる。
………さて、彼女がどうするか………。
その危険極まりない鋼鉄の腕は風を巻いて、オレに襲いかかってくる。
しかし、その腕は、オレの目の前で何かにぶつかったようにして停止した。
無論、オレの仕業じゃない。彼女が助けてくれたのだ。
「いつまで遊んでるつもり?」
その大木のような腕を、彼女は難なく受け止めていた。
そんな僅かに怒りを含ませた言葉に、オレは苦笑で答えた。
「なに、君ならきっと、そうしてくれると思ってたからな」
「さっさと、こんな雑魚片付けなさい。ウラベ」
「わかってるさ。リャナンシ−」
そして、僅かに視線が絡みあった数瞬後。
オレの手には、腰の後ろにあった銃にも似た物が握られていた。
これは特注品のPCだ。
非常に珍しい形状をしていて、世界中さがしても、おそらくはこれ一個だけだろう。
ルーン文字のキーボード自体、どこかおかしいのかもしれないが、何よりもその形状が珍しかった。
銃にも似たPC。
これを作った男は、これをガンタイプPCと呼んだ。
オレは、そのいつもの頼もしい重さを感じさせるPCを構えると、躊躇無く引き金を引いた。
引き金を引かれたガンタイプPCが、軽い音と共に開かれ、その画面に幾何学模様が走る。
そして、画面にはいつもの………見なれた文字が浮かんでいた。
『SUMMON DEGITAL DEVIL PROGRAM ... LOAD OK.』
オレの周囲の空間で、熱を感じさせない青白い閃光が走り、画面の幾何学模様を描き出していく。
そして、その閃光は、奇怪にして複雑。奇妙に歪み、奇妙に整った円陣を………魔法陣を描き出した。
その数、2つ。
「出て来い、野郎ども!狩りの時間だ!」
そして、その倉庫で、オレの呼び出した『悪魔』達の魔法が炸裂したのだった。
悪魔召還師………デビルサマナー、ウラベ。
オレは、夢うつつの中で、その男の事を見ていた。
もっとも、ウラベの体験は今回で二度目だ。
二度目ともなると、大した発見もなければ、大して面白いものでもなかった。
「たしか、ウラベだったっけ?」
どうやら、前の時よりも、まだ前の光景らしいが………。
「今度は体験するんじゃないんだな………。でも、なんで、今更、ウラベなんだ?」
オレの呟きに答える者はいない。
「レッドマン、オレにこんなの見せてどうしようって言うんだ?」
オレのボヤキは、周囲の闇に飲み込まれた。
まったく………レッドマンも、今度はいきなりだよな。
いつもみたいに、コヨーテとかの格好で言葉もなしかよ………。
しばらく、ブツブツとやっている間に、見える光景はあのビルに移っていた。
前は、体験だったけど、今度は何なんだろう?このまま見てろっていうのか?
そういえば、たしか、ここでフィネガンの野郎に始めて出会ったんだったな………。
『ミネッサ プログラム ………これか』
ああ、あのシーンか。
たしか、ここでウラベは自分のPCに、ミネッサを移そうとしたんだよな。
でも確かサイズが大き過ぎて、そのままじゃ入らなかったんだ。
だから、ウラベはここで重大な決断を迫れる事になる。
PCのメインプログラム………悪魔召還プログラムを消すか、ミネッサを諦めるか………。
相棒であるリャナンシー達か、奪還対象であるミネッサか………。
サマナーとしての力か、依頼のあったデータか………その二者択一を迫れたんだ。
あの時は、オレがウラベだっから、躊躇無く消したんだけど………。
ホントはどんな事があったのかな?
オレは、オレの追体験時と少しだけ違う光景に、いつのまにか引き込まれていた。
『どうやら、ここでお別れらしいな』
そう言いながら、ウラベは冷たい微笑を浮かべたリャナンシーの頬に口付けする。
そして、その時………オレは信じられないものを見たのだった。
あの………冷血女王なリャナンシーが………もの凄く………悲しそうな顔をしている?
『ウラベ………』
ウラベは、その言葉に無言で頷くと、抱きしめるようにして、ガンタイプPCを操作する。
オレは、その時、ウラベが何かをつぶやいているのに気がついた。
………聞こえない。何を言っていたんだ?
そして、その結果はすぐに表れた。
『ウラベ………マッテ………ル』
何か言いたげだったリャナンシーを始め、周囲の悪魔達が崩れるようにして姿を消した。
ウラベが、悪魔達を全員もとの世界に返したんだろう。
『………済まない』
物言いたげだったリャナンシーの姿が、自分の腕の中で完全に消えるまで………。
ウラベはその場を、動こうとはしなかった。
たしか、この後、ウラベは悪魔召還プログラムを削除したんだったよな。
やっぱり、自分の仲魔と永遠に別れるってのは、辛かっただろうな………。
悪魔召還プログラムとは、その名の通り、悪魔をこっちの世界に召還するためのものだ。
そして、PCには悪魔が契約時にサマナーに教える真名(まな)を登録しておかなくてはならない。
その真名のデータは、その悪魔の魂の一部ともいわれ、決して複製することが出来ないらしい。
まあ、オレも似たようなものに出会った経験があるから、それは分るんだけどな。
まあ、そういう訳で、ウラベみたいなデビルサマナーは、PCと召還プログラムがないと悪魔を呼び出せないんだ。
そして、そのPCに登録された悪魔の真名が、召還の鍵となる………らしい。
らしいというのは、オレも詳しくは知らないからだ。
今度、ビクトルか誰かに聞いてみようかな………。
そして、ここからが肝心なんだけど………そのプログラムは『常に周囲で動いていないといけない』らしいんだ。
ビクトルが言うのだから、おそらく間違い無いと思う。
悪魔召還プログラムはただ悪魔を召還すうためだけの道具じゃない。
悪魔がこの世界に留まるためのエネルギー………生体マグネタイトってのを、悪魔に供給する役目もあるらしいのだ。
だから、彼らは皆、PCを色々な形で持ち歩く必要があるらしい。
ウラベ達のようなデビルサマナーにとって、PCとは悪魔達とのコミュニケーションツールであるのだろう。
現に、PCがなければ、悪魔達とは会話することさえ出来はしない。
そして、悪魔達にとっては、PCとはこっちの世界での体の一部であり、エネルギーの供給源なのだろう。
特殊な造りのPCと、そのPCの上で動く悪魔召還プログラム………。
その2つが、悪魔とサマナーを繋ぐ絆そのものなのだ。
そして、必要に迫られたウラベは、そのプログラムを削除した………。
それは、契約していた悪魔との永遠の別れを意味しているだけではない。
サマナーとしての力の殆どを、この瞬間………ウラベは失ったのだ。
それが、敵の………フィネガン達の狙いであった事を、ウラベは知らなかった。
ウラベは、それを知ってか知らずか、まるで何かに急き立てられるかのように、作業を進めていく。
ケーブルでガンタイプPCと、部屋に設置された端末を繋いで、プログラムを移動させる。
今のような状態では、悪魔に太刀打ち出来ない事を、ウラベ本人も十二分に知っていたのだろう。
僅かに焦りの浮かんだ顔で、作業を急いで終えたウラベは、急いで部屋を後にしようとする。
そして………部屋の出入り口で立ち止まると………。
『じゃあな』
そう最後に、部屋に向かって言い残して………その部屋を後にしたのだった。
フィネガンらが待ちうける………死地に向かって。
オレは、その時のウラベの目を、多分一生忘れられないだろう………。
オレは目を覚ますと、自分が今の夢を細部に渡って覚えていた事に気がついた。
夢を見た事を覚えていて、その内容をここまで覚えているなんて、始めてのことだった。
そして、その事に驚きながらも、あの時見ていた光景を思い出し、オレには不意に『何か』がひっかかった。
あの時には感じなかった………違和感のようなものを感じたのだ。
「あの光景は、誰が見たものだったんだ?」
最初は、ウラベの視点だった。
懐かしい、あの感触。
始めてデビルサマナーの世界を知った、あの時の経験。
それは、フィネガンらファントム・ソサエティーの連中との、因縁の始まりとなった日の事だった。
オレは、ウラベの人生最後の戦いを追体験し、遺産であるガンタイプPCとめぐり合った。
そして、ミネッサと出会い、色々な事件に関わることになったんだ。
しかし………あの日の光景は、ウラベの視点ではなかった。
かといって、あの悲しそうな顔をした女悪魔の視点でもない。
だとすると………誰の視点だったんだろう?
そう考え込むオレの目に、枕もとに置かれたガンタイプPCが見えた。
閉じていたはずのパネルは開き、その画面には文字が浮き上がっていた。
『まっていてくれ。かならず迎えに来る』
日本語だった。
いつもなら、アルファベットしか表示しないガンタイプPCが、日本語を表示している。
しかも、なにかのメッセージらしい。
なんだろう?これは?
そして、ガンタイプPCを手にしたオレは、それを寝る前に机の上に置いた事を思い出していた。
いつのまに、ここに?
それに、誰が起動させたんだ?
素質がなければ起動させることすらできないはずのPCがなぜ起動していたのだろう?
そう考えたオレは、ある仮説を思いついた。
そして、それを確めるためにも、オレはあの場所へ行かなくてはならない。
オレは着替えて、ガンタイプPC………ウラベの残したPCを手に、部屋を出た。
向かう先は、分っている。
オレは、そこでウラベがやりのこした事をやらなければならないのだろう。
それは、彼の意志を継いだ………彼の力を受け継いだオレが、やらなければならないのだ。
だからこそ、彼はオレにあの夢を見せたのだ。
そして、あの時の約束をオレに教えたのだ。
そう考えれば、全ての疑問は解ける。
あれをやって、オレに自分の経験を夢で見せたのは、ウラベ本人なのだ。
そして、ウラベの遺志そのものであるPCは、それに応えた。
それだけの事なのだろう。
あの光景は………このPCと、その持ち主たるウラベの見たものだったのだから。
オレの考えが正しければ、あの場所に………彼女は今もいるはずだ。
鬼女リャナンシー。
ウラベの相棒にして………多分、愛していたと思われる悪魔。
だから、あの日の約束を果してくれるよう、オレに頼みにきたのだと………。
そう思えたのだ。
オレは、そんな確信めいたものを感じて、夜の街を歩いていた。
「安心しなよ。アンタの遺志は………オレが叶えるから」
そうオレは、腰にぶら下げたPCに告げたのだった。
ウラベの残した………遺品でもあるPCに向かって。
今日は、長い夜になりそうだった。
<おわり>
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
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