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Memory of LISA. write by 雪乃丞.



 1食につき、数ブロック。
総重量は、わずか数百グラムといったところか。
ニューマンやヒューマンが普通に生活するだけなら、それで十分に事足りるだろう。
携帯性に優れ、特に注意しなくとも長期の保存が可能な上に、安価。
それが、完全栄養食品モノメイトだ。

 その上、このパイオニア船団の中なら、何処ででも配給を受けられる。
逆に言えば、配給制のために、一日に何個もよけいに食べる事はできない。
無論、金を出せば、いくらでも手に入るのだろうが………。
こんな無個性で面白味のない味だけに、そこまでして食べ漁りたくなるようなモノでもないのだろう。
私も、わざわざ金を出してまで食べたいとは思わないのが正直な所だ。

 ちなみに、コレの姉妹品にモノフルイドというものもある。
モノフルイドの方は、モノメイトとは相当に成分が異なっているそうで、精神的な疲労回復に効果が高いそうだ。
そのためか、栄養補給にはあまり向いていないそうだが。
まあ、それは今は余り関係がないので、この際置いておくとしよう。
とにかく、ここパイオニア2船団では、それら配給品によるモノメイトでの食事が一般的だということだ。

 ニューマンやヒューマンは、モノメイトによって食事を行う。それには一切の例外はない。
富める者、貧しい者、政府高官、そして、私たちのような何でも屋こと、ハンター。
厳しすぎるくらいの食事制限によって、誰もが同じ物しか口に出来ないのだ。
これを不公平だと考えるか、それとも公平だと考えるか………。
それによって、この数年間にも渡る宇宙の旅を楽しめるかどうかが、決まるのかもしれない。

「にしたって、こう毎日同じモンばっかしじゃ、いい加減飽きるよな」
「他に選択肢はない。黙って食べろ」

 そういつものようにボヤく相棒に答えたものの、私もモノメイトはいい加減食べ飽きていた。
なにせ、もう7年以上、モノメイトによる食事しかしていないのだ。
いくら、味にバリエーションを出したからといっても、飽きないはずがない。
それは、この船団で生まれた子供ならいざ知らず………。

「母星でのメシが懐かしいぜ………」
「………そうだな」

 コイツの言うように、母星での普通の食事というものを経験したことがある私達だからこそ、感じる不満だったのだろう。
そう考えたら、味覚のないアンドロイド達は幸せなのかもしれない。
もっとも、それは差別的な言葉になるから、そんな事は間違っても口には出来ないのだが………。

「リサ」
「なんだ?」
「お前、何味食ってんだ?」
「いつもと同じだ」

 そう私は答えると、手にしていた食べかけの固形物を持ち上げた。

「いつものって………味のないヤツか?」
「ああ」
「よく、そんなのばっかし食えるよな?」

 最近流行りのストロベリー味や、ラズベリー味、チョコレート味なども、あるにはある。
他にも、味付けのバリエーションは、何十種類にも及ぶ。
だが、私は、無味無臭な固形ブロック状のものを好んで摂取していた。
もっとも………。

「好きで食べているわけではない」
「じゃあ、なんでだ?」
「変に味があると………今の境遇が恨めしくなりそうだ」
「………そりゃあ、まあ、いえてるかもな」

 発売当初は、次世代の宇宙食とか言われて、随分ともてはやされたものだが………。
今では不人気投票でもやれば、間違いなく一位になるだろう事は間違いない。
それほど、モノメイトでの食事に皆、飽き飽きしていたということだ。
だが………こんなものでも、なければ困るということを、コイツは分かっているのだろうか?

「せいぜい味わっておくことだ」
「なんでだ?」
「明日からしばらくは、無味無臭タイプしかなくなるからだ」

 私にとっては、いつものことだから何の不都合もない事態だが、コイツにとっては死活問題になるかもしれない。

「じょ、しょうだん、だろ?」
「本当だ。こんな事にウソをついてどうなる?」
「じゃ、じゃあ、なんで………」
「昨日の夜の事だが、食料配給システムに異常が見つかったそうだ。その結果、生産プラントの一部を強制停止。
現在は、原因を究明中だそうだ。事実上、これまでのような配給品に在庫はない。
ハンター用に過剰生産されていたお陰で、十分な備蓄のある無味無臭タイプが明日から配給されるはずだ。
なに、主成分は大して変わらないんだ。慣れれば、それなりだ」
「それなりって………オレ、ヤだぜ?」
「慣れろ。それしかない」

 事実、それしかない。食事をとらなければヒューマンもニューマンも生きていけないのだから。

「異常って………何があったんだよ?」
「さあな。それを調べるのは、軍人の仕事だ」

 食料生産プラントは、軍の管理下にある。
そこには、我らのようなハンターですら入ってはならない事になっているのだ。
無論、高度に政治的な理由とやらがあるのは常識だろう。
なにせ、この船団の戦闘集団の人工分布比率からいくと、一番多いのはハンターズなのだ。
そのハンターズ達の反乱………この場合は、クーデターなどが妥当か。
まあ、そういった騒動を恐れているというわけだ。
食料さえ抑えておけば、自分達に負けはない。そう考えているのだろう。

「あーあ………嫌な事ばっかりだぜ」
「文句があるのなら、出世しろ。地位のある者だけが、今の制度を変える事が出来る」
「無理だって」

 コイツは………アベルは、いつもそうだ。

「なぜ、諦める前に努力しない?」
「あのなぁ。努力してもどうにもならない事だってあるんだぜ?」
「それを言っても良いのは、努力してみたヤツだけだ。大体、お前はいつも………」

 磨けば光るものがあるはずなのに………。
コイツの怠け癖を何とか出来るヤツは居ないのか?

………まあ、時間をかけてゆっくり改善していけば良いか。
ラグオル到着まで、あと数年はあるのだからな。







 オレがいつも同じモノしか口にしない事を、周りのヤツラは不思議がっていた。

「ねえ、アベル?」
「んー?」

 そう口をモゴモゴさせながら答えたオレに、知り合いのフォニュエールの子が不思議そうに問いかけてくる。

「なんで、そんなマッズイのばっかし食べてるの?」
「………これか?」

 そう手にしているのは、いつものヤツ………無味無臭タイプのモノメイト。

「嗅覚の鋭いラグオルの原生生物どもの巣窟に降りる時ならいざ知らず………」
「船団の居住区に居るのに、わざわざマヅイ方を食べなくても良いだろうにってか?」
「そうよ」

 そういやぁ、何時からだったけな………。

「何年か前に、コレしか供給されない時期があっただろ?」
「え?ええっと………確か、あったっけ」
「あったんだよ。そんな時に、コレばっかし食ってたら、慣れちまったんだ」

 一旦なれてしまえば、コレでも『それなり』だ。美味いと思った事はないが、特別不味いとも思わない。
いうなれば、何処までもフツーの味で………そこには、一欠片の個性なんてものすらも感じられない。

「だから、そればっかし食べているの?」
「かもな」

 それに………オレの相棒は、これが好物だったみたいだったしな。

「供養ってなモンかもな」
「え?ナンか言った?」
「いーや、なんでもない」

 そう答えたオレは、眼下に広がる船のシールド越しに、ラグオルの大地を見つめる。

「もっと………努力しないと追いつけないもんな」

 いつまで経っても、オレはあいつに………リサの横に立てないように思える。
それが出来たと感じるのは、果たして何時になることやら。
………少なくとも、リコを見つけるまでは、追いつけないのかもしれないな。

「よーし、食事終わり!」

 そんな背後から聞こえてくる元気な声に、オレは苦笑で答えた。

「じゃあ、オレも………そろそろ行くとするか」

 そう最後の一欠片を口に放り込むと、オレは愛用のパルチザンを手に立ち上がった。
そんなオレに、背後から声がかけられる。

「待ってよ!」
「ん?どうした?」
「今日こそ、一緒に行く!」

 そうしつこい程に毎回そう言ってくれるあの子には、申し訳なのだけど。

「悪いな。今日は、先約があるんだ」
「昨日も、一昨日も、その前も、………なんで何時もかつも先約があるのよ!」
「だから、謝ってるだろ?悪いって」
「だったら、教えてよ。誰と約束してるの?」
「悪いが、それは言えない。守秘義務ってヤツさ」

 無論、ウソだ。だが、オレは、アイツの事を誰にも話すつもりはない。
オレの行動の事情を知る、アッシュにも口止めしてあるほどだ。
多分、オレは………誰かに話す事は、一生ないのかもしれない。

「ウソね」
「なんで、そう思うんだ?」
「じゃあ、ソイツは何処にいるのよ!?アナタ、いつも一人で降りてるじゃない!」
「下に居るんだよ」
「したぁ?下って地表に?」
「ああ。アイツは、いつも下にいる。オレは、ソイツとしか一緒しないことにしてるんだ」

 そう。だから、今日もオレはラグオルに降りる。
オレに、ハンターの宝ともいえるマグ『ヴァラーハ』を託していった相棒の………。
オレの生涯で、最初で最後の相棒リサが眠る、あの大地に。

「………オレは、少しは強くなれたのかな?」

 そう転送装置の中で、背中のヴァラーハに声をかけるオレに、ヴァラーハはなにも答えない。

「まあ、そんな事は後で考えりゃ済む事か。今日もよろしく頼むぜ、リサ!」

 そのかわり………オレの降り立ったラグオルの大地は、優しく微笑んでくれたような気がした。



<おわり>





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