
PHANTASY STAR ONLINE SS.
write by 雪乃丞.
キリーク・ザ・ナイトメア.
「パイオニア計画」。
それは、母なる大地の衰えにより余儀なくされた、大規模移民計画の名前である。
生き残りの希望を託して無数に打ち上げられる無人探査機。
それによって広げられた未来という名の希望を探す探索網は、未だ人類の足の踏み込んだことのない宙域にまで広げられていった。
そして、幾十幾百幾千もの星のデータが母星へと送り続けられる事となった。
しかし、その多くは人類を受け入れるには余りに過酷過ぎる環境の星ばかりであった。
やはり、駄目なのか。
自分達は、このまま星と共に寿命を迎えるしかないのだろうか?
いつしか人々の脳裏に、そんな絶望の黒い霧が広がり始めていた。
頻発する紛争。残り少ない資源を巡っての血みどろの争い………。
人類は、自らの手で絶滅という終着点に向かって歩む、時計の針を早めようとしていた。
そんなある日の事。
「最早、これまでか」とばかりに諦め始めていた創造主達を尻目に、探査機達は未だ忠実に己の役割を果たし続けていた。
そんな探査機達から、毎日のように無数に届く報告データの中に、そのデ−タは混じっていた。
『環境ランク++A’ 居住可能環境レベル オールグリーン』
無数に打ち上げられた無人探査機の中でも、最も望みが薄いと思われていた宙域。
そんな「まあ、一応送ってみるか」程度の気持ちで送られた探査機達の中の一機によって、その星は発見されたのだ。
それは、まさに奇跡だった。そして、人類にとっては、福音そのものであった。
人々は、奇跡をもたらした探索機に敬意を払い、その星を探査機の名からラグオルと名付けたのだった。
それから、長い時間を経たある日の事。
ラグオルの調査目的で派遣された超長距離惑星間航行用の移民船「パイオニア1」が到着した。
パイオニア1のシールド越しに見えるのは、緑と大気に包まれた若きりし日の母星の姿であったのかも知れない。
惑星「ラグオル」。
人類にも居住可能であろう、母なる母星によく似た環境をもった惑星。
そこは、まさに人類の希望そのものだった。
パイオニア1に乗ってラグオルに訪れたのは、第一陣という事もあり、その殆どが調査目的の学者達だった。
無論、未知の惑星へと下りるのだから、警護のために雇われたハンターズも居るのは言うまでもないだろう。
そんな調査団達はラグオルの地表へと下りると、周辺調査を開始する
そして、それと共に、そこに生活の拠点となる施設セントラルドームの建造にも乗り出したのだった。
………そして7年の時間が経過した。
短くも長い調査の結果、移民団はラグオルが安全であると判断。本格的に居住のための開発を開始。
そんなパイオニア1からの招聘を受けて、本格的な第二移民船「パイオニア2」が惑星「ラグオル」を訪れようとしていた。
衛星軌道上にパイオニア2が到着し、セントラルドームと通信回線を開く直前、突如として惑星表面上に大爆発が発生。
その結果、セントラルドームとの通信は完全に途絶える事になった。
いったい惑星「ラグオル」に何が起こったのだろうか………。
「それを調べるために、私達みたいなのが居るのよねぇー」
私は、街頭にデカデカと映し出された特番らしい番組から聞こえてくるアナンスの声に、そう適当に相づちを打っていた。
暇人だと思う事なかれ。私がこんな事をしているのも、別にこれといった用事がないからだ。
本当なら、今頃はラグオルの地表で買ったばかり(初めて買った)武器の試し切りとシャレ込んでいたはずなんだけどね。
「頼もしい事ですね」
そう適当に暇を潰していた私に、カウンターの向こうの男が答えた。
「それって、もしかしなくても嫌みでしょ?」
どうせ、私は実戦経験のない新人ハンターですよぉーだ。
「とんでもない!私は、ハンターの皆さんの事を尊敬していますよ?」
「まあ、それならそれで良いんだけどさ。………それより、まだなのぉ?」
そう溜め息をつきながら「さっさと手続きしてよ」と催促した私に、宙に浮かぶ無数のホログラフを一瞥した男が答える。
「なにせ、新規で登録を申し込む人が、やたらと多いですからね」
原因は分かっている。つい数日前に報道されたパイオニア1の謎の爆発事故だ。
アレの真相を知りたくて、ハンターになって地表に行こうとする者が後を断たないのだろう。
新聞記者、パイアニア1の関係者、そして………暇を持て余した馬鹿な野次馬ども。
そんな何の訓練も受けたこともないよーな連中が、ハンターの資格試験(機械による書類選考だ)を通るはずないでしょーが。
でも、申し込みが後を絶たないのも、現実なのよねぇ。
「アタシの前に申し込んだヤツらって、何人?」
「………このシップだけでも、ざっと500人くらいでしょうかね」
「そんなに居るのぉ?」
「他のシップからも申し込みがあるはずだから………全部で、5千人くらいじゃないですか?」
「………げぇー………」
「いくらパイオニア2の処理システムが最新とはいえ………これじゃ、処理が追いつきませんよ。あ、また400増えた」
「はぁ………まだまだ先は長いわね」
この男の言うとおり、いくら最新の処理システムでも、これだけの申し込みを処理するのには、数十分はかかるだろう。
書類選考というのは、過去のデータや履歴など、イロイロと複雑らしいのだ。
「頼むから、一般人は大人しくしといてよぉ」
そんなお陰で、私みたいな新人とはいえ、れっきとした訓練をうけたハンターがワリを食うんだからさぁ。
「仕方在りません。………みんな、本当の事を知りたがってるんですよ」
「だからってねぇ………。『下』がどうなってるか、アンタだって知らない訳じゃないでしょう?」
「勿論ですよ」
それは、一般人には、知らされていない真実。
「ラグオルの原生生物が、軒並み凶暴化しているそうですね」
それは、ハンター達だけに知らされた真実だった。
その上、私達ハンターには、この船団パイアニア2の代表者である総督の直々の命令で、箝口令がひかれている。
だから一般人には、何も知らされていない。メディアですら、それを知らないのだ。だが、無理もないと思う。
「地表に下りたハンターの中で、返ってこない人が、ついに三桁の大台に乗りましたからね」
ラグオルは、数日前までのどかで穏やかな星だったのだ。
でも、あの事故に前後してからというもの、私達みたいな戦闘のプロフェッショナルでさえ、危険な場所になってしまっていた。
本当の事なんて………言えるはずがないじゃない。
今では………人類が暮らす事が困難な程の肉食獣の巣窟となっただなんて………。
母星を捨ててまで、ここまで遠路はるばる旅をしてきた人達に、言えるはずがない。
「………無駄死にさせる訳にもいかないしね」
ラグオルは、危険な星になっていた。でも、それは一般人には知らせられない。だから言えない。
いつか訪れるであろうパイオニア3の到着までは、このパイオニア2の人員が、恐らくは全てなのだ。
一人でも無駄死にを出す訳にはいかない。それは、当然の判断だったのだろう。
でも、みんなは真相を知りたがる。放っておけば、暴動になってもおかしくないくらいに、不安がっているのだ。
遙かな高みからでは分からない、平和そうに見える希望そのもの星、ラグオル。
それを眼下に納めながら、いつまでも便利ではあるものの、窮屈で仕方ない宇宙船の中になど居たくはないのだろう。
何しろ、初めての宇宙旅行で何年も乗っているような人達が圧倒的に多いのだ。
そのガス抜きも兼ねて、仕方なしに、一般人にもハンターの資格試験を受けさせる事になった。
それで駄目だとなれば、諦めもつくだろうという理由で。その結果が、これだ。
確かに良い意味でのガス抜きになっているのかも知れないし、どんどん減っていっているハンターの補充要員の選別にもなる。
まさに一石二鳥といったところか。………ところで、一石二鳥とは何なのだろう?
石一つで、鳥が二?だから、どうーしたっての?
まあ、くわしくは知らないが、多分、意味はあっていると思うので良しとしよう。
「あとどれくらいかかるの?」
「………もう少しだと思うんですけど」
「さっき聞いた時も、そう答えたんじゃなかったっけ?」
「………」
思わず返す言葉をなくしたのか。
黙ったまま、引きつった笑みを浮かべた男に、私は怒らしていた肩の力を抜いて、溜め息混じりに答えた。
いくら急かしても、この男にもどうにも出来ない問題もあるのだ。
「頼むから早くして。もう大分待たされてんのよ?」
「ですから、先程から言っているように………適当に買い物でもしてきて下さいよ」
「もう済んでるの」
正確に言うと、最初に武器買って、傷の回復用のモジュールも買って、いざラグオルへ!と意気込んで転送ゲートに向かったのよねぇ。
でも、そこの分厚いシャッターは上がってくれなくて………。
『ちゃんとハンター登録を済ませてからにしてください』
とまあ、そういった訳よ。まあ、私が全面的に悪いんだけどさ。
「なら、街頭テレビでも見て………」
「いつも同じのしかやってないじゃない」
「仕方ありませんよ。ここのところ、パイオニア1の事故で全チャンネルが埋まってるんですから」
確かに………。あんまり、ここで仕事の邪魔してても仕方ないし。てきとーにその辺、ぶらぶらしとくか。
私は、男に「終わったらアナンスして」と告げてカウンターを後にした。
ハンター専用のロビーには、私と同じように待たされているのか、イロイロな人達がいた。
一番多いのはヒューマンだろうか?
ヒューマー、レイマー、フォマール………あの人達には悪いんだけど、強そうな人はあまりいないようだ。
その次が、私と同じニューマンのハミュエール。
みんな派手な格好してるわよねぇ。まあ、私もかなりハデな方だから、あんまし人の事いえないんだけど。
その次に多いのは、如何にも硬そーなアンドロイド達。
レイキャストとかレイキャシールは余りいないわね。その代わりと言ってはなんだけど、ヒューキャストの多いこと、多いこと。
これだけ居れば、下手な軍隊より強いかもね。えーっと………確か、他にも居たはずなんだけど。
あ、居た居た。魔法使いこと、フォニュームにフォニュエール。相変わらず、ピエロみたいな奇天烈な格好してるわ。
言動も時々おかしい人も居たりするんだけど………でも、一緒に戦うと頼りになるのよねぇ。
「うーん………これだけ揃うと、流石に壮観ね」
そう呟いた私の声に答えてくれる人が居た。
「いつもなら、これほど多くはいない」
「じゃあ、なんで?」
「ゲートのメイン転送装置に異常が発生したらしい。………セントラルドームへ直接行くのは無理らしい」
ありがとう、名前も知らないヒューキャストくん。
彼の言う事が本当なら、どうやら私と違う理由で、みんな足止めくらってるらしい。
もっとも、私みたいにイライラしてる人が少ないのが、私より少しだけ熟練者なハンターの証って事なのかしら。
「お前も足止めをくらったのか?」
意外と、なれなれしいのかな?このヒューキャストくん。まあ、お喋りは嫌いじゃないけどさ。
「登録中なの」
「新人か」
耳に優しいマシンボイスに混じるのは、僅かな失望と、哀れみの感情?。………私、見下されてる?
たしかにド素人同然だけど、馬鹿にするな!って言いたいんだけど………まあ、ホントの事だしね。
ここは、ぐっと我慢我慢。こんなのに喧嘩売ったら、殺されちゃうかもしれないし………。
「死ぬなよ」
「………え?」
「依頼を達成するのが俺達の仕事だが、本当の任務は生きて帰る事だ」
私を真っ直ぐに見つめる一対のカメラアイ。そこには、暖かい意志が確かにあった。
「報酬は生きて帰った者だけが受け取れる。それが、ハンターズギルドのルールだ」
その言葉を、私は心に刻んだ。忘れないでおこう。先輩からの有り難い助言だ。
「私は、デルタ。アンタは?」
「………オメガワン。これから、よろしくな」
そう簡単な挨拶を済ませると、彼………オメガワンは、仲間らしい人達に呼ばれて去っていったのだった。
ようやく登録が済んだ私は、真新しいマグをフヨフヨと漂わせながら、ロビーへと戻っていた。
「早く、ゲート直らないかなぁ」
そこには、未だに足止めをくらっているらしい、大勢のハンター達………私の先輩達が居た。
でも、なんだか笑えるかも知れない。ここの人達が揃って行けば、どんな船だって落とせるだろう。
母艦であるパイオニア2でさえ落とせるかも知れないのに。
でも、そんな物騒な人達が、仲良く暇して、あちこちでグループになって談笑したり、一緒に街頭テレビ見てたりするんだもん。
なんだか………不思議な感じ。今日から、私もこの一員になるんだって思うと………嬉しいな。
うん、単純に、嬉しい。勿論、楽しみっていうのもあるんだけど。
「しっかし、暇人ばっかよね。毎度毎度、よくこんなの見てて飽きないわねぇ」
シティーのメインストリートを一望する一際高い場所にあるフロア。
そこが、私達ハンターズのために特別に用意された特別区だった。
なぜ、私達ハンターズが特別かというと………。
「こんな場所で、間違っても武器を振り回したりしないで下さいよ」
そう横から『言われなくても分かってますよーだ』とばかりに耳障りな忠告をくれるヤツの言葉が全てを物語っているんじゃない?
他でもない、私にハンターズライセンスと、肩の上でフヨンフヨンと揺れているマグを渡しに来てくれた、あの受付の男だ。
「わかってるわよ」
ここは、パイアニア2のシップ………つまり、超長距離惑星間航行用に建造されたパイアニア2の横にある中規模のシップの中。
そんな場所で、私達ハンターズが使うような物騒なエモノをぶっ放したら………どうなるかなんて言わなくても分かるわよね?
宇宙空間は私達人間………まあ、ハンターの中にはオメガワンみたいなサイボーグだっているんだけど。
まあ、大多数を占めるヒューマンとニューマンにとっては、生存不可能な場所なのよ。
そんな真空空間と、有害過ぎるくらいに有害な宇宙線から、身を守ってくれる壁に大穴が空いちゃうわけ。
そうなったら、いくら百戦錬磨のハンターだって御陀仏必死よね。
「足止め、足止め………やんなっちゃう」
思わず愚痴った私に、律儀な男が答えた。
「だったら、ギルドの方に顔を出してみたらどうですか?」
「え?ギルド?」
「依頼が何かあるかもしれないですから」
「依頼って、クエストが?」
「今なら、暇をしている強い人達が手を貸してくれるかもしれませんよ?みんな足止めくらっている訳だし」
なるほど。………確かに、いきなり一人でいくよりも、安全で、安心出来るかも。
「OK。いってみるわ」
「御武運を、ハンター『デルタ』さん」
「ありがとう」
この時の礼を言わなければ良かったと、私は一生後悔することになる事を、まだ知るはずもなく。
そして、質の悪いヒューキャストとの因縁の始まりになるという事も、また………知るはずもなかった。
陰気なヤツ。
「フハハハ!」
ズバァ!
しかも、危ないヤツ。
「クックックック………フッハハハハハ!」
もしかして、回路のどっか焼き切れててんじゃないって感じ?
ズバァアアア!
「ああぁ!」
自分の前のエモノだけでは、足りないとでも言うつもりなのだろうか?
それが、私の目の前のエモノまでも横からかっさらっていった、大きな鎌を持ったヒューキャスト。
知らぬ者は居ないほどに有名で、アンドロイドとは思えない程の威圧感と存在感を持つ熟練ハンター。
『死神』キリークの第一印象だった。
「ちょっ、ちょっとぉ!何すんのよぉ!」
そう抗議の声を上げる私を完全に無視して、キリークは次の敵目がけて突っ込んでいく。
その手にある鎌は、私が持ってる安物のセイバーなんかとは比べ物にならない程に威力があって………。
ズバァン!
一撃で、何匹も真っ二つ。流石、死神………って!?
「なんだっていうのよ………って、こっち来ないでぇ!」
「フン!」
しかも、全然、射程距離とかも違って………。
ズバァアァアアアン!
「だからぁ!なんて私のエモノを横からとっちゃうわけぇ!」
いくら抗議の声を上げたところで、キリークは何も答えない。ひたすら、無言だ。
時々、忠告めいた事を口にする事以外は、徹底して黙ってやがるし。はっきり言って、ムカツク。
面と向かって「どっか行け!」って言えたら、どれだけ嬉しいだろう。
でも、今は、コイツと一緒に仕事をしないといけないのだ。それが、依頼主の命令だから。
向こうだって、多分、私みたいな新人と組まされて腹を立てているのかも知れないが。
「………ねえ、キリーク」
「………」
「何か、答えてよ」
「………」
「なんで、人のエモノ斬っちゃうわけ?そんなに、私って弱そうに見える?」
「………」
無視ってヤツですかい?キリークのダンナ?
「………クックック」
………いや、そうじゃなくて。
「あのー………キリークさん?」
「このスイッチを押せばロックされた扉が開く。スイッチの色と扉の色は………」
さっきまで薄気味悪い声で笑っていたとは思えない程、落ち着いた声が聞こえる。
………もしかして、からかわれていたのかな?『さん』ずけで呼んだら、急にまともになったし………。
これって、私みたいなLv1のド素人は、ちゃんとキリークさんって呼べって意味?
………そう考えると、なんだか辻褄があうような気がするから不思議だ。
はいはい、どーせアンタってそんなヤツよね。
私は、そろそろ諦めるべきだったのだろうか?
この無愛想で、陰気で、どっか壊れてそうな感じのヤツとコミュニケーションをとろうだなんて。
だからという訳でもないのだろうが。私は、無言には無言で答える事にした。
無言で歩く。
スタスタ、スタスタ、スタスタ。
ノッシ、ノッシ、ノッシ、ノッシ。
ひたすら、無言で歩く。
スタスタ、スタスタ、スタスタ。
ノッシ、ノッシ、ノッシ、ノッシ。
私の背後をひたすらついてくるだけで、時々助言するだけで………ひたすら無言でついてくるキリーク。
最初の方は、初めての実戦という事もあってか、それほど気にならなかったのだけど。
今は、このみょーに張りつめた緊張感が………背後のキリークが、怖い。
『いきなり、とんでもないヤツと組む事になったな?』
『え?それって、キリークのこと?』
『ああ。………気を付けろ。アイツは死神と呼ばれている』
『なんで?』
脳裏に、ラグオルに下りる前に交わしたオメガワンとの会話がよぎる。
『時々、な。本当に、時々なんだが………アイツと一緒に仕事に行った連中が、アイツを残して全員帰ってこない時があるそうだ』
『だから、死神?』
『まあな。しかも、その時の仲間の死体なんだが………一刀両断されてたそうだ』
『そ、それって………まさか、キリークが?』
『証拠はない。だから、アイツもまだハンターでいられる』
『そんな………無茶苦茶じゃない』
『まあ、お前のような新人には手を出さないとは思うが………一応な』
『………』
『………心配するな。お前には悪いが、アイツは強いヤツにしか興味はないんだ。だから、安心しろ』
今の沈黙が怖い。あの気休めに頷かないで、さっさとキャンセルしとけば良かった。
そんな、後悔の念すらも、脳裏によぎる。
チラ。
背後を肩ごしに振り返った私の目に見えたのは………。
「………」
無言のまま、両手で鎌を構えた………いつでも、斬れますって感じのキリークだった。
あまりに、怖い光景。なんだかとっても………嫌すぎた。
あの鎌が、いつ自分の背中に刺さるだろうか?とか、本来ありえないような事まで心配になる。
無論、これがオメガワンとかなら、背中を向けても平気だと思うんだけど………。
チラ。
もう一回、振り返る。
「………フッ」
わ、笑ってるよぉ(半泣)
肩に鎌を乗せて………あんなので唐竹割りされたら………確実に死ねると思うの。
私は、激しく、キリークに背中を見せた事を後悔していた。
背中に感じるのは、アンドロイドらしからぬ、殺気を感じる視線。………嫌すぎる。
頼むから、帰らせて欲しい。今度は、オメガワンに頼んで一緒に来てもらおう。まあ、居たらの話しだけど。
オメガワンなら、こんな嫌な感じにならないと思うし、背中も安心して任せられるし。
でも、このキリークってヤツだけは別!こいつにだけは、背中を見せたくない!
怖くて、怖くて、しょうがないのよぉ!!もう………私は泣きそうになっていた。
スタスタスタスタスタスタ………。
ノッシノッシノッシノッシ………。
「クックック」
ビクゥ!!
こ、こわいいぃい!ってゆーか、斬られるぅ!!
タタタタタ………。
ダダダダダ………。
ダダダダダ………。
どどどどど………。
ピタ。
………ピタ。
立ち止まる私。当然、キリークも立ち止まる。………私の後ろで。
「ね、ねぇ、キリークさぁん」
思い切り、猫なで声。怖くて、背後なんて向けない。え?なぜって?だって………。
「鎌、下げてもらえません?」
アタシの下に伸びるキリークの影って、どうみても………鎌振り上げているよーにしか見えないんだけど。
でも、今までの例から言って、コヤツが私の言う事など聞くはずもなく。
「じゃ、じゃあ………せ、せん………先導、してくれない………かな?」
「………」
「………あ、あの………せ、先導………」
「………」
やっぱり、といおうか………キリークは、無言だった。私、ここで斬られちゃうのかなぁ………。
「………もう、ヤダぁ」
いっそ斬られるなら、背後からなんてヤだ。思い切り、背後を振り返る。
「………」
そこには、『どうした?』とばかりに、平然と鎌を肩に突っ立っているキリークが居るわけで………。
「………おねがい。怖いの」
恥も外聞もプライドも、何もかもを投げ捨てて、私は目をウルウルさせて頼み込む。
「………良いだろう」
つ、通じた!
「………」
無言で、キリークは私目がけて、真っ直ぐ近づいてくる………って、アレ?
ノッシ、ノッシ、ノッシ。
「素人はオレ様の後ろをビクビクしながらついてこい」とばかりの傲慢さを溢れさせて、キリークは私を追い越す………はずもなく。
ズン。
目の前で立ち止まると、ゆっくりと鎌を振り上げる。
「望み通り、『指導』してやろう」
「い、いや、そうじゃなくて、ですね………わ、私は、せ、先、導」
ズン。
「問答、無用」
「い、いやあああああぁぁぁっぁ!」
ラグオルの森に、私の悲鳴がどこまでも空しく響いた。
<頼むから終わって>
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
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