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LineageII SS.



 小さな頃から、私は空を見上げていた。
 そこにはいつも、分厚い、ねずみ色の雲があった。
 そんな空を、私はいつも見上げていた。

 いつも薄暗くて、いつも寒い。

 私は、そんな空しか知らなかった。
 私は、そんな世界しか知らなかった。

 その向こう側を、私はまだ知らなかった。



あるドワーフの旅立ち   write by 雪乃丞.



 窓から見上げれば、そこには、いつもと変わらない空があった。
 分厚い雲に覆われて、ほとんど太陽は見えない。でも、そこには間違いなく空があって、雲があった。だから、その雲の向こう側には、きっと青い空と明るい太陽というものがあるのだと思う。

 私は、そんな綺麗な空を、ほとんど見たことはないのだけれど、そこに何があるのかということは知っていた。たまたま村を訪れたアデンから来たという商人の人から、そう聞いていたから。

 この村から見える空には、いつも雲があった。
 ねずみ色で、ときどき茜色に染まる。そんな空。
 いつも同じに見えていて、その実、毎日少しずつ違う。
 そんな空を、私はずっと普通のことだと思っていた。
 生まれたときからそうだったから、これで普通だと思っていた。
 でも、その人に教えられた。本当は空ってのは青いんだぞって。
 ………青い空が普通なんだって。

 空には、こんな雲しかないわけじゃない。
 そこには本当は、青い空とまぶしい太陽というものがあってな。
 雲は風で流れるもので、夜には綺麗な星と大きな月が浮かぶのさ。

 幼かった私に、アデンの空のことを教えてくれた人は、そんなふうに言っていたような気がする。

 だから、お譲ちゃんもいつかアデンに来るといい。
 ………きっと、気に入ると思うぞ?

 頭をなでる、ひどくガサガサした手。
 旅なれた、戦うことと旅をすることに慣れた手。
 ゴツゴツしていて、ひどく乾いていた記憶がある。
 ちょっと痛かったけど、それ以上にうれしかった。
 そう、感じていたような気がする。

 いつか、私も………。

 何か口走った私に、あの人は嬉しそうに笑っていた。
 ………でも、覚えているのは、ここまで。
 あのとき何を言ったのか、もう私は覚えていない。

「どうしたんですか?」

 声をかけられて、私はようやく我に返った。
 どうも、空を見上げていると、昔のことを思い出してしまって仕方ない。

「ううん、なんでもない」

 そう言葉を返すと、私はゆっくりと立ち上がって、服についた雪を軽く払い落とした。

「そうですか。それでは、よろしくお願いします」

 彼女は、いつもと同じ微笑みを浮かべながら小さく頭を下げると、いつもの定位置に戻った。そして、そこで待っていたらしい色々な人に請われるままに、アデン大陸や海岸のポイントへと、次々に送り出していく。
 それが彼女の仕事。
 昔からずっと変わらないらしい………たぶん、これから先も変わらないのだろう。
 そんな、仕事。

 ゲートキーパー・ウィーフィー。
 どこの町にでも居るだろう、特殊な移動魔法を使える、特別な魔法使いの人たち。
 急ぎの用のあるときや、大規模な商隊の輸送には欠かせない、そんな重要な人たちだ。
 それがゲートキーパーという存在だった。でも、この町のゲートキーパーだけは、特別中の特別といっても良い存在だった。

 ドワーフ族は、魔法を操る力をもっていない。
 ドワーフである私も、魔法は使えない。アデン大陸では、ごく一般的に使われているらしいのだけど、ドワーフは昔から魔法の力を操る能力を、一切もっていなかった。唯一使えるのは、スポイルという特殊な魔法だけれど………これは多分、魔法というものではないような気がする。たぶん、だけど。
 そんな私たちドワーフが本拠地としているのが、エルモア王国の奥地………アデン大陸のはるかに北に位置する雪深い山岳地帯のさらに北側にある鉱山地帯のど真ん中にあるような、そんな辺境の村だった。

 昔からひどく計算が得意で、手先も器用だったという私たちドワーフは、戦うことよりも何かを作り出すことのほうが得意な種族だった。そんな私たちドワーフの一族が作り出す様々な武器や防具は、最高品質の品で他の種族が作り出せる品とは、切れ味や耐久性などだけ見ても、まるで性能が違うと評判が高いのだそうだ。
 そんな品々が、昔から世界中で必要とされてきたのだと思う。こんな僻地に本拠地を構えている私たちだけれど、大昔から世界中の町を相手に商売をしてきたと聞いている。では、なぜ、こんな場所で世界中の町を相手に商売が出来ていたのか?その答えこそが、ゲートキーパーの存在だった。

 ウィーフィーのような転移の魔力を操る人たちの手助けがあったからこそ、私たちの町で生み出される商品は世界中のお店で扱うことが出来ていたし、仕入れに訪れる人も後を絶たなかったのだと思う。………でも、私たちドワーフは昔から魔法を扱うことができなかった。つまり、ゲートキーパーになれるような人が居なかったということだ。
 それに加えて、私たちドワーフ族は他の種族の人をむやみに信用したり出来ないという困った性格をした人も多かった。村の長老たちも、きっとヒューマンやエルフの人たちに、こんな重要な仕事を任せる気にはならなかったのだと思う。

 そんな私たちの町にいるゲートキーパーが、ウィーフィーだった。
 見た目は、ごく普通のドワーフの女の子。でも、本当は違った。魔法を使えないのがドワーフなのだから。だから、ウィーフィーはドワーフではなかった。じゃあ、ウィーフィーは何なのかというと………。たぶん、古来より守り抜いてきたのだと思うし、利用もしてきたのだろう、過去の遺産のひとつ。ほかの町では見ることのできないだろう………ドワーフの女の子の姿をした、精巧な機械人形。

 いつ、だれが、どのような技術でもって、このような転送の力を操る生きた人形を作り出したのか。私は、そのあたりの事情をよく知らない。もしかしたら村の長老たちにきけば何か詳しい話なり、事情が分かるかもしれないけれど、そんなことを詳しく知りたいとは思ったことはなかった。

 彼女………ウィーフィーが、とても大事にされているのは、世間というものをまだまるで分かっていない私でも、少なからず分かっていたことだし、小さなころからずっと、村の中で働いる姿を見てきたから。だから、彼女のことを人形だとは思ったことはなかった。

「スターストーンというものを持って帰ってきてもらえませんか?」

 そんな、お願いをされるまでは。





 つい先日のことなのだがそうだが、どうしても急いで輸送しなければならなくなった大量の商品の山があったのだそうだ。ウィーフィーは、その無茶苦茶な量をがんばって輸送した。きっと、ものすごく頑張ったのだと思う。それこそ、壊れてしまいそうになるほどに。
 そんな彼女の頑張りもあって、何とか商品はひとつ残らず送り出すことが出来ていた。きっと、今頃は納品されて、世界中の店頭に並んでいるのだろうと思う。でも、その仕事の代償は少しばかり大きかったみたいだった。

「エネルギーが不足していて、このままでは動けなくなってしまうかもしれないのです」

 彼女が動けなくなるということは、アデンに移動する手段そのものがなくなってしまうということだった。つまり、大勢の人が困ることになるということだと思う。ウィーフィーの話では、私のほかにも大勢の腕のたちそうな人に同じことを頼んでいるのだそうだ。たぶんだけど、村の長老たちも何かしら手を打っているのだと思うのだけれど………。

 これまでも、大規模な輸送とか何回もあったんでしょう?
 ほっといても長老たちが何とかするんじゃないか?
 ゼンマイが切れたからって、単に動けなくなるだけで、別に死ぬわけじゃないんだろう?

 この話を聞いた友達や知り合いの人たちは、なんとなくといった風に受け止めている様だった。ウィーフィー自身も、このまま放置していればいずれ問題が発生するだろうから、今のうちに対処しておきたい程度に言っていたような気もする。

 魔力によって仮初の命を吹き込まれたという危険な魔物ホワイトストーンゴーレム。スターストーンは、そんな風の魔力を操るゴーレムの動力源で、魔力の源でもある水晶だと聞いていた。その魔力をもつ鉱石によって、ウィーフィーは過剰に消費されてしまった魔力を補充しようとしているらしいのだけれど………。

 正直、こんな頼みを聞きたくはなかった。
 彼女の体が、どんな仕組みで動いているかなんて知りたくはなかったから。

 とわいえ………もちろん、興味はある。
 私たちドワーフ族は細工したり何かを加工したり、そういった細々したモノが大好きだったし、私も例に漏れず、そういった図面を見ながら何かを作ったり、加工や細工したりといったことが大好きだったから。だから、正直にいえば、ずっと興味はあったのだろう思う。ウィーフィーがドワーフじゃなくて、機械仕掛けの人形なんだって聞いた時から、ずっと………。

 彼女の中を見てみたい。
 どんな風に動いていて、どんな仕組みで魔法を使えているのか見てみたい。
 そう思っていたのは事実だったけれど ………でも、それはやってはいけないことだった。
 少なくとも、私が彼女のことを友達だと思っている限りは………。





 ひどくいびつでアンバランスな体。特に左右の腕などは、倍近くも大きさが違っていた。でも、そんな見た目はかなりの不細工さな体型だったけれど、それが戦うために………なによりも腕を振り回して攻撃するためのデザインだったことを、今や、私は嫌になるほどに味わう羽目になっていた。

 唸りをあげて、太いほうの腕が振り回される。
 しっかりと踏ん張って、私は、それを両手に構えた長い剣、ブランデッシュで受け止める。
 剣と腕が衝突する。重すぎるほどに重く、すさまじい衝撃が襲い掛かってくる。
 その一撃だけでも、体が背後にもっていかれそうになる。
 それを何とかいなして、反撃の剣を振る。
 一回、二回、三回………何度も何度も繰り返す。
 剣を両手で振り回すたびに、ゴーレムの体から破片が飛び散っていった。
 剣に仕込まれたソウルショットの魔力の輝きの向こうに、風がうなりを上げているのが見える。
 ウィンドウ・ストライク。
 風の魔力を操るゴーレムの一番強力で怖い攻撃方法。
 思わず引けそうになる腰にしっかりと力をこめて、その一撃に耐える準備をする。

 ズドン!

 衝撃の後にやってくる激痛。
 体中の骨が軋みをあげたような気がする。
 さすがに一瞬、意識が飛びかけた。
 胸のあたりに衝突した空気の塊の砲弾に、おもわず涙がにじむ。
 それでも、私は剣を振りかぶる。
 振り上げられる腕。突き出す剣。交差して、ぶつかり合う。
 青白いソウルショットの輝きの向こう側で、何体目になるか分からないホワイトストーンゴーレムが、ようやく轟音をたてて崩れ落ちていた。

「ふぅ」

 ため息をつきながら地面に座り込む。

 ………ひどく疲れていた。
 汗がにじみ、火照った顔に冷たい風がやけに気持ちよく感じる。
 かなり苦戦したけれど、どうにかこうにか、また一体をしとめることに成功した。

 手元にあるスターストーンは18個。
 ウィーフィーとは、20個を持ち帰る約束をしていた。
 この仕事の報酬はゲートキーパートークン。利用者を他の場所へ送り出す際に徴収を課せられているらしいアデナを無料にしてもらえるという引換券のようなものだった。
 スターストーン20個に対して、無料の利用券1つ。
 村でいくつもの仕事をこなして多少なりとも戦うことに慣れてきた私ではあったけれど、こんな強い敵を相手しなければならないとなると、けっして楽な内容ではなかった。正直、仕事としては、報酬額があまりにも少ないとも感じている。でも、それが、ウィーフィーの用意できる報酬の限界だったのかも知れない。

 アデンとの移動手段がゲートキーパに頼らざる得ないという場所柄か、一日で何万………時には何十万アデナを稼ぎ出すウィーフィーではあるけれど、それでもウィーフィーの手元には、おそらくは1アデナも残ってはいないのだろう思う。こんなことを考えたくはないけれど、きっと彼女の稼ぎはすべて長老たちに納められていると思うから。

「あんなに頑張ってるのにねぇ………」

 なんとなくやりきれなくなった私は、荷物入れの中から回復剤をとりだして、一気に飲み干した。おなかのあたりから、じんわりと体中に暖かい感触が広がっていって、傷ついた体を見る間に回復させていく。そんな回復薬の効果を感じながら、私はゴーレムの残骸から取り出したスターストーンを空にかざしてみた。

「これが、ウィーフィーのご飯ってことになるのかな?」

 果たして、彼女はどのような食事をとっているのだろう?私たちドワーフが好む食事はハチミツを溶かした暖かい飲み物だけれど、彼女は、あの味を知ってるのかな?………もしかすると、知っているかもしれないし、もしかすると知らないかもしれない。

「かえったら、ウィーフィーにも分けてあげよっと」

 荷物の底の方に隠した小さな容器を一撫ですると、私は元気よく立ち上がった。
 見渡せば、まだまだ、たくさんのゴーレムが歩き回っている。

 あと数体も倒せば、きっとスターストーンも20個たまるだろう。
 そして村に帰って、ウィーフィーに会おう。

 そんな根拠もない考えが、私を元気にした。
 なんとなく疲れていた気持ちが晴れていた。





 ウィーフィーの元に帰ったのは、それからしばらくたってのことだった。
 とある事情から、ちょっとばかり時間が余計にかかってしまったのだけれど、それはまあ良いとしよう。………正直、とある人物をあちこち探し回る羽目になって、クタクタになっていたのだけれど。

「ありがとうございます。これでしばらくは心配する必要がなくなりそうです」

 スターストーンの20個入った袋を受け取ったウィーフィーは小さく頭を下げていた。
 頬に浮かぶ微笑。いつも変らない。そんな笑み。でも、きっと………この笑みは作り物ではないと思う。
 他の人が何を言おうと、私は、そう思った。だから、それはきっと間違いじゃない。

「それでは、これを受け取ってもらえますか?」

 差し出されるコイン状の円盤。ゲートキーパートークン。
 私が命がけで持ち帰った、スターストーン20個への報酬。

「うん、ありがと」
「礼を言わなくてはならないのは、私のほうです。本当に、助かりました」

 そんな嬉しそうなウィーフィーに、私は少しだけ緊張した声で話しかけていた。

「ウィーフィーってさ………」
「なんでしょう?」
「そのぉ………普通のモノとか、食べられるのかな?」

 彼女のことをよく知らないからこそいえる、残酷な言葉。口にしてしまった後に、正直、言わなければよかったと、激しい自己嫌悪を感じる。でも、そんな私に、ウィーフィーは小さく首をかしげて見せていた。

「それは、通常の食事をとることの必要性や、その行為自体が出来るのか、という質問でしょうか?」
「いや、そんな難しいことじゃなくて、う〜ん………なんっていうか」

 どういえば良いのだろう?

「単純に、おいしいモノとか食べたりしたとき、その味を分かるのかってことなんだけど」
「………なるほど。味覚の有無のことですね」

 さすがに長い時間生きているだけあってか、彼女の知識量はきっと私をはるかに超えているのだと思う。彼女が何を言ってるのか正直わからない部分もあったのだけど、それでも何とか意味は通じていた。

「どうなの?」
「わかります」
「じゃあ、甘いものとか食べたりできるの?」
「普段は食事の必要はありませんが、いちおう味覚らしきものはありますので」

 つまり食べたり出来るってとこだよね?

「じゃあさ、じゃあさ………ウィーフィーは、甘いものスキ?」
「とくに好き嫌いはありません」

 つまり、普通のものを食べても大丈夫だし、甘いものが嫌いじゃないってことだよね?
 それを聞いて安心した私は、とっておきのお土産を取り出していた。

「じゃ〜ん!」
「それは何ですか?」
「とってもイ〜物。へへ〜ん、おすそわけしたげるねぇ」

 容器から少しだけ取り出して、いちおう味見してみる。
 ………ん〜・・とってもオシイ〜。
 おもわず指ごとかじってしまいそうになるほどに、甘くて美味しい味だった。

「………ハチミツですね」

 私と同じように指ですこしだけすくって舐めたウィーフィーが微笑みを浮かべる。

「とても甘くて、美味しいです。ありがとうございます」

 ………ああ、なるほど。

 その瞬間、なんとなく、だけど納得できていた。
 私が、なんでウィーフィーのことを人形だって思いたくなかったのか。
 それは、きっと………。

「ウィーフィー、笑っているほうがいいよ」
「………笑顔ですか?」
「うん。ウィーフィーは、きっと笑っているほうがいいと思う」

 無責任な言い草になるけど、ウィーフィーには笑っていて欲しかった。
 どれだけ無茶を言われても、何があっても平気そうな顔をしているウィーフィー。
 彼女は、いつも同じ場所で、いつも同じことをしなければいけない。
 昔からそうで、今もそう。きっと、これからも。
 こんな真夜中なのに、いつもウィーフィーはずっと、ここで誰かを待っている。
 みんな寝たり休んだりしているのに、ここでいつくるか分からない誰かをまっている。
 私が子供のころから、それは変わっていなかった。
 今日もそう。きっと明日も。たぶん、ずっと………。

 ウィーフィーは、この村になくてはならない存在だった。
 だから、ここでずっと過ごすことになると思った。
 だからだと思う。せめて、笑っていて欲しかった。

 それが、どれだけ悲しいことか、きっと彼女は分からない。
 どれだけ自分が不幸か、それを彼女は知らないのだと思う。
 ずっと、ここにいなくてはいけない。
 ずっと、ここにいて、ずっと同じことをしていなくてはいけない。
 それが、どれだけ悲しいことなのか………きっと、彼女には分からない。
 でも………そんなことを教えても意味はないのだろうとも思う。
 だから、私は、彼女に笑っていて欲しかった。

「分かりました。できるだけ、笑顔でいます」

 微笑を浮かべた彼女に、私はもらったばかりのトークンを渡す。

「お願いできるかな?」
「北海岸へいくのですか?」
「………ううん。グルーディオ村へ行きたいの」

 一人前のドワーフとして認めてもらうための最初の関門。アデンのグルーディン村の倉庫で働いている倉庫番ラウトって人に会いに行かないといけない。そこでどんな仕事が待っているのかは分からないし、アデンなんていったこともないのだけれど。

「そうですか………アデンへと渡る日がきたのですね」
「ん〜………まあ、そうなのかな。もしかすると、すぐ戻ってくるかもしれないけどね?」
「そうはならないでしょう」
「どうして?」
「私は、これまで多くのドワーフの人たちをアデンへと送り出してきましたから」

 そっか………そういえば、ここを出て行った人、ほとんど戻ってきてないもんね。

「頑張ってください」

 ウィーフィーの浮かべる微笑に、私はちょっとだけ涙がにじんだ。

「うん、頑張る。それと………いつまでも、忘れないよ。ウィーフィーのこと」
「ありがとうございます。またいつか、ふるさとへ帰ってきた時にお会いしましょう」

 私は、いつもここにいます。

 そんな言葉が、私がウィーフィーから聞いた最後の言葉だった。





 雪と氷に覆われた白い大地。
 それがエルモアなら、アデンは緑の大地といっても良いと思う。
 グルーディン村の倉庫でラウトさんと会った私は、今度はアデンの大地を横断するような長い旅をすることになった。グルーディンからグルーディオへ、そこからさらに東へ旅をしてディオン、そしてギランへ。
 目指すは、死の回廊。ドラゴンバレーへと続く道。
 とても危険で、とても長い旅になりそうだった。

 正直、諦めてしまいたいほどに長い道のりだけれど。
 それでも、私は地図を片手に、ゆっくりとアデンの大地を歩いていく。

 見上げれば、そこにはどこまでも続く青い空。
 吹き流される雲と、まぶしい太陽。
 耳に聞こえるのは、風にゆれる草木の奏でる声と、虫と鳥たちの歌。

 ………きっと、気に入ると思うぞ?

 とおい昔に言われた、そんな言葉が思い浮かぶ。
 あのとき、私は何と言ったのだろう?

「いつか、私も………」

 アデンにいく………だろうか?
 それとも、もっと違う言葉だったのだろうか?
 ………もうちょっとで思い出せそうなのに、どうしても思い出せない。
 正直、ものすごく、もどかしい。でも………この青い空を見上げていると、そんな小さなことが、どうでも良いことに思えてくる。

 エルモアとアデンは、全てが違って見えていた。
 目新しくて、まぶしくて、なによりも暖かい。緑の大地に命が感じられるし、行きかう人たちも、エルフの人だったり、ダークエルフの人だったり、人間の人もたくさんいるし、オークの人だって………。

 すれちがう戦士の人、魔法使いの人。
 手にもっている剣は見たことない品だったりしたり、すごく立派な弓をもった人もいた。
 足の早い人もいれば、私と同じくらいに遅い人もいた。
 魔法を使って戦っている人もいれば、ゆっくり道端の草原で座って話をしている人もいた。

 ここでは、もしかすると時間の流れる速さも違うのかもしれない。

 そんな変なことまで考えてしまう。
 それほど、エルモアとは違って見えたってことなんだと思う。

「………ギランかぁ………とおいなぁ。けど、ここでこうしてても仕方ないし」

 よいしょっと掛け声をかけて立ち上がり、地図をしまって歩き出す。
 目の前に広がるあまりに広い大地と、そこを行きかう人たち。
 私の目に、アデンの空と大地は、どこまでも続いているように見えていた。



<終わり>





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