バレンタインに花束を 東京魔人學園SS 極楽門100000HIT記念贈呈SS.
write by 葛城由宇様.
バレンタインに花束を
「………何がどうしてこうなったのか説明してもらえるかな?」
如月骨董品店の若き店主、如月翡翠は、己の家の台所の前で頭を手で押さえながら呻くように尋ねた。
「愚問だな」
頭にステンレスのボールを被ったまま、やけに自信ありげに緋勇龍麻は答えた。
「ズバリ、ちょっと手作りチョコレートなんてものを作ってみようかなーと思ったら失敗したに決まっているだろう?」
「ついでに言うと、裏密さん特製の惚れ薬を混ぜたらこんな事になっただけですけどね」
そしてまた、龍麻と表裏の関係にある壬生紅葉も、やたらと自信満々だった。
「惚れ薬?」
一番気になる所はそこだった。だが、聞かなければ良かったと心底後悔する羽目になる。
「ええ、もうすぐバレンタインということで、乙女達の夢を叶えるべく、渡した相手が絶対に自分の事を好きになっちゃうぞ、これでバレンタイン様も大喜びっていうか、そもそもそんな風習は日本だけ、だったらそこで一稼ぎ計画です」
そのまんまな計画名に如月は再びため息をついた。
「で、それが理由で、うちの台所を跡形も無く吹き飛ばしてくれたのか?」
彼の目の前に、見事なまでにぶち抜かれた壁と、その向こうに道が見えていた。
「いやぁ、途中までは旨くいっていたんだけどなぁ」
「やっぱり、湯煎にかける前に入れておくべきだったんだよ、龍麻」
「………で、一つ聞きたいんだが、その………道の方へと点々と続いている足跡はなんだ?」
指さしながら、如月は、そんなもの見つけなかったら良かったなぁーと後悔まっしぐら。
「まさか、チョコレートが動き出すなんて予想してなかったからなぁ」
「さすがは裏密さん特製だけの事はありますね」
ウンウンと妙に壬生は達観していた。
「チョコレート?」
「うん、まだドロドロだったから、きっとそれで足跡がついたんだよなぁ」
「つまり、何か?チョコレートが何か訳の分からない生命体にでも変貌した、と?」
「さすがですね、如月さん。なぜ、解ったんですか?」
解りたくなかったよ、という如月の心の声は届かない。
「如月、良かったな。これでお前の家も立派にお化け屋敷の仲間入りだ」
ポンと龍麻が如月の肩を叩く。
「ちょっと羨ましいです、如月さん」
壬生も肩を叩く。
「なんていうかさ、チョコレートの化け物がいきなり飛び出してくる骨董品店なんて、滅多に無いぞ?」
「そうですよ、これで他の骨董品店よりインパクト絶大ですね」
「客足も途絶えるだろうな、俺なら、絶対そんな店には行きたくない」
「僕も行きたくはないですね。どっちかというと、生クリームの方が好きですし」
インパクトより何よりも、そんな店、世界中捜しても絶対に存在しないだろう。
「ちなみに、宣伝効果も含めて、如月骨董品店印をつけておきましたぁー」
「やったね、如月。無料で宣伝だよっ」
「ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふ」
肩を震わせながら静かに如月は笑い出した。
「そんなに喜んで貰えると嬉しいぞ、如月」
「そうですよ、御礼なんていりませんよ」
「君達、そんなに僕の店の評判を落として楽しいかい?」
グォンと如月の周りの気が変化する。
「………あれ、もしかして、玄武変してる?」
「龍麻、壬生、君達、とりあえず、そのチョコレートの化け物とやらを、捕獲してきたまえ。もちろん、見敵必殺だ」
「如月さん、それは他のネタが混じってます」
ツッコミどころはそこじゃないだろう、という声は誰も言えない。
「オーダー オンリー ワン サーチ アンド デストロイ オーヴァ」
スラリと抜き放たれた忍者刀と如月の目はやけに危険な輝きをしていた。
表裏の龍が即座に飛び出したのは言うまでもない。

「しっかし、始末しろって言われてもなぁ」
「そうだね、せっかく作ったのに」
ぼやきながら二人は、点々と残された足跡を追っていた。ちなみに、繰り返しておくが、別に最初はそんな変な生き物を作る気なんてさらさら無かった。ただの手違い、というか、裏密特製惚れ薬の副作用で、いきなりチョコレートが暴れ出しただけなのだから。しかし、そうは言っても、作ったのは自分達であり、それなりに愛着もある。というか、面白いし。
「………あ、見つけた」
割合あっさりと捜しているモノが見つかった。
ヨチヨチと茶色い亀が二人の前、五メートルほどのところを歩いていた。
「なんていうか、………結構、簡単に見つかるものだね?」
「うん、やっぱ亀にしたから、歩くの遅いな」
「せめて、陸亀にしといたら違ったかもね」
「あれじゃあ、足じゃなくてヒレだからなぁ」
ペッタンペッタンと四つのヒレを動かしながら、チョコレート亀は歩いていく。ちなみに、背中の甲羅には如月骨董品店というロゴが入っている。
「結構、間抜け、俺達?」
「うん、まったくもってそのとおりだと思う」
とりあえずチョコ亀を捕獲する二人。ジタバタと亀が腕の中で暴れている。さすがに、甲羅の中に閉じこもるということはできないようだ。所詮は、元はチョコレートだということだろう。
「うぁ、まだ固まってねえっ」
「まあ、チョコレートだし、体温でも溶けるからねえ」
ベタベタと手につくチョコレートに龍麻は顔を顰める。
「壬生、パスッ」
「やなこった」
壬生の方へと龍麻はチョコ亀を投げたが、それを壬生は蹴り落とした。容赦無し。
「うおっ、そんなひどいことをするなんてっ」
ジタバタと道路にひっくり返ったままヒレを動かすチョコ亀。なんていうか、ちょっとだけプリチー?
「だって、それチョコレートだし」
「食べ物は大切にしろって言われなかったか?勿体ないお化けが出るぞっ」
「いや、生きているから、それ、食べ物じゃないし」
「何をっ、牛だって豚だって生きているっ」
「でも、それはチョコレート」
何かとてつもない平行線な会話だった。その間もチョコ亀、起きあがれずにジタバタしている。
「あーあ、可哀相に、お前が産みの親だろう?」
「そんなもの、産みたくも無いよ」
誰だってそんなチョコ亀の親にもなりたくはない。
「ああ、玄武ちゃん、可哀相に、見捨てられたんだね」
いつの間にか、チョコ亀は玄武ちゃんになっていた。如月の宿星が玄武だから、ただそれだけの理由でつけられたなんとも安直なネーミング。
「龍麻、客観的に見て、今の君は、チョコレートに話しかけているちょっとばかりイッチャッタ高校生だ。つまり、変」
「………改めて言うな、俺もなんとなく解ってたから」
ペタンと玄武ちゃん(龍麻命名・背中に如月骨董品店ロゴ入り)、起き上がることに成功。そのままペタペタと再び歩き出す。
「なぁ、壬生、コイツ、何処に行くんだろうなぁ?」
「そんな事は、ソイツに聞けば一番解る。尋ねてみたらどうだい?」
「ああ、それもそうだな。玄武ちゃん、何処にいくんだい?」
当然ながら返事など無い。当たり前だ、それは、チョコレートなのだから。ペタペタ
と玄武ちゃんは歩いていく。ちょっと尻尾を振りながら、結構器用な事だ。
「………龍麻、君、バカ?」
「改めて言うなって言ってんだろう、こんちくしょーっ!!」
思わず壬生の胸ぐらを掴んで龍麻が絶叫する。
「ああ、そりゃあ、答えなんて無いよなって解ってたさ、けどなっ、けど、確かめずにはいられないだろっ!!動いたんだから、言葉、喋ってもおかしくないよなーって思ったんだよっ!!」
「そんな期待するなんて、龍麻、とことんまでアホだね」
やれやれと首を振りながら壬生が言う。
「うう、何も言い返せない自分がなさけねえ」
「ところで、あれ、追わないと」
「おっとそうだったな。………って、全然、進んでねえし」
所詮、亀だ。歩くのは遅かった。
「見失う事なんてねえんじゃねえのか?」
「まあ、それはそうだね。やっぱり、亀か」
それを言ったら何もかもお終いである。
「なぁ、壬生。今、思ったんだけどさぁ」
「なんだい?」
「アレ、食えるのかな?」
ヨチヨチと歩いていく玄武ちゃんを指さして龍麻が尋ねる。
「………そりゃあ、元はチョコレートだから」
「でも、裏密特製惚れ薬入りだぞ?」
「僕なら食べたくはないね」
そんな自分でも食べたくないものを売ろうとしていたという事実を棚に上げて壬生はあっさりと答える。
「なんか、別の意味でアレ、売り物になるような気もしてきたぞ?」
「確かに、ペットとしてはいいかもしれないね」
「餌代、かからねえだろ、だって、アレ自体がチョコレートだし」
「トイレの躾けも必要ないね」
「………意外と優秀じゃねえか、玄武ちゃんよ」
それ以前に、動きまくるチョコレートなんて不気味すぎるのだが、彼らにとっては、そういう方面に慣れまくっていたというのがある。見た目だけで言うなら、茶色い亀だし。
「あら、龍麻に壬生くんじゃない。どうしたの?」
後ろから声がかけられた。
「葵か」
「こんにちは、美里さん、別にどうしたということもないのですが」
真神の元・生徒会長である美里葵であった。
「………あら、あれは何?」
二人の前をヨチヨチと歩いていく玄武ちゃんに葵は気づいた。
「不思議な生命体その一です」
「元はチョコレートだけどな」
「???」
彼女には解らなかった。というより、ほとんど説明になってないし。
「つまり、チョコレートに裏密に貰った薬を振りかけたら、ああなった。なんで動くんだ、とか、なんで亀なのか、とかは俺に聞くな。というより、裏密が原因なんだから、それで納得しとけ」
説得力だけはやたらとあった。裏密だから、それだけで納得させることができる裏密という人物の評価ってなんて素晴らしいのだろう。
「それで、どうするの?」
「いや、あれ、如月から破壊しろって言われてるんだけどな」
「そんな、ひどいっ」
どうやら玄武ちゃん、葵の心のどこかにひっかかることに成功したらしい。まあ、見た目はただの茶色い亀だ。見ようによっては可愛いのかもしれない。
「いや、でも、あれ、亀じゃないし、いや、亀なんだけど、チョコレートだし………すげぇな玄武ちゃん、今、改めて、お前の存在ってなんなんだろうって考えたぜ」
「だから、不思議な生命体その一でいいと思うんだけど」
「いや、それはなんか増殖しそうで怖くない?」
「………今、思ったけど、増殖しないっていう保証は無かったよね?」
その言葉に思わず玄武ちゃんを見る龍麻。
「………おい、壬生」
「なんだい?」
「もし、もしさ、アレが増殖するとしてだ、どうやって増殖するんだ?」
「亀だから、砂浜で卵でも産むんじゃないのか?」
「………めっちゃシュール?」
砂浜に穴を掘って卵を産む玄武ちゃん、もちろん、卵はチョコレートだ。まん丸だから口にも入れやすいね。そして、卵から産まれる玄武ちゃんJr、ヨチヨチと海に向かって歩いていく。
「………見てみたいな」
「いや、できればそんなことはしてほしくないんだけどね」
「とにかく、あれは如月くんのなのね?」
「いや、まあ、如月んトコで産まれたと言えばそうだけど」
「作ったのは僕達だし」
「そう、じゃあ、如月くんは飼い主としての責任を放棄したのね?」
飼い主以前に、あんなものは誰も飼わない。
「えーと、あの、葵?何か、とてつもなく勘違いしてないかぁ?」
「うふふ、勘違い?私が何を勘違いしていると言うの?」
そう笑いながら答える葵から表裏の龍はズザザッと後ずさった。近接戦闘においてこの二人にまともに対抗できる者は仲間内にいないとまで言われた二人を、微笑みだけで後退させる。あの柳生だってできなかったことだ。というより、柳生が微笑んできたらそれはそれで結構怖いかもしれないが。
「命を無駄にするなんて、赦せないわ」
ズォォォと葵の周りに気がたち上る。ちょっと、天使達も久しぶりに大暴れ?な感じだ。
「私が、護ってあげる」
ヨチヨチと歩いていた玄武ちゃんを抱き上げて、葵がスタスタと歩き出す。
「………何か、とんでもないことが起こりそうな気がするんだけど」
「………というか、玄武ちゃん、どうなるんだ?」
取り残された表裏の龍、顔を見合わせてため息一つ。確かめる勇気が無い彼らを誰が責められようか。というより、如月、思い切りとばっちりであるが。
「龍麻、とりあえず、次の儲け話でも考えようか?」
「そうだな、そうしよう」
これから起こること、それを見ては生きていけない事だと割り切った表裏の龍、あっさりと帰路に付く。

その日、北区の如月骨董品店が天使やら炎やらに包まれたのは別の話………なのかもしれない。

エピローグ
「葵オネエチャン、オカエリナサイ」
「うふふ、ただいま、マリィ」
「あ、それナーニ?」
「これ、これは、私達の新しい家族よ」
「家族?亀サンが?」
「うふふ、そうよ。仲良くしてあげてね」
「ウンッ、亀サン、ヨロシクネッ」
そんな会話がされたとかされなかったとか。





本当に勢いだけで書いてますので(笑)
今後ともよろしく御願いします。

葛城 拝