踊る刻の中に咲く華 東京魔人學園SS オリジナル短編.
write by 葛城由宇様.
踊る刻の中に咲く華
 東京は新宿にある真神学園。いつの頃からか誰とも無しに通称として言われている言葉の一つに『魔人学園』という呼び名があった。それは最初は単なる語呂合わせであったのだろう。そう、真神を魔神、そして魔人へと変化させただけの言葉遊び。
 ただ言葉というものが持つ力、言霊と云われているそれを、その言葉遊びから機能してしまう事になるとは、その当時誰も思っていなかった事だろう。まあ、つまりはそういう事なのである。
 そしてその日の朝のこと、
 「うふふ、逃げられないわよ、ジハードッ!!」
 その柔らかい声、そして確固たる自信に満ちあふれた言葉が響いた瞬間、三階にある廊下で天使が暴れた。
 「うぎゃああああぁぁぁぁぁ」
 そして窓から聞こえてくる悲鳴。それは万有引力の法則に従って、下へと落下する恐怖の為に上げた声なのか、それとも吹き飛ばされた時の痛みに対する絶叫なのか、本人以外には判断ができないことなのだろうけども、吹き飛ばされている本人としてはそんなことを考えている余裕が無く、自由落下の速度に従って、地面へと派手に激突した。
 「あー、やっぱ落ちたなぁ」
 教室から一部始終を眺めていた龍麻が感嘆の声を上げる。
 「ひーちゃん、………ここ三階だよ?」
 小蒔が横から心配そうに呟くが、龍麻は笑みを浮かべると、
 「大丈夫だって、誰だと思っているんだよ、京一だぞ?」
 「けどさ、葵のジハード直撃な上に、三階からの落下だよ?」
 「大丈夫、まあ、数でも数えよう。3、2、1………ゼロ」
 龍麻がカウントダウンをし終わった瞬間だった。
 「くっ、死んだらどーすんだっ」
 窓からそのまま入ってきたのは京一だった。その手にはしっかりと木刀を握っているが、制服のあちこちは汚れてしまっている。
 「死んだらって………君はどーやって入ってきたんだよっ」
 当たり前と言えば当たり前のツッコミを小蒔がする。
 「あん?そんなもん、ジャンプして、壁を蹴りながら上がって来たに決まってんじゃねえか」
 あっさりと答える京一に、
 「そんな無茶苦茶な」
 「るせえっ、あーたくっ、頭打ってバカになったらどーしてくれるんだよっ、美里っ」
 ブンっと木刀を振りかざして吠える京一。
 「ねっ?元気だろ?」
 「間違ってるよ、絶対、何かが間違ってるよ」
 楽しそうに言う龍麻に小蒔はそう言うのがやっとだった。
 「いきなりジハードぶちかますこたぁねえだろうがっ」
 「うふふ、何を言っているの、京一くん、自習だと知った瞬間に飛び出していったから、私は止めようとしただけよ」
 「口で言えっ、言葉にしろっ、いきなりジハードかますなっ、危うく俺の人生が止められるところだったじゃねえかっ」
 「あら、私は止めたわよ、………心の中でだけど」
 「解るかっ!!」
 「そんな事言われても………愛の精霊の燃える翼と12の星を持って魔を焼き尽くせっ!!」
 「うどわあっ、くそっ、陽炎、細雪ーっ!!」
 二人の中央で、炎と雪がぶつかり合った。
 「………やるわね」
 「………てめぇもな」
 二人は何かを感じあったようだ。
 「葵も京一もそのぐらいにしてよぅ〜」
 「うむ、流石に校内で力を使うのはどうかと思うぞ」
 「るせーぞっ、小蒔っ、タイショーっ!!俺は今、本気で殺されそうになったんだっ、だったらそれに答えてやるのが礼儀ってもんじゃねえのかっ」
 武人の考えに汚染されてしまっている京一は葵から目を離さずに怒鳴った。
 「そ、そういうもんなのかなぁ?」
 小蒔は納得できなかった。
 「そ、そうかもしれんが」
 だが、醍醐は少しばかり納得してしまった。この辺り、いかに武道を嗜んでいるとはいえ、他者との対戦が無い弓道では、己より強いかもしれない者と立ち会う事のできる快感というものが解らないのであろう。そして本格的な武道を嗜んでいないとはいえ、格闘を志している醍醐にはわりあい受け入れやすい感覚なのかもしれない。
 「けっ、どっからでもきやがれってんだっ」
 ペッと手に唾を吐き付け、木刀を握りしめる京一。だが聞こえた声は彼の後ろからした。
 「行くよ」
 「はい。………………私の力、あなたに預けます」
 「え?ち、ちょっと待てーっ」
 「「破邪顕正、黄龍菩薩陣っ!!」」
 「うっぎゃああああぁぁぁぁぁぁ」
 いつのまにか後ろに立っていた龍麻と葵に挟まれる形になってしまっていた京一は絶叫だけを残して吹き飛び、廊下の天井へとめり込んだ。
 「ひーちゃん、………いつのまに行ったんだろう?」
 龍麻の横に先程までいたはずの小蒔は、いつ龍麻がそこまで移動したのか解らなかった。
 「おーい、京一、生きてるかー?」
 ツンツンと落ちていた木刀で天井にめり込んだ京一の身体をつつきながら龍麻が尋ねる。だが、さしもの京一も今度ばかりは気絶してしまっているようだ。返事すらできないらしい。
 「おーい、京一くーん………………ダメだなぁ」
 自分がやったことなのにまるで他人事のように龍麻は笑った。
 「ひーちゃん、………それはやりすぎだと思うよ」
 止めるということを放棄した小蒔はぼんやりと呟いた。
 「さてと、自習のプリントでもやろうっと」
 あっさりと京一を見捨てると、配られていたプリントに集中する龍麻。
 「うふふ、プリントの提出期限は守らないとダメよ」
 やんわりとクラスメイトに脅しを入れて、葵もプリントを始める。その時、クラスメイト達は心の底から、天井に磔になるのだけはイヤだ、と思った。
 「だ、醍醐くん、京一、どうしよう?」
 「俺達は黙ってアイツの冥福を祈ってやることしかできんというのか?そんな力、俺はいらないっ」
 悔しそうに拳を机に叩き付ける醍醐を見て、小蒔は大人しくプリントをやることを決意した。きっと醍醐も近くにいて遠くにいったと感じたから。
 二時間目の授業、生物の担当教師である犬神はチャイムが鳴ると同時に教室の中へと入ってきた。
 「………緋勇」
 「はい?」
 いきなり呼ばれて、それでも返事だけはする龍麻。
 「あの、天井のは、貴様の仕業か?」
 「言っている意味が解りません」
 「あの、廊下の天井に磔状態になっている蓬莱寺は貴様がやったのかと聞いているんだ」
 「ああ」
 合点がいったというふうに手を打ちならす龍麻の姿に犬神は頭痛を確かに感じた。
 「あれは、京一が自分からやっただけですよ」
 平然と嘘をつく龍麻。
 「ほう、蓬莱寺が自分でか………何処の世界に自分から天井にめり込む事のできる人間がいるんだ?」
 「もちろん、ここの世界ですよ。先生、現実に起こっているんですから、ちゃんと受け止めて下さいよ」
 「緋勇、貴様、後で生物室でみっちりと補習だ、もちろん、蓬莱寺と一緒にな」
 「ええっ、さぼっている京一はともかくとして、成績優秀なうえに態度真面目な俺がどーしてですかっ」
 「貴様、自分の事が解っていて言っているのか?」
 「もちろんですっ、俺は結婚するなら自分がいいとまで思っているんですからっ」
 「結婚とは関係ないだろう、それは」
 「じゃあ、尊敬する人と小学生の時に聞かれたら、間違いなく、高校時代の俺、と答えますよっ」
 「………やはり、貴様は補習だ。授業を始めるぞ」
 「待てや、コラ」
 「何か言ったか、緋勇?」
 その時の犬神の目は血走っていた。しかも今日は満月だったりした。
 「いえ、なんでも無いです、気のせいです、虫の知らせです、空耳です、ぼけているんじゃないですか?」
 「………教科書を開け」
 頭痛を堪えながら犬神は龍麻を無視することに決めた。きっと、このままでは奴のペースに飲み込まれる、と判断したからであった。

 「だぁ、ひでーめにあったぜっ」
 ぼやきながら京一が戻ってきたのは、昼休みになってからだった。
 「あ、京一だ」
 「なんかすげーやな予感がすんだよなぁ、犬神のヤローなんか言ってたか?」
 「ああ、補習だとさ、俺と一緒に」
 「なにぃー、つーか、別にさぼりたくてさぼってたわけじゃねえぞっ、気絶している人間に授業を受けろってのか?そりゃあ無茶もいいところじゃねえかっ、俺はぜってぇいかねえぞっ」
 「で、午後は?」
 「めんどいから帰るわ、後宜しく、ひーちゃん」
 「うふふ、京一くん?」
 「どわっ、み、美里っ」
 ガタガタと机を蹴散らしながら京一が距離を取る。すでに龍麻は避難していた。
 「何処へ行くのかしら?朝の授業も全部さぼっていたのに」
 「………そ、それはだなぁ」
 「このままじゃ卒業できなくなるわよ?」
 「そ、それは」
 「困るでしょ?私だって困るの。だって、送辞を京一くんが読むって想像すると楽しく楽しくて、私思わず、笑ってしまいそうで、でも卒業式に笑っているのは少しイメージダウンになるかもしれないし」
 卒業式では送辞を在校生代表が、そして答辞を卒業生代表が読む。
 「それは、見たいなぁ」
 「ひーちゃんっ、俺を見捨てるのか?」
 「いや、見たいものは仕方ないだろ?」
 「ちくしょー、相棒じゃなかったのかっ、俺達はっ、それともそれは俺の独りよがりな上にどっちかというと、いっつも犠牲にされているような気もするぜっ」
 頭を抱えて叫く京一だが、
 「京一、何言ってんだよ、俺とお前は、………相方だろ?」
 「ひーちゃん、それは違うと思うよ?」
 「相方?相棒じゃねえのか?」
 「ふっ、龍麻を護るのは僕の役目だっ」
 何処かで聞いた事のある声が聞こえた。ただ、今、龍麻達がいるのは学校であって、それは決して聞こえてはならない人物の声であった。
 「何処だっ!?」
 とりあえず辺りを見回す京一だが、周りには仲間しかいない。
 「上だっ!!」
 醍醐が天井を見上げて叫んだ。慌てて上を見上げると、
 「ふっ、待たせたね」
 「なんでそこにいやがるんだーっ」
 天井に如月が立っていた。綺麗に、逆さまに、おまけに忍び装束白バージョンで。
 「ふっ、龍麻を護るのは僕の宿星だからね。こうしていつも見守っているんだよ」
 「待て、如月、お前、いつからそこにいるんだ?」
 最もな疑問を醍醐が投げかけた。それに如月は冷たい笑みを浮かべたまま平然と、
 「朝からいるが?どうかしたのか?」
 「「「嘘ーっ!?」」」
 龍麻と小蒔と京一は絶叫した。気づかなかった。
 「………何故、天井に貼り付いたままなんだ?」
 「忍者だからね」
 醍醐の疑問に当然というふうに如月が答える。
 「ひーちゃん、朝からだってさ」
 「俺、気づかなかったぞ?」
 「ふっ、気配を殺していたからね」
 「そういう問題じゃねえっ!!誰も気づいてなかったのか?おいっ、こらっ」
 京一がクラスメイト達を見回すが、視線があった瞬間にそそくさと顔を背けられる。
 「………ねえ、京一、もしかしてさ、みんな、夢だ、とか言い聞かせていたんじゃないの?」
 小蒔の予想は当たっていた。なにせ、王蘭にこの人ありと言われるぐらいに評判な美男子が、真神の教室その天井に逆さまに立っているなんて夢以外にありえない、クラスメイト達は少し現実逃避していた。
 「おう、俺もそんな気がしてきたぜ」
 「さあ、龍麻、僕とめくるめく忍びの世界に行こうじゃないか!!」
 両手を広げて如月が叫ぶ。しかし、天井に貼り付いたままでは、不気味な事この上無い。
 「うふふ、龍麻は私のものよっ」
 「くっ、菩薩がっ、玄武と黄龍の宿星を邪魔するというのかっ!!」
 バチバチと二人の間で火花が散る。
 「ひーちゃん?物扱いされてるよ?」
 「それより、めくるめく忍びの世界ってのが気になるぜ?」
 「玄武がそうだと言うのなら、白虎の俺はどうしたらいいんだ?」
 「俺の意見は聞いてくれないんだね」
 そんなことを言っていると、
 「ジハードッ!!」
 「飛水影縫っ!!」
 教室の中で技が炸裂した。
 「うふふ、ジハード菩薩スペシャル!!」
 「なんじゃそりゃー」
 「玄武変・忍びバージョン!!」
 「意味不明だろうがーっ」
 どちらにもりちぎにツッコミを入れる京一はまさに、相棒というより相方なのかもしれない。
 「えーとさあ、ひーちゃんだけだと思うんだよね、あの二人を止められるのって」
 「そうだな、龍麻、お前だけだ」
 すでにクラスメイト達は外へと避難していた。
 「………やだ」
 「やだってひーちゃん」
 「俺、死にたくない」
 「う、うむ、それは解るが」
 菩薩と玄武の力を全開、というより、戦闘の時よりパワーアップしている二人を止めるというのは、命を捨てるに等しいかもしれない。
 「………ひーちゃん、大人しく補習でも受けに行くか?」
 「そうだね、今日はもう授業は無理だろうし」
 天井が爆裂、水道管破裂、教室壊滅、もはや無事なのは、何もない。
 「うふふ、ジハードX100」
 「くっ、飛水流白刀返しっ!!」
 葵の放ったジハードX100を如月が受け流す、だが、流した先には………
 「お、俺が何したってんだーっ!!」
 京一がいたりした。
 「………京一、俺は決してお前の犠牲を無駄にはしない。お前の屍の上に俺は幸せを掴むからなっ」
 吹っ飛んだ京一の方見て、龍麻は拳を握りしめた。ついでに自分の鞄を握って、そのまま教室から出ていった。
 「だ、醍醐くん?」
 帰ってしまった龍麻を見て、小蒔が醍醐に声をかける。
 「桜井、俺達も帰るとするか?」
 「う、うん」
 白虎は同じ四神を見捨てる決意をした。それは凶津と闘った時より、少しだけ自分の気持ちが軽かった。
 「菩薩ビーム!!」
 葵の目から光線が迸る。
 「招き猫召喚!!」
 ぶち抜かれた天井から巨大な招き猫が降ってくる。
 もはや二人を止められる事のできる人物はいなかった。
 「………お、俺は、今日、何しにきたんだ?」
 立ち上がることすらできずに、京一は自問をしていた。そこへ招き猫が直撃した。
 「げはっ!!」
 京一の意識は堕ちた。
 そして、二人の闘いはいつ果てるともなく続いたという。
 「つ、月よ」
 旧校舎の護人、巻き込まれる。


〜FIN〜